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岡山健二(classicus / ex.andymori)、『The Unforgettable Flame』リリース記念!セルフライナーノーツ【前編】

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“シンガーソングライタードラマー”岡山健二の、ソロ作品では初流通となる1st mini Album『The Unforgettable Flame』が、2023年8月2日に発売となる。記念すべきソロ作品第一弾の完成を祝して、OTOTSUでは岡山氏本人によるセルフライナーノーツを公開。全3編にわたり、じっくりと解説してもらった。

文:岡山健二
編集:清水千聖 (OTOTSU編集部)



この度、アルバムに関するライナーノーツを書かせてもらえるという機会を作っていただいたので、数回に渡って、いろいろ説明していけたらと思います。

海辺で

まず今作は、二曲目の「海辺で」という曲を発表するという目的の元、制作が進んでいったので、この曲から。

この曲を作ったのは、2012年6〜8月辺り。
当時の自分は、andymoriというバンドでドラムを叩いており、各地の大型フェスやイベントで、それまで自分が憧れていたミュージシャンたちと、共演する機会も増え、バンドも動員が増え続け、25歳にしては充実し過ぎている日々を送っていた。

このままバンドが続いていったら、生活は約束されているという環境の中で、(※皮肉なことに約1年後には解散することが決定するのだが)ある種の空しさのようなものを抱いていたのか、バンドで曲を作る必要はとくになかったのだが、(もちろんバンドで演奏できるような曲が作れたらよかったのだが、自分の曲はバンドの雰囲気とは少し違う気がしていた)部屋で毎日のようにアコースティックギターで曲を作っていた。

とくに発表する予定のない曲作りの中、ずっと自分が行っていたのは、自己との対話だったように思う。曲を作ることによって、過去の自分が抱いていた感情を少しずつ思い出していった。それらの曲の中で、もっとも自分の原風景のようなものに近づけたのが「海辺で」だった。

僕は三重の山奥で育ったので、海はほとんど見たことがなかったんだけど、ある夏に、父親に連れられて行った、くすんだ海の気配に、今までに味わったことのないような虚無感のようなものを覚えた。
今になって思ってみると、海というもののあまりの巨大さに、自分の存在が揺らいでしまったんだろうなと何となく考えてはいるのだけど、とにかく当時の自分にとっては大きな出来事だった。

「海辺で」を作った頃に、その時のことを回想して、書いた詩のようなものがあるので、それを載せてみます。

ーーーーー

「シーサイドバウンド・ストーリー」
朝 ドアを開ける
鏡の前には昨日の気配
いや もう一度 はじめから

朝 何もかもではないにしろ
生まれ変わったような気分だ
周りの空気が瓶の中の
くっきり分かれた層みたいに
しっかりとそこにいる

突然 記憶の中の通り過ぎた夏へ
放り込まれたような感覚
行ったら戻れない
いや もうとっくに 元には戻れない

ぬるい そして ほんのわずかな風
かつて 僕は この風に
吹かれていたのかもしれない
同じ風じゃなくても
これと似たようなものに
白い浜辺 細長い いびつな植物が
そこかしこに生えている
父と友人と歩いた 遠い夏の日
どうして海に行ったのかはわからない
途中も なにも 覚えてない
気付けば 僕は海にいた

乾いているが どろりとした空気
それが 現実にあったことなのか
自分の中の空想が生み出したのか
もはや 確かめる手段はない
父も友人も覚えてはいないだろう

でも 確かに それは頭の中に
存在している

とても せまい空
小学生の僕には高過ぎる防波堤
昔 母が乗っていた銀色のワゴン
かたい駐車場の地面

そこには 誰もいない 不安も
時間の経過もない 風さえ吹かない
あるものといえば
コンクリートの上の 砂利が
すれる感覚くらい

そして 僕の中の何かは 確実に
そこにいる自分の中に刻み込まれたのか
その場所に 何か大事なものを
置き去りにしてきたのかは わからない
でも その場所は 確かに存在している
今も ひっそりと 僕の中に

ーーーーー

と、こんなものまで書いて自分の心を探ろうとしていた。

出来上がった詩曲は7分もあり、とても長く。それも、その7分の間に出てきたメロディーと言葉を、ほとんど最初の状態と変わることなく使っている。

なので作曲時間も、それらをブロックごとでノートに歌詞を書きとめる作業を入れても、15分くらいのものだったように思う。

そこから一年以内の間に、一度、歌詞を大きく変えようと挑戦してみたことがあるのだけど、どうも上手くいかず、結果、何もいじらないほうがいいんだ、という結論に辿り着いたのだった。

その頃の、何度も歌詞を書いては消してを繰り返した結果、黒が優勢なオセロの対決のように、文字の消し跡ばかりになった紙を、しばらく取っておいたんだけど、いつの間にか無くなってしまっていた。多分、どこかのタイミングで意識的に処分したのだろう。

あと、この曲はandymoriのラストアルバムの曲出しにも一度持って行ったことがある。

その頃は、宅録環境がなかったので、街スタジオでケータイのボイスメモに、ギターと歌を録音して、それをスピーカーで流しながら、友人のケータイを借りて、ピアノを重ねるという、今にして思えば、ひどく聞き取りづらい音源を用意して臨んだ。

その時は、「海辺で」と「※カモンインマイホーム」(※LIVE会場と通販で販売しているソロ作品に収録されている曲)の2曲を持っていったが、長すぎたり、技量もなかったりで、承知の通り採用されることはなかった。

イメージは良かったが、具現化の仕方が他にあったのではないか、英語が正しくない、などの理由だったか。ちなみに、これは偶然だが、Gt.Voの壮平さんが持ってきた曲の中にも、《時が経つのは残酷だね》といった「海辺で」の歌詞の一節とリンクしている箇所があり、当時のバンドを取り巻いていた空気が、そういう部分に出ていたんだなと思った。(「カモンインマイホーム」は、ロバート・ジョンソンの「カモンインマイキッチン」のオマージュだったりで、そもそもバンドのカラーとは違ったなと今では思う。)
と、まあ「海辺で」に関する個人的な思い入れは相当あり、その分、悩まされてきたが、何とかめげずに、いや、何度もめげたけど、その都度やはり形にしないといけないと思い直して、ようやく今回のリリースまでこぎつけた感じだ。

曲自体は当時、家でよく流れていたZee Aviの「Just You And Me」という曲のコード進行を参考にしている。曲の構成だったり、雰囲気はThe Beach Boysの「SMiLE」を自分なりに意識しているし、歌詞の世界観は、村上春樹の「海辺のカフカ」に影響を受けている。ニール・ヤングの「On The Beach」のジャケットが好きなんだけど、何となく自分にとっての美しいもののイメージが海辺だったりする。
録音自体は、demoを2015年頃に冒頭の部分だけをlogicで制作し、三拍子以降のdemoは、2020〜2021年にかけて、ソロのバンドセットのドラマーである北端コウが録音に詳しいこともあり制作を手伝ってもらう。そして、そのdemoを元に、2022年5月にPEACEMUSICで録音を開始し、同年12月に終了した。
ベースに藤原寛、ピアノにふくいかな子、ペダルスティールに宮下広輔、それ以外は自分が演奏している。録音とミックスは中村宗一郎。

intro

曲が唐突に始まるので、アルバムではイントロをつけようと思い、2022年の年末に三重に帰った際、実家で録音した。

楽器を持っていかなかったので、現地のハードオフに行き、そこで手に入れたサンバーストのストラトキャスターで弾いた。波の音は、オーシャンドラムという、太鼓の中に砂なのか、プラスティックなのかわからないが、傾けると波のような音がする楽器を、母親が持っていたので、大掃除など忙しそうにしているところに、無理言って演奏してもらったテイクが使われている。

と、ここまで、アルバムの一、二曲目について説明させてもらった。
次は三、四、五曲目について、色々書けたらなと思う。

RELEASE INFORMATION

The Unforgettable Flame
岡山健二

2023.08.02 Release
monchént records

Price: 2,200 yen (tax in)
Format: CD / Digital

Track List
01. intro
02. 海辺で
03. 名もなき旅 
04. あのビーチの向こうに空が広がってる
05. 軒下
06. 永遠 
07. My Darling

LIVE INFORMATION

Flyer Designed by Kent Funayama

2023/08/04 (Fri.) 東高円寺U.F.O. CLUB
岡山健二 1st mini album『The Unforgettable Flame』

発売記念イベント

act:岡山健二 (band set) / コゴローズ / まん腹

open 18:30 / start 19:00
ticket adv. ¥3,000- / door. ¥3,500- (+1D)

予約:各アーティスト または
   東高円寺U.F.O. CLUB (tel: 03-5306-0240)

ARTIST PROFILE

“シンガーソングライタードラマー” 岡山健二

1986年 三重県生まれ。12歳でドラムを始め、のちにギターとピアノで作曲を開始。19歳の時に上京し、2011年にandymoriでデビューを果たす。2014年、同バンドの解散後は、自身のバンドclassicus(ヨミ:クラシクス)を結成し、コンスタントに音源を発表。現在はソロ活動と並行し、銀杏BOYZ / miida / 横沢俊一郎などのサポート活動や、様々なアーティストの音源参加なども積極的に行っている。

【Official SNS】
Twitter   https://twitter.com/Okayama_Kenji  @Okayama_Kenji
Instagram   https://www.instagram.com/kenji_drums/?hl=ja @kenji_drums

Classicus
Web Site               https://www.classicus.tokyo/
YouTube               https://www.youtube.com/@classicusofficialchannel186

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