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<連載> 八島敦子 旅するジャズ – Jazz Journey Vol.1 – Invitation to Norwegian Jazz Part 1

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19世紀末ニューオーリンズで生まれたジャズは、ミシシッピ川をのぼり全米へと拡散し、さらに世界に広がり、各地の文化と結びつきながら、独自の進化を続けている。こちらのシリーズでは、たゆまず進化し続けている世界各地のジャズを紹介していきます。ジャズの世界旅へようこそ。

Invitation to Norwegian Jazz Part 1

ジャズがさかんな北欧のなかでも、伝統音楽や即興音楽と溶け合いながら独自のスタイルで発展してきたノルウェージャズは、世界の最先端を走り続け、世界中のジャズファンの熱い視線を集め続けている。ノルウェージャズの最新事情とその魅力に近づくために、オスロに旅をしよう。

テキスト : 八島敦子(Eight Islands Recordsプロデューサー)
編集:三河真一朗(OTOTSU)

目次

CHAPTER 1 : オスロジャズ旅

ノルウェージャズの拠点とも言えるのがNasjonal Jazzscene Victoriaだ。戦前はキャバレー、戦後しばらくは劇場として運営されていただけあって、建物の内装も素晴らしく、ノルウェー文化の発信地として、常にノルウェーの人々と寄り添ってきた、伝説の会場だ。

海外の著名ミュージシャンはもちろんノルウェーのトップアーティストから新進気鋭の若手まで連日出演するプログラムはとても質が高く、素晴らしいキュレーション。客席は250席+スタンディング 50席。指定席はなく、早いもの勝ちなので、公演前から熱心なファンが詰めかけている。会場の本格的なバーではワインやさまざまなドリンクも楽しめる。

2022年12月に私が訪れた際は、ノルウェーを代表するギタリスト、ヤコブ・ヤングのライヴで会場が熱気に包まれていた。老若男女がリラックスした雰囲気でヤコブ・ヤング・トリオの素晴らしいインタープレイを楽しんでいる。

チック・コリアをはじめ、世界のビッグアーティストたちも愛するこの伝説のコンサート会場は、実は少人数のスタッフと地元のボランティアで運営されている。長らくこのコンサート会場の代表を務めてきたヤン・オーレは、その前はノルウェーを代表する国際的なジャズ・フェスティバル、モルデ国際ジャズフェスティバルの芸術監督を務めた後、ヨ ーロッパ・ジャズ・ネットワークの会長も務め、世界のジャズ業界ではその名を広く知られた著名人だ。キース・ジャレットの招聘からキャリアをスタートさせたと語るヤン・オーレは私にとってはレジェンドのような存在。ヤン・オーレのスゴイところは、いつもフラットで好奇心旺盛なところだ。ヨーロッパのフェスやジャズマーケットで会うと、いつも若手のアーティストの演奏を熱心にチェックしている。

オスロを訪れた私を、ヤン・オーレが劇場のスタッフの忘年会に招待してくれた。「私は週に数回受付をやっているのよ」とインド系の女性、チケット担当の初老の男性、音楽を学ぶ学生たちまで、音楽を愛する一般市民の方々によって、この世界的なコンサート会場が運営されていることはとても感動的だった。

日本の忘年会のようにクイズ大会などもやっていて、手作りの料理が並び、とてもあたたかい雰囲気だった。歴史あるこの会場で働くスタッフのみなさんの愛、そして誇りが、Nasjonal Jazzscene Victoriaを一層特別なものにしているのだと感じた。

次に目指したのが、オスロのレコードショップBIG DIPPER。オスロでオススメのジャズスポットは?とジャズ関係者に聞くと、みんなが“BIG DIPPER”と言う。

視聴ルームもあるおしゃれな店内には開店直後からひっきりなしに音楽ファンが訪れていた。ジャズ、クラシック、ヘビメタ、ロックと幅広いラインアップのレコードを取り揃えているが、なかでもジャズのセレクションは素晴らしかった。そして、ノルウェージャズのコーナーの充実ぶりが素晴らしい。おそらく世界一ではないだろうか。あれもこれも欲しい、、と悩んだが、結局自分のフェイバレットアルバムでもあるキース・ジャレット、 ジョン・クリステンセン、 パレ・ダニエルソン、 ヤン・ガルバレクの『Belonging』を選ぶ。

レコードがぎっしり詰め込まれたおしゃれな什器は、お店がデザイナーに特注したものだそう。丸一日過ごしたいくらい居心地のいいおしゃれなレコード屋さんだ。

ジャズ愛好家が集う名店として有名だった“Bare Jazz”と“The Garden”は残念ながら閉店してしまったそうだ。しかし、こうしてアナログレコードの人気を感じられたのは嬉しい。

BIG DIPPERでは、週末はインストアライブをやったり、自社で本を出版したりと、音楽の発信地として今後ますます人気を集めそうだ。ぜひ東京でもポップアップストアできないかな、、と夢想する。

そしてオスロの街にはジャズを楽しめる場所がまだまだある。トラディッショナルなジャズを中心にライブをおこなっているのがHerr Nilsen Jazz Clubだ。週末の夜のセッションタイムに訪れようとしたところ、入口付近までぎっしりと人が入っていた。こちらも老若男女、幅広い世代の音楽ファンがワイン片手に週末の夜を楽しんでいる。道まであふれるばかりの熱気と音楽だ。

CHAPTER 2:レインボー・スタジオへの道

ECMファンとして、いつか訪れてみたいとずっと思っていた憧れのレインボースタジオ。今回オスロを訪れるので、せめて建物の前で記念撮影でも、、と思っていたがあっという間に帰国の日が近づいてきた。せっかくオスロに来たのでということで、出発前夜、友人のジャズドラマー、トーマス・ストローネンがお茶に誘ってくれた。トーマスの家の近所と言っていたが、自分ではとてもたどり着けないおしゃれなカフェやショップが並ぶ地区だ。

お互いの近況をひととおり話し終えた後、トーマスが「明日、朝からレインボースタジオでレコーディングするから遊びに来たら?街から川沿いに歩いたら辿り着くから。簡単な道のりだよ」とのまさかのお誘い。翌朝、Google map片手に雪降る街を郊外に向かって歩くこと40分。坂を降りていくと、憧れのレインボースタジオはひっそりとだけど堂々と存在していた。

ドアをあけると、まるで誰かの家に遊びに来たようなアットホームな雰囲気。クリスマスツリーも飾ってある。あたたかくリラックスした雰囲気の中、レコーデ ィングは順調におこなわれていた。そしてマンフレート・アイヒャーの代理ということでカーリン・クローグが来ていたのだ。

ジャズヴォーカルからジャズの世界に入っていった私の北欧ジャズの入口はカーリン・クローグだった。今まで聴いてきたカーリンの音楽同様、とてもエレガントで気品のなかに可愛らしさもあるとても素敵な方だった。

北欧ジャズのワンダーランドは最後まで素敵な出会いがあり、川沿いのひっそりとした雪道を心でスキップしながら帰路に着いたのだ。

CHAPTER 3 : どうしてノルウェーのジャズはかくも魅力的なのか

ノルウェーのジャズがこんなに魅力があって、多くの音楽ファンをひきつけるのはどうしてだろう?

私が初めてノルウェーを訪れたのが、2007年。コンズベルクでおこなわれているジャズ・フェスティバルにノルウェー大使館が派遣してくれたのだ。その後、ふたたびベルゲンでおこなわれたNattjazzでのショーケースにも派遣していただいた。

もともとヤン・ガルバレークやカーリン・クローグが大好きで、その後もニルス・ペッター・モルヴェルやブッゲ・ヴェッセルトフトにもはまっていた時期もあったのだが、現地でさらにさまざまなノルウェーアーティストの演奏を体験して、本当にびっくりした。

なんでこんなにユニークで心にぐっとくるんだろう。いままで聴いてきたジャズとも全然違うけど、やっぱりジャズだ。何が違うんだろう。ノルウェージャズを探求したい気持ちが沸々と高まるばかり。そんなノルウェージャズの魅力に惹きつけられる、世界中からノルウェージャズのファンや専門家が現地のショーケースやフェスに集まってきているのだ。

こういったノルウェージャズの状況に日本の音楽シーンが学べることも多いんではないだろうか。ノルウェーのジャズをテーマにフォーラムが企画できないだろうか。そういった夢を大使館の伊達朱美さんとずっと温めてきた。

そして、とうとうコロナ禍の2020年10月ノルウェー大使館で実現したのが、「NORWAY JAZZ FORUM」だ。コロナ禍だからこそ、世界のノルウェージャズ専門家がオンラインで集うことができたのだ。ノルウェージャズエキスパートたちによるメッセージを通じてノルウェーのジャズの魅力がさらにクリアーに見えてきた。当日はノルウェー、イギリス、イタリア、インドネシア、韓国などからゲストが参加してくれたが、ここではまずは、長年ノルウェージャズを見つめてきた3人による貴重なお話を紹介したい。

「ノルウェージャズ事情」 
ヤン・オーレ・オトネス:ナショナル・ジャズシーネ(ヴィクトリア)代表

「ノルウェージャズヒストリー」ルカ・ヴィタリ:ジャーナリスト/キュレーター/「ザ・サウンド・オブ・ザ・ノース」著者

「ノルウェージャズの魅力」フィオナ・トーキングトン:放送作家/キュレーター

「ノルウェージャズが特別な4つの理由」
ヤン・オーレ・オトネス:ナショナル・ジャズシーネ(ヴィクトリア)代表

「ノルウェージャズフォーラムについて」
ノルウェー大使館 公使:オットー・マルムグレン

続きはVol.2 Invitation to Norwegian Jazz Part 2で!

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