全国に先駆けて独自の発展を遂げる宇都宮シーンの中核を担うバンド、Someday’s Goneのニューアルバム『INDIE MANNERS COLLECTIVE』が凄いことになっている。90’sエモやパンク、ミクスチャーやシティポップ、ヒップホップからインディーポップまでを縦横無尽に散りばめた楽曲に、メンバーがリスペクトする豪華プロデューサー陣を配した最強の全20曲。彼らはいかにしてこのマスターピースをものにしたのか? 西谷隼(Someday’s Gone)、ヒダカトオル(THE STARBEMS)、TGMX(FRONTIER BACKYARD)、渡邊忍(ASPARAGUS、ex. CAPTAIN HEDGE HOG)によるスペシャル対談で、その内幕を探ってみよう。
インタビュー・テキスト : 宮本英夫 撮影:工藤成永 編集:上野雅浩(OTOTSU 編集担当)

いま何歳だっけ?



30です。



30前後って、俺の印象としてはバンドっぽいものをあまり聴かない世代という感じなんだよね。ヒップホップも聴くし、ボカロっぽい打ち込みにも抵抗ないとか、30から下の世代にはそういう印象がある。
―実際、どうなんですか。西谷さんのルーツというと。



ルーツはJIMMY EAT WORLD、The Get Up Kidsとかですね。宇都宮という街が、そういう音楽がすごい好きなんです。BEAT CRUSADERSの『P.O.A.』も、中学生の時に買いました。



宇都宮は特殊なエリアだよね。HELLO DOLLY(ライブハウス)チームが、そういうのをずーっと好きでやってるみたいな感じ。タガミ(TGMX)くんたちの影響を受けた連中がちょっと残りながら、バンド文化を、それこそCALENDARSとかの影響で、Someday’s Goneとか、Lucie,Tooとか、ほかのエリアではあまり見ない密集度というか、「こんなにまだバンドが盛んなんだ」って。



確かに、宇都宮はバンドが多いです。同じ遊び場に集まってるイメージですね。



面白かったのが、俺がプロデュースした曲に、ガヤ(声の効果音)を入れるって言って、CHUCK TAYLORSとか、ライブ終わりのバンドマンが20人ぐらい来たよね。



みんなで同じブースに入って、シンガロングして。



で、コーラスに参加したバンド達の音を聴くと皆それぞれ全然違ってて。それがうらやましいなと思った。ジャンルとか関係ないんだよね。



僕も栃木出身だけど、(Someday’s Goneは)ずっと知ってる後輩じゃないんですよ。でも話してみたら、僕の知り合いのバンドが好きで、ビークル(BEAT CRUSADERS)が大好きで、ASPARAGUSが大好きでっていうことで、だんだん繋がってきた。



Niw! Recordsに入ってからですね。タガミさんのように、好きな先輩とお話ができるようになったのは。


―今回、尊敬する先輩に1曲ずつプロデュースを頼むという企画は、そもそもどんなきっかけで?



バンドって自分らだけで物事を完結させがちですけど、ヒップホップはいろんな人とやるじゃないですか。ああいうのをバンドでやるとどうなるんだろう?というイメージはありました。もともとFed MUSICの(久樂)陸さんに、シングルのプロデュースとミックス、マスタリングをずっとやってもらってたこともあって、楽曲の自分らで詰め切らない部分が良くなるってすごい思ってたんで。いろんな人とやったらどうなるんだろう?と思って、頭に浮かんだ順番に上から声をかけていったら、全部決まっちゃいました。



しかも、えらいのは、プロデュース料は自腹なんですよ。



自腹です!



そんなのいないでしょ。普通はレーベルに頼んで、予算的に無理だってなったらあきらめるんだけど。



このメンツ、人数はなかなか頼めないですよ。



だから、相当ディスカウントしましたよ(笑)。



ありがとうございます!みんなサラリーマンでしっかり働いてるので、そのお金を切り崩して。



いちばん正しいやり方じゃないですかね。妥協してない。お金が理由だったら、自分で払うからいいよって、インディーとしていちばん正しいというか。レーベルに潤沢に予算があるわけじゃないって、わかってやってるから。



90年代式インディーっぽい感じだね。



もともと「INDIE MANNERS COLLECTIVE」というイベントを始めたのがきっかけで、このタイトルになったんですけど。ずっと宇都宮に住んでると、居酒屋さんや服屋さんと仲良くなったり、いろんなハブができて、自分らの音楽を通してそれを繋いでいく、みたいな活動ができたらいいなと思っていて。それをCDにするならこういう形になるのかな?という思いもあったりして。



EZ DO MARKETっていう服屋兼飲み屋があって、すごいオシャレなんですよ。REC中のケータリングもそこに買いに行って、服屋なんだけど、真ん中にテーブルがあって中で飲んでいいよって。面白いでしょ?





というか、ヒダカくん、宇都宮行ったんすか?



行きましたよ。



ヤバいね。俺はもう「おまえらが来い」って。僕がよく使わせてもらっているスタジオ、エンジニアなら作業が予想出来るなと思ったので。



そこの予算、大丈夫だったの?東京と宇都宮じゃ、スタジオ代も違うから。



それもタガミさん経由で、お願いしていただいて。



ディスカウントしてもらったんだ。



してくれたと思います。今回、自分らでHELLO DOLLYで録った曲も、HELLO DOLLYの久保(店長)さんにレコーディング代をディスカウントしてもらって、全部やっていただきました。



タイトルを『DISCOUNT』にすればよかった(笑)。みんなに頭上がんないね。



上がんないっす。



売れないとヤバイね(笑)。



みんなのディスカウントが乗ってるからね(笑)。


―曲とプロデューサーのマッチングは、どんなふうに考えていったんですか。



作ってる時点で「この曲だとこの人に合いそうかな」というものを、2曲ずつぐらい投げたりしました。



「INDIE MANNERS COLLECTIVE」って、俺が書きそうな曲だもんね。



ヒダカくんのやつ、「ビークルじゃん、これ」と思った。



あはは。やった!



だから、めちゃめちゃビークルっぽくしましたよ(笑)。音決めに相当時間かけたもん。ちょっとインディーっぽくしたけどね、メジャーのビークルよりは。
―TGMXさんの曲「All The Small Things」は?



タガミさんの曲は、カッチリしたバンドサウンドに打ち込みも載せてる、みたいな楽曲だったんですけど、オケを全取っ換えされました。



だいたいいつもそうなんだけど、まずは100%TGMXでやらせてもらうんですよ。「良ければ使ってください、ここからマイナス、修正していってください」というやり方です。存在感ないプロデュースはあんまり誘ってもらった意味がないのかなって思うので、ある程度は自分の手垢を残したいし、誘ってくれた理由はたぶんそこだと思うから。でも話をしているうちに、彼は最近の音楽もよく聴いていて、話が合うところもあったんで、じゃあこの曲はそっちで行こうと。話を結構しましたね。



あえてバンドっぽくなさを出してる。



すごい反応良かったです。そもそも俺らがこんな曲できると思ってる人がいないんで。



アレンジをこうしたらいいんじゃね?という時に、リファレンス(参考音源)をくれたアーティストって誰だっけ。



Twenty One Pilotsとか、あのへんですね。



そうそう。あと、The 1975とか。僕がやりそうなラインだなって。



バンドだけどそんなにバンドっぽくない。弦楽器の音圧がわりと薄い。The 1975の新曲、めっちゃ薄いもんね。Twenty One Pilotsも、ギターがほぼ聴こえない。



聴こえないっすね。



お二人は(ヒダカ&渡邊)はギターチームだと思ったから、僕はそうじゃないやつをやった方がいいかなっていう感じ。



そこらへんは、今のバンドキッズの悩みどころでもあるんだろうなと思ってて。あんまりラウドにギターを歪ませちゃうと、うるさいと感じちゃうし。自分もたまにあるから。ヒップホップ寄りでロックっぽいことをやってる子たちも最近増えてきて、そういう子たちはトラップとかを聴いて、XXXテンタシオンとかを聴いてるから、ギターがそんなに歪んでなくて、ジャングリーな感じで、そのバランス感を生でやるのは実は難しい。



特に日本だとね。
―あ、遅れていた忍さん、来ましたね。



どうもどうも。お待たせしました。
―西谷さんから見て、どんなプロデューサーだったんですか。「Eighteen」を録った時の忍さんのやり方は。



忍さんのスタジオで録らせてもらったんですけど、個人的に、あんなに限界までテイクを録ったのは初めてです。録れるまで録ろうというレコーディングを、今までやったことがなかったので、それを初めて経験しました。それまで、(録ったあとに)直されるのが当たり前だったんで。



今は経費とか時間の問題とかで、なるべく早く済ませて、エディットして、結果が良ければいいじゃんという感じじゃない?それは全然いいんだけど、ただ僕がやってるASPARAGUSとかは、人力が好きで、しつこくやるのが好きなんで。



気合で決めそうだよね。特にドラマーが(笑)。



それに慣れてるのと、あと今回の音源を聴いた時に、最初は生っぽさプラス打ち込みみたいなアレンジが入ってて、それを生っぽい方向にシフトしようってなった時に、だったらなるべく人力で、揺れとかあいまいな部分もOKにしたほうがいいんじゃないか?と。直すときれいになるんだけど、「らしさ」みたいなものが出にくくなるから。今は直すほうが主流だっていうから、じゃあ俺の時はちょっと頑張ってやってみない?みたいな感じ。



何テイクぐらい録ったの?二桁は行ってる?



全然行ってる。



歌は100回ぐらい歌った気がします。



それはすごいな。



僕、自分のレコーディングでも100回ぐらい歌うから。歌ったあとにテイクを選ぶ時に、ひとつの言葉を替えたり、そういうこともやるし、どっちのやり方も持ってるけど、今回はこういうやり方のほうが本人たちも自信がつくかな?と思ったんで。「もう辛いです」ってなったらやめようと思ってたけど、でもけっこう楽しんでやってくれたから。



すごい楽しかったです。



タガミくんは、どういうやり方をしたの?



俺はメールでやりとりをたっぷりしてからスタジオにデータ流し込みですよ。



データのやり取りで?



最終的にはスタジオで調整はやったけど。



二人とも関東に来させてる。宇都宮に行ったのは俺だけ?



ダカさんがいちばん熱意あるよ。それにしても、アルバムのボリューム、すごいよね。しかもちゃんと工夫を凝らしてて、飽きさせないようにしてる。



俺はさておき、ヒダカくんと、忍と、TA-1(KONCOS、LEARNERS)とか、これだけの人をよく集めるよなって思った。



TA-1はどの曲をやったの?



6曲目の「Yellow」と、最後の「Bender」という曲です。



ああやっぱり。この2曲、Niw!っぽいなと思って聴いてた。



TA-1のやつ、渋谷系っぽいね。そっちに寄ったなと思った。



いいってことですか?



いい。曲の幅がすげぇなと思った。こういうのも有りじゃない?コード進行が鍵盤的な、TA-1の色が出てる。



いいよね。あと、違う曲(10曲目「Bubble」)の、女の子の声は誰?



あれは地元の友達です。



あれもすごい良かった。あと、ラップやってる人は?



あれも友達です。「27Club」でラップやってもらいました。ラッパーで、バンドやってる子で。



それも面白かったね。西やんは器用な男だから、器用さがすごく出てるし、イントロの入り方もちゃんと考えて、物語っぽく作ってから入って行くとか。しっかりアルバムとして作ってるんだなってすごく思った。



たしかに俺がプロデュースした1曲目とか、頭にSEっぽいのが入ってて。たぶん普通にえらいプロデューサーさんだったら、「これ取れ」って言うよ(笑)。



あれはNo Use for a Nameのパクリです。「Biggest Lie」という曲が蓄音機の音から始まるんで、それを自分のアルバムでもやりたくて、無理やりぶちこみました。



いいね、そういうストーリー。



そういう青さは、ちゃんとそのまま残してあげたい。俺もインディーズの頃、ジャケットに自分で英語の文字を書きたいとか、今考えるとなんでそんなこと言ったのかわかんないんだけど、結果やって良かったなと今すごい思うし。



こだわりですよ。



そういうの、あとで振り返ると楽しいからね。これは絶対生かしてあげたいなと。



サブスク時代を、いい意味で無視してる感じもいいじゃないですか。サブスクだと、あそこを待てない人もいるから。でもそういうことを気にしないで、自分たちの作品として全部入れてるなというのが、素晴らしいなと思った。あと7曲目の「2000」のイントロのオマージュ感も、懐かしくて良かった。1曲目から5曲目までの間は、激しい感じというか、マシン・ガン・ケリーじゃないけど、そういうニュアンスもあって、6曲目「Yellow」以降は新しいチャレンジもあって。前も話したけど、バンアパ好きでしょ?



好きです。



好きな感じがメロディに出てるんだよね。特に6曲目以降に。それがスッと入ってくる、それもいいなと思った。俺が言うのもえらそうだけど、アルバム通して、いいよね。飽きさせない気持ちがすごく出てる。



逆に言うと、西谷ならではのメロディ癖みたいなものが、あんまりないと言えばないから。あるんだろうけど。



ああー。なるほど。



俺とかシノッピ(渡邊忍)とかタガミくんは、もうわかるじゃん。「この人の曲だな」っていう感じが、意識しなくても出ちゃう。



節(ぶし)ってやつね。言われてうれしいかどうかは別として。



曲を発注される相手によっては、それを入れてほしいんだろうなって、わざと強めに入れちゃう時もあるし。そこで「西谷と言えば」みたいなところを、今後どういうふうに出して行けるか。メロディとかコード感とか、歌い方でもいいかもしれないし、何かしら自分印みたいなところがあればとは思う。



ああー。そうかー。



さっきも話したけど、すごい器用だから、何でも吸収ができる。好きなものがちゃんと出せるというのが得意な部分でもあるだろうし、ヒダカさんが言ったように、おのれ節みたいなものも、これからもっといろんな音楽を聴いて、もっと好きなものが増えれば、それがミックスされて出てくるのかなと思ってるけど。





あと、英語詞もちゃんと翻訳を頼んでるんでしょ?元OCEANLANEの…。



はい。ハジメ(Hajime Takei/The Coastguards)さんに頼んだ曲もあります。



「INDIE MANNERS COLLECTIVE」の歌詞も、すごくいいんですよ。確かに自分でも歌いそうな歌詞でもあるなと思ったし、「絶対やめません、絶対あきらめません」みたいなことを、宇都宮でちゃんと叫びたいんだなっていうのがすごい伝わるから。おのれの住んでる街でこれを歌わなきゃいけない使命感みたいなものを、ちゃんと英語の文法としても合っていて、海外の人が聴いてもいいようにしてるのはすごいなと思った。これも自腹なんでしょ?



自腹です(笑)。



CDプレスと流通はレーベルで、プロデュース代とかは自分たちでまかなう。最初にも言ったけど、インディーとして正しいやり方だよね。



サウンドも、古いものと新しいものがあって、やり方も、古いものと新しいものとどっちもあって。30歳でこの感じは、新しいなと思う。俺たちだったら、どっちかしかできなかったと思う。



時代背景もあるのかなと思うよね。今の時代、レーベルがそこまで経費をかけられない時に、自分たちはどうするか?を考えて行動したところに、すごく時代を感じるというか。



リスナーでさえ、そこに気づいている人は多いからね。



それで応援したくなる人もいるだろうし、かといって、完全におのれだけでやるとなったら、こんな取材もなかっただろうし。レーベルの力と、自分たちで行動する部分と、どっちもあって、今の時代にマッチしてるのかなと思いましたね。



ありがとうございます。
―そして、CDが出たらリリースライブ。なんと、今日のメンバーが全員出演するライブが決まりました。西谷さん、発表してください。



10月15日にリリースイベントをやります。「INDIE MANNERS COLLECTIVE」という、宇都宮のライブハウスを使ったサーキットイベントで、お三方にも出ていただきます。僕ら、この街をどうしていくか?というところに焦点を当ててるので、文化として俺らの活動が街に残っていけば、もしも俺らが活動できなくなっちゃっても、残って行くであろうという気持ちも込めて、やっていけたらなと思います。



えらいよね。俺は千葉を出ちゃってるし(笑)。横浜もバンド数はあるけど、こんなに縦と横が繋がっていかないでしょ?



そうだね。



栃木も、俺らの時代にはあまりなかったんだよね。バンドが少なかったというのもあるけど、CALENDARS以降だと思う。



うらやましいよね、宇都宮は。移住しろって言われたら嫌だけど(笑)。



やめたほうがいいって言いますよ(笑)。



ええー、そんなぁ…(笑)。


INDIE MANNERS COLLECTIVE
Someday’s Gone
2022.07.20 RELEASE
Niw! Records
- INDIE MANNERS COLLECTIVE
- Eighteen
- In Bloom
- Authentic
- All The Small Things
- Yellow
- 2000
- Interlude: moss
- Wasted on you.
- Bubble
- Slowdown
- 27Club (feat. AKI GOTO)
- Third time’s the charm.
- Don’t Let Go
- Falling Apart
- Sleepwalking
- Spacewalking
- Letmego
- Masterpiece
- Bender


2022.10.15(sat)
Someday’s Gone pre. 宇都宮2会場サーキット
“INDIE MANNERS COLLECTIVE”
会場:
●HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2
●HEAVEN’S ROCK宇都宮2/3(VJ-4)
OPEN / START:TBA / TBA

