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GOOD BYE APRIL、ワンマンツアー【HEART PORTRAIT】 2025年2月11日@東京・渋谷WWW X ライブレポート

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文:内本順一
写真:Shun Fujita(ARIGATO MUSIC)


4人が長く拘ってきたこと、培ってきたことが、自然な形で反映された素晴らしいライブだった。反映させた作りにしようとことさら意識していたふうではなく、自然とそれが滲み出ていた。気負わず、いつもの調子で自分たちらしく楽しんでやれば、必ずいいライブになるし、そこにオーディエンスとのいい関係が生まれる。そういう自信というか確信を持って、今の彼らはステージに立っている。この夜もそれを強く感じた。

GOOD BYE APRIL(以下GBA)の曲を最近好きになって初めて観に来た人は、“こんなにも楽しくていいライブをするバンドだったのか!”と嬉しい驚きを覚えたことだろう。長い間彼らの活動を追ってきた人は、誇らしい気持ちになったに違いない。メジャーでの1stフルアルバム『HEARTDUST』を携えた東名阪ワンマンツアー『HEART PORTRAIT』、そのファイナル。結成から14年と数ヵ月、メジャー・デビューからもうすぐ2年というタイミングで開催されたこのライブを観ながら、自分は彼らのキャリアの積み重ねとフレッシュさの両方を思っていた。バンドとして浅くないキャリアを有し、それに見合った演奏をしているのに、伝わってくるのは今もってフレッシュで爽やかな空気感。どうしてって、それは彼らがほんの少しも飽きていないからだろう。音楽に。いい曲を作ることに。いい演奏をすることに。それを合わせることに。それをみんなと共有することに。

このツアーは名古屋・大阪・東京と毎回異なる編成、異なるセットリストで行なわれた。まさしく一期一会。一回一回がその時限り。そんなツアーを組むバンドはそうそうない。

ファイナルとなるこの日の編成は、メンバー4人に加えて、鍵盤・はらかなこ、サックス・藤田淳之介(TRI4TH)、トランペット・織田祐亮(TRI4TH)、トロンボーン・湯浅佳代子。因みに倉品は彼らをサポートと言わず、「素晴らしいゲストミュージシャン」と言っていて、そこに敬意が見てとれた。

演奏されたのは本編16曲(インタールード含む)+アンコール3曲の計19曲。アルバム『HEARTDUST』を携えてのツアーとあって当然その新作から多く曲が選ばれているわけだが、キャリアのなかでの代表曲、それに少し意外で懐かしくもある曲も入れ込みながら、流れもスムーズに展開させていった。その新旧の混ぜ具合のよさと上手さ!  例えば数年前の曲であっても、今の彼らの演奏がそれを新鮮に響かせる。アレンジをそこまで大きく変えずとも、数年前の曲が最近の曲と違和感なく並び繋がる。数年前の曲も、それが世に出た当時からちゃんと育っているのがわかる。耐久力のある曲、そう簡単に風化しない曲ばかりを彼らは作ってきたんだなとつくづく思うし、それを育てることもしっかりやってきたわけだ。そんなことを思いながら自分はこのライブを観ていたのだが、アンコール時の倉品のMCがそれを裏付けた。彼はこう話した。

「このツアーは『HEARTDUST』という作品と共に回ってきたツアーです。もしかしたら『HEARTDUST』で僕らの音楽に出会ってくれた方もこのなかにたくさんいるかもしれません。バンドとしての歴は長くなりましたが、(メジャー・デビューした)2023年まで本当にいろんな紆余曲折を経てきて…。でも、自分たちにしかできないポップ・ミュージックをずっと信じてやってきました。その先でメジャー・デビューをして、何より今日はこういう編成でやれて、そしてみなさんと一緒にこういうワンマンライブが作れて、僕らはもちろん嬉しいけど、僕らが作った曲たちもすごく喜んでいると思います。僕たちはバンドですけど、曲に尽くしてやってきましたので。それはこれからも変わりません。こうやって、大事に作ってきた曲たちが喜んでくれるような、そういう時間をみなさんとシェアして、それがみなさんの明日からのエネルギー、ちょっとしたスパイス……なんでもいいんですけど、そういうものになったら嬉しいし、そういうためにこれからも音楽を丁寧に大切に作り続けていきたいと思います。また会いましょう!」

また、アンコールの最後にメンバー4人だけで1曲やったその前には、倉品はこうも話した。

「なんと今年僕らはバンド結成15年目を迎えるらしいです。こんなに長くやってこれるとは思わなかったですね。まったく当たり前じゃないです。バンドが続くというのは、いろんなことの積み重なりというか、それぞれの人生ですからそれがピタっと重なっていかないと続かないと思うんですけど……。僕らはずっと自分たちの音楽に心を動かされ続けて、ここまで続けてこれたんだと思います。それ以外の要因はないというか、続けてこれた理由はそこにしかないんじゃないかと思う。それって全然当たり前じゃないと思っています。15年というのは節目ですけど、それよりもこうやって1年1年積み重ねてこれたことが嬉しくて。そしてこうやって今このWWWXでツアー・ファイナルをやって、みなさんと楽しい時間を過ごせて。この時間のこと、みなさんのこと、誇りに思います。なのでそういう自分たちのこれまでの歩みを大事にして、15年目を駆け抜けていきたいと思います」

丁寧に作り、大切に育て、ずっと心を動かされ続けてきたその曲たちをこの夜彼らがどう演奏したか、順を追って書いていこう。

オープナーは「優しい歌」。新作『HEARTDUST』の最後に収められた曲だ。因みにこのライブの本編の最後に演奏されたのは『HEARTDUST』の1曲目に収められた「Love Letter」だった。アルバムの終わりの曲でライブを始め、始まりの曲で終える。このへんが彼ららしくもある。そこからは循環の意を汲み取ることもできた。「優しい歌」はメンバー4人と、はらかなこの5人で、やや薄暗い照明のもとに演奏された。

2曲目でライトが明るくなり、ステージ全体を照らした。後方には藤田・織田・湯浅のホーン・セクション。3人の華やかなホーンがフィーチャーされて始まったのは、GBAにとっての新章を鮮やかに印象付けたアルバム『Xanadu』の表題曲だ(そのアルバムの、これも最後に収められた曲だった)。倉品はフェイクを混ぜて発表当時よりも遊びを含ませつつ歌い、吉田のギターは観客たちを煽るように鳴る。続いて新作から「サイレンスで踊りたい」。「踊りましょう!  レッツ・ダンス・エブリバディ!」という倉品の掛け声を合図に観客たちが立ち上がってカラダを揺らし始めた。さらにホーン・セクションが昂揚をもたらし、まだ3曲目だというのにピークを思わせるくらいの熱気となる。その次には、つのけんのドラム始まりで少し意外な曲が演奏された。2017年の3rdミニアルバム『FLASH』に収録されていた「かなしいピンク」だ。今から約7年半前のほんのり切ない曲で、音源を聴き返すと倉品の歌には繊細さがあるのだが、今ではあの頃より声が太くなった故、「サイレンスで踊りたい」の次に演奏されても違和感がない。間奏の吉田のギターソロもよく、先述の倉品の言葉をなぞるなら、今また演奏されて「曲が喜んでいる」ようにも感じられた。

ここで初めのMC。「みなさんに会えることを本当に楽しみにしていました」という倉品の挨拶に続き、早くも延本と吉田が掛け合い漫才ふうの喋りを繰り広げる。「初めて観る方はすごいびっくりしてると思うんですよ。めっちゃ喋るし、(延本と吉田は)関西弁やし。ギャップというより、裏切りに近いかも。でもまあ、こういうバンドですってことで。慣れてな」と延本。

そんなMCに続き、5曲目は新作収録の「ポートレイト・ラヴソング」。そして6曲目「plastic」、7曲目「Highway Coconuts」と彼らは演奏を続けた。このツアーでは毎回「ハート」という言葉が歌詞のなかに入った曲をセレクトしてきたそうで、東京では”ハートはplastic”と歌い出される「plastic」が選ばれたわけだが、名古屋では「愛はフロムロンリーハート」を、大阪では「nightingale」を演奏したそうだ。『Xanadu』収録の「plastic」は、間奏におけるはらかなこの鍵盤ソロがジャジーでステキだった。倉品の歌は進むほどに気持ちがグッとこもっていった。その曲にある都会的な感触は「Heghway Coconuts」にも引き継がれていた。レゲエ的なカッティングが耳に心地よく、真夏よりも初夏が似合う涼しい曲。吉田の間奏のギターはフュージョン的。つのけんが腕をあげて横に振ると、観客たちも同じように腕を横に大きく振っていた。

8曲目は2018年の2ndアルバム『他人旅行』収録の「君は僕のマゼンタ」。数年前まではライブ終盤に最も盛り上がる1曲として機能していたものだが、中盤にこれを持ってくるあたり、ほかにも盛り上がる曲はありますからという余裕を感じた。サンバのリズムに変わったところで、「お客さんも一緒に」という倉品の合図から♪ら~らら ら~らら ら~ららら~ とシンガロングが発生。そういえばこの曲、GBA流の「マツケンサンバ」を作ろうというところからできたものだったことを思い出した。

9曲目はこの日演奏されたなかで最も古い曲。2014年の4曲入りシングル『アイム・イン・ユー』に入っていた「さよならのいきもの」だ。この時代を知っているファンからしたら「おおっ!  これやるのか!」と声が出そうになったかもしれない(自分がそうだった)。しかもここでは、はらかなこの鍵盤のみならず織田佑亮のトランペットと湯浅佳代子のトロンボーンが加わり、繊細なニュアンスだった曲に厚みと膨らみが。新しいサウンドで生まれ変わった「さよならのいきもの」が喜んでいた。その曲の最後の音の余韻が続くなかで始まった次の曲は最新作収録のスロー「Dusty Light」。「さよならのいきもの」から10年の月日が経っているなんて誰も信じないだろうと思えるくらい、その流れは自然だった。この曲の終盤では藤田淳之介のサックスが鳴り響いて一際アダルトな雰囲気に。清涼感のあるポップという側面で評価されることの多いGBAだが、この曲のように都会の夜をイメージさせるAOR的表現の深みもキャリアを重ねるなかでしっかり伝えられるようになっている。そこにバンドひとりひとりの成熟を感じもした。次の「夜明けの列車に飛び乗って」でも藤田のサックスを大々的にフィーチャー。間奏とアウトロでそれが高らかに鳴り響き、夜明けの列車が向かう先に希望が待つことを表現した。

ここで延本を中心とした長めのオモシロMCがあり(今回のテーマは「生まれたときに今と違う名前がつけられたとしたら」)、ひとしきり笑って緩んだところで後半戦がスタート。まず2022年のアルバム『swing in the dark』に収録された「feel my hush」。つのけんの力強いドラムに乗って、ここでも藤田のサックスがむせび泣き、吉田のギターがそこに絡む。続いて70年代のフュージョンサウンド的なインタールードのなかで倉品が改めてひとりひとりメンバー紹介をし、それぞれがソロ演奏で応答。「今日はこの8人でGOOD BYE APRILです。お楽しみください」という倉品の言葉に続き、新作収録曲「CITY ROMANCE」が始まった。これも実にライブ映えする曲だ。延本のベースが太く鳴り、吉田の指が縦横無尽に動き、ホーン隊が賑やかに色を加える。そして近年の彼らのライブで欠かすことのできない「missing summer」を。「エブリバディ、クラップ・ユア・ハンズ!」「こんなに楽しく贅沢なワンマンができて幸せなバンドです、本当にありがとうございます! 真夏の海風を届けます」という倉品の言葉で始まったその曲でもホーン隊がいい働きをし、終盤ではいつものように吉田と倉品のギターの掛け合いという見せ場も。幸福感と言う名のグルーブに観客みんなが巻き込まれ、会場の温度がここでさらにあがった。そしてラストナンバーは先述した通り新作の1曲目「Love Letter」。つのけんらメンバーたちのコーラスが映える。ホーンの高らかな鳴りはアース・ウインド&ファイアー楽曲のような広がりを持つ。大きな拍手で送られ、8人は一旦ステージを後にした。

鳴り止まない拍手に応えて、ここからアンコール。倉品が「僕たちなりの歌謡ロック」と前置きして始まったのは、これを待っていた人も少なくないだろう、「リップのせいにして」。観客たちの手拍子もこの曲を形成するサウンドとなって、一体感がさらなるものに。そしてゲストミュージシャンたちをもう一度ひとりひとりステージに呼びこみ、前述の丁寧な倉品のMCのあと、彼らにとって大事なメジャー・デビュー曲「BRAND NEW MEMORY」を8人で演奏した。この夜がまた、彼らにとってのまぶしくて新しいメモリーにいつかなる。けれど彼らはそのメモリーをどこかに置きっぱなしにはせず、抱きしめたまま前へと進むのだ。そんなことを思いながらそれを聴いた。

ゲストミュージシャンたちはここでステージを去ったが、GBAの4人はステージに残り、つのけんはドラムセットを離れて前に。延本もベースを置いた。そして吉田と倉品のギター(倉品はアコギ)だけに乗せて歌われたのは、2016年発表の1stフルアルバム『ニューフォークロア』の最後に収録されていた「キレイ」だ。15年近くを共にした4人ならではのハーモニーが、表題通りにまさしくキレイだった。キレイだったから、心にきた。自分を含めた多くの人たちが、聴きながら涙した。「ずっとキレイでいれるさ 僕らの形で」。結成15年の節目を前に、彼らはその意志を東名阪ツアーの終りにもう一度表明あるいは自己確認したかったのかもしれない。自分はといえば、GBAが『ニューフォークロア』のレコ発で行なった2016年4月10日の渋谷WWWでのワンマンライブを思い出したりもしていた。あの日の本編最後、倉品は「メンバーに心から感謝しています」と言って「キレイ」を歌った。「キレイ」はきっと、そういう曲でもあるのだ。

結成当初から度々彼らのライブを観てきたが、今が一番楽しんで演奏しているように見える。倉品が言ったように、だから曲たちも喜んでいたように感じられた。メジャー・デビュー以降はEPO、安部恭弘、稲垣潤一といったベテラン・アーティストのバックを務めるなどの経験によって各自の演奏力もさらにアップし、GBA特有のグルーブというものが必ずそこに生まれるようになった。シャキシャキした音ではない。ゴリゴリのグルーブというものでもない。GBA特有のそれは、柔らかで、粘り気もあって、ふっくらと肉付きがよく、さっぱりしていそうでいて意外とクセの残るものだ。ネオ・ニューミュージックであるとかシティポップであるとかダンスミュージックであるとかなんとかとか、その時々で寄っていくものはあっても、そこに取り込まれることは決してない。柔軟性と頑固さ、親しみやすさと独自性をいい塩梅に持ちながら、もうすぐ結成15年目を迎えるGBAがまたここから転がっていく。キレイな心を持ったまま、気長に、自由に。

◎セットリスト
【GOOD BYE APRIL ONE MAN TOUR 2025 “HEART PORTRAIT” in TOKYO】
2025年2月11日(火・祝)東京・渋谷WWW X
01. 優しい歌
02. Xanadu
03. サイレンスで踊りたい
04. かなしいピンク
05. ポートレイト・ラヴソング
06. plastic
07. Highway Coconuts
08. 君は僕のマゼンタ
09. さよならのいきもの
10. Dusty Light
11. 夜明けの列車に飛び乗って
12. feel my hush
13. Interlude #1
14. CITY ROMANCE
15. missing summer
16. Love Letter
En1. リップのせいにして
En2. BRAND NEW MEMORY
En3. キレイ

Apple Music - Webプレイヤー

GOOD BYE APRIL “HEART PORTRAIT” AFTER PARTY ~in TOKYO~

日時:2025年3月1日(土)
会場:王子 Music Lounge
出演:GOOD BYE APRIL
<DAY TIME>
★アコースティックワンマンライブ
  開場 14:30 / 開演 15:00
  前売 ¥4,500 / 当日 ¥4,800 (+2order ¥1,000)
一般発売はコチラ→https://goodbyeapril.bitfan.id/events/10257

<NIGHT TIME>
★P.T.W. Records 会員限定アフタートークショー
  開場 18:15 / 開演 18:45
  前売 ¥2,500 / 当日 ¥2,800 (+2order ¥1,000)
ファンクラブ限定予約はコチラ→https://goodbyeapril.bitfan.id/events/1025

Major Debut 2nd Anniversary -LIVE&TALK SHOW-

日時:2025年4月4日(金)
会場:東京・恵比寿BLUE NOTE PLACE
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿4丁目20−4
★LIVE&TALK SHOW
  開場 18:00 / 開演 19:00
  前売 / 当日 ¥4,400 (+¥1,100)
*スペシャル・ゲストあり
テーブルチャージ¥1,100(税込)と別途、ミュージックチャージ¥4,400(税込)を頂戴します。
TOTAL / ¥5,500(税込)
*料金は1名様あたりの金額となります。
ご予約はコチラ→https://www.bluenoteplace.jp/live/good-bye-april-250404/

GOOD BYE APRIL

2011年東京で結成。『流行りのシティポップ』の遥か先を行く本物の “AOR” バンド、GOOD BYE APRIL。ニューミュージックを血肉に洋邦の 80’s サウンドをクロスオーヴァーした楽曲と、切なさと爽やかさを併せ持つ歌声と溢れでる郷愁性が魅力のネオ・ニューミュージックバンド。
2020年、結成10周年を迎え80’sリヴァイバルの金字塔となる3rdフルアルバム 「Xanadu」をリリース。本アルバムが栗本斉・著『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(2022年発刊)の1枚に選ばれる。
2023年 春、日本クラウン・PANAM(細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆が結成したティン・パン・アレーや大貫妙子、ムーンライダーズ等を輩出した日本ニューミュージックの名門レーベル)よりメジャーデビュー。
シティポップの巨匠・林哲司プロデュースによるデビュー曲「BRAND NEW MEMORY」など、これまでに3枚のシングルをリリース。また、林哲司50周年記念トリビュートアルバムに参加、シティポップの女王・EPOや紅白出場歴もありシーンの先駆者のキンモクセイと共演するなど、精力的に活動中。

fan community “P.T.W. RECORDS”
https://goodbyeapril.bitfan.id/

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