「BELLRING少女ハート(以下、ベルハー)」は再結成から1周年に当たる2024年4月16日、恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブ「Bad Rich Grumpy Head “BRGH”」を開催する。本公演に先駆け、各メンバーにアイドルを目指した背景やベルハーを選んだ理由などについてロングインタビューをした。第4回は服部つばめだ。明るく、活発で、運動が好きなスポーツ少女。服部つばめに対して、多くのファンはそんな印象を抱いているのではないだろうか。それは誤りではない。けれども、あくまで一面に過ぎない。ステージ上や特典会で明るく振る舞う一方で、対極ともいえる一面を併せ持っている。これまで明かしてこなかった、“もう一人の服部つばめ”の姿に迫った。
●公演情報
BELLRING少女ハート ONEMAN LIVE Bad Rich Grumpy Head “BRGH”
日時:2024年4月16日(火)
開場/開演:18:45/19:30
会場:恵比寿LIQUIDROOM
チケット購入:https://t.livepocket.jp/e/brgh0416
――日ごろからライヴで激しいダンスをしているにもかかわらず、休日に友人と高尾山を登るぐらい、体を動かすことが好きですよね。学生生活では運動部を中心に活動していたのでしょうか。
服部つばめ(以下、つばめ) 運動は小学生のころから好きでした。小学3年生のころに駅伝の選手に誘われて長距離を走ったり、スイミングスクールに通ったりしていました。友達の影響でダンスもしていました。休み時間には必ず校庭に出て、ドッジボールやっているような活発な小学生でした。
中学校に進学したときには駅伝の経験を生かして陸上部に入るか、ソフトボール部に入るか迷って、ソフトボール部に入部しました。ですが結果的に、その選択が人生で一番の挫折につながります。
――どのような挫折ですか。
つばめ 入部した直後に評判だった女性監督が退任して、初めて部活の顧問を担当する男性監督に変わりました。その先生と合いませんでした。ちゃんと事前に準備してきても、やっていないと言われ、反論しても「それは言い訳だ」と取り付く島がないような人でした。それが続くことで、中学2年生のときに精神的に追い詰められてしまいました。
徐々に人を信用することができなくなり、自己肯定感を失っていきました。小学生のころは天真爛漫(てんしんらんまん)だったのに、中学校の部活を機に人が変わったようになった。その結果、友達から「何を考えているのか分からない」「つばめって笑わないよね」と言われることが増えました。
私はもともと自分をさらけだすことがとても苦手で、自分の意見を言えず、自分の殻にこもるしかありませんでした。そこに大きな後悔がありました。
――今、アイドルとして活動しているのはそのときの後悔から、人生を取り戻したいという思いがあるのでしょうか。
つばめ そういう自分を変えたいと思いました。自分のわがままかもしれないですが、アイドルはファンがいるから成り立ちます。そのファンの人たちの応援を受けることで、自分がここに存在してもいいんだという自己肯定感を高めて、もっと自分自身のことを好きになりたいと思っています。
ステージ上や特典会でファンの皆さんに見せている姿は、「小学生までの服部つばめ」だと思います。ライヴをしているときは誰からも何も言われない、注意もされない、自由に自分を表現できる。ありのままの自分でいられる場所です。
でも、もう1人の服部つばめは、人の意見にとても敏感で、すぐに落ち込んでしまう。でも、それも自分です。今は、自分自身が分からなくて、アイドルをやりながら本当の自分を模索しています。ですが、最近は徐々に考え方が変わってきました。
――ステージ上での振る舞いから受ける印象とは大きく異なりますね。最近は「low tide」「無罪:Honeymoon」など曲調が暗い曲を歌うのが好きになっているというのは、その「暗い自分」を受け入れられるようになっているのでしょうか。
つばめ そうですね。一般的にアイドルというと、きらきらして、常にニコニコと笑顔でいなければならない印象があります。けれど、人は常に笑顔でいられるわけではありません。
ベルハーの楽曲は明るい曲もあれば、暗い曲もある。ライヴで息がすごく上がっている、汗を多くかいている、疲れ果てても最後の力を振り絞って頑張っている、そんな「人間らしさ」を体現できることが自分には合っています。
「明るい面」と「暗い面」の両方を併せ持つ自分をすぐに解決することはできません。それであれば、私がありのままの自分を受け入れることが最善策だと思っています。そう考えるようになって、パフォーマンスも変わりました。
例えば、ここ最近、low tideでは「本物の服部つばめの暗い顔」を出すようにしています。重心を重くし、運動で鍛えてきた足腰を使うことも意識しています。
以前はステージに立つと、ライヴを通じて見ているお客さんに元気を与えないといけないという気持ちが強かった。ですが、自分の中の暗いところを引っ張り出してきて、素の自分でライヴをしてみたら、ファンの皆さんからかっこいいとか褒めていただけるようになりました。そういう応援の声も素の自分を表現するための勇気になっています。
明るいところもあるけれど、暗いところもある。そのギャップを強みに、魅力に変えられるようなエネルギーを身に付けていきたい。どちらのつばめであっても、すてきだなと思っていただけるようなアイドルになりたいです。
――「服部つばめ」の本質に迫るようなお話を聞かせていただきました。改めて、アイドルを目指すようになったきっかけを教えていただけますか。
つばめ 小さなころから芸能関係の仕事に就きたいと思っていました。とはいえ、最初からそういう夢を抱いていたわけではありません。幼稚園児のころは将来何になりたいかを尋ねられてもケーキ店で働きたい、生花店で働きたいなど、そのたびに言うことが変わるような子どもでした。
芸能の仕事に興味を持ち始めるきっかけは母親です。母親も昔は中森明菜のようなタレントになりたいという夢を持っていたようで、その夢を子どもに託したいという気持ちがあったのだと思います。
ですが、私ももともとテレビが大好きで、芸能界への憧れがあったんだと思います。私は引っ込み思案な性格ですが、一度きりの人生の中で何かをやり遂げて、後悔のしない人生にしたいと考えていました。
芸能は「一人の人間として評価される」ことがとてもすてきだと思います。そうして、徐々に芸能の仕事をしたいと考えるようになり、母親の夢が、自分の夢へと変わっていきました。
――最初は漠然と芸能の仕事に就きたいと考えていたのですね。そこから「アイドル」に絞られていったのはなぜですか。
つばめ きっかけは高校生のころです。その時期は本当に焦りを感じていました。芸能界はもっと小さなころから経験を積んでいる人が多い。芸能の仕事に就きたいと思っているのに、何も行動に移すことなく、高校生になり、後れをとっていることに危機感を覚えていました。
少しでも行動に移そうと、片っ端からオーディション情報を調べている中で、(BiSHやBiSが所属する事務所)WACKが主催するオーディション企画「Project WACKちん」にたどり着きました。
オーディションを受けるかどうか検討するうえで、WACKについて調べているときに、初めてBiSHの「オーケストラ」や「プロミスザスター」を聴いて、想像していたアイドルとは全く異なるかっこよさに衝撃を受けました。
それまではアイドルは大人数で、同じ衣装で、無個性という勝手なイメージを抱いていました。ですが、一人ひとりが強い個性を持ったBiSHを見て、その印象は大きく変わりました。
ただ、WACKちんは応募を迷っているうちに、個人で活動するオーディションの合格通知がきたので、応募を見送ってしまいました。その後、やっぱりアイドルとして活動したくなり、他のグループにも所属しましたが、自分が目指すアイドルとは大きく異なりました。
前のグループは上品で、ダンスはきれいだけどダイナミックさに欠ける印象でした。私が本当にやりたかったアイドルは体を犠牲にしているというか、体全身で何かを表現するような、全力でパフォーマンスするアイドルです。そこで新たな道を探し始めました。
――その中で、ベルハーのオーディションと出合ったのでしょうか。
つばめ そうです。ベルハーのオーディションはファンの人が教えてくれました。その人は私がもっと常識にとらわれないアイドルで活動したいと思っていたことを知っていたので、ベルハーが合うのではないかとTwitter(現X)のリプライでオーディションの情報を送ってくれました。
初めてベルハーを知り、YouTubeなどのライヴ映像で見た旧ベルハーのメンバーからは「命を削って全身で表現している」、そんな印象を持ちました。とくに「憂鬱のグロリア」は羽ばたいているような姿を表現するための体を使ったパフォーマンスがダイナミックで、これこそ私がやりたいアイドルだと確信しました。
楽曲では「ボクらのWednesday」に惹かれました。初めて聴いたはずなのに、どこかで聴いたことのあるようなメロディー、かわいいようで、かわいくない、とても不思議な気持ちにさせられる曲で魅力的です。
――合格通知をもらったときのことを覚えていますか。
つばめ ベルハーを逃したら、もうやりたいアイドルはないと思っていたので、合格通知がきたときは安心と喜びが一遍に押し寄せてきました。アルバイトをしているときに通知を見て、うれしくて泣いてしまいました。
デビューライヴは「楽しい」以外の感情はありませんでした。ベルハーのためにたくさんの人が駆けつけて、盛り上がってくれている。私は会場にお客さんがパンパンに詰まった会場でライヴをした経験がなかったので、幸せな光景をかみしめながら踊りました。緊張はほとんどありませんでした。
最初に披露した「ボクらのWednesday」「the Edge of Goodbye」「夏のアッチェレランド」は、いずれもベルハーの最初のアルバム「BedHead」収録曲です。グループの始まりの曲を大切に歌いたいという気持ちでライヴをしました。最初のライヴでは初々しさのあったパフォーマンスが、ライヴを重ねるごとにかっこよく洗練されていく未来を想像して、ワクワクとドキドキを感じました。
――パフォーマンスを洗練させていくうえで、工夫して取り組んでいることはありますか。
最初のころは間違えないようにやろうという意識が強かった。ですが、最近は少しずつ余裕がでてきて、もっと自由にやってもいいんだということに気付きました。
the Edge of Goodbye の間奏では自由に走り回ってみたり、ダンスを誇張して踊ってみたり、柵があれば足をかけて歌ってみたりしています。歌い方も最近は意識的に変えるなど、一期一会で、その瞬間しか見られないようなライヴをすることを心掛けるようにしています。
意識が変わり始めた最初のきっかけは、23年夏の大阪遠征です。(ベルハーのディレクター)田中(紘治)さんから、「諦めを感じる」「緩急がない」「自分の武器を理解していない」など、辛辣(しんらつ)な指摘を受けました。それがこの1年で一番悔しかったことです。
指摘された直後はひどく落ち込んでしまいましたが、その悔しさをバネに挑んだ次のライヴでは、ファンの皆さんや関係者の方から褒めていただきました。
今は「とりあえずやってみよう」を大切にしています。ですが、ただ暴れたいから暴れるのではありません。伝えたいという気持ちが大切だと思っています。自分が正しいという意思があれば、きっと伝わるはずです。
the Edge of Goodbyeの「離れたくはないよ」というパートで、(メンバーの葵)みとちゃんの手を思いっきり振り払うように変えるなど、より伝わる表現を目指しています。
もしかしたら、間違っているかもしれません。でも間違っていると指摘されれば、やめればいいだけです。昔の自分は「リスク回避思考」が強かった。それでは自分の殻は破れません。やらずに後悔するのではなく、勇気を出して一歩踏み出すようになりました。
その意識はデビュー1周年が近づくにつれて、より強くなっています。それまでにもっとお客さんを増やしたい。1年という節目を迎えることで、1年間の実力が明るみに出ると思っています。
漫然とライヴをするのではなく、一つ一つのステージから自分が何を学べるかを考え、思い切りのあるライヴを心掛けるようになりました。自分の中でもパフォーマンスが徐々によくなっているという手応えを感じています。
――特に注目してほしいポイントはありますか。
つばめ 私はダンスより歌が好きなので、歌に注目してほしい。ですが、メンバーが増える中で、自分の実力不足でソロで歌うパートが減ってしまい、アピールできるポイントが少なくなっています。ソロは少なくても、ユニゾンの中でもしっかり自分の歌が届くように意識しています。
やっぱり歌が好きで、これまでも歌に救われてきたので、もっと魅力的な歌声を出せるように模索している最中です。今後はもっと自分のパートを勝ち取れるように、精進していきたいと思っています。
(2023年11月22日に発売した新曲)「She’s Rain」は歌いだしに私がソロで歌うパートがあるので、しっかり聴いてほしいです。最初はそのパートは棒立ちでしたが、手を動かすぐらいの振り付けはできるので、少しずつ表現を進化させています。
また、(同曲の)「こんなはずじゃなかったんだの繰り返し」というパートは、(東雲)こずゑとライバル関係ぐらいの気持ちを持って歌っているので注目してほしいです。
――She’s Rainの発売は現体制のベルハーにとって大きな出来事の1つでした。
つばめ She’s Rainの発売が決まって、これからやっと本当の意味でアイドルとして生きていけるんだと思いました。
過去のベルハーの曲を歌えることはすごくうれしいですが、She’s Rainには、自分たちで曲を育てていけるんだという期待や希望を感じました。私たちが単なる後継者ではなくて、現代のベルハーとして活動できることを再確認できました。
CDという形に残るものを残せたことがとてもうれしいです。データは物理的に未来に残ることはありませんが、CDならいつか土にうずもれて、化石になったとしても、それを未来の誰かが発掘して、ベルハーという存在を知ってくれるかもしれません。
――つばめさんらしい、独創的な発想ですね。特典会でも独自の世界観を持つ会話が話題です。そういう感性はどうやって身に付いたのでしょうか。
つばめ 昔から、空想することが好きで、学校の朝礼のときには妄想して遊んでいました。例えば、1000人ぐらい並んでいる朝礼にスナイパーが襲来してきて、窓を壊されたら、どうやって逃げようかなとか、そんなことを考えていました。今でも暇なときにはいろいろなことを空想しています。
――個人としてはどんな姿をファンの皆さんに見せていきたいですか。
つばめ 人として成長する姿を見せたいです。BiSHに途中加入したアユニ・Dさんは、加入直後の弱々しい姿から、徐々に自分にムチを打つようにというか、覚悟の目に変わっていき、ダンスも歌も見るたびにうまくなっていく姿を見て好きになりました。
私は自分をさらけだすことがとても苦手で、人に伝えられなくて後悔したことがたくさんありました。これからは、ライヴの表現などを通して、人としても成長する姿をファンの皆さんに見せていきたいです。
●公演情報
BELLRING少女ハート ONEMAN LIVE Bad Rich Grumpy Head “BRGH”
日時:2024年4月16日(火)
開場/開演:18:45/19:30
会場:恵比寿LIQUIDROOM
チケット購入:https://t.livepocket.jp/e/brgh0416