2021年10月にテツコで『パーフェクト』、11月にSUPER GENTLEで『NEW』をリリース。両バンドのフロントマンであり、メインソングライターを務める玲子さんに、インタビューを敢行!2つのバンドのエピソードを通して、彼女の、尽きることを知らない創作意欲の秘密に迫ります。
写真:坂本正郁
【テツコとSUPER GENTLE編】
–まずは、バンドと玲子さんの自己紹介をお願いします。
テツコとSUPER GENTLEのギターボーカルをやっている渡邊玲子です。
テツコは1999年5月結成。私とベースの野瀬陽子とドラムの関安代の3人のバンドです。スイートなパンクということで「スイートパンクトリオ」と自称しています。
SUPER GENTLEは2019年11月結成。私とベースのベントラーカオルとキーボードの大山りょうとドラムのSZKの4人のバンドです。
簡潔に言えばロックバンドですが、ありとあらゆるジャンルの音楽のエッセンスが入り込んでいるような気がしています。
–【テツコ】バンド結成に至ったストーリーを教えてください。
中学3年生の時に京都の学校に通っていて、同じクラスの今のテツコのドラムの関安代(以下やっちゃん)とビートルズのコピーバンドをしたいねって話して軽音部に入りました。
やっちゃんとはその前から仲が良くて、マイケル・ジャクソンが2人とも好きでその話でよく盛り上がっていました。BSとかWOWOWが私の家は見られなくて、やっちゃんの家では見られたのでマイケル・ジャクソンの特番を見るために泊まりに行かせてもらったりしていました。
もう1人、同じクラスの女の子がベースで、私がギターボーカルで3ピースのバンドでした。バンド名は「フヨードルおじさん」。このバンド名は「フョードルおじさんといぬとねこ」という本からとりました。この時に同じ軽音部の別のバンドに、今のテツコのベースの野瀬陽子(以下野瀬さん)がいました。
フヨードルおじさんでビートルズのコピーを数曲やった後に、私が作った曲をやるようになりました。このバンドでのオリジナル曲は4曲しかなくて、その中の最後に作った「名曲」という曲は後に結成するテツコでもやってて今もライブでよくやっています。
フヨードルおじさんはベーシストが東京の大学に進学して、私とやっちゃんは京都の大学に進学したこともあり、高校卒業と共に解散となりました。その後も私とやっちゃんは一緒にバンドを続けたいねということで、高校の時からの顔見知りの野瀬さんに声をかけ、大学一年生になった1999年の5月に3人でテツコを結成しました。野瀬さんとはこの時点ではまだあまり交流したことがなく、顔見知り程度だったのですが、顔が好きだったのでいいなと思ったのと、なんとなく直感的に上手くいくと感じて誘いました。
–【テツコ】バンドの音楽的なルーツや、影響を受けた音楽があれば教えてください。
テツコの前にやっていたフヨードルおじさんでビートルズのコピーをやっていて、それが自分がバンドで演奏した初めての曲なので、演奏スタイルにその影響がずっと残ってると思います。初めてバンドでやるために曲を作った時はTheピーズの影響を受けていたので、それもずっと残ってると思います。それとメンバー3人とも子供の時にクラシックピアノを習っていたので、クラシック音楽的なセンスもあると思います。ストレートなロックンロールやパンクの要素と、自由に曲が展開していくクラシック音楽の要素が合わさっていると思います。
あとは1981年生まれなので、80年代の日本の歌謡曲の影響も自然にあります。その感じは今回のアルバム『パーフェクト』と前回のアルバム『愛してる』に特に出てるかなあと自分では思います。
–【SUPER GENTLE】バンド結成に至ったストーリーを教えてください。
2018年の途中から私の曲を作るペースが急激に早くなり、私が制作したいペースに比べて、テツコの3人が揃ってスタジオに入ったり、レコーディングしたり出来る頻度が足りないと感じるようになりました。一人で宅録したりもしてみたのですが、一人で音楽を作って完成させることがそこまで楽しいと思えなくて、どうしようかなあって思っていました。またその時、New Orderが急激に好きになっていて、シンセを使った音楽をやってみたいなあとも思っていました。
そんな時に、長年テツコがお世話になっているBeat Happening!というイベントをやっている水口さんから渋谷LUSHでのイベントに出演依頼を頂いたのですが、テツコのメンバーの都合が合わず、衝動的にライブハウスでたまに会う友達のSZK(以下スザクちゃん)にメールして一緒に出演してくれませんかと頼みました。スザクちゃんはdub16stepというアシッドテクノのユニットをやっていて、打ち込みのトラックを作ったり、シンセサイザーを使ったりしているので、私がギターボーカルで、スザクちゃんがトラックを作ってシンセを演奏するという形でライブが出来そうだなと思い、頼みました。
スザクちゃんとはライブハウスで10年ぐらい前に知り合って、テツコの「全壊」(アルバム「君の好きな歌」収録)という曲のリミックスをやってもらったり、テツコや私のソロライブを見に来てくれたりという交流はあったものの、そこまでじっくり話したことはなかったのですが、人相が格別にいいなと思っていたので誘いました。そんなに話したことはないけど顔が気に入って誘うというのが、テツコに野瀬さんを誘った大学生の時と変わってなかったです。
~初ライブ編~
そして初のSUPER GENTLEのライブを私とスザクちゃんでやることになったのですが、なんとなく2人より3人ぐらいメンバーがいた方が絵的にかっこいいかなあと思って、また衝動的にキイチビール&ザ・ホーリーティッツのキーボーディストの大山りょう(以下りょうくん)を誘いました。キイチビール&ザ・ホーリーティッツはテツコとディレクターが同じ渡邊文武(以下文武さん)で2016年から交流がありました。りょうくんとは個人的にはあまり話したことはなかったのですが、色々なエピソードを間接的に聞いていて、じっくり一緒に音楽のことを考えてくれそうだなと思い、誘いました。
そして初のSUPER GENTLEのライブはスザクちゃんが打ち込みトラックを作って、シンセを演奏して、私がギターボーカルという形でやり、最後の一曲だけそこにりょうくんがキーボードで参加しました。
その後、ベースもいた方がいいかなあと思い、キイチビール&ザ・ホーリーティッツのギターボーカル/コーラスのKDがベースも弾けるという事で、ベースとコーラスをやってほしいと頼んで入ってもらいました。
そのすぐ後にテツコのドラムのやっちゃんにもコーラスをやってほしいと頼んで入ってもらいました。
それと同時に、打ち込みのトラックを使って曲を作ったりライブをしたりというのが初めてなので、練習とか曲作りをどう進めていっていいのかよく分からず、難しいなあと感じ始め、スザクちゃんはShe’sというバンドのドラマーでもあるので、ドラムを叩いてもらうことになりました。
~現在の編成へ~
そして2回目のSUPER GENTLEのライブは、2020年1月に東高円寺 UFO CLUBでドラム、ベース/コーラス、ギター/ボーカル、キーボード、コーラスの編成でやりました。この5人の編成も結構よかったのですが、ライブを録音したものを聞いてみたら、やっちゃんの声と私の声が重なるとかなりテツコの雰囲気が出てくるなあと思い、2つのバンドを同時にやるなら、なるべく雰囲気が近付かないほうが良いかなあと思い、やっちゃんに話したら「確かに!」となりあっさり脱退することになりました。やっちゃんに「なんか振り回しちゃってごめんね」と言ったら、「大丈夫~!またいる時は呼んで~!」と爽やかに言ってくれました。
その後も東高円寺 UFO CLUBでライブが決まっていたり、レコーディングも残りの4人でやろうとしていたのですが、コロナで世間がザワザワし出して延期になり、しばらく活動していない状態が続きました。
その間にKDがキイチビール&ザ・ホーリーティッツの活動でいっぱいいっぱいなので、SUPER GENTLEは抜けたいということで脱退してしまいました。
そして2020年7月にKoochewsenのキーボーディストのベントラーカオル(以下カオルさん)がベースが弾けるということで、ベースをやって欲しいと頼みました。
Koochewsenもテツコとディレクターが同じ文武さんで、10年ぐらい前から交流があります。カオルさんはずっと私が尊敬してるミュージシャンで、あまり気軽に話しかけることも出来ないぐらいだったので、SUPER GENTLEに誘うということも私は全く思い付きもしなかったのですが、ディレクターの文武さんが声をかけてくれました。
そして今のメンバーのSUPER GENTLEがスタートしました。この4人での初めてのライブは東高円寺 UFO CLUBで2020年7月29日にやりました。
–【SUPER GENTLE】バンドの音楽的なルーツや、影響を受けた音楽があれば教えてください。
SUPER GENTLEを始めた時にNew OrderとかHappy MondaysとかCANみたいな音楽をやってみたいなあって思っていたので、今回の1stアルバムにはその雰囲気があると思います。ビートとベースのリフも歌と同じぐらい主役で中心にある音楽をやってみたいなあと思っていました。「Joker」「かわき」はSUPER GENTLEを始める前、まだそのモードに入る前に作っていた曲なので、この2曲は違う感じで、自分が生まれた時から今まで聴いてきた歌謡曲の影響が自然に出てる曲だと思います。
今は次のアルバムをイメージして新曲をどんどん作ってライブでやっていってますが、スティービー・ワンダーの「Talking Book」「Innervisions」の2枚のアルバムみたいに、歌謡性もあるけど、リズムも重視されていて目立っているような曲がやりたいなあって思って作ったりしてます。まだアルバムでいうと半分ぐらいの曲数しか出来ていないのでこの先どうなるかはまだ分からないです。
–テツコ/SUPER GENTLE並行しての制作だった今回。良かったことや、大変だったことはありますか?
2バンド並行しての制作は単純に楽しい時間が更に増えたなあという感覚で大変ではなかったです。
SUPER GENTLEを新たに始めて、バンドのメンバーが私の曲を「いいね」って言ってくれて一緒に演奏してくれることがとてもありがたいことだと、あらためて思うことが出来ました。
テツコのメンバーは学生の時からの友達で、長年一緒にやってきたので、そのことが自分の中で当たり前になっていましたが、とても貴重でありがたいことなんだと気付けました。
【玲子さん編】
–普段の作曲スタイルは、どのような方法で制作されているのですか?
ここ3年ぐらいよくやっているやり方は、1ヶ月ぐらい前に曲を作る予定日を決めて「○月○日にとんでもなくいい曲が出来ました!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」と声に出して宇宙に向かって呼びかけておきます。そうするとその予定日の朝に頭に必ず歌メロと歌詞が浮かんでくるので、その朝のうちに一気に曲作りを進めます。これはある本で読んだ願望を叶える方法で、最初は半信半疑でやり始めたのですが、毎回上手くいくので今ではすっかり信用して宇宙に呼びかけています。
決めていた予定日ではなくても、ふいに頭に浮かんでくることもあります。どちらにしても、まずアカペラでメロディーと歌詞をある程度固めてから、ギターかキーボードでコードを考えて、だんだん全体を固めていきます。
バンドのアレンジを一人で考えるのは苦手で出来ないので、テツコでもSUPER GENTLEでも各パートはそのメンバーに大体任せます。スタジオでみんなで合わせていくうちに自然に決まっていきます。
-両バンドともメインソングライティングを務め、常に創作意欲に燃えている印象がある玲子さん。
楽曲制作のアイディアやインスピレーションは、どのようにして得ることが多いですか?
色んな人の曲を聴いて「ああいい曲だなあ」って思うことが一番、自分の創作意欲に繋がります。
決まっているライブで新曲をやれたらいいなあって思って作ることもよくあります。その時はそのイベントやライブハウスの雰囲気に合いそうな曲を作ります。SUPER GENTLEの「赤血球」と「バカラック」は東高円寺UFO CLUBでのライブが決まった時に、あの会場の雰囲気に合う曲を作ろうと思って作った曲です。
自分のソロの弾き語りのライブが決まっていたら、弾き語りでいい感じになりそうな曲を考えたりもします。
メンバーのキャラや見た目に似合いそうな曲を考えることも多いです。
-2つのバンドの顔を務めるのに当たって気をつけていることや、モチベーションの持ち方の違いなどがあれば教えてください。
「テツコはこういうバンド」「SUPER GENTLEはこういうバンド」というふうに、それぞれのバンドのイメージを自分の中で固定しないように気をつけています。
テツコだけをやっていた時からそうなのですが、今までやってきたことにとらわれないで、新曲を作る度になるべくまっさらな気持ちでやっていったほうが楽しいかなあと思っています。2つのバンドをやっているということについてはあまり深く考えないようにしています。自分の中で2つのバンドの使い分けをしてしまうとつまらないとなんとなく思っていて、計画性なく行き当たりばったりにやっていった方が逆に直感が冴えて上手く行く気がしています。
モチベーションの持ち方はどちらのバンドでも同じで、曲を作ってバンドに持っていって、まずはメンバーに喜んでもらってバンド内で盛り上がって楽しくなって、それをお客さんに観てもらったり聴いてもらったりして喜んでもらうということがまた楽しくて、モチベーションになっています。人に喜んでもらえることが嬉しいので、自分の曲は人から好きって言われる頻度が高い順に自分も好きになってしまいます。
–それぞれのアルバムで、玲子さんが特にお気に入りの楽曲と、その理由を教えてください。
テツコ『パーフェクト』の中で一番お気に入りは「怠惰な女神」で、SUPER GENTLE『NEW』の中で一番お気に入りは「Joker」です。
理由は先の質問で答えた通りで、お客さんから好きって言われることが一番多いからです。自分にとっては全曲大事で好きなので、それでしか順番がつけられないということかもしれません。
-2バンド合わせて、計6本のMVを公開しました。
撮影時の秘話や、心に残っているエピソードがあれば教えてください。
~テツコ~
「LOVEハート」は中村ジョーさんのマンガMVです。最初に映像が送られて来た時に期待の何倍も迫力があって凄かったので感動しました。
「I Want U」はテツコの今までのMV史上一番、メンバーの素の感じを見せられたと思います。江ノ島に行って適当にぶらぶらしてる様子を友達でライブの撮影もよくしてくれているえみるさんとディレクターの文武さんに撮ってもらって私が編集しました。
「ノーコメント」は小田島等監督です。全面的にお任せして、好き放題やって下さいってお願いしたら「こんなの絶対、他の誰も思いつかないよ!!」って思うMVになりました。言葉で感想を言ったり書いたりするのが無粋な気がしてしまうほど絶妙な作品です。
~SUPER GENTLE~
「Shark」は和泉直青監督です。こちらも全面的にお任せして好き放題やって下さいとお願いしました。主演はダンサーのYukiko Swanさんで、美術は祈結師の白鳥紗也子さんです。普段なかなか関わる機会がない方々と交わることが出来てとっても面白かったです。特に「祈結師」というものがあること自体、今まで全く知らなかったのでとっても興味深いです。
「バカラック 」は山辺真美監督です。山辺さんには、テツコでも「クリームレモン」「BABY」「エロス」のMVを制作して頂いてます。
「バカラック」は先の質問の時にもお伝えした通り、東高円寺UFO CLUBをイメージして作った曲なのですが、その話を山辺さんにしてないのに打ち合わせの時に「UFO CLUBで撮影したい」と言われたのでびっくりしました。
「Joker」は加藤マニ監督です。こちらはたくさんの方々にパパラッチ役として出演して頂きました。メンバーの友達や、友達の友達や、家族や、ライブによく来てくれているお客さんなどです。
私は普段、たくさんの仲間を集めて何かやるというタイプでは全くなくて、子どもの時からいつも1人か少人数で遊んできたのでかなり新鮮な体験でした。人に何かをお願いするのも苦手なほうなのですが、マニさんが提案して下さったので出来ました。出演して下さった皆さんもSUPER GENTLEのメンバーも撮影がめちゃくちゃ楽しかったと言ってくれて、本当にありがたくて嬉しかったです。
6本とも私の意見とかアイディアはあまり出さないで、かなり人まかせにしました。普段のバンド活動も曲を使ってみんなで遊んでるようなイメージでやってるので、その輪を更に広げたという感じでした。
–各バンドの、今後の展開について教えてください。
テツコもSUPER GENTLEもはっきりとした時期はまだ分かりませんが、次のアルバムをなるべく早くリリースしたいと思っています。
この世にはたくさんのいい曲がありますが、その中でも更に目立ってしまう「名曲中の名曲」というものがあると思っていて、そういう曲を自分も作りたいと思っています。
ライブもなるべくたくさんやりたいと思っています。音楽を鳴らすということ自体に大きな意味があると思っています。人が集まって音楽で盛り上がればその場の空気が変わりますし、そこにいる人の気分も変わります。テツコとSUPER GENTLE、どちらもメンバー全員が純粋に音楽を楽しみたいという気持ちで溢れている人達なので、それを素直に表現すればその場その場で良い空気や気分が発生していくと思います。
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