CHiLi GiRL「サマーロマンス計画」リリースを記念し、CHiLi GiRLこと川嶋志乃舞と編曲家・宮野弦士との対談が行われた。
CHiLi GiRLは三味線奏者・川嶋志乃舞による伝統芸能とシティ・ミュージックを繋ぐスパイシーでチャーミングな次世代ポップ・プロジェクト。伝統芸能家・三味線奏者としては、東京藝術大学入学前から津軽三味線の全国大会で 4 度の優勝を獲得。幼い頃より海外公演やメディア出演等を経験し、さいたまスーパーアリーナにて小林幸子のバックバンド参加や、バッドボーイズ佐田正樹主演「ひとり芝居4」の劇伴、茨城県アクアワールド大洗サマーイベント曲を書き下ろすなど多岐に渡り、スペイン・ロシア・台湾などの海外フェスへ多数出演し、海を渡る活躍をしている。
作編曲家・宮野弦士は、フィロソフィーのダンスのインディーズ時代の楽曲を一手に手がけ注目を浴び、近年は鞘師里保、ukka、DISH//、寺嶋由芙、鈴木みのり、CUBERSなど幅広いアーティストの作品に携わっており、MORISAKI WINは楽曲提供のみならずライブのサポートも務めている。今春、ソロ名義でジャズ、ドラムンベース、ハウス、R&Bなどを横断した多彩なサウンドを個性豊かなゲストシンガー陣を迎え表現した2nd EP「Behind The Nightscape」をリリースした。
新進気鋭のアーティスト/作家として目覚ましい活躍をみせる川嶋・宮野の4年ぶりのタッグ作品となる「サマーロマンス計画」制作に至るキッカケは約7年前まで遡り、お互いの印象を深く掘り下げる内容となった。
インタビュー・編集:伊藤晃代(OTOTSU 編集担当)
撮影:柴本雄太
― まず、Shinobuちゃんにとって、上京後に大学以外での友人歴が最も長いのが宮野弦士さんということですが、出会ったきっかけは?

あたし達が今もお世話になっている加茂啓太郎さん(プロデューサー)を通して知り合うことができました。



覚えてるのは、下北沢GARAGEで加茂さんの新人発掘企画シリーズ「グレートハンティングナイト」に僕はお客さんとして行っていて、その楽屋で挨拶行ったときにちょうど出番前の川嶋(CHiLi GiRL)が出てきて、三味線でめっちゃ高速フレーズを肩慣らしで弾いてるんですよ。俺その時「すげえ…なんか…
二人:「「ヴァンヘイレンみたいだな!笑」」



(続けて)こんな早弾きするなんて、お前メタルじゃん!」とか言って絡んだのが最初でしたね。笑



その時のことよく覚えてる!(笑)
ただ、あたしは彼の存在をTwitterでフォローされて気が付いたんですがなんだかスカしてギターを構えてる若者がフォローしてきたな…と。どんな人なのか全然わからなくて、おっかなびっくりでフォローも返せずにいたんです。それでその頃「フィロソフィーのダンス」のデビュー曲「すききらいアンチノミー」を聴く 機会があって、すごい名曲だな…と、思わず「すっきらいアンチノミー♪」と呟いたら、「それは僕が作りました」とリプライが来てすぐにフォロバしました!笑 その後に会場で会ってすぐに仲良くなって。



確か2015年の9月ですね。
― そんな出会いを経て初めて対面した時のお互いの第一印象、宮野さんはShinobuちゃんのことをヴァン・ヘイレンだと思ったと。



でも本人はピンときてなかったですけどね。
― 逆にShinobuちゃんの宮野くんの印象はどうだった?



気さくなヤツだなと思いました。でも本当の第一印象はTwitterからなので、アイコンでの印象でしかないけど”ギターを抱えたお兄ちゃん”っていうのが正しいかも。
― お互いの会話や思い出で印象に残っている、または嬉しかったことなどありますか?



この質問、あたしが宮野に話したくて持ってきたんすけど、まずあたしが大学4年のときに、さいたまスーパーアリーナでのニコニコ超パーティー2016で小林幸子さんのサポート三味線奏者として選ばれた機会があって。それを宮野がニコニコ生配信で見てくれてて「お前めっちゃかっこいいな!」って直ぐにLINEをくれたんです。それがすごい嬉しかったですね。それもそうだし、寺嶋由芙ちゃんの2017年品川club eXワンマンのとき、「ねらいうち」を三味線を弾きながら一緒に踊った時も、提供作家として観にきていた宮野に「お前すげえな!大したもんだ!」って。



そんなこと言ったかなあ~。よく覚えてるなあ。とはいえ、三味線の世界の先駆者の方はたくさんいるんだけど、そこと同じじゃないからこそ余計にそれを感じるよね。しかもやっぱりそういうシチュエーションだと、三味線はすごくパリッとするというか、華がある楽器だと思うし、それに頼る度胸もあるんだろうと思うし。



素直に嬉しかったですね。覚えてないっていうのも、多分言おうと思って準備して言ってくれてないっていうか、宮野から素直に出てきた言葉なんだとしたら、より嬉しいですね。



だってねえ、別におべっか使う必要ないんだから。そんなに滅多に言わないしね。
― 仲の良いお二人は、これまでたくさんの曲を一緒に制作されてきましたが、まずは川嶋志乃舞作品で大切にしてきた部分はありますか?



そうだなあ。川嶋志乃舞作品を作る上であたしは当時、「伝統芸能ポップ」っていうコンセプトにきちんと沿わなきゃいけないっていう縛りがあったので、何かしら日本文化にまつわることとか、古典芸能から着想を得て作るっていうレールを守っていたんですよね。それは大変だったけど、いざCHiLi GiRLをやってみて分かったこともあって。やっぱりそのルーツとかヒントになった題材に対してすごい勉強してたし、1曲1曲ちゃんと全部説明できる曲ばっかりだなと。そのくらいコンセプティブな作品で面白いものを大切に作っていたんだなあと、今だからこそ思います。
― CHiLi GiRLは逆に、そういうレール無しに自分の思いついたものが多い?



そのときの感情をちゃんと作品にしなきゃいけないな、というかそんな作品を作りたいからCHiLi GiRLを始めたというところにも紐づいてくるので、そこが決定的な違いですね。それこそ最近出した「One Q feat.倉品翔(GOOD BYE APRIL)」は川嶋志乃舞時代に作ったものだから長唄「二人椀久」が題材になっていたけれど、もし今後、何か伝統芸能とか日本文化をかなりフィーチャーして作るとなったら、きっとCHiLi GiRLではなく川嶋志乃舞名義で出すと思いますね。だけどどちらの名義にしろ、きちんとポップスであること、これは絶対大事にしなきゃ!ジャケットも絶対ポップでかわいい感じ、そして赤、黒、紫、とかThe 和風な色は絶対使わない!もうほんとに、グリーン、水色、ピンク、ラベンダーとか。日本の楽器を使ってるけど、直接的に日本を連想させないビジュアルと音楽を作るとこは、タイアップ作品以外はなるべく貫いてました。
― 編曲家サイドの宮野くんはどうですか?



民謡とか伝統芸能っぽさみたいなものにしたくないっていうのは、もうdemo音源の段階で意図が見えてるので、編曲してるうちにどうせ勝手に自分の中から出てくると思って特に何も気にせず作っていましたね。あとは制作中に電話でどういうことを感じ取ったかや、どういう風にしたいかっていうことを都度相談して進めてました。それが面白かったし、普通の、そういう縛りのないポップスとして作っていたから。最終的に三味線とか足されたらどうなるんだろうな、っていう余白を感じながらでもありましたね。



そうね。このセクションには他の楽器がたくさんあるから三味線はちょっとここには入らないな~とかあたしも考えたし、けど
”絶対三味線は入れる”っていうゴールが決まってたから、むしろ「どこにどう美味しく入れよう」ってプロの三味線奏者として挑んでいたなあ。そこが宮野との相性も良くて、これまでうまく完成させてこれたんじゃないかなって思います。
―自分の曲だけど、三味線を入れることに挑んでいた?



今思うと結構そうでしたね。だんだん作編曲の上で知識や経験が肥えてきたときに、「うーん、この曲には三味線絶対いらないのになあ」って感じる節もあったけど、メインディッシュになりがちな三味線をグッドスパイスにするかはいつも楽しい課題でした!
―悩んだ末に、demo音源の段階で三味線は入れていた?



いや、入れてないことが多かったですね。アレンジが概ね完成して最後に入れるんですよ、川嶋はいつも。



そう。最後に入れるから、もう三味線ないものだと思って普通にアレンジして!っていつもオーダーしてたよね。あたしはポップスに三味線を乗っけるのは得意だから、あたしが最後に仕上げる、っていう順序で歌モノ曲は作ってましたね。インスト曲はもちろん三味線がメインだから、demoからしっかり入れてたけど!
―そんなふたりが最初に一緒に作った曲は?
二人:「トリカブト」です。



あの曲はちょっと難しかったな。



宮野以前に川嶋曲をアレンジしてくれていた大学時代の先輩は、渋谷系ポップスを特に得意な方で、「遊廓ディスコ」だったり、CHiLi GiRLとしても時々ライヴでやる「下町浪漫紀行」、それから「背水の陣」っていうインスト曲まで作ってもらって、どれもすごく完成度が高いんです。ただ制作の裏側を今だから話すと、やっぱり得意じゃないジャンルとなると、どんなにアレンジ作業が好きでも、手が止まって前に進めないこともあるんだっていうのをそのとき初めてわかって。お互い苦しくなるなら、それこそバンドではないし誰とやったって良いんだから、いろんなジャンルにおいて得意な人にお願いしてみようかな、と思い始めた時期に、当時仲良くなり始めた宮野にオファーしたんです。宮野は「締切守るくん」だし、仕事早いし。



当たり前だろ、仕事なんだから!(大真面目)
― 第一校がきたときのことは覚えてる?



この曲のことはよく覚えてます。データが送られてきた時、あたしは後楽園にある長唄三味線の稽古場から帰ってる最中で、夕焼けに当たりながらファイルを開いて、「ああ、やっぱり頼んでよかった」って。その後、たまらなくなって電話で感想を伝えた思い出があります。



「遊廓ディスコ」とかのイメージが川嶋志乃舞作品にはあったから、何となくそういうダンサブルな曲が来るんだろうな、だからそういうのが得意な俺を選んでくれたんだろうな、と思っていたら、めっちゃ歌ものバラードな上に不思議なMID感というか。難しかったのが、時計の音などの歌詞に合わせたギミックを入れたいってことだったので、どういう風に機能するかを考えるのは割と苦労しましたね。



バラードは歌うのも作るのも苦手だったけど、宮野のお陰で学校の後輩たちがめちゃくちゃこの曲を大好きになってくれて、学祭で日本舞踊の子が踊ってくれたりとかもしたんだよ!
― 他に一緒に制作した曲の中で印象に残ってる曲は?



どの曲も印象に残ってるけど、うーん。花千鳥…かなあ…



!! あたしも花千鳥…!



段違いでスピード仕上げだったし、なんか俺、1週間も編曲作業の時間がなかったはず。



まずね、オファーから3週間で納品だったんだよね、あの曲は。大学卒業して初めての楽曲提供仕事で、フジ テレビ企画「大相撲ODAIBA場所」というイベントのために、”完パケまで3週間と短いけど書き下ろしてみないか”という。宮野たちと新宿のスタジオペンタでバンドリハーサルに入ってて、「嬉しいオファーが来たけど大変だ!あたし1週間で書くから、 1週間でアレンジしてもらって、1週間でレコーディングからマスタリングまでっていう3週間パックでみんなで頑張ろう!!」って意気込んだもん。



すごい急いだ割には、すげえいい感じに完成してさ。



ね!良かったよね!集中して作った甲斐が…。涙



それでいったら、今回のサマーロマンス計画もアレンジだけで言えば似たような納期だったな。アレンジが10日間で終わったのは、ここ数年無かったから。俺の場合、オファーをもらっての工程(作曲、アレンジ、ミックスまで)は平均1ヶ月半かかるから、ひとまずアレンジだけとは言えかなりのスピード感で。



あたしたちはそういう期間になると連絡がすごく密になるから、電話もめっちゃするし、お互いの意見とかもなんの遠慮もなく交換するし、濃密な時間を過ごしてるからこそ印象的な曲になるのかもね。今作は4年ぶりになったけど、一緒にできてほんとによかったなあ!
― コミュニケーションがとりやすくて制作も楽?



楽だね。



すっごい楽です。



職業作家としてグループワークをやってるときって、結局色んなジャッジが入ってくるので、電話をしたとてすんなりはいかないことが多いけど、オファー元が作曲者本人だからジャッジが早いですね。たとえば俺から「このフレーズアレンジ、2案で迷っててるんだけどどっちが好み?」って直接聞いてすぐに答えが出るとか。やっぱりやり取りの中でディスコミュニケーションが出てしまうと、時間がかかった割にいざ校正で「伝えられたことと全然違うやんけ!」みたいなことも起こり得る。なので、気になったら本人がリアルタイムで話してくれて解決できるのはかなり楽ですね。あとは川嶋は特に、やりたいこととか言いたいことがdemoの段階で結構わかりやすいのもあります。



おお!(嬉)



demoに加えてリファレンスが今作もいろいろ送られてきたけど、多分こういうことなんでしょうって俺からも同じようなニュアンス+αで提案できるし。わかるんですよね。



そこまで行けるのは相性もあると思うけどね!笑 はるくん(友重悠)や翔くん(倉品翔)もかなり汲み取ってくれてはいるとはいえ、みんなタイプはもちろん違うから、あたしなりに伝え方はちゃんと考えてはいるものの、理解してもらうのが早いと更にアイデアも出てくる。



ていうことがあるからスムーズなんじゃないかなと思います。結局は、制作に大事なのは取っ掛かりです。何をやるかわかっていれば着手しやすい。「どうしたいんだろうな、これ」っていう時間に一番長く取られると苦しいですね。ただ作業においては、俺ら作家は仕事に責任をちゃんと持つし、でも”伝えられたことと今言ってるイメージ、違うじゃん!”となっても勿論仕事だから校正しますが、川嶋の場合は基本的にほとんど大きく変えることはないし、やり取りで苦労した記憶もあんまりないです。



直すとかじゃなくて、「思いついちゃったからやってみたんだけど」っていうポジティブで楽しいデータが来ることが多くて。あと決定的なやり易さは、二人ともディレクションに慣れてるから、それもあってかなり明確かつ、この作業は今やるべきじゃないとか、これは今頑張ってやっちゃおうとか、気になった修正ポイントがほぼ一緒とか。



同じ方向を向いていますね。
ー素晴らしいですね!後編では約4年ぶりのタッグを組んだ「サマーロマンス計画」について聞かせてください!
ありがとうございました。


CHiLi GiRL




『サマーロマンス計画』
CHiLi GIRL
2023.07.19 RELEASE
DOBEATU
三味線奏者・川嶋志乃舞による伝統芸能とシティ・ミュージックを繋ぐスパイシーでチャーミングな次世代ポップ・プロジェクト”CHiLi GiRL”(チリガール) 。フィロソフィーのダンスをはじめ様々なアーティストを手掛ける作編曲家・宮野弦士を迎え、夏の訪れのときめきを感じさせる、三味線×サンバ・ハウス! 潮風の香りと、甘酸っぱい乙女心が溶け込むメロディー、オリエンタルなダンス・ビートとスパイシーな三味線のアンサンブルに、胸を躍らせずにはいられない夏全快のドラマティックナンバー。

