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ジャズピアニストRINA インタビュー

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小曽根真の愛弟子として高く評価され、米国の名門バークリー音楽大学で学んだジャズピアニストのRINA。最近はTBS番組での生演奏など全国メディアでも注目を集める俊才ピアニストは、12月3日に3枚目のアルバム「JOKER」を発表する。収録曲は全曲オリジナルで、表題曲はジャズでは極めて珍しい3部構成の「組曲」形式である。どんな思いを込めてアルバムを制作したのか。RINA本人にインタビューした。 (ジャーナリスト・文筆家・岩崎貴行) 

・ARTIST : RINA

・TITLE : JOKER

・LABEL : Playwright

・Cat No, : PWT-147

・PRICE : ¥3,300 (Tax In)

RINAは面と向かって話していると、極めて自然体で、ほんわかとした雰囲気を醸し出すピアニストである。最初に会ったとき、このような「緩い」雰囲気で強者どもが激しいインプロヴィゼーションを繰り返すジャズの世界を渡り歩けるのかと心配したが、実際に演奏に入るとその雰囲気が一変する。今回の新作アルバム『JOKER』でも音の硬軟、強弱を巧みに織り交ぜて変幻自在に、しかも楽しそうに躍動感のあるピアノを弾く。テクニックだけではない。感情の機微をすくい取る叙情的な表現力も見事である。今作はこれまでの作品の中でも、特に自分しかできない表現にこだわったという。 

「『JOKER』は2023年5月の『Transparent Blue』以来2年半ぶり3枚目のアルバムです。2枚目のアルバム以降、常に曲は作ってきたつもりですが、自作曲が蓄積されてくるとアルバムを作っています。アルバムのコンセプトは当初あまり考えていなかったのですが、今回の作品は今自分が表現したいことを最も出せたアルバムになりました」 

表題曲である「Joker」は、ジャズの世界では珍しい「組曲」のような「Part I Red」「Part II The Mask」「Part Ⅲ Black」という3部構成の作品だ。なぜ今回、このような音楽を作ろうと考えたのだろうか。 

「もともと私は、映画音楽のように物語を感じられる音楽が好きなんです。ピアノトリオには歌詞も映像もありませんが、それでも聴いた人が情景を思い浮かべられるような音楽を書きたいと、ずっと思ってきました。そこで、曲ごとに違う情景を描けるよう、組曲という形にするのが面白いのではないかと考えたんです。『JOKER』はまずPart IIIが先に完成していて、Part IとIIはその後に作曲しました。」 

「Joker」という異色の音楽ができたきっかけは、2024年5月に出演した南青山・BAROOM(バルーム)でのライブだった。 

「ここは円形劇場で、客席がステージを見下ろす円形型になっていて、その独特の世界観にまず圧倒されました。会場へ足を踏み入れた瞬間、トランプのジョーカーが挑戦状を突きつけてくるような感覚になったんです。ステージで演奏できることには大きな喜びがありますが、その反面、同時に怖さや緊張もあります。お客さんに喜んでほしいという思いが強い分、一つひとつのステージに向き合う気持ちは自然と大きくなっていきます。私にとって『JOKER』は、心の奥を映し出す分身のような存在。音楽を通して感じる喜びも痛みも、すべてが挑戦であり、私を動かし続ける原動力でもあります。そんな思いを作品に込めています。」 

3部構成の組曲は、RINA自身がこれまで歩んできた人生や音楽活動における経験を重ね合わせたものだ。根底には、2020年から約3年にわたるコロナ禍において全く仕事がなくなった経験がある。コロナによって米国から日本への帰国を余儀なくされ、目的を失ったところから再び音楽を楽しめるようになった今の姿が、音楽からも感じ取れる。 

「3部構成のうちパートⅠは音楽表現の方法を見つけた喜びを表現しています。パートⅡは演じ続けるうちに、”仮面”をかぶっている自分となり、本来の自分を見失っていく苦しみを音で表現しました。そしてパートⅢ、最終章のテーマは「解放」。さまざまな挑戦に臨み続ける姿を描き、心の奥にある不安や葛藤、そして喜びや決意、解き放たれたJokerの姿を表現しました。物語のような構成で、音楽に自分の歩みを重ねました。自分が納得するまで何度も書き直した曲であり、自分の思いをすべてさらけ出しました。今だからできた音楽になりました」 

RINAが米国から日本に帰国した後、音楽への意欲を失っていたときに手を差し伸べてくれた人がいる。それが音楽プロデューサーの檜山乃武さんである。しかし、檜山さんは2024年5月に急逝。今回のアルバムには、その「恩人」への感謝の気持ちを込めたピアノソロ曲「Dr. Frog Man」も収録されている。 

「コロナ禍の拡大後、私が日本に帰ってきて1年半くらいは全く仕事がない状態で、音楽を続ける必要があるかどうか悩み続けました。そんなときに『音楽を作り続けて』と励ましてくれたのが檜山さんでした。そんな檜山さんが亡くなったときは本当に悲しかったですが、私を救ってくれた檜山さんへ捧げる曲を作りたいと思いました。音楽が楽しくなくなってしまった私に、再びその楽しさを取り戻させてくれ、心の傷を治してくれたという意味で『ドクター』、そして檜山さんが大のカエル好きだったことから『フロッグマン』としました」 

今回のアルバムでは「Oscar’s Dance」という曲にもRINAの強い思いが込められている。前者は今年生誕100周年を迎えたジャズピアニスト、オスカー・ピーターソンに影響を受けて作った曲だ。 

「オスカーは私のジャズの原点であり、トラディショナルジャズの代表的な人です。今年がちょうど生誕100周年ということで曲を作り、今年7月にはカナダで開かれたオスカーのイベントでも演奏しました。オスカーの魅力は聴く人たちをすごく幸せにしてくれる点だと思います。とにかくオスカーが大好きなので、カナダのイベントに声をかけていただいたのは本当に光栄でした」 

「Room 4J」は、RINAの音楽を大きく成長させたバークリー時代の経験から作られた。 

「在学していたバークリー音楽大学でハモンドオルガンが置いてあった部屋の名称をそのままつけました。私はハモンドオルガンもピアノも両方やりますが、この曲は最初はハモンドオルガンのために作った曲です。私は昔エレクトーンを習っていたのですが、エレクトーンがオルガンの演奏や今の音楽活動に繋がっています。音楽の幅が広がったという意味で、私にとって大きな経験でした」 

最後に収録された「Hello, Again」は、これまでの音楽活動でお世話になった人への感謝を込めて作曲した。音楽活動は決して一人ではできないと強く実感しているからだ。 

「今までで私が最も素直な気持ちで作った曲かもしれません。TBSの番組に出演するようになってからできた曲です。テレビではJ-POPを弾くことが多いのですが、普段J-POPを聴くことが少ないので、初めて聴く曲が多いです。でも分からない曲でも、弾いているといい曲だと感じることがほとんどです。そうした経験を踏まえ、難しいコードの曲よりもシンプルな曲を意識して書いてみました」 

このようにRINAが自分の感情の赴くままに作った音楽を見事に演奏しているのが、今回のアルバムでトリオを組んだベースの井上陽介、ドラムの木村紘だ。 

「今回のアルバム収録曲を2人に見せたとき、『大変な曲!』『どうするの?できるの? 』という反応でした。私も自分で書いた曲が難しく、弾けないのではとも思いました。私はいつも自分が弾けるかどうかを全く考慮せずに作曲するのです。陽介さんには、ピアノのようなフレーズをベースで弾いていただきました。学生時代の先生でもある陽介さんは、私のやりたいことを誰よりも理解してくださっていて、陽介さんだからこそ実現できた表現だと思っています。木村さんはリズムがすごく繊細でスウィングもすごくカッコいいドラマーで、以前から共演したいと思っていました。そんな2人と楽しみながらレコーディングできました」 

苦しい経験を糧に、自らの音楽をさらなる高みへと引き上げたRINA。今後どのようなジャズピアニストへと進化していくのか。非常に楽しみである。 

〈RINA プロフィール〉

国立音楽大学にてジャズピアノを小曽根真に師事。 バークリー音楽大学オーディションで学費全額免除を獲得し、在学中にはジャズ・パフォーマンス・アワードを受賞。 2018年、エリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティションにて第2位および最優秀作曲賞を受賞。米CBSの番組に3日連続で出演し、オバマ大統領夫人の前で演奏を披露するなど、国際的な評価を得る。 2020年には小曽根真プロデュースによるデビューアルバム『RINA』をリリースし、「第13回CDショップ大賞2021 ジャズ賞」を受賞。2022年にはアメリカ・ロチェスター・インターナショナル・ジャズ・フェスティバルに招聘され、万雷の喝采を浴びた。2023年、セカンドアルバム『Transparent Blue』を発売。2023年4月より小江戸川越観光親善大使に就任。 2024年、横浜市港北区民文化センター・ミズキーホールのホールアーティストに就任。 2025年7月にはカナダで開催されたオスカー・ピーターソン生誕100周年記念コンサートに出演するなど、国際的な舞台で活躍の幅を広げている。同年10月、大阪・関西万博EXPOホールで開催された、小山薫堂氏プロデュースによる日本最大級の若手料理人コンペティション「RED U-35 2025」の一環として、千住明氏プロデュースのスペシャルライブに出演し演奏。12月3日、サードアルバム “JOKER” を発売。現在はTBSテレビの朝の情報番組『The Time’』『The Time,』にも出演し、音楽シーンのみならずメディアからも注目を集めている。

〈ライブ情報〉
◾️RINA Trio ”JOKER” 先行発売記念コンサート
日時:2026年1月11日 (日)
会場:渋谷JZ Brat Sound of Tokyo
時間:開場16:00 開演 17:00(途中休憩あり・19:30終演予定)
詳細:https://www.jzbrat.com/liveinfo/2026/…

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