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オーディオユニオンが立ち上げたレーベル“Phoridge”による、コンピレーションCD『Electronic Music for Loudspeakers』を大特集! マスタリングを担当した、Yosi Horikawaと堀部公史を交えた座談会を敢行!

「Phoridge(フォリッジ)」は、音のプロフェッショナル「オーディオユニオン」のレーベルとして2020年に設立された。レーベル名である「Phoridge」にはオーディオ業界の「今まで」と「これから」を見据えた沢山の想いが込められている。人と音楽の、音楽とオーディオの橋渡しとなることがこのレーベルの願いだという。

オーディオ・リスニングのプロフェッショナル、オーディオユニオンのスタッフが本気で選んだ、スピーカーでこそ聴いて貰いたい日本の錚々たるアーティスト達のエレクトロニックミュージックをコンパイルしたコンピレーションアルバム『Electronic Music for Loudspeakers』第二弾が、2022年2月2日に発売された。

前作に引き続きAOKI takamasaやGONNO(YOUR SONG IS GOODのリミックス作品)、HIROSHI WATANABE aka Kaito、mouse on the keysらが参加。さらにChari Chari、Kaoru Inoue、Go Hiyama、starRo、kuniyuki takahashiなど日本のシーンを支えるアーティストが勢ぞろいし、このコンピレーション作品で初フィジカル化の楽曲も含み、目が離せない内容になっている。

この度、レーベルの主催者であるオーディオユニオンのスタッフが聞き手となり、『Electronic Music for Loudspeakers』シリーズのマスタリングを担当した、Yosi Horikawaと堀部公史に、話を聞いた。

メンバー:オーディオユニオン(坂本哲平、山口真古都)、Yosi Horikawa、堀部公史
編集:三河真一朗 (OTOTSU 編集部)

目次

オーディオショップがレーベルをつくるということ

オーディオユニオン

この企画はオーディオショップがレーベルを作り、CD製作をするという少し変わったものですが、まずマスタリングとリマスタリングのオファーを受けて、お二方はいかがでしたか?

2020年10月21日に発売したPhoridgeレーベル第一弾コンピ
『Electronic Music for Loudspeakers Selected by audiounion』
Yosi Horikawa

単純にものすごく嬉しかったですね。数年前、Spotifyのヘッドホンの音質チェック用のプレイリストに僕の曲が選ばれて、それがきっかけでオーディオに興味がある人が僕の音楽をチェックに使うようになってくれている、というのをなんとなく知るようになったんですね。それって、僕としてはすごい驚きでした。その辺から良い音にしよう、スタジオを自分でしっかり作ろう、と意識するようになりました。

思い返せば最初に自分でスピーカーを買ったのがオーディオユニオンさんでした。ディスクユニオンさんで僕のCDも取り扱って貰ったりして、不思議なぐらいの気持ちもあったんですけど、とにかく光栄でした。

※ボブ・ディランやシガーロス、エルトン・ジョンなど錚々たるトップアーティストの楽曲が並ぶSongs To Test Headphone Withに「Bubbles」がリストアップされる。

オーディオユニオン

この企画のオファーに関して、堀部さんはいかがでしたか?

堀部公史

ハーマンインターナショナル※に在籍していた時、10年近くオーディオユニオンさんの営業担当をさせていただいているんですよね。その当時からディスクユニオンさん、オーディオユニオンさんと「もうちょっと一緒になにかできるといいな」っていう夢がまず一つありました。

それから、Yosiさんをはじめ今現在のアーティストさんで良い作品を作ってらっしゃる方がいっぱいいるのに、オーディオマーケットで紹介する機会が少ない、っていう悔しい思いをしていたんですよ。それもあって、今回オーディオユニオンさんの企画に、僕は激しく賛同しました。もうちょっと(オーディオ)業界全体のフィールドを広げる足がかりになるといいかな、と思いますね。

※ハーマンインターナショナル : 米国スピーカーブランドの名門JBLなどの輸入販売を手がける歴史ある商社。

オーディオとのかかわり

オーディオユニオン

ちなみに、Yosiさんは好きなオーディオブランドは何かありますか?

Yosi Horikawa

オーディオユニオンで初めて買ったのはB&W※のCDM1※だったんですね。B&Wはいまだにすごく面白いことをしていて、革新的だし、すごく理にかなった設計というか・・・好きですね。

あと、イギリスのなんというか、どことなく漂う品の良さみたいなものは常にある気がしていて、そういう音は好きなのかな、やっぱり。

※ B&W : アビーロードスタジオでも採用されているイギリスを代表するスピーカーブランド。
※ CDM1:B&Wの小型スピーカー。

オーディオユニオン

イギリス製品の「品の良さ」っていうのはすごく理解できますね。

Yosi Horikawa

自分でも手の届く範囲で買ってみよう、というのが最初にあったのが、大学一年かな。バイトして、しっかり聴けるものを買おう、と思ったのは。

オーディオユニオン

それが、B&Wだったんですね。

Yosi Horikawa

でした。それとDENONのPMA-2000※のシリーズ。

※ PMA-2000シリーズ:日本のオーディオブランドDENONのプリメインアンプ。

オーディオユニオン

結構いいやつを最初にもう買われたんですね。

Yosi Horikawa

そうですね。DENONのあのどっしりした音も好きでしたし、B&WとDENONのセットは本当に長いこと使いました。

オーディオユニオン

ありがとうございます。

堀部さんはオーディオとの出会いはどんなものでしたか?業界長いので・・・あえて伺いますが、好きなオーディオブランドなどありますか?

堀部公史

個人としてはイギリスのHarbeth※ というスピーカーを買ってるんですよ。あとはDynaudio※ の古いのをモニターとして使っているんですけど。

もちろん僕の癖として好き嫌いはあるんですが、井筒香奈江さんという歌手のプロデュースをやっていた時に学んだんですけど、例えばB&Wだったらこういう音源掛けるとこういう音がするだろう、とか。なんとなく予想がつくので、仕事としては好き嫌いというよりも、このスピーカーだったらこういう風になるんじゃないかっていうことで、リマスターの仕事はしていますね。

(オーディオ機器は)仕事道具なんで、逆に趣味で何が好きなの?と言われると「えっっとなんだっけ・・・」みたいなことになっちゃう感じ(笑)そういう意味では、使いやすいっていうことでHarbethが鉄板で、モニターするにはHarbethとSTAX※ でやる、というような感じになっています。

※ Harbeth : BBCモニターの元技術者が1977年に立ち上げたイギリスのスピーカーブランド。
※ Dynaudio:1977年に創業したデンマークのスピーカーブランド。
※ STAX:1938年創業の日本の静電型ヘッドホンメーカー。

使用機材について

オーディオユニオン

制作機材の話題がでましたが、今回マスタリングとリマスタリングをしていただいた制作環境、ソフトなど、どんなモニター環境で作業されたのか、その辺も少しお聞きできますでしょうか?

Yosi Horikawa

処理自体は全部ソフトでやりました。この仕事は何回も話し合いながら進めていく方が良いものになりそう、ということもあったので。ハードを通すと後に戻せないというのもあります。

ハード的に言うと、まずクロック、Antelope AudioのOCX HD、これに半自作のルビジウム10MHz発振器。これをMeric Halo ULN-8というオーディオインターフェイスにいれています。

あと半分ソフトですけど、Dirac LiveといってルームEQもして位相の歪を直してくれるソフトがあるんですが、それもモニターする時に挟んでいます。

それからスピーカーはどちらも自作で、二系統あるんですけど、まずはB&Wに触発されて作ったトールボーイ。SEASの同軸ユニットとサブウーファー2発を使ってます。

Yosi Horikawa氏の自作スピーカー群
Yosi Horikawa氏のスタジオ
オーディオユニオン

B&WのNautilus802に、似ていますよね。

Yosi Horikawa

もろに影響をうけました(笑)このスピーカーは、LAB gruppenのDシリーズというアンプで鳴らしています。
それからもうひとつがPurifiの最新のウーファーとBliesmaのベリリウムのツィーターを使ったスピーカー。

オーディオユニオン

いいですね、オーディオ的な感覚だと、ベリリウムのツィーターが乗っているスピーカーは腰があって良い音がする、というイメージがあります。

Yosi Horikawa

ベリリウム良いですよね。これまでマグネシウムとかアルミの合金とか、その辺はよく聴いていたんですけど、ベリリウムの芯がしっかり出るという感じは初めてで、今はこっちばっかり使っています。このスピーカーはPurifi 1ET400Aを使った4チャンネルアンプで鳴らしています。

B&Wに影響を受けたというトールボーイスピーカー(右)とベリリウムツィーターを用いたスピーカー(左)。
オーディオユニオン

堀部さんは基本的にソフトだけだと思いますが、モニター環境はいかがですか?

堀部公史

リマスターの作業としては、完全にプラグイン的なソフトとしてやっています。倍音生成が主ですが、かなり人力で作業しています。波形を見ながらどこをどういじって、どうしよう、というのを最終的に自分の耳で決めているんですけど、もうずいぶん前にディスコンティニュードになってしまったヘッドホンAKG※のK501、これじゃないと最初のモニターができなくて、他のヘッドホンだとわかんなくなっちゃうんですね。

これを使ってソフトウェアで作ったもの、出来上がったものを確認作業という意味でHarbethのHL-P3ESRと80年代のDynaudio Special 1で聴きます。アンプはBJ ELECTRICの社長 石河さんの設計されたアンプを使っています。とても良い、すごく「普通」な音を出してくれるアンプですね。

この自分の環境で聴くのとは別に、DynaudioとカナダのオーディオメーカーMoonの現行品を使って、大きなスピーカーで大きな音でモニタリングします。

プロがプロオーディオの機材を使って制作した音源を、リスナー側の位置から、普通に手に入る民生機で聴いたらどうなるか、という立場をぶれずにリマスターする、というふうにやっています。

※AKG : 1947年にオーストリア・ウィーンで設立されたプロ用音響機器メーカー。

オーディオユニオン

ありがとうございます。

Yosi Horikawa

オーディオユニオンの皆さんは試聴室でB&Wでもモニターされたそうですね。D4※ でしょ?すごいよなぁ・・・。

オーディオユニオン

そうですね。出たばかりの804D4や805D4でモニターしました。D4ってユニット間の音のつながりが凄く良いんですよね。前作のD3からすごく進化しています。つながりの良さと音の広がり、音が空間に浸透してくるような感じに圧倒されます。

804D4はコンパクトなトールボーイ、805D4はブックシェルフタイプなんですが、それでも相当な空間の支配力があります。以前D&M※ さんの試聴室で801D4を聴きましたが、それは本当に・・ただすごいな・・・という感じでした。

※ B&Wのフラッグシップ800D4シリーズ : 最もコンパクトな805D4から最も大きな801D4まで、その他センタースピーカーやサブウーファーもラインナップされている。
※ D&M : 国内ブランドDENON, marantzの製造販売をはじめ、B&W, DALIなど海外ブランドの輸入販売も手掛ける商社。

Yosi Horikawa

すごいなぁ、まだ聴けてないんですよね。聴きたいなぁ。

マスタリングの難しさ

オーディオユニオン

それでは、実際マスタリングをされて、苦労された点などはありますか?Yosiさんはご自身の曲も収録されているわけですが。いかがでしょうか?

2022年02月02日に発売したPhoridgeレーベル第二弾コンピ
『Electronic Music for Loudspeakers Vol.2 Selected by audiounion』
Yosi Horikawa

そうですね、既に選ばれた時点でやっぱり音の良い曲は多い、と思いました。なので、元の良さをどうやって殺さずに、通して聴いた時にうまく流れるように、引っ掛かりが無いように、できる限りいらないことをしない、っていうのを考えました。

全部揃えようとすればするほど、元の曲を悪くしちゃう気がしていて。結構そこばっかり悩みますね。

例えばこの中で言うと、starRoさんの曲はやっぱりちょっと作り方が違う感じがしますね。やっぱりアメリカで長く活躍されていたから、アメリカっぽい低音の出し方ですね。そういうクラブっぽいかっこよさっていうのを、あえて他の曲に合わせる必要はないし、結局あんまりいじってません。

結構全部の曲が雰囲気が違って音圧も違うけど、これをどう揃えるかって、好みとかセンスが出ちゃうと思うんで、これはほんと悩ましいんですよね。

でも人の曲を触らせてもらうっていうのは、すっごい勉強になりますよね、毎回。普通のリスニングとはまた違うところまで踏み込んで、それもただ聴くだけじゃなくて触っちゃうっていうのは、普通はあり得ないですから、それはすごく良い機会をもらったなって思いますね。

オーディオユニオン

Kuniyuki Takahashiさんは、ご自身でマスタリングされてますし、マスタリングエンジニアとしてもすごく有名な方でいらっしゃいます。

Yosi Horikawa

そうなんですよ!僕が(今回のコンピで)「Kuniyukiさんの曲をマスタリングしている」って言ったら、みんなすごい驚いてますね。「えぇっ!」とか言って(笑)

オーディオユニオン

Yosiさんにもうひとつお聞きしたいんですが、トラックダウン・データとマスタリングされたデータが結構違う、要するにマスタリングで色付けしているというパターンも、世の中には結構ありますよね。

Yosi Horikawa

マスタリングに何を期待されるかっていうことなんですけど、できればご自身が作られた、ミックスが終わった段階がベストの状態であって欲しいのは、そうなんです。

そういう意味では、Eilex HD Remaster、これ、すごくいいなと思ってるんですけど、やっていることが明快というか。倍音が乗るっていう部分、たぶん2倍とか4倍が乗っているんじゃないかと思うんですけど、効果がはっきりわかるし、頼んだ時点でどういう音になるっていうのが期待できます。しかもあまりデメリットを感じないんですよね。僕、もしプラグインがあるならめっちゃ欲しいんですよね(笑)

堀部公史

Eilex HD Remasterって、ほんとプラグインがあったら欲しい、ってあちこちから言われます(笑)

Yosi Horikawa

ああ、やっぱり(笑)

堀部公史

ダメ―、って言って出さない(笑)

Eilex HD Remasterとは

オーディオユニオン

そもそもEilex HD Remasterってどんなものなんでしょうか?あわせて堀部さんの作業で苦労された点なんかもあれば、お願いします。

堀部公史

何をやっているかというと、さっきもお話したんですが、やっぱり「倍音生成」なんですよ。

そもそもの倍音生成って、例えば人間の声とかアコースティックな楽器とか、通常のレコーディングの段階で、現場では本当はこういう倍音が出てるのに、マイクがその特性上拾いきれない、というところ。その部分を「きっとこうであったろう」という想像力をもって元に戻してあげる、という認識でいます。

次に、苦労した点ですが、クラシックだったり、アコースティックな楽器だったり、人間の声だったり、それらの自然界にある音に対しての倍音生成というのは基の音が崩れることってないんですよね。ところがエレクトロニック・ミュージックは少し違う。そもそも倍音というものがこの自然界にない音に対して、どういう解釈で挑めばいいのかなっていうところで、結構悩みました。

一番苦労した曲が、最後のChari Chariさんの曲。例えばガットギターのピエゾで拾っている音。「プップッ」という感じのアタックの音が、処理を加えると「チッチッ」とか「ピッピッ」になってしまったり、出てくる音が変わってしまうということ。それと3曲目のAOKIさんの曲。「チチチ」という音が「チェチェチェ」に変わってしまう、という事態が発生するんですね。

そもそも基音に対する倍音という考え方が、人工的に作った音は自然界の音と違うんだな、というところに直面しました。

あとはYosiさんの曲で、ページをぺらっとめくった時に流れる空気みたいなものが、より出てくれると、いわゆるハイレゾリマスターということの意味が出てくるのかなと。最後に鉛筆をコロンコロンとおくところの立体感、鮮明さが出てくると、リスナーの皆さんもわかりやすいかな、というのを意識しました。

少し影濃くしてみました、とか、立体的にしてみましたとか、ある意味音楽的ですが、ちょっと離れた視点でリマスタリングしている、というのが僕の作業になるかもしれません。

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