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プレイリスト企画「一聴覚惚れ(いっちょうめぼれ)」ゲスト:Wataru Sato/Gecko (Gecko&Tokage Parade)

disk union A&R 伊藤の選曲コラム。ゲスト・セレクターを招きDIW Productsの新譜を出発点に1つのテーマを語り合う選曲会。時々テーマから逸脱することがあります。音楽好きの他愛もない雑談ですので、どうかご容赦ください。耳に触れた音が自分を豊かにしてくれる、そんな1曲がみつかれば嬉しいです。

今回のゲストはピアノソロアルバム「Spaces」をリリースされた、ピアニスト・コンポーザーのWataru Satoさんをお迎えしました。

ゲスト:Wataru Sato/Gecko (Gecko&Tokage Parade)

Wataru Sato/Gecko (Gecko&Tokage Parade)

ポスト·クラシカルの名門レーベル<Erased Tapes>に所属する“世界最速”の ピアニストLubomyr Melnykに師事。ソロワークではピアノ・弦楽を基調としたポストクラシカルやエレクトロニカを生み出し、バンド編成Gecko&Tokage Paradeでは自身のレーベル“Tokage Records”からリリースした2ndフルアルバム「Nomadic Flow」がタワーレコード·ジャズチャート初登場4位を記録。ジャパニーズ·ジャズ界の新星として一躍注目を集め、現在は fox capture plan等を要するPlaywrightに所属。Motion Blue yokohamaやCotton Clubでの単独公演も成功させている。また、サポートミュージシャンとしては、アニメ“東京喰種”主題歌を担当し話題を浴びた高橋國光(ex.the cabs)のソロ·プロジェクト“österreich”や、中高大生から圧倒的支持を集めSNSを中心に話題となっている新世代のソングライター“泣き虫☔︎”に参加。コンポーザー·アレンジャーとしての評価も高く、ベテランのジャズ·シンガー“青木カレン”との共同プロジェクト“transparent project”ではアレンジ・サウンドプロデュースを担当。多種多様な音楽ジャンルを横断する縦横無尽な活躍をみせる異色のピアニスト。

インタビュー・テキスト:伊藤あきよ:diskunion / DIW Products A&R ( レーベル:Playwright / DOBEATU / 1magine Label )
編集:三河真一朗(OTOTSU 編集担当)

ピアノソロ作品、セルフレコーディングにおける実験と遊び

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

今回の選曲テーマは「雨の日に聴きたい癒しのピアノクラシック」です。

今回はわたるさんのピアノソロアルバム『Spaces』リリース記念で、過去に出しているピアノソロアルバムからも1曲ずつ、このプレイリストに入れてみたのですが。ソロ作品は、エンジニアリングも全ておひとりでやられてるんですよね?

Wataru Sato

そうだね、家にアップライトピアノがあったから、生ピアノを家で録るレコーディング自体は2014年くらいの作品からやってるかな。ストリーミングには出してないんだけど。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

へえ…7年前から…その変遷ぜひきかせてください。

Wataru Sato

変遷かぁ。ポストクラシカルのアーティストで、ニルス・フラームオーラヴル・アルナルズが自分たちで録ってるのをみて、それからかな。見様見真似で。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

ニルスとオーラヴルの曲は、今回のプレイリストにも入ってますね。

Wataru Sato

うん。当時のゲッコーバンド(Gecko&Tokage Parade) のギターと録音したやつが、ちょこっと流通はしたんだけど、それは完全に実家のリビングで録って。24歳の時かな?
でも、そこから本格的なレコーディングは難しかったからやらなくて、あとはちょこちょこと遊んだり誰かの作品の手伝いでやるくらいだったかなぁ…

Gecko&Tokage Parade「Core」MV
伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

なるほど、最初は遊びからだったと。

Wataru Sato

ちゃんとピアノソロアルバムを出そうって、作品づくりに取り組んだのが2017年。それこそニルス・フラームが使ってるマイクとか調べて、機材を変えて録音した。それがmidnight solitudeかな。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

今回は、どんなことに挑戦したんですか?

Wataru Sato

音作りではマニアックな機材面。マイキングでは常に遊んでるから、それはどの作品でも違うよ。

あと今回は、“作品を録ろう”って思って録った5曲じゃなくて、昨年末からちょこちょこ録り溜めてた曲の良いところを集めたテイクをラフにまとめた作品で、実際は15曲くらい録ってるんだよね。その中から、バランスみて5曲選んでEPにまとめた感じ。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

はじめからアルバムとしてのテーマが決まってたわけじゃないんですね。即興的な。2020年5月に配信された『Feel Llike April』との違いは?

Wataru Sato

うーん、音作りはかなり変えたなぁ。

『Feel Like April』を録った時はステイホームだったから。あれって本当はグランドピアノで録りたかった曲を、緊急事態宣言中に家のアップライトで録った作品なんだよね。だから、ピアノもガンガンに鳴らすというか、家で出来る限りの中で最大音量で録ったの。

『Spaces』は、もっとニルス・フラーム的な、ピアノの音をミュートして音を小さくして録って、曲によってミュートの方法も変えてたりする。
アップライトピアノについてるミュートペダルにフェルトを挟んで録ったり。2曲目の「Air」はミュートペダルじゃなくて綿の布をハンマーと弦の間に挟んで録ってて、そうすると普通にミュートペダルを踏むよりちょっと音が大きく、篭る感じ。なにもしないで弾くときとミュートペダル踏んだときの間くらいの音になるかな?

『midnight solitude』と『Innocence』でもそういうのはやってる。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

すごく楽しそうですね!遊びというか研究というか!

Wataru Sato

実験と遊びはテーマにしてるかな。アーティスト作品って、遊びのようなもの。プレイリストに選んだオーラヴルのアルバムとかは『After World』作った時に参考にしたよ。

オーラヴル・アルナルズに限らずポストクラシカルのアーティスト作品は、アルバムとして1つの作品としてまとめることへのディレクションが強い気がしていて、曲と曲を繋ぐようなinterlude的な楽曲や、音色面でも生楽器に限らず電子音やサンプリングなどを大胆に使ってアルバム全体のカラーをちりばめつつも最終的に収束させるっていうバランス感覚が強くて、そのあたりはソロに限らずバンドの作品にも影響を受けている。

思考性はクラシックだけど、ムーヴメントとしてはロックの流れー ポストクラシック って?

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

なるほどです…。今回のプレイリストはピアノクラシックというか、“ポストクラシック”に焦点を当てたピアノ曲なんですけど、そもそもポストクラシックってなんぞ?って人が多いんじゃないかな?と思ってます。

Wataru Sato

クラシック音楽というよりかは、それを通過した人が作ってるものだよね。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

もっと複合的で多様性があるジャンルですね。オーラヴルはもともとメタルのドラマーですし。

Wataru Sato

ああ、確かにオーラヴルの初期の作品のドラムはアグレッシヴだよね。メタルの人たちはクラシックもわかる人が多いね。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

プログレも近いかな。思考性はクラシックだけど、ムーヴメントとしてはロックの流れで、即興性あって。エレクトロとかポップな要素もあるし、クラシックを聴く人だけじゃなくて、いろんな音楽を好む人にとって距離の近い音楽。

ポストクラシックのアーティストや、そういった作品作りに興味を持ったきっかけはなんですか?

Wataru Sato

ニルス・フラームの『Re』は、初めて聞いたとき、なんだこの変な音?って思って色々調べた。そしたら全部DIYで、自分で録ってて、ピアノもオリジナルだったりして。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

ニルスが背の高い巨大ピアノで録ってるやつも有名ですよね。『Solo』を録ったピアノ。

Wataru Sato

あの下にすごい長いやつね、ニルスの友だちのピアノ職人と一緒に作ったっていう。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

『Solo』ってチャリティー目的の作品で、この募った資金で更に巨大な4.5メートルのピアノを作ろうとしてるんですよね。(笑)

Wataru Sato

『All Melody』ではニルスのプライベートスタジオを制作してそこをメインに制作したみたいね。

あの人はエンジニアより、機材マニアだし。オーラヴルもミックスは自分でやってる。ポストクラシックの人は音を重要視するから、みんなエンジニアよりの脳を持ってる人が多いかな。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

わたるさんもそっちの人ですよね。

Wataru Sato

もともとクラシックピアノはやってたけど、クラシックとか大所帯なオーケストラものに聞き辛さを感じてて。室内楽くらいのボリューム感が好きで。オーラヴルのカルテット、クインテットくらいが自分にはちょうど良かったんだよね。マックス・リヒターは別枠だけど。ニルス・フラームも弦入らないし、坂本龍一が好きだったから入りやすかったのもあるかな。

映画から流行するポストクラシック

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

ポストクラシックは、現代音楽のカウンター的な側面もありますよね。

Wataru Sato

現代音楽みたいな調整をはずしていく方向のクラシックは、俺あまりハマんなかったんだよね。ノイズとかアンビエント、ドローンとかの実験音楽は聴いてたな。そっちのセッションやってた頃もあったし。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

現代音楽の作曲家だと学生のときはカールハインツ・シュトックハウゼンとか聴いたかな。あとプログレッシブ・メタルとか。古典的なクラシックやオーケストラが好きで、それから格式高い雰囲気の音に耳がいくようになったんだけど、今は親しみやすくてリラックスして聴けるムードのクラシックが好き。 

ポストクラシックは聴きやすいんですよね。すごく大衆的。

Karlheinz Stockhausen, Gruppen – Ensemble intercontemporain
Wataru Sato

映画音楽とか、サウンドトラック的って言われるよね。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

プレイリストに“ノマドランド”の曲、ルドヴィコ・エイナウディの「Oltermare」入れました。ルドヴィコは“最強の二人”のテーマ曲「Una Mattina」も良いですよね!

Wataru Sato

あれいいよね。日本だとポストクラシックって映画込みで流行るんだよね。映画“メッセージ”の劇中曲のマックス・リヒター「On The Nature Of Daylight」もそうだけど。映画のタイアップが決まって、来日するパターン。

Max Richter – Richter: On The Nature Of Daylight
伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

今はヨハン・ヨハンソンの監督作にして遺作になった“最後にして最初の人類”も気になってます。

ポストクラシックとポストロック、北欧のアーティストたち

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

あと私たちの世代ってポストロックが流行ったじゃないですか?そこも繋がってますよね。

Wataru Sato

その影響は大きいよね。ポストロックの人たちってオーケストラとコラボもやってたし。それこそシガー・ロスとかモグワイ聴いてたのも大きかったかな。あと日本だとMONOとか。歌がない音楽って枠で、当時ポストロックは一番聞かれてたインストじゃないかな。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

あと、わたるさんが選曲したヴィキングル・オラフソンも良いですよね。

Wataru Sato

あの人は現代最強のクラシックピアニストだと思う。来日公演も観に行ったし。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

彼のバッハやラモーのもリワークス好きです!

Wataru Sato

彼は普通にクラシック弾いてるのも好き。もともとフィリップ・グラスって現代音楽家のやつで知って。アイスランドのピアニストで非の打ち所がなくて、ちょっと人間味がないくらいうまいかも。表現力もあるし。異端児感って意味ではグレン・グールドに近いところもあるかも。速弾きピアニストなところもありつつ叙情的で。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

あ、アイスランドのピアニストで言うとEydís Evensenをリストに入れました。「Bylur」って曲のMV見て欲しいんですよね。800年ぶりの火山噴火の映像をおさえた映像が美しい。

Eydís Evensen – Bylur
Wataru Sato

アイスランドは独特だよね。コミュニティが狭いのに、あれだけミュージシャンがたくさんいるっていうのもすごい。シガー・ロスビョークとかポップスシーンを引っ張ってる人もいるし、小説家でも有名な人いるし。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

文化的に豊潤ですよね。

Wataru Sato

大変な国みたいだけどね。海外から見れば景色が綺麗って印象持たれがちだけど、暮らしは楽じゃない。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

Eydís Evensen『Bylur』のAppleMusicのデジタル・ライナーノーツで語られてたんですけど、日照時間の長い夏はすごく美しい国。でもアイスランドの冬は暗くて長いって。雪で閉ざされて身動きが取れなくなる。自然のポジティブとネガティブが両方あって。彼女は冬の閉鎖的な環境を”孤独と向き合える季節”って制作に当てるようになって、好きな季節と言えるようになったらしいんだけど。そういう強さがある、すごくメランコリックで美しい、彼女の生い立ちが反映されてる。

Wataru Sato

シガー・ロスにもやばいMVあるな。。これもアイスランドの黒い、負の部分もしっかり映してる。アイスランドのアーティストって、美しい部分だけじゃないものを音楽の中で表現してるのが良いよね。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

あと、ショパンのノクターンも入れてましたね。ロマン派が好きなんですか?

Wataru Sato

そうだね。ほら、オーラヴルも、アリス=紗良・オットさんとショパンのトリビュートをだしてたけど。ポストクラシックの人はロマン派好きじゃないかな?あ、あれリストに追加しようかな。「亡き王女のためのパヴァーヌ」

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

ラヴェル、いいですね!
あ、あとわたるさんのお師匠さんの曲も入ってましたね。

Wataru Sato

ルボミール(メルニク)はポストクラシカルと別軸だね。
実験音楽というか、ドミニマルで、スティーヴ・ライヒはブルジョワな音楽だけど、ルボミールはフォークというかストリートミュージシャン感あって、不思議な人。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

ルボミールさんにピアノを習う時って、自分から連絡したんですか?

Wataru Sato

うん、ルボミールはErased Tapesからリリースしてたから知ったんだけど、ホームページ見たらプロフィールで生徒募集してて。連絡したら「生徒は君がほぼ初めてなんだけど」って。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

オンラインレッスン?

Wataru Sato

そう。でも向こうがデジタルそんな強くないから。こっちがボイスメモで録ったやつを聞いてもらって、楽譜とか参考音源は海外便で送ってくれて。今はアクティブにレッスンやってるからいろんな人が挑戦してるみたい。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

すごい行動力ですね…
じゃあ最後に、この作品は即興的なピアノ作品集ですが、『Spaces』に込めたイメージは?

Wataru Sato

After Worldでは結構幻想的というか厭世的な世界感を軸にしていたんだけど、今回はもうちょっとプライベートな、人それぞれの“空間”みたいなものを意識した作品になってるかな。Spacesは次のフルアルバムのプロローグ的立ち位置でもあるんだけど、その次のアルバムでもっとそのテーマに踏み込んだ作品になる予定。

伊藤(diskunion / DIW Products A&R)

この『Spaces』には、次の展開があるんですよね。今、ストリングスで制作中の!こちらも楽しみにしていただきたいですね。それまで新作『Spaces』とあわせて、よかったら今回のプレイリストも聴いてみてください。

Wataru Sato/Gecko (Gecko&Tokage Parade)

nyepi / Ólafur Arnalds
Beyond Romance / Lubomyr Melnyk
Flowers Of Herself / Max Richter feat. Baltic Sea Philharmonic , Kristjan Järvi
Nocturne in C Minor, OP. 48, No.1 – F.Chopin / Ewa Pobłocka
Fantasia & Fugue in A Minor, BWV 904:1.Fantasia – JS Bach / Víkingur Ólafsson
Fantasia & Fugue in A Minor, BWV 904:2.Fugue – JS Bach / Víkingur Ólafsson
Re / Nils Frahm
Pavane pour une infante défunte – M.Ravel / Sviatoslav Richter

伊藤あきよ:diskunion / DIW Products A&R ( レーベル:Playwright / DOBEATU / 1magine Label ) セレクション

Fade Away / Niklas Paschburg
Eden / Hania Rani
Oltermare / Ludovico Einaudi
Bylur / Eydis Evensen
Overnight / Chilly Gonzales
< Wataru Sato’s Works >
stream ( midnight solitude / 2017年 )
Innocence ( Innocence / 2018年 )
Fragment 2 ( Fragments of Autumn Melancholy / 2019年 )
2018113 ( Piano Meditations / 2020年 )
Still Silence ( Feel Like April / 2020年 )
Forget Me Not , Sleeping Moon , Requiem , Feel like April in B flat minor ( After World / 2021年 )
Fading Spaces , Existence , Air ( Spaces / 2021年 )

Wataru Sato『Spaces』

リリース日:2021年07月28日
フォーマット:DIGITAL
レーベル : 1magine Label

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