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島裕介、自身のプロジェクトSilent Jazz Caseの進化の過程を聞いた。

日本の現代ジャズシーンにおける存在感と重要度が年々増しているトランペット/フルート奏者兼プロデューサーの島裕介が、自身のプロジェクトによる4作目『Silent Jazz Case 4』をリリースした。Silent Jazz Caseは、次世代を担う若手ジャズミュージシャンらを多数迎えて化学反応を記録する柔軟なプロジェクトとして2009年にスタート。しかし4作目となる新作では、島裕介、河野祐亮(ピアノ)、杉浦睦(ベース)、大津惇(ドラムス)とメンバーを固定し、バンド表現にグッとフォーカスしてみせている。また、Spotifyでの再生回数が200万回を超えるヒットとなったアルバム『Prayer』で組んだメロウ・ヒップホップ系ソロ・ユニットre:plusとの再びのコラボも1曲収録。島ならではのサウンドデザインが最大限に効果を発揮し、トータリティに優れたアルバムとなっている。Silent Jazz Caseの進化の過程を聞いた。

取材・文●内本順一

――今日は新作『Silent Jazz Case 4』の話ももちろんですが、その前に島さんのなかでのSilent Jazz Caseの位置づけと、その進化の過程についてお聞きしたいと思います。まずは、このプロジェクトをスタートさせたきっかけから話していただけますか?

もう10数年前になるんですけどね(*2009年に活動開始)。その当時、Shima&ShikouDUOというトランペットとピアノのデュオをやっていたんですが、あの頃はクラブジャズが流行っていたので、そういう曲も作りたいし、作れるよということを示したくて、Silent Jazz Caseを始めたんです。当時ランブリング・レコーズで青木カレンさんのプロデュースをしていたり、カヴァー・アルバム『JazzinR&B』(発売から10年以上iTunesジャズチャート上位に入り続ける異例のロングヒットを記録)の制作などでトラックもたくさん作っていたので、だったらトランペッター島裕介と別けてプロデューサー名義のプロジェクトを新たに設けたいなと思い、Silent Jazz Caseと名乗りました。

――ロバート・グラスパーがロバート・グラスパー・エクスペリメントの名義で交流の深い様々なミュージシャンを迎えて作った『ブラック・レディオ』のリリースが2012年。Silent Jazz Caseの1作目(2010年)はそれよりも前ですね。

はい。日本だとSOIL&”PIMP”SESSIONSが活躍していたり。クオシモードがブルーノートと契約して東芝EMIからアルバムを出し始めた頃でしたね。日本でも「クラブジャズ」と呼ばれるムーヴメントが起きていた時期でした。

――Silent Jazz Caseの1作目は、クオシモードの平戸祐介さん、orange pekoeの藤本一馬さん、JiLL-Decoy associationのkubotaさん、青木カレンさん、ナイス橋本さんほか多くのゲストを迎えていて、ヒップホップ、ドラムンベース、ボッサ、バップと、楽曲も多様でした。

初作だったので、やりたいことが多かったんですよ。予算もあったのでそれができたんです(笑)

Yusuke Shima / Silent Jazz Case

――その後、ご自身の名義で2013年に『名曲を吹く』のシリーズを始められ、Silent Jazz Caseとしての2作目がリリースされたのは1作目の5年後(2015年)でした。5年というと、けっこう間があいた感もあるわけですが。

Silent Jazz Caseはオリジナル曲メインのプロジェクトなので、アルバムにして発表できるクオリティにもっていくにはやっぱりそれなりの時間が必要なんですよ。ただ、その前から僕はbohemianvoodooというバンドのプロデュースをさせていただいていて、新しく立ち上がったレーベルのPlaywright(2012年設立)から出した彼らの2ndアルバム『SCENES』が高い評価を受けていたんです。そうした流れからもSilent Jazz CaseをPlaywrightでやることになって。

――『Silent Jazz Case 2』には、bohemianvoodooやfox capture planの井上司さんら、レーベルメイトが多数参加していました。言うなれば“島裕介と仲間たち”といったあり方で。

おっしゃる通り。そういうふうにしたかったんです。

bohemianboodoo / Adria Blue MUSIC VIDEO

――1作目には数曲あったヴォーカル入りの曲は、この作品からなくなりました。その分、『Silent Jazz Case 2』は島さんのトランペット・ソロを強く押し出している印象があります。またバンド的なアプローチの曲もあり、とりわけ8・9曲目のファンクがかっこよかった。

ソロもわりとアグレッシブというか、熱い感じでしたね。音圧も全作品のなかで高めでした。

――次の『Silent Jazz Case 3』(2017年)は2年後のリリースで、その間にあった『名曲を吹く3』や、小山豊さん(津軽三味線)との『和ジャズ』の経験なども反映されているように感じました。特に後半は哀愁を漂わせたメロディアスな曲がいくつかあったので。

もう一回アコースティックなジャズに立ち返ったところがありました。楽曲制作を河野祐亮(ピアノ)とやっていて、自分以外のイディオムが入ったことも大きかった。

――『名曲を吹く』シリーズなどは、ミュージシャン島裕介としてメロディの捉え直しをしている作品だと思うんです。それに対して『Silent Jazz Case』はプロジェクトでリズムだったりグルーブだったりの追求もしていて、自由度がもっと高い。

曲の作り方がそもそも違うんですよ。Silent Jazz Caseの曲はパソコン・ベースで作っていて、自分のなかでのモードが違う。トランペッターであることをあまり意識しすぎないようにして作ってますね。フルートも大いに入ってくるし。

――PCで曲を作ると、どう違いますか?

ビートありきで曲を作ることになります。グルーブのサンプリングがいろいろあって、そこから持ってきて、そのイメージから曲にしていく。

――もともとそういう作り方をしたかったからSilent Jazz Caseをスタートさせたとも言えそうですね。

ああ、確かにそうかもしれません。Shima&ShikouDUOも全部オリジナル曲ですけど、ドラムとベースがないのでメロ先なんですね。それだと作曲の限界があるんですよ。Silent Jazz Caseは、そういう意味で限界がない。

――なるほど。それから2018年にはバンコクで現地のミュージシャンたちと制作された『Yusuke Shima in Bnagkok』があり、続いて2019年には re:plus(トラックメイカーのHiroaki Watanabeによるヒップホップ系ソロ・ユニット)とのコラボレーション・アルバム『Prayer』がリリースされました。re:plusと一緒に作ることになったきっかけは?

re:plusくんの『IN YA MELLOW TONE』という人気コンピレーション・シリーズがあって、そこに「1曲参加してほしい」と向こうからオファーがあったのが最初。それで一緒にやった「Sepia」という曲(2015年作『IN YA MELLOW TONE 11』収録)がいい感じだったので、今度は僕のほうからSilent Jazz Caseの新作で何曲かトラックを一緒に作ってくれないかと彼に打診したんです。そうしたら「だったら、がっつり両名義でフルアルバムを作りませんか?」と彼から提案されて、それで作ったのが『Prayer』なんです。

――どうでした?  一緒に1枚作ってみて。

天才だなと感じましたね。彼のトラックは、いい意味でライトなんですよ。

――ああ、そうですね。夜もいいけど、日の当たる場所で聴いて気持ちのいいトラックというか。景色の広がりがイメージできる。映像喚起力を持ったトラックで、島さんのプレイもそういうところがあるから、そのあたりでふたりは合うんだろうなと感じました。

そうなんですよ。そのへんが合うだろうと思って声をかけたというのはあります。

――あと、日本的な抒情もありつつ、どこの国のひとが聴いてもグッとくるポイントが必ずある気がする。

なるほど。だからあれだけサブスクで再生回数があがってるんでしょうね。ジャズファンに限らずいろんなひとが聴いて「いいインストだな」と感じられるものだと思う。

――『Prayer』はSpotifyで200万回を超える再生数を記録したそうですね。そうして世界中で聴かれる作品になったことで、意識の変化はありましたか?

もちろんありました。それまではライブばかりやっていたので、ライブに来てくれるひとの評価が自分の価値基準になっていた。だけど、作品を世界中のひとたちに聴いてもらえているという事実を知って、そのうえコロナでライブが半減するとなると、どっちの評価がリアルなのかわからなくなって。現場のお客さんも、サブスクで聴いてくれている世界中のひとも、どっちも意識するようになったんです。

re:plus & Yusuke Shima / Prayer

――なるほど。

そうすると曲の作り方の発想も変ってくるんですよ。これまではライブをイメージして作っていたけど、サブスクで聴いてくれるリスナー層のことをもっと考えるようになる。

――ましてや島さんはミックスまでご自身でやられるので、届かせる先のイメージによって音も変わってきますよね。

だから、『Prayer』がヒットしてくれたおかげで、すごくいいバランス感覚を持てたなと思います。

――では新作『Silent Jazz Case 4』の話をしましょう。まず今回のアルバムは、バンド・アンサンブルありき。バンド作品と言えるものになっていますね。

ライブを繰り返していくうちに、オリジナル曲をプレイするにはある程度メンバーを固定したほうがいいということを強く感じるようになって。でもなかなか固定できずにいたんです。例えばドラムはfox capture planの井上司くんがやってくれていたんですが、自分のバンドが忙しくて日程がなかなか組めないという実情もあったりして。

――そうした時期を経て、ようやくしっかりメンバーを固定できた。

自分のイメージする、いいリズムセクションが固定できたと思います。みんな個々にこのプロジェクトに対する思いもあるようだし。それがないとバンドにはならないじゃないですか。それでこのメンバーでレコーディングもしたいと思って、録ったのが今回のアルバムです。

――ピアノが河野祐亮さん、ベースが杉浦睦さん、ドラムが大津惇さん。知り合った時期はまちまちなんですか?

杉浦睦はジャムセッションで知り合って、いいベーシストだなぁと。その当時彼はそんなにジャズをやっていなかったんですけど、音色とニュアンスがジャズ向きだなと思って誘ってみたら、すごくハマった。河野は僕のジャムセッションに遊びに来てくれて、8小節くらい弾いてもらっただけで「このひとのコードワークは今まで聴いたことがない」と感じて。実際、河野はニューヨークで演奏していたんですけど(マンハッタンの名門The New School出身)。話してみたら、11年前の『Silent Jazz Case 1』をライブ会場で聴いてくれていたらしくて。それですぐに一緒に曲を作り始めて、『Silent Jazz Case 3』ができたんです。それからドラムの大津とは遠い昔から出会っていて。彼は慶応大学のジャズ研究会の卒業生で、僕がOBになって何回か遊びに行っているときに会っているんです。昔から上手かった。しかも彼は音楽的なアイデアをいっぱい出して還元してくれるので。

――それでこのバンドとしてライブを始め、並行して曲を作って録音したのが今作というわけですか。

ただ、ライブでやってない曲も半分近くあります。コロナ禍でライブができず、家にいるときに書いた曲もけっこう入っている。

――とはいえ、ライブを通しての結束がアンサンブルにそのまま反映されているという印象を受けます。単純に言って、島さんがとても気持ちよさそうに吹いているのがわかる。

河野と睦とは何回もライブを経てきているので、確かにそういうところはありますね。あと、ドラムの大津がやっぱり凄いんですよ。研究熱心だし、今回は楽曲的にも彼のドラムがハマりました。素晴らしいドラマーだと思う。

――1曲目の「Adhesion」を聴いただけで、それがわかります。アメリカの現代ジャズに通じるものがある。それから3曲目の「Japan Beauty」のメロディは耳に残りますね。

「Japan Beauty」は1年前の『アートにエールを!東京プロジェクト』(コロナ禍によって大きな影響を受ける文化芸術分野を支援するために東京都が始めた支援プロジェクト)のために作った曲なんですが、当初は自分のアルバムに入れる楽曲ではないなと考えていたんです。というのも、ポップすぎるから。でも4人で録音してみたら、シンプルなメロディと自由なリズムセクション、アンサンブルの抜き差しがうまくいって、意外といいんじゃないかと。re:plusとやった経験から、実はこういう楽曲こそが多くのひとに伝わるんじゃないかと思えて、それで収録することにしたんです。

Yusuke Shima / Japan Beauty MUSIC VIDEO

――ポップでラジオ・フレンドリーなところもあるけど、あからさまにポップすぎることはない。

こういう塩梅の曲を絶妙と言うんじゃないかなと。自分なりの答えが出た気がします。

――ポップすぎるものには、やはり抵抗がありますか?

あります。でも、やっているひとのキャラに合っていればいいんじゃないかと思うようにはなりましたけど(笑)。

――「Japan Beauty」のメロディにアジア的なテイストがある一方、次の「Grand Central NY」はタイトル通り、まさにニューヨーク・グランドセントラル駅のあの大勢の人々が忙しく行き交う感じが表現されている。

猥雑な感じというか。

――ジャズプレイヤーとしての島さんが素直に作ると、こういう曲になるのかなと思いました。

そうですね。自分のルーツにあるのがこういう楽曲だったりします。

――こうしたバンドでの録音曲が並ぶなか、1曲だけre:plusとのコラボ曲があります。7曲目の「Walk in a back alley」。

当初は全部バンドでの曲にしようと思っていたんですが、『Prayer』の実績もあったし、アルバムの真ん中あたりにre:plusくんとの曲が入っていたらいいアクセントになるんじゃないかと考えてオファーしました。何曲かやりとりするなかで、彼のトラックをそのまま活かすことにして。だから作曲のクレジットもre:plusになっている。彼にしてはけっこうジャジーなトラックを持ってきてくれたという印象ですね。

――そうですね。ジャジーでありながらも、朝焼けが似合いそうというか、光が反射しているイメージがある。意外と自然のなかで聴くのもよさそう。

ナチュラル感がありますよね。ほかのトラックメーカーとの違いはそこかもしれない。さっきおっしゃっていただいたように、そのへんが僕と合うんでしょうね。

――それから今回は1曲だけカヴァーも収録されています。ボビー・ハッチャーソンの「Montara」。

全曲オリジナルでもよかったんですけど、この曲は好きだったので。1曲だけフルートをメインにひとりで作りあげたかったんですが、そのなかでブラスアンサンブルのちょっとアブストラクトな感じを表現することができたので、収録しました。

――Silent Jazz Caseも4作目にしてまた進化を遂げたという印象があります。『1』や『2』はアルバム1枚で多様なアプローチを試みていて、こんな曲もあんな曲もと音楽性の幅を見せるところがありましたが、今作はトータリティに優れていて、ひとつのカタマリ感があるというか。

僕自身がぶれなくなったところは確かにあります。それはre:plusくんとの『Prayer』を経て、世界のリスナーを意識しながら作るようになったのが大きい。自信がついたし、ふっきれた感じもあります。

――それは音から伝わってきます。

ありがとうございます。とにかく繰り返し聴いてほしいですね。聴きやすさを意識した作品とはいえ、自分が大切にしているジャズならではのエグみもあります。でも聴き返すほどにそれが味わいに変わってくるはずだし、そういうところがジャズの魅力なので。いまはYouTubeとかで飛ばし飛ばし聴くひとも多いですけど、それは秋刀魚の肝を外して食べるのと似てるかな。本当のうまみを捨てちゃうことになる。以前は抵抗あった部分が、「あ、この感じ好きかも」って気づくようになったときが、真のジャズファンへの目覚めですから。

Silent Jazz Case 4
島裕介
 2021.07.07 RELEASE
Playwright

Spotifyプレイリスト「Modern Jazz Japan」や「All New Jazz」のカバーアーティストにも選ばれ、91ヶ国以上から約60万人を超えるリスナーを持つ現代ジャズシーン要注目のトランペット・フルート奏者/プロデューサー“島裕介”が主宰するプロジェクト“Silent Jazz Case”新作となる第4弾が約3年ぶりに到着!アジア圏を中心に世界で活躍するトラックメイカーre:plusとのコラボ曲や、メロウ・ジャズとラテンサウンドが親和せたボビー・ハッチャーソンの名盤 表題になる「Montra」カバーを収録。



Silent Jazz Case 4 リリース記念ライブ
演奏:島裕介 (tp,flh,fl) 河野祐亮(p) 杉浦睦(e-bass) 大津惇 (dr)
2021/9/19(日)横浜市日吉wwy
2021/10/15(金)大阪梅田ミスターケリーズ
2021/10/17(日)名古屋金山ミスターケニーズ
2021/11/30(火)渋谷JzBrat
※全て夜公演

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