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中川昌利 2025.3.5発売 1stフルアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」全曲レビュー「1stアルバムを作った後の気持ち」

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「1stアルバムを作った後の気持ち」

1stアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」が発売されてからもう1ヶ月経った。記念、というかこれまで聴いてもらった人には作者の事情を。未聴の人には先にあらすじだけでも、という意気込みで全曲レビューをしてみようと思う。

テキスト:中川昌利
編集:披岸克哉(OTOTSU 編集担当)


01.悪魔さん

アルバムの一曲目って考えてみれば難しいというか、ぬるっと始まるのが好きな方ではあるのだが、1stアルバムの一曲目がイントロダクションみたいな曲だと誰も聞いてくれないんじゃないかとも思ったのでこの曲が完成してよかった。ドラムスは岡山健二、ベースは有島コレスケ、バリトン、アルトサックスは渡邊恭一。プロローグとプロポーズで韻を踏んだ時に自分は大人になったんだと自覚した。日曜朝にやってるアニメのオープニングみたいに、仲間を引き連れて冒険に出るような曲というイメージだったが、多分このアルバムの曲達を牽引してくれてるに違いない。

悪魔さん MV

02.やさしいね、(Retake)

2018年にリリースした1st配信シングルを再録した。元のバージョンはドラム以外は宅録音源だったため今回こそレコスタで録音したかった。友人に、「中川さん疾走感のある曲を作ったらどうすか」と言われ作ってみた極めて気楽な曲なはずだったが、1stアルバムに入れることになるとは。andymoriみたいなドラムにThe Smithsみたいなギター、とか思って作ったが、ドラムは元andymori岡山健二氏に叩いてもらえたため夢の一つは叶った。

03.アホウ(New mix)

この曲をなんとかフィジカルに残さなければ死ねないという強い怨念を持ってこのアルバムの制作は開始された。コロナ禍さえなければもう4年前にはアルバムをリリースしてたはずだった。この曲のおかげで色んな人に出会えた。作った当時、「女の子は魔法 男の子はアホウ」というラインを仮で入れた時に、吐きそうになるくらい恥ずかしかったという感覚の記憶だけはある。個人的にはそっちより「イヤホンだらり イオンの光」なのだが、誰もまだ言ってくれてはない。そして今のところこれ以上に座りの良いサビを書けたこともない。

アホウ MV

04.きらり(New mix)

渋谷によく行っていた、BOYという好きな古着屋があるから。ハチ公前に当時好きだった人と待ち合わせして歩いた。この曲が完成して程なくしてお別れをした、最後も渋谷の喫茶店で。人が多すぎる、の割に道幅が狭い。近距離でLEDを照らされ続ける。散歩には全然向かない。でも人の間を縫うように歩かなければこの曲が生まれなかったと思うと、まあ許そうと思う、渋谷。リファレンスはアニメ「美味しんぼ」の全てから。

きらり MV

05.ダイスキダイスキダイスキ

こういうダイスキ×3みたいな表現が自分の中から出てくる時に心の底から気持ち悪いと思うが、音楽的に、歌として座りが良いという理由を持って全て肯定している。いや、座りが良くなくても否定する必要はない。何よりも優先するべき感情だと思う。相手が応えてくれる必要も、実はない。しんどいけどよくあることでもある。それで壊れていく人を何人も見た。劇薬だと思う、ダイスキという感情。この歌は鎮魂歌。個人的に平成J-POPスタイルを現代的にと思ったりもしたが、何より好き放題に作った。もういいや、と思ったこの形も、歌詞とリンクした。

ダイスキダイスキダイスキ ショート動画

06.靴擦れのアリス

何はともあれ音数が少ない曲を書きたかった。これまでの配信シングルをまとめるという目的がこのアルバムにはあったため、どうしても濃厚なものになると予想していた。せめてこの曲だけでも、と。はっきり言って僕はこういう曲だけを作っていたい。風景とそこに観測している人がいるだけ。極論、音楽としてはそれをやるだけで十分で、見栄やそれに伴う装飾もSNSでの態度表明も別に要らない、本来。それらを必要としない曲がアルバムには当たり前に存在できるから、僕はアルバムが好きだ。

07.Machibari~きえないアイラブユー~(New mix)

サブタイトルだけは少し早かったか…と思っている、が曲は最高傑作くらいに思っている。僕の住む街には川が流れていて、日曜日になると子供達がエナメルのバッグをチャリの前カゴに入れて坂道を下っている。向こう岸には車の教習所があって、そこで免許を取って以来、僕は車を運転していない。僕も子供達と同じように坂道を下って、陽が落ちる頃上って帰る。少しだけ寒いけど、子供達の袖はいつも捲ってある。暇を見つけてはいつ使うかわからない縫い物をしてたあの人、出来上がったマフラー、手袋、帽子、全部どこに行ったのだろう。まち針の場所は何年もはっきり覚えているのに。

08.ココア

ココアが甘すぎると思い始めたのはコーヒーを覚えてからだ。いつのまにか飲み干すことが出来なくなった。カピカピに渇いてから忘れたように水に漬けるけどもう遅い。そのまま1日置いてもココアは取れない。粉はいつしかコップと同化してまた一年後、ココアを淹れる。昨年のコップの白さは覚えていないけど、きっともう違うコップになってる。僕ももうこの曲を書く前の気持ちは覚えていないけど、それでいいし、補正してそれっぽく再構築した思い出に今日も、苦いな甘いな、なんて一人相撲している。この曲もそんな感じにくたびれて黒ずんでいけたら。

09.フィアンセっ!(Album version)

配信シングルとしてリリースした時、レコーディングの直前に削除した一行があった。理由は、そこを歌うとなんか長ったらしい気がするため。しかしその一行は恐ろしく重要だったのではとメモ帳と睨めっこしていた時、これをまんまアルバムタイトルにするべきだと思った。他のアルバムタイトル候補は「中川昌利」「悪魔」、まあ、冷静な判断だった。タイトルが決まって安心したし、タイトルを持ってきてくれたこの曲のことを少しは信用していいと思った。ただテンポが速いだけじゃない、ハッタリこいてるだけじゃない、シークレットタイトルトラック。

10.硝子色の街、恋人

「色ガラスの街」という詩集がある。その詩集に描かれている街を歩いてみたい、歩いたことがあるという錯覚に陥る街、詩集。100年前に描かれ刊行された街の景色は21世紀になっても、ある時不意に立ち現れる。その発現する条件はまちまち。いつかの恋人、恋人ですらなかった人、話が全然続かない友人、その人と街を歩いた時に見える、何色でもない、結ぶ先のない道。ぐるぐるして戻って、何色でもない光だけがある街。誰と歩いたかは覚えてないけど、頭の中、言葉の中だけにある街。

11.キラーフレーズ

この街に来るときはいつも雨が降っている。そんな妄想に駆られる街がある。いつも傘を持っている、持っている時に限ってすぐ止んだりして。水たまりが街灯等を反射して、それを踏んで壊す人が好きだ。湿気と渇きの絶妙なバランスが、空気中の水分が地面に落ちていってるのを頬で感じる。その空気が、雰囲気が、人に何だって言わせる。相手もそうだっていう推測、少し失礼だけど、ライブで知らないバンドが知らない良い曲をやっていてなんとなくライブハウス中のみんながうっとりしている感じ、に似ている。何だって言える、思ってることもそうじゃないことも。この曲が書けてアルバムは完成した、なんか、大丈夫なんじゃないかって思った。

12.Fashion Hate(Retake)


このアルバムに収録されている曲の中で一番古い曲。もう10年も前。エンジニアの松本英人さんに再録してみないかと言われて、してみた。再録するとハードルが上がるが、及第点だとは思っている。音は勿論、当時のフル本気の歌詞がとても興味深い。アイラブユーのことをアイヘイチューと言ってしまう天邪鬼さ。もう性根が腐っているというか、180度折れ曲がっている。こんな音、歌、もう二度と書くことはないだろう。ボーナストラック的な扱いのつもりだったが、いや、こんな歴史を含めてこそ1stと思い、アルバムのラストに置いた。これで10年前の中川も浮かばれた、とも思わないので自分の怨念は中々に深い。何に対してか、はわからない。


このアルバムを作ってなにが変わるとかはわからない。今もプロモーションのために、一回でも多く再生されるために、一枚でも多くCDが売れるためにスタッフも僕も、炎上商法以外の方法で動いている。このレビューもそう。少しでも報いたい、僕の人生に、作品を手伝ってくれた人、助けてくれた人達の思いに。

収録する既発曲を選ぶのも難儀だった。あの曲もこの曲も結局このアルバムには収録しなかった。集大成、というイメージはあったものの、17曲入りくらいのアルバムにする構想もあったものの、1stとして、と最後は考えて結局今回の形に落ち着いた。

1stアルバムとは不思議なもので、今までの総括、終わり、という意味合いも、デビューという意味合いもある。デビューとして捉えてくれる人がいて言葉の通り、救われた。何かの区切りであることは間違いない。

音楽の消費されるサイクル、制作期間に比べて早すぎる、と思う。SNSって拡散もピークアウトも早める、なんてことも思うけど、それは昔からあった噂とか口コミのブースト、それを視認できるようになっただけだとも思う。それくらい音楽なんて刹那的なものであるのが通常、自然である。歌は世に連れ人に連れ、という言葉の通り。そんな軽薄で、適当に右から左へ流れていくべきものが音楽だと思うし、そんな雑い人々の耳もポップカルチャーも愛している。なんせ音楽の価値が決まるのは発売日ではなくて発売された後の永遠に続くようにすら思える未来の中だけ。僕はその永遠の中に一枚のアルバムを投げました。

聴いた人がどう思うか分からないが、このアルバムは2025年春、現在にジャストなものではないかもしれない。これは敢えてそうやった、と言えると同時に、実情これしか出来ないけどそれでいいじゃないかよ、という開き直りでもある。だって丁度いいもの、全然面白いと思わない。未来も、これまでの音楽の歴史も見せるべき、見えるものを作りたいと僕は思う。
それは、そんなにすぐに消費され切ってたまるか、音楽を舐めるなよ、なんていう、音楽をちょっとくらいは愛してきた零細ミュージシャンである作者のせめてものプライドでもある。


そんなことを言いながらこのまま特に誰にも聞かれず、この一枚のフルアルバムを最後に中川昌利はひっそりと幕を下ろすかもしれない。そうなっても構わない、大丈夫、そんなアルバムを作ろうと意気込んだ。

だからこのあと、10年後、20年後だって聞けるアルバムを作ったつもりです。僕がこの先音楽をやっている限り、もうやらなくなったとしても何かの拍子に中川昌利のことを知った人に、この1stアルバムはどうしても聴かれてしまう。そうなった時に聴かれても大丈夫なものを作ったつもりです。それがいつだとしても。

逆に全然まだまだこうすればよかった、ここまでしかやれなかった、という思いもある。なにこの1st、黒歴史じゃないか抹消したい、全然中川が出来上がってない、なんて思えてしまえるような2ndを作りたいと思っている。それには時間が必要なのでその時までこのアルバムを聴いてください。


そう結局、聴いてください、という言葉以外、結論に持ってこれない。
あ、やっぱり、5/15下北沢CLUB Queでのワンマンライブに来てください。


長ったらしい自己紹介を読んでくれて、どうもありがとうございました。
それでは。聴いてください。

RELEASE INFORMATION

君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない
中川昌利
2025.03.05 Release

部室
Price: 2,500 yen (tax in)
Format: CD / Digital

Track List
01. 悪魔さん
02. やさしいね、(Retake)
03. アホウ (New mix)
04. きらり(New mix)
05. ダイスキダイスキダイスキ
06. 靴擦れのアリス
07. Machibari~きえないアイラブユー~ (New mix)
08. ココア
09. フィアンセっ!(Album version)
10. 硝子色の街、恋人
11. キラーフレーズ
12. Fashion Hate (Retake)

LIVE INFORMATION

2025/05/15 (Thu.) 東京・下北沢CLUB Que
中川昌利 1stフルアルバム『君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない』発売記念ワンマンライブ「プロポーズ」


出演:中川昌利 & Friends

岡山健二、有島コレスケ、石井さやか、髙井絢加、よしだゆうすけ、渡邊恭一、ぎがもえか
open 19:30 / start 20:00
ticket adv. ¥3,000- / door. ¥3,500- (+ドリンク別¥600)
※価格表示は全て税込

<会場設定>オールスタンディング

一般発売 2月21日(金)

<販売>

・「CLUB Que 店頭」No.1~40

・「イープラス」No.41~140  https://eplus.jp/sf/detail/4267630001-P0030001

・バンド売り No.141~

ARTIST PROFILE

作詞・作曲・編曲に加え、多楽器演奏による多重録音、サウンドプロデュースまでマルチに行う過剰才能を携え、拡張された青年期をポップミュージックの謎と希望に捧げる、令和の異能力シンガーソングライター。

2024年に、サニーデイ・サービス/ぎがもえか/岡林風穂 withサポート等を手掛ける音楽ディレクター・渡邊文武がディスクユニオンDIW Products Group内に立ち上げたレーベル<部室>レーベルに移籍し、2025年3月5日に待望の1stフルアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」をリリースした。
著名なミュージシャン、デザイナー、映像クリエイターなどからも絶大な賞賛を得ており、今後の飛躍が期待される注目のアーティストである。

【Official SNS】
X   https://x.com/yamamonakagawa  @yamamonakagawa
instagram https://www.instagram.com/nakagawanoinsta/ @nakagawanoinsta

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