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Carlos Niño & Friends『More Energy Fields, Current』リリースイベント・ライヴレポート。会場全体を包み込んだ「自由」と「解放」の特別な一夜

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昨年の3月からカリフォルニアでは、コロナ禍による非常事態が宣言され、どこのライブ会場やクラブも営業できなくなり、すべての音楽愛好家は余儀なく自宅で音楽を楽しむ方法を見つけるしかない状況になった。しかし、2021年に入ってから、カリフォルニアの過半数の市民がワクチンを接種し、新たな感染が抑えられていることが確認されたので、6月中旬から店舗への入場制限など、ほとんどの規制が解除された。

テキスト:バルーチャ・ハシム廣太郎 (Hashim Kotaro Bharoocha)
編集:三河真一朗(OTOTSU 編集担当)

Carlos Niño – Photo by Todd Weaver

ここロサンジェルスでも、ワクチンを接種していれば、マスクを着用しなくても外を自由に出歩いたり、だいたいのお店にも入ることができる。6月以降はクラブイベントも続々と再開し、配信ライブに飽き飽きしていた音楽ファンはこぞってクラブやライブハウスに集まるようになった。 そんな状況の中で、7月10日にイーストハリウッドのGold Diggersというクラブで、International Anthem(CDの国内盤はrings)から新作『More Energy Fields, Current』をリリースしたカルロス・ニーニョのリリース・パーティーが開催された。


2021年7月10日にイーストハリウッドのGold Diggersで行われた、イベントフライヤー。現地からのライブ配信もされた。

International Anthemはシカゴを拠点にしているだけあって、シカゴのジャズ・シーンやアーティストにフォーカスしているレーベルとして世界的に知られるようになったわけだが、最近はカルロス・ニーニョやミゲル・アットウッド・ファーガソンなど、LA在住のアーティストの作品もリリースするようになっている。


ringsから、2021年7月7日にリリースした国内盤CD『Carlos Niño & Friends「More Energy Fields, Current』

国内盤は、ボーナストラックを加えハイレゾMQA対応仕様。
カルロス・ニーニョへのインタビューと原 雅明によるライナーノーツを収録。

ソールドアウトとなったこの小さな会場は、おそらく久しぶりにライブを見に来て、1年以上もライヴを欲していたであろうお客さんの熱気で充満していた。クラブの中では、マスクを着用していないお客さんの方が多かったが、1年以上もマスク生活を強いられていると、マスクをしていない人に囲まれると少し不安になるものだ。

そんな心配をよそに、シカゴからわざわざこのイベントのために飛行機に乗ってきたアヤナ・コントレラスという女性DJが会場を温めていた。彼女はシカゴのラジオパーソナリティーとして知られており、ヴァイナル・コレクターとしても名高いわけだが、7インチだけでシカゴソウル中心の絶妙なセットを披露。この日の前座として出演したのが、もともとはシカゴ出身でありながら、現在はロサンジェルスに拠点を置いているジャズ・ギタリストのジェフ・パーカー。

JEFF PARKER(Guitar) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

彼は、シカゴのポスト・ロック・シーンを代表するトータスのギタリストとして世に知られるようになり、International Anthemからジャズ、ソウル、ヒップホップを融合させた『The New Breed』、『Suite For Max Brown』の2枚のアルバムをリリースし、各方面から注目されている。この日は、ジェフがソロギター・ライヴを披露すると聞いていたが、ステージを見ると、なんとグラミー賞受賞者でもあるベーシスト兼ボーカリストのエスペランサ・スポルディングもステージに立っていた。

ESPERANZA SPALDING(Bass) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

ジェフはミニマルなギターのフレーズから演奏し始め、エスペランサはそれをなぞるような、音数の少ないベースラインをダブルベースで力強くプレイ。他の楽器の音に邪魔されることなく、デュオだけであえて余白を残す演奏スタイルは、想像力をかき立てるサウンドでありながらも、筆舌に尽くしがたい緊張感に包まれていた。その緊張感が頂点に達したところで、エスペランサはそれを解放するかのように、ダブルベースをリズミカルに演奏しながらも、即興で歌い始めた。

彼女が歌うメロディは、アフリカ、インド、もしくは存在しない国の民謡を思わせるような流麗なサウンドで、ジェフはそのメロディをさらに強調するフレーズをギターで繊細にプレイし、ペダルを使ってアンビエントな音の空間を作り出すこともあった。ジェフとエスペランサの二人は、もちろんジャズの教育をどっぷり受けてきたミュージシャンなわけだが、ここでの彼らの演奏はもはやジャズという言葉を超えた、二人独自の世界観を作り上げているようだった。

L→R ESPERANZA SPALDING(Bass)と、JEFF PARKER(Guitar) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

次はメインイベントのカルロス・ニーニョ&フレンズのライヴなわけだが、一つここで注釈を入れておきたいのは、もともとカルロスはDJ、プロデューサーとして日本で語られることが多かったが、ここ数年は、パーカッショニストとして、マインドデザイン、ジャメル・ディーン、キーファー、ミゲル・アットウッド・ファーガソンなど、数々のアーティストのライヴや作品に参加しており、一人のプレイヤーとしてもLAで認知されている。

Carlos Niño(Percussion) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

そんなカルロスは、キーボード奏者のスーリャ・ボトファシーナ、マルチ管楽器奏者のパブロ・カロゲロ、ドラマーのエファ・エトロマ・ジュニアとともにステージに登場。まず目に付いたのは、カルロスの周りにある数々の珍しいパーカッション楽器類。スパイラル・シンバルを含む様々なタイプのシンバル、シンバルを叩くための各種のスティック、ハンドドラム、ベル、地面に乱雑に置かれた打楽器を駆使し、時には繊細に、時には激しく、大自然を連想させるような音を鳴らしていった。

キーボード奏者のスーリャ・ボトファシーナは、アリス・コルトレーンが生前ロサンジェルスで運営していたアシュラムの中で育ち、彼女から直々に音楽教育を受けたミュージシャン。

SURYA BOTOFASINA(Synthesizer / Keyboard) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

そんな彼のすべての演奏からアリス・コルトレーン直伝のスピリチュアルなエネルギーが醸し出されており、ロニー・リストン・スミスを連想させるような浮遊感のあるフェンダーローズのコードを演奏したかと思えば、古典インド音楽のような旋律、ジャズ・ファンク的なグルーヴなどをシームレスに操った。

パブロ・カロゲロはバスクラリネット、アルトサックス、フルートなど、各種の管楽器を演奏し、カルロス、スーリャ、エファが築いた音の土台に、浮遊感のあるメロディを乗せていく。

PABLO CALOGERO(Bass Clarinet /Alto Saxophone / Flute) PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

エファ・エトロマは、もともとヒップホップ・バンドやジャズを演奏してきたドラマーだが、3人の演奏に柔軟に反応しながらも、わかりやすいジャズのスウィングビートやファンクリズムに頼ることなく、アブストラクトでフォームレスな演奏に徹しているようだった。エファのジャズ教育を受けたドラミングと、カルロスの直感的なパーカッションの演奏のコントラストとバランスがまた絶妙だった。

EFA ETOROMA JR(Drum)PHOTO BY ALEJANDRO AYALA

そんな4人の演奏はおそらく完全なるインプロヴィゼーションだったと思われるが、カルロスは打楽器を演奏しながらも、ハンドサインでメンバーに指示を出し、全体の流れをリードしていた。このバンドのメンバーはまるで一つの生き物のように自由自在に変形しながらも、オーディエンスを時には内省的な世界に導いたり、異次元空間に誘っているようだった。

カルロスの演奏を見ていると、長年のDJ活動、そして他のアーティストのプロデュース業から培ったリスニング能力が染み付いているため、バンド全体を俯瞰で見ながらパーカッションを演奏し、4人の演奏をガイドしているようだった。ジェフとエスペランサの演奏もそうだったが、カルロス・ニーニョ&フレンズのライヴも、当然ながらジャズの要素は入っているが、ジャズのエッセンスである「自由」の概念を究極まで追求しているような印象を受けた。

Carlos Niño & Friends – “Thanking the Earth” video by Azul Niño

カルロス・ニーニョは、これからリリースされるネイト・マーセローの新作に共同プロデューサーとして参加し、今回のリリースイベントに参加したスーリャ・ボトファシーナのデビュー・ソロ・アルバムをプロデュースし、ターン・オン・ザ・サンライト、デクスター・ストーリーとの新プロジェクト、フォテーとの作品も予定されているので、今後も目が離せなさそうだ。

コロナ禍や人種差別問題で1年以上も社会が揺れていたアメリカにいる我々は、カルロスやジェフたちの何にも囚われない自由な演奏を見て、日常の緊張感から解放してくれるような感覚さえあった。そんな意識の「自由」や「解放」を提供できるアーティストたちと同時代に生きることができることに感謝しながら帰路に着いた。

アーティスト : Carlos Niño & Friends (カルロス·ニーニョ & フレンズ)
タイトル : More Energy Fields, Current (モア·エナジー·フィールズ,カレント)

発売日 : 2021/7/7
価格 : 2,800円 + 税
レーベル/品番 : rings / International Anthem / Plant Bass (RINC77)
フォーマット : MQACD (日本企画限定盤)​

ALBUM CREDITS:
Players: Aaron Shaw, Adam Rudolph, Carlos Niño, Devin Daniels, Dntel, Jamael Dean, Jamire
Williams, Laraaji, Nate Mercereau, Randy Gloss, Sam Gendel, Shabaka Hutchings, Sharada

Produced by Carlos Niño
Mastered by David Allen
Photos by Todd Weaver
Indigo by Niki Tsukamoto
Art Direction by Nep Sidhu
Design & Layout by Craig Hansen

JAZZ / AMBIENT / BEATS / NEW AGE

この記事を書いた人

Hashim Bharoocha

バルーチャ・ハシム廣太郎 (Hashim Kotaro Bharoocha)

東京出身のバルーチャ・ハシム廣太郎は、現在ロサンゼルスでDJ、ライター、翻訳家、レーベル・オーナー、イベント・オーガナイザーとして活動。パートナーのアキコ・バルーチャとSunEye名義でDJ活動を行い、インターネットラジオ局dublab.comとdublab.jpではSunEye Radioという番組を担当し、伝説的アーティストのインタビューやDJミックスを放送。Rings、Aloha Got Soul、Rushなどのレーベル業務にも関わっている。Plant Bass Records主催。


https://www.mixcloud.com/SunEyeRadio/
https://www.instagram.com/suneyemusic/
https://twitter.com/suneyemusic

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