THE FOOLSやZZZooなどのメンバーとして活動してきたサックス奏者の若林一也。今回はファースト・アルバム『PARASITE SYSTEM』をリリースした彼のリーダー・バンド、igloo(イグルー)に関するインタヴューのパート2。ここでは『PARASITE SYSTEM』の収録曲に具体的に触れていくが、若林一也のソロとしての経歴、igloo結成までのいきさつ、メンバーに関する詳細などはパート1をご覧いただきたい。
取材・文:志田歩
写真:秋山典子
編集:汐澤(OTOTSU編集部)
―1曲目の「PARASITE SYSTEM」。これはアルバムのタイトル曲でもありますね。最初、ドラムから始まって次にベースが入って。
これは去年の7月くらいにギターのファンテイルとバンドやってた時に書いた曲。僕が家で全部ドラムとか打ち込んでテーマとかも作って作曲してった感じ。テーマもちょっとミニマル感出したかったんですよね。同じフレーズの繰り返しっていう気持ち良さを、自分の中でいい感じに集約できたかな。ジャムでギターとか色々エフェクターで変幻自在に変えられるじゃないですか。でもサックスってなかなかそういうのができなくて、だからテーマはそういう感じで書いていきたいっていう中でできた曲ですね。
―3曲目の「CrissCross」ってタイトルには、どんな意味があるんですか?
これは作曲したのが20年近く前、21とかの頃。ライヴは3,4回くらいしかやらなかったんですけど、ベースがゆーぴん(西村雄介)さん、ドラムが南たけしさんっていう3人でFATOSというユニットをやってた時があって、そのために書いた曲です。中二病みたいでちょっと恥ずかしいんですけど、渋谷のスクランブル交差点で、なんで人ってぶつかんないんだろうと思って。一つのループがあっていきなりガーンって途中から変わって、パッて消える静寂っていうか、そういうのを狙いました。
―次は「COLD JIGSAW」。
これは岡部琢磨さんとファンテイルっていうギタリストと何かやろうって言って、結構練習してる時に作った曲で、川幡さんっていうアフリカンビートとかやってるドラマーがいて、ビートがすごく良かったんで、その人のビートに合わせてフレーズをいろいろパッチワークのように組み合わせて作りました。最初はサックスとギターの掛け合い。ギターがガーンって来て、次はエフェクターのパート、そういうのを組み合わせて、ジグソーパズルを組み合わせるようにということで、作曲した時が冬だったので、「COLD JIGSAW」って曲名にしたんです。
―シンセサイザーみたいな音が聞こえたますけど、あれはエフェクトをかけたギターですか?
そうです。あれだけ別録りで、このアルバムで唯一音を重ねたところです。
―曲を作った時はキーボードでやったりとか?
そうですね。それはギターでエフェクターだけって途中のEmがガーンって。あれがこの曲のミソ。Em、Eっていうコードは、自分の中ですごく思い入れがあって。THE PANTZというバンドで初めて(川田)良(THE FOOLSのギタリスト、故人)さんのギターを21の時に聴いた。いわゆるロックの感じで衝撃的だったんです。それまで全然自分が見たことも考えたこともないような凄い凄まじい音がして。
―では次は「EBINIRU28」
28歳の時に書いた曲です。正確な由来は忘れちゃったんですけど、SF好きなジャズ・ベーシストの友達がいて、その子が「エビを煮る温度が超難しいけど、あるらしい。そうするとエビは幸福に死ぬ」みたいな話をライヴのアフタートークで家に行って聞いて、「じゃあエビニルって曲書くわ」って書いた曲。テーマをまずギターとユニークにハモったりしながら一緒にやるっていういわゆるジャズのスタイルですね。28歳の頃はTHE FOOLSに入るちょっと前で、自分のリーダー・バンドとかやってた時期で、ジャズが近くて、そんな中でなんか狂った感じのをやりたいなと思って。それは「PARASITE SYSTEM」にも繋がるんですけど、ミニマム的な感じでやりたいなと。基本にあるのは4ビート的な感じではあるんですけど。
―ファーストの中では最もジャズのイメージに近いですよね。
実は僕ちょっとジャズに対して劣等感があるんです。ジャズはやっぱり音の出し方がすごい。クラシックがファ〜って出してる音を、ロックってガ〜ってする感じ。僕にとってはロックの方が近い。でもジャズってサブトーンとか全然サックスで弾き方違うんですよ。ノリとか。あとサウンド、音作りがなんか違うんですよね。大学4年間でクラシックを学んだっていうのが、想像以上に自分の中でデカくて。その頃は1日7〜8時間ずっとサックスをクラシックで吹いて自分を作りましたから。
―ジャズといえばiglooは、5月23日に林栄一さんと新宿ピットインで共演してますよね。
これは【月刊 林栄一】というピットイン昼の部の企画で、林さんが選ぶわけじゃなくて、お店の人がブッキングするんですよ。昼の部なんですけど、結構お客さんも来るんです。そういうところで若手のミュージシャンとか出ることによって、お客さんに見てもらえるっていう空間にもなってて。林さんは開演10分前ぐらいに来て、ヨーイドンで即興を始める。ただ最近では即興だけじゃなくて、バンドのオリジナルとかあるんだったらその場でやりますよっていうことも多いみたいで。iglooの良さって、やっぱり曲をちゃんとやるっていうところにあると思うので、ファースト・セットは全部インプロでやって、セカンド・セットはiglooの曲をやりました。
―林栄一さんっていうと渋さ知らズのレパートリーとしても有名な「ナーダム」の作曲者ですよね。
ええ、2,3年前にアルトサックス3人プラス林さんで出たこともあるんですけど、その時に「ナーダム」を一緒にプレイしました。
―インプロもあるけど、若林さんとはそういう曲作りをなさった方という意味での接点もありますね。
自分としてはむしろこれからは曲作り。曲を作って何を表現するかっていうことを大事にしたいですね。
―では6曲目。「DARK MATTER」という曲名にはどんな由来があるんですか?
これも28歳くらいの時に書いた曲で、自分の中で宇宙ブームが来てて。ダークマターって絶対あるってわかってるけど、直接には観測できない仮説上の物質というのがあって。アメリカにダークマターを観測する施設があったりするんです。曲ではAパターンとBパターンがあるんですけど、前半の細かいフレーズは現実を表して、サビで宇宙に飛ぶみたいな。
―これは結構複雑なフレーズが上に乗っていて、リズムもメトロノームみたいにすごい冷徹で、演奏するの大変そうですよね。
好きなんですけど、やっぱりなかなかライヴでは取り上げられないですね。
―7曲目の「Ⅱ」も昔からの曲ですか?
22くらいの頃に書いた曲で、ずっとライヴでやってた思い出の曲です。
―タイトルの意味は?
今言うと恥ずかしいんですけど、二進法で0と1があって、コンピューターって全部0と1じゃないですかってなった時に、2っていうのはなんかすごく人間的に感じたんですよ。2っていうのは10で、3が11とか全部基本的にはデジタルの世界では1と0しかない。二進法に出てこない数字だから。数字で2っていうのは人間味を感じて、だからテーマは割と機械的にみたいな。テーマがテレテレテレテレテレーって。割と歌わないという。機械的だけど、でも機械ではないからみたいな。
―ラストの「魔方陣のテーマ」は、なんで魔方陣なんですか?
これは一瞬で終わっちゃったんですけど、魔方陣っていうバンドをやってたんです。この時は自分でなんかしなきゃいけないなって思って、ライヴ・イヴェントを江古田BUDDYで企画した時に書いた曲。これはもう衝動一発というか、やりだしたら止まらない。
―スピード感があって、このアルバムの中でもすごいロック的な印象ですね。
そうですね。これ一番気に入ってるというか。だからヴィデオ撮ってもらって出したんです。
―ファースト・アルバム全体の印象として、ニューヨークのロフトジャズの世界でデファンクトってバンドがありますが、音楽のジャンルの横断の仕方でiglooと通じるところがあるように思いました。デファンクトもジャズと言われたり、ロック、パンクロックみたいな言い方もされるじゃないですか。
ヴォーカリストがトロンボーンでかっこいいですよね。あとデファンクトって、ギタリストのカッティングが上手い。拓ちゃんもカッティングがすごく上手くて。音楽の軸足がなくなっても困るんですけど、できるだけ色々なジャンルとかそういうところに常に自分自身もアンテナを広げていってやりたいという思いはあります。
―さっきロックとジャズの違いの話がでましたけど、若林さんにとってデファンクトはどんな感じですか?
僕は取り合い方としてはロックですね。
―なるほどね。じゃあ親近感を感じる?
あとジャズよりもファンクの方が僕は親近感あります。例えばメイシオ・パーカーとか。
―1stアルバムは若林さんにとっての集大成で、本作でこれまで作ってきた曲を一旦出し尽くしたということですね。
そうですね。まずバンドで活動していかなきゃいけないっていう中で、今までのアイデアを使ってやってきたんですけど、これからは次の段階として、iglooのサウンドというところに向かっていきたいなって思いますね。全部自分のオリジナルで新しいものを新曲として作っていく。次のアルバムのレコーディングが7月19日にあるので、今はもうずっとそれにつきっきりです。
―では現時点でiglooのライヴの拠点についてはどう考えていますか。
下北沢CLUB Queにしたいと思っています。それはZZZooの時からつながってきたと思うんですけど、ブッキングしてくれたスタッフの方にすごいお世話になっているというか、iglooを盛り上げるために対バンとかも考えてくれたりとかという感じになっているので。iglooの前身のイヴェントをやってた時や、それよりももっと前の企画では、ずっと江古田BUDDYでお世話になっていたので、江古田BUDDYにもまた出たいなというのはありますけど。
―やっぱりClub Queというとロックの箱だというイメージですよね。ジャズの小屋じゃなくて、ロックの小屋が軸足拠点みたいな。ライヴに来てくれそうな人たちのイメージが何かしらあるのではないですか?
いつも割と女子が多くて応援してくれてる方も多いんですけど、この前、東高円寺 U.F.O.CLUBに出た時にTHE FOOLSのお客さんが来てくれて、結構騒いでくれてて、そういうのもいいなと思って。だから客層は何十代男性女性とかそういうのじゃなくて、ビートとか好きな人。
―スタンディングで踊ってるイメージかな?
はい、立ちでそういうところを目指していきたいなって思いますね。
(2023年6月22日・浅草にて)
Release Infomation
BEAT SCIENCE
igloo
2023.07.05 RELEASE
Grand Fish/Lab
THE FOOLS、ZZZooのメンバーであり、映画『魚座どうし』の音楽担当、Borisが2022年に発表したアルバム『Heavy Rocks』へのゲスト参加など多岐にわたって活動しNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』にも参加しているサックス奏者、若林一也が率いる4人組インストゥルメンタルバンド「igloo」が3月に発売した1stアルバム『PARASITE SYSTEM』の配信を開始。今作は、若林が作曲したオリジナル楽曲全8曲を収録。ジャズ、ロック、ファンク、サイケデリックなど、あらゆるジャンルを横断したカテゴライズ不可能な音楽が詰め込まれている。レコーディングとミックスは須藤俊明氏、マスタリングを中村宗一郎氏(Peace Music)によるもの。その中から先行配信第1弾!
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