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中川昌利 1stフルアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」に寄せられたコメントとそれらに対する返信

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1stフルアルバム発売から2ヶ月経ち、もうあっという間にワンマンライブの時期になった。何かやり残したことがあるような気がしたのでペンを取っている。そしてリリースに際して沢山の方々からいただいたコメントに対して、お礼及びお返事を書こうと思い立った。なんでこんな何処の馬の骨かも分からないシンガーにこんなにも豪華な方々からコメントが、なんていう疑問を解決する助力になれば。

テキスト:中川昌利
編集:渡邊文武(部室主宰) 披岸克哉(OTOTSU 編集担当)


志磨遼平(ドレスコーズ)

「ジャパニーズ・ポップスの特異点。
たとえば岡村靖幸さんを引き合いに出しても、中川くんの才能を形容するには大げさではないと思います。
まさかこんな天才が現れるとは。」

中川昌利

志磨さんの音楽は僕が学生の頃から当たり前にあった。なんかハイカラな女子達が好きで、僕はその一人とも話せたことはなかった。テレビで演奏するマリーズ、後から見ればそれはもう活動の後期で、当時ビートルズに夢中になっていた僕からしたら先にやられたみたいな過剰な自意識と一緒に入ってきた。人気だけどメディア露出をしないみたいな流行りがあった当時のバンドシーンで、テレビの中のロックバンドだった毛皮のマリーズ。90年代みたいで嬉しかった。マリーズが当時、村八分やNew York Dollsと形容されたみたいに、岡村靖幸と形容してくれたこと、僕もきちんと応えられるように。



曽我部恵一(サニーデイ・サービス)

「この声。
未成熟で濡れている。
どこまでポップになっても、教室の隅で世界を終わらせるための爆弾作り。」

中川昌利

曽我部さん、2年前に「林檎水」7インチのレコ発にゲストで出演してもらった。サニーデイ・サービスが活動休止中、曽我部恵一BANDでガンガンにロックンロールしてた時にはじめて曽我部恵一さんを知った。汗でくちゃくちゃになりながら口を大きく開けてマイクを食べてしまいそうな、髭もじゃな曽我部さん。ロックンロールで食べていくことのリアリティがその絵面から放たれていて、少しくらいは音楽を志していた僕は慄いた。インディーロックの王様、佇まいも歌声も言葉も。僕にも音楽が出来るんじゃないかなんて、そう思わせる何かが曽我部さんにはあって、僕もそれに騙された口。誰も曽我部さんみたいにはなれないし、僕は違う方法で同じように音楽に近づきたい。


imai (group_inou)

「友達から「アホウ」という曲を教えてもらった。
その日から僕は中川昌利の虜です。」

中川昌利

imaiさんのトラックはメロディ、キックもハットも。はじめてimaiさんのソロセットを見た時に感じた。深夜お風呂から上がった後部屋で一人、汗ビチャビチャになるまで踊っていたあの頃のiTunesのプレイリストのメンツ→The Stone Roses、Prince、The Chemical Brothers、New Order、フリッパーズギター、川本真琴、菅野よう子、そしてgroup_inou。聞くだけであの頃を思い出して汗がじんわり出てくる。泣いたまま踊らせるという形容がぴったりなimaiさんの音楽、ロックンロールの根幹みたいなトラック。人生ではじめて中川昌利についてくれたスタッフさん、group_inouの大ファンだったがなぜ中川に、なんて思っていたがなるほど、結局こういうのは隠す方が難しい。

とんだ林蘭(アーティスト、アートディレクター)

「中川さんの歌を聴くと心が痒くなる。
でもそれが嫌じゃなくて、どちらかというと嬉しいです。」

中川昌利

いつかの春、中目黒の桜並木を見ながら下っていった先の道にあるVOILLDという小さな小さな展示スペース。中に入るととんだ林さんの展示だった。コラージュ、絵。説明出来ない、得体の知れないエネルギーが線、輪郭には籠っていた。なんという人がいるのだろうと思った出自不明の視覚情報。なけなしのお金でトートバッグを買って、そこにBEHRINGERのecho machineとIbanezのボリュームペダルを入れてライブハウスに通っていた。そんな大きくて固いものを入れる予定ではないバッグにはじきに穴が開いて、今も部屋の端の大きなS字フックに掛けられている。


奥冨直人(BOY ショップオーナー)

「恋は肌で感じた魔法で/幻で、
いくら味わっても甘くて/苦くて。
キラキラとザラザラを繰り返す時間から、手紙を綴る様な歌が生まれた。
何度も栞を挟んでは開きたい1作。」

中川昌利

服というものに興味を持ち始めて10年も経っていない。布であればよかった。友人が捨てる服を何十着ももらい、洗濯は一カ月に一回だった。友人に連れられて行った渋谷のマンションの一室、古着屋特有の匂いがしないその部屋は浜崎あゆみのポスター、YELLOWCARDの1st、ラグランT、そんじょそこらの「あの頃」とは少し違った「あの頃」が敷き詰められているBOY。カルチャーの歴史はカルチャーじゃなかったものがカルチャーになって行く歴史だとも思う。僕は僕なりにTOMMYさんのアティテュードを解釈して沢山パクった。TOMMYさんに会う時は少し恥ずかしい、着てる服がBOYで買ったやつばかりだから。

九龍ジョー(編集者)

「待望すぎたアルバム。
思い出の奥底に眠っていたはずのメロディが、全力で胸をワシづかみしてくる!」

中川昌利

おそらく中川昌利というミュージシャンを最も早く気に掛けてくれて、出版という業界に盛んに言いふらしてくれた人。中川が書いている文章を読んで、GINZAという雑誌で書かないかと言ってくれた。僕がいつもの情熱と雰囲気で書いている文章をジョーさんが添削してくれて完成した文章、それはもう見違えるようなキラキラしたテキストで、これが編集だと教えてもらった。音楽を作る時、果たしてこの作業は創作なのか編集なのかと考えることがあるが、基本的には自分の経験や思い出を編集することでしかないと思うと同時に、それを創作ってみんな呼ぶ。



岡野大嗣(歌人)

「引き出しのすみっこに集めたときめき。
ポッケに入れてたたくと増えるメモリアル。
喧噪をはけ、ひとりのときにだけ見える光。
寒がりなのに薄着なあなた。愛すべきアルバム。」

中川昌利

歌ってなんなのかって音程だと思っていた。音程の上下運動、どのタイミングでどの音符がなってどれくらい持続するのか。音でしかないと思っていた。でもなぜかそれを文章にも感じることがある。短い歌と冠された表現形式、その冠からくる先入観なのか、歌だって認識される。歌って言葉なんだ、最近はよくそう思う。メロディがなくても歌なんだ。岡野さんの歌には音楽を題材にしたものが沢山ある。それはきっと自然なことで、音楽からしたら先祖帰りかも知れない。コピーとも歌詞ともアフォリズムとも違う、基本31字の歌。言葉に色と音を持たせる人。

豊田道倫(歌うたい)

「中川昌利の音楽を、ぼくは楽しめているか?と問われたら、即「yes」とは言えないし、「no」とも言えない。
1曲目の「悪魔さん」で、プロローグ、ロックンロール、プロポーズ、エンドロール、という言葉が使われて、それはそのまま、このアルバムを定義する言葉だとも思う。
配信シングルなど、耳に馴染みのある曲、初めて聴く曲。聴いてると、ベストアルバムのような気持ちになり、これでカードは全て出し切ったんじゃないかと思わせる。
甘い声、スイートでラブリーなサウンド。
内省的なのか、ハッタリなのか、どこまでも煙に巻く歌詞。どれも、自分にはないものだ。
音楽は生活に「使われて」なんぼのもんだと思う。
東京で暮らし、生き抜く若者に、中川昌利は刺さるのだろうか。
ちょくちょく東京に行くけど、もう、空気は全然違う。
大阪ではのんびりしていても生きていけるけど、東京は改めて戦場だと思う。
気を抜いてサボっていたら、はっきりと置いていかれる街。
次、誰かと東京で待ち合わせしてる時、中川昌利を聴こう。
公園口で、イヤフォンをして。
2,3回聴いただけでは、何もつかめないこのアルバム。
ぼくは何回聴くことになるだろうか。」


中川昌利

豊田さんの音楽がなんなのか、僕にはそれを表現する言葉を見つけることがまだ出来てなかったりする。それなのに僕のアルバムにコメントをくれ、なんてちょっと筋が通ってないかもなんてことも思う。ただ一つ、厳然たる事実として認識している豊田さんの発明品は「録音」だと思う。オンコード、開放弦を使ったエモコードの上に鎮座するデカダン文学、沢山彼の音楽を特徴づけるものはあるかも知れないが、キッチンの前で、近所の公園で、その空気と歌をポップミュージックに。日本のロック史の上で、録音芸術を前進させた人。だから僕の1stアルバムにコメントを書いてもらう必要があった。それまでに発表したコメントを丸ごと無効化するような超長文のコメント、どうしてもこの人に締めてもらいたかった。

あとがき

こういうリリースの時にコメントをもらうやつ、時々SNSで見る。昔はCDの帯でも見た。こういうものがじゃあ直接売り上げに繋がります、なんてことはない。じゃあなんで書いてもらうのか、すぐに思い付くのは著名な方に書いてもらうことによって拡散してもらえるんじゃないか、という点。もちろんそれもあるんだと思う、有難い。それもあるが個人的には、この人の自分の音楽に対する言葉を見てみたい、というのがその理由のほとんどかも知れない。どれもとってもとっても興味深くて面白かった。し、やっぱり有り難かった。


一方、書く側はどうなのか。はっきり言って何も得はない。手間。そしてなんならリスクすらある。そもそもその書く対象がダサいかもしれないという大リスク。


しかし、僭越ながらコメントを上記の方々にお願いした時、二つ返事で快諾してもらった。お願いをする時、直接会って言う時には頭の中で何度もシミュレーションをして、連絡をするときは何度も文章を見直して書き直して。どの方も最初の相談、連絡で引き受けて頂いた。


そして全ての方にお願いしたあとに、あれ、これコメントが被ったりするのでは、なんて思ったりもしたが、当然のようにそんなことはなかった。中川を知ってくれたきっかけになった曲が同じ、そんな人もいるだろう。しかしその人それぞれの中で自分の音楽がその人の言葉で言い換えられることが嬉しかった。どの人も違う言葉を持っている。その当たり前が、人にとって、芸術にとってどれほど頼もしいか。



どの方もみんな知っての通り、所謂ビッグネームであり、本物の才能がある方ばかり。そして全て自分にとっては勿体無い言葉ばかり。


これは自分の話になるが、確かに昔からそんなところが中川にはある。なんかすごい、有名な人が中川の音楽を褒めてくれたりする謎。



昔は得意気になっていた。なんだよ、やっぱり中川ってすごいんじゃん。だよね、だっていいに決まってるじゃん、だってこの中川が、おれがやってんだよ。なんてことを思っている自信満々期も確かにあった。



しかし事実はそうではないことにじきに気づく。


中川はすごい人に褒められているのですごい、ではない。中川に気づく人がすごい人なのだ。



中川の音楽を良いと思った人、なんなら興味を持ってくれてこれを読んでいる人。そこら辺の人にわかるような曲を作ろうなんて考えてはいるが、それが現状、そこら辺の人にわかるような曲は出来ていない。僕を好きになる人、これを読んでいるあなたこそ、そこら辺にいるような並の感性の持ち主ではなく、自分が激烈に敏感なアンテナ、極めて繊細な感性を持っている人間であると、どうか胸を張って欲しい。



反面、その敏感さゆえにしんどいこともあったのだろうと推測する。誰かのことを考え、なんだか最終的にその誰かを優先していつのまにか損ばかりしたり、もう別にいいや、ってあんまりならない人じゃないですか。違いますか。



音楽ばっかり聴いて、全部の言葉、音の全てが自分のことを歌ってるように聞こえる。その時間を知っている。


僕は知ってる、その時間のために音楽はあること。



その時間を知っている人にしか、今の僕の音楽はわからないのかも知れない。単純に、もっとそんな人達にも知られたい、聞いて欲しいけど、そんな自分の音楽を卑下しようなんて思わない。僕の音楽は間違いなく、その時間のために、そんな人のためにあるのだろう。



もうすぐ、ようやく、1stフルアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」のレコ発ワンマンライブがある。


正直言って、このワンマンライブをやるに当たって何回後悔したかわからない。かれこれ3ヶ月前くらいに発表して、2ヶ月くらい後悔している。こんな大変なこと、勢いでやっちゃいましょうよ!なんて言わなきゃよかった。


しかし今はとても厳かな、おそらく結婚式前夜のような静かな心を得たことと、このアルバムの曲をバンドセットでみんなの前で演奏出来ることが嬉しくてたまらない。



僕にとって音源は想像上の産物というかLRという紙の上に書いた絵のようなものだと思っているので、ライブはそれに奥行きとか体積を持たせる、じゃないけど、曲が足と手とちょっとした体臭なんかを持って目の前に現れる。それがライブ。ようやく生まれた、曲が独りでに歩き出す、と言えるのかも知れない。



5月15日ぜひどうぞ。

LIVE INFORMATION

2025/05/15 (Thu.) 東京・下北沢CLUB Que
中川昌利 1stフルアルバム『君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない』発売記念ワンマンライブ「プロポーズ」


出演:中川昌利 & Friends

岡山健二、有島コレスケ、石井さやか、髙井絢加、よしだゆうすけ、渡邊恭一、ぎがもえか
open 19:30 / start 20:00
ticket adv. ¥3,000- / door. ¥3,500- (+ドリンク別¥600)
※価格表示は全て税込

<会場設定>オールスタンディング

一般発売 2月21日(金)

<販売>

・「CLUB Que 店頭」No.1~40

・「イープラス」No.41~140  https://eplus.jp/sf/detail/4267630001-P0030001

・バンド売り No.141~

RELEASE INFORMATION

君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない
中川昌利
2025.03.05 Release

部室
Price: 2,500 yen (tax in)
Format: CD / Digital

Track List
01. 悪魔さん
02. やさしいね、(Retake)
03. アホウ (New mix)
04. きらり(New mix)
05. ダイスキダイスキダイスキ
06. 靴擦れのアリス
07. Machibari~きえないアイラブユー~ (New mix)
08. ココア
09. フィアンセっ!(Album version)
10. 硝子色の街、恋人
11. キラーフレーズ
12. Fashion Hate (Retake)

ARTIST PROFILE

作詞・作曲・編曲に加え、多楽器演奏による多重録音、サウンドプロデュースまでマルチに行う過剰才能を携え、拡張された青年期をポップミュージックの謎と希望に捧げる、令和の異能力シンガーソングライター。

2024年に、サニーデイ・サービス/ぎがもえか/岡林風穂 withサポート等を手掛ける音楽ディレクター・渡邊文武がディスクユニオンDIW Products Group内に立ち上げたレーベル<部室>レーベルに移籍し、2025年3月5日に待望の1stフルアルバム「君と出会う前の気持ちを僕は思い出せない」をリリースした。
著名なミュージシャン、デザイナー、映像クリエイターなどからも絶大な賞賛を得ており、今後の飛躍が期待される注目のアーティストである。

【Official SNS】
X   https://x.com/yamamonakagawa  @yamamonakagawa
instagram https://www.instagram.com/nakagawanoinsta/ @nakagawanoinsta

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