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【岡山健二 連載】ミュージックヒストリー - 今までとこれから - vol.9

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2023年夏、ソロ作品では初となる全国流通アルバム『The Unforgettable Flame』をリリースし、その後も会場限定盤・自主制作音源のサブスク解禁や新曲の配信リリース、2024年3月には同アルバムのLP化など、活発な活動を続ける岡山健二(classicus / ex.andymori )。そんな彼にとってひとつの節目を迎える2024年、OTOTSU独占で岡山の音楽人生の振り返りと今後を深堀りしてゆく新連載が、2024年1月からスタート。
毎月最終木曜日更新 / 全12回予定。

文:岡山健二
編集:清水千聖 (OTOTSU編集部)


ソロのレコーディングは、andymoriが解散する予定だったSWEET LOVE SHOWERと、ラストの武道館の間に始まった。

いろんなことがはっきりしない時期だった。自分がどんな音楽を作りたいのか、確かめてみたい気持ちがあった。

バンドが休んでる間に、mac book proを手に入れ、パソコンでdemoを作ることを覚えた。

andymoriに入る前から、個人練などで使っていたスタジオがあり、加入した後も通い続けていた。古くて小さいスタジオで、2部屋しかない簡素な作りだった。

料金も格安で、個人練習なら1時間500円だったこともあり、フリーターだった当時の自分にも、何とか使うことのできる感じだった。

通っていた頃は、バイト終わりに2時間入ることが多かった。時間がなかったり、スタジオが予約で埋まっていたりすると、1時間だけとか、近くのまた別のスタジオに行ったりしていた。

そのスタジオの何がよかったのかというと、単純に部屋の響きがよかったというのもあるけど、どちらの部屋にもピアノが置いてあったことで。

2時間のうち、1時間半はドラムを叩き、最後の30分は、そのピアノを弾いて歌ったり、曲を作ったりしていた。

元々曲を作るのは、好きだったのだけど、将来作曲でやっていけるかというと、そんなイメージは全然できなかった。(その頃は自分が歌うことなど考えてもみなかった。)でも、ドラムなら何とか仕事になるかもしれないと思っていたので、練習だけは絶やさないようにしていた。

ただ、歌詞を考えたり、コードとメロディーの組み合わせ、まるで時間をかけて出来上がっていくパズルのような作曲という作業が面白くて、のめり込んでいった。

ドラムを叩きに東京にやってきたつもりだったのだけど、毎日作曲のことばかり考えていた。

当時の印象は、ドラムは伝統に重きを置いている感じがあって、なかなか自分を出しづらいけど、作詞作曲は、ドラム演奏より自分を出しやすい、よりオリジナリティーのあるものを作ることができる気がしていた。(オリジナルとはよく言ったものだ。)

のちに曲作りの世界だって伝統に重きを置いている部分が山ほどあるということがわかってくるし、ドラムだっていくらでもやりようはあったんだなと思い知らされたりするわけなんだけど。

20年以上ドラムを叩き続けてきたので、ドラムを叩かない人よりかは、もちろん上手なのだけど、いわゆるプロの人たちに比べると、自分は全然上手ではないなと思う。(この場合の上手は、どれだけ速く、正確に手足が動くか、といった感じか。)自分もプロと呼ばれるし、上手にも色々な上手があるということを知ってはいるが。

高校時代、三重から大阪に通い、ジャズ、プログレなどを演奏しているドラマーから2年ほど教わった。

それもあり、テクニカルなプレイが、どういった手順を踏めば、叩くことができるか、一応仕組みは理解しているものの、生まれ育った環境か、元々持ち合わせた性格からかわからないけど、16分以上の細かい音符になると、フレーズを演奏することに必死になり、場の空気などを読み取りづらくなったり、とっさのアドリブなどができなくなることがある。(苦手なのである)

そういうわけで、いつしか、自分が叩くのは、16分音符まででいいかと思うようになった。

ただ、ずっと音の大きなバンドをやってきたので、激しく見せる方法みたいなものは、何となく身につけていたり、一緒に演奏してる人のことをよく見たりしているので、この人はこんな感じにしてほしいのかな、と演奏中に微調整をするとかいったことは出来た。

どんな曲でも、自分が作曲者だったら、ドラマーにはどう叩いてほしいだろうと考えてきた。

前置きが長くなったけど、自分にとっては、曲を作るということは、ごく自然なことで、ずっと続けてきたのだけど、andymoriが解散して、この先何をやっていこうと考えたら、やっぱり今までに作った曲を形にしたいなと思ったのだった。

スタジオの店主に、レコーディングをしたいと相談し、そこから長い録音作業が始まった。

元々、そのスタジオは、自分の先輩バンドが使っており、レコーディングを見学させてもらってるうちに、自分も入り浸るようになっていったという流れがあった。

先輩たちがそのスタジオで録音したCDの音の鮮明さ、力強さに当時の自分は驚いた。パソコンなどを使ったデジタル録音ではなく、アナログテープでの録音だった。

そういった経緯もあり、自分の作るソロ音源は、先輩たちと同じアナログ録音でやりたいと思っていた。

ただ、アナログだと録音作業が、デジタルとは全然違った。

デジタルだと、ヴォーカルテイクのある1音の音程を変えたいとなると、すぐに変えられるのだけど、アナログだとできないし、ここのドラムがズレたから、少し前に動かしてほしいといったことも、デジタルだと、(それがいいか悪いかは置いておいて)動かすことはできるのだが、アナログだとできない。(聞いた話によると、テープを切ったり、貼ったりすると調整は可能らしい。)

そういった事情がありつつも、録音は開始された。

さすがにドラムは今までも叩いてきたので、わりと早い段階で3曲を録り終えたのだけど、そこに、アコースティックギター、エレキギター、キーボード、ピアノといった今までほぼ録音してこなかった楽器を、曲の頭から終わりまで、きれいな音を出し続けながら、間違えずに演奏するというのが、当然のことながら難しく、何ヶ月もかかってしまった。

ベースも一応弾いてはみたのだけど、録れた音を聴いた店主が、「健二君、ベースは使い物にならなさそうだから、ベースレスで成立するアレンジにしよう」と提案してくれたので、その方向で進めることにした。

そういう具合に、試行錯誤を繰り返し、何とか楽器類は録り終えたのだが、肝心の歌がまたひと苦労だった。

自分としては、人並み以上に歌ってきたつもりだったが、スタジオ録音で、なおかつメインヴォーカル、アナログ録音なので、修正もほぼできず、もう歌詞の一行一行、納得のいくテイクを少しずつ出していくしかないという感じになった。

録音は、スタジオの予約が比較的少ない昼間の2〜3時間を使って、週3〜4くらいで行っていただろうか。がんばってはいたものの歩みは少しずつだった。

店主が、「ここの言い回しが気になるんだよね」と言い出し、検証してみると、どうやら関西弁のイントネーションになっているから変わった感じになっていた、ということがわかったり。
立っている時より、座っているときの声のほうがよいのではないか。
まだ歌詞を頭で考えて歌っている感じがあるので、もう少し何も考えてないような感じで。
ひと言ひと言、置きに入ってる感じがあり、それだとスピード感が出ないから、この行を歌っている間に、次の行のことを意識したらいいのではないか。
チェット・ベイカーのレコーディングの写真を眺めていたら、マイクが真っ直ぐではなく、下の方から、口元を狙っていることに気付き、それを真似してみたり。
本当にさまざまな方法を試してみた。

自ずと、その時期に、それまでに聴いたことのなかったシンガーの歌を集中して聴くことになったのだけど、その中で、1番印象に残ったのが、大瀧詠一氏の「それはぼくぢゃないよ」という曲で。曲中に、同じ言葉を連呼する部分があって、その歌い方に、自分は歌というもののひとつの姿を見た気がした。

これほど歌に向き合わなければ、この一節には気付くことなかったなと思う。

結局、1年前に録ったドラムの上に、まだ歌入れをしているという辺りまで録音は続いた。(店主は相当こだわる人だった。)

でも、次第に形になっていった。

「夏草」という曲は、歌い出しの部分から、ラストの辺りまでだと、おそらく半年くらいの時間が経過している。いろんな日の声が、組み合わされている。(自分の声は、そういう作業にも耐えうる声なのか、もしくは、聴く人が聴けば、すぐにわかるのか。)

サウンドコラージュというか、つぎはぎのようだ。(気に入ってはいるけど。)

店主が、その行ごとの1番いいテイクをノートに書き出してくれていた。ミックスダウン(最後に音を調整する作業)では、リアルタイムで、その都度その都度、フェーダー(それぞれの楽器の音量をコントロールするつまみ)を上げ下げしていた。(デジタルだと保存すれば済むので、この作業は必要ない。)そういう光景を見ていたら、あぁ、音楽は長い間、こうやって作られてきたんだなと思った。

その後、レコーディングがどうなっていくかというと、赤字続きで、スタジオが閉店することになり、その関係で、いろいろとゴタゴタが起こり、録音どころではなくなってしまった。結果、どれが最終ミックスなのかも、わからないような状況になってきたので、この辺りが潮時だなという感じで、自分はスタジオを去っていった。

手元に残ったのは、3曲のデータのみ。

あの日々は一体、何だったんだろうと、振り返りたい気持ちもあったが、とりあえず音源は出来た。これでCDでも作ろうと思った。

仲間にデザインを手伝ってもらったり、CDのプレス工場を調べてみたり、パソコンでMVを作ってみたり、そんな感じで、ようやく始まっていったのだった。

岡山健二 / 夏草

「Salad Days Songs」

2016.1.15

1.flowers
2.りんごの木の下で
3.夏草
4.カモンインマイホーム

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