こだま和文とエクペリメンタル・ダブ・ユニット・Undefinedの共作『2Years / 2Years in Silence』が9月21日にリリースされた。本作の大きな特徴はUndefinedによって極限までそぎ落とされたリディム(トラック)。ダブを独自に追求した結果、Undefinedはワッキーズとも、そしてリズム&サウンドとも関わりの深い、こだま和文にたどり着いた。そして世代が違う両者は、パンデミック、そして混沌とした世界を叙景したかのような音を紡ぎ出した。こだま和文とUndefinedのサハラにアルバムについて話してもらった。
インタビュー・構成:宮崎 敬太
写真:西村 満
取材協力:立川A.A COMPANY
編集:三河 真一朗(OTOTSU 編集担当)
余計なものが入り込んでない。選び抜かれた音
—— こだま和文さんとUndefinedとの共演はどういった流れで実現したんですか?
サハラ:きっかけは2018年にリリースした『New Culture Days』の10インチですね。オオクマ(Dr.)とのセッションからあのリディムが生まれました。もともとUndefinedはわかりやすく言えばリズム&サウンド以降の音を生演奏で表現したいというのがあって。それを消化した上で良いものができたと思ったんです。
—— Undefinedが運営しているレーベル『New Dub Hall』のサイトに掲載されたインタビュー(http://www.newdubhall.com/interview/kazufumikodama/)で、サハラさんは「これがもはや正しい音楽なのかとか、それすらよくわからなかったんです。これにアプローチできるのは、こだまさんしかいないんじゃないかなって」とおっしゃってました。
こだま:デモを聴いて、自分に求められていることがすぐわかりました。どんなデモでも、聴けばかなりのことがわかります。「New Culture Days」は余計なものが入り込んでない。選び抜かれた音だけ。
サハラ:あの曲はユニゾンしない音がテーマで。僕らの中で、どちらかの音が鳴っていれば、どちらかは鳴ってなくてもいいという感覚がありました。
—— それをリズム&サウンド以降の感覚で突き詰めた、と。
サハラ:はい。そうしたら極端に音が減っていったんです。
こだま:デモとは言っても僕のところに送られてきた音源は、ほぼ完成版だったんです。すでに曲として成立していて。僕はすぐ「ダブだ」と思いました。ここに僕が吹けばいいんだな、と。あとね、音源だけでなく、サハラくんたちは最初からすべてしっかりしてたんですよ。
—— というと?
こだま:基本条件です。たまに熱い思いをしたためた長文メールのオファーをもらうんですが、肝心の条件面の話がなかったりするんです。それだとこちらも取りかかれない。最初からしっかりと事務的なことも提示してくれていたから、「New Culture Days」の後も2曲、3曲と続けていけました。
—— アルバムの制作はどのように進行したんですか?
サハラ:僕らがほぼ完成形のレベルまで仕上げたデモをお送りして、こだまさんに録音していただく、というシンプルなやりとりでした。
こだま:送られてくる曲はいつも新鮮なんだけど、Undefinedには一貫してベーシックなものがある。(描いている)画が近いからか、毎回すごく取り組みやすかったです。ちょっと話が逸れますけど、僕、料理が好きで。ご馳走ではなく、日々の飯。でも例えば、肉、魚、野菜みたいに素材が何種類もあると何を作るか困ってしまう。何を省いて、何を優先して食べていこうか。自分がどれを食べたいか考えてしまいます。“作る”という意味では、僕にとって音楽も同じ。Undefinedのリディムをぼくの料理に例えるのは失礼かもしれないけど。
—— それほど、Undefinedのリディムは一貫していた。
こだま:はい。それが良かったんです。
サハラ:『New Culture Days』を作ってる時、演奏を止めれば、当然音がなくなる。ただその時にギターアンプからノイズが鳴ったり、低音の振動でハウリングがあったりして。でもそれも含めて(音楽として)成立するなと思ったんです。
こだま:僕が気分良く演奏するための音がある。そこが重要だったんです。感触みたいなことが共有できていた、ということですよね。
—— 本作『2Years / 2Years in Silence』はオリジナルとアンビエント・バージョンが4曲ずつ収録されていますが、このアイデアはどのように生まれたんですか?
サハラ:当初はオリジナルとダブが交互に収録されるショーケース・スタイルがいいなと漠然と思ってたんですよ。こだまさんがワッキーズのロイド・バーンズと作った『Requiem DUB』はもちろん、当時のインタビューでこだまさんが取り上げられてたホレス・アンディの『Dance Hall Style』とか、ジュニア・デラヘイとか、ワッキーズから80年代に出てた作品が僕も大好きなので。
—— 『New Culture Days』の10インチにはダブバージョンも収録されてますもんね。
サハラ:そうなんです。制作を進める中で紆余曲折があって、オリジナルとアンビエントを収録した今のアルバムの形に落ち着いたのは最後のほうでした。
—— なぜこの形になったんでしょうか?
サハラ:何個かポイントはあったんですが、本作には収録されていませんが、タイトル曲「2 Years」のダブをこだまさんにお送りした時、「個人的な意見だけど、トランペットが入ってないほうが好きだ」と返信をいただいたことが大きかったです。トランペットを無くす。ひとつの突き詰められた形だと思いました。じゃあ逆の発想でこだまさんの音を中心として、ドラムとベースを排除してもいいんじゃないか、と思いました。こだまさんとはメールベースでやりとりをしていたんですが、重要な局面だと思ったので直接お会いすることにしました。4曲のアンビエントのダイジェストを制作して事前にお送りして。
こだま:4曲作っていくなかで僕らが共通して求めてるものはどこか静けさみたいなものだなと思ったんです。だからサハラくんが提示してくれたアンビエントがダブと無理なくつながりましたね。
「2 Years」はコロナ禍で僕の中で起きたこと
—— アルバムタイトル『2Years / 2Years in Silence』にはどのような意味があるんですか?
こだま:「2 Years」はコロナ禍で僕の中で起きたことを意味します。今回の4曲は僕の中ではほぼコロナ禍と同時に進行していったんです。僕は急かされるのがすごく苦手なんです。でもコロナ禍ということもあり、この4曲にはゆったり取り組むことができました。とはいえ、僕も体調を崩してしまい、ダブステーション バンドの活動も非常に厳しい状況を強いられてた。そんな中でUndefinedからポツポツと音源が届く。共同でものを作る感覚を得られた。そんな喜びの気持ちを込めました。
サハラ:メールでタイトルをいただいた時、それまでの制作過程や、この2年間のことを自然と想いました。今回の1~4曲目は曲が完成した順番なんです。「2 Years」というタイトルをいただいて、オリジナルはこの流れで聴いてほしいという気持ちが強くなったのも、ショーケーススタイルをやめた理由のひとつですね。
こだま:同時に、この2年は世界的にきびしいことが続きましたね。先の見えない歴史的な感染症。ロシアのウクライナ侵攻。もちろんそれ以前にも中東やアフリカなど世界各地で戦争状態はありましたが。加えて自分も体調を崩して、年齢も重ねていく。それらがコロナ禍とともに来てしまった。「2 Years」というタイトルには「人は今、きびしい状況を生きている」という思いも反映しています。
—— そういう意味では、今作ではこだまさんのトランペットの生々しさ、インパクトの強さも印象に残りました。
サハラ:僕はこだまさんの音に無駄な装飾はしたくない想いがありました。そこもアンビエントに向かった一因なんです。ミックス・マスタリングを担当してくれたE-Muraさんにも「こだまさんのトランペットの音はそのままでありたい」と伝えました。マスタリングで最初に上がってきた音源はもう少し音量が突っ込まれてたんですね。そうなるとピークでこだまさんの音に影響がある。今回の音源に関しては全体の音量を少し下げてでも、こだまさんが出したそのままの音を収録したかったんです。
—— では、制作過程で特に印象に残ってるこだまさんの言葉はありますか?
サハラ:すごく覚えてるのは『New Culture Days』のレコーディングが終わった後、ブースから出てきたこだまさんが「僕はダブミックスも含めて演奏してるから変えないでほしい」とおっしゃられたんです。それが嬉しかったです。Undefinedはエフェクトも含めて演奏だと思っているので。「そこもキャッチして演奏してくれたんだ」って。
こだま:ダブが僕らを結びつけてくれたんだなってことですよね。互いに通底してるものが一番大きな要素だったような気がします。もしUndefinedからの依頼がなければ、この作品はできなかった。しかもこのコロナ禍で。今回の作品は僕にとっては実に濃密で、じっくり取りかかれた4曲なんです。
『Kazufumi Kodama & Undefined / 2 Years / 2 Years in Silence 』
こだま和文とダブ・ユニットUndefinedのフル・アルバム、遂に完成!! オリジナル+アンビエントで構成されたジャパニーズ・ダブが生んだ最高の一枚
CD(RINC93) : 2022.09.21 Release
LP(RINR10 / 180g CLEAR VINYL):2022.12.03 Release
解説:河村 祐介 / 原 雅明
レーベル : rings
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宮崎 敬太
Twitter:@djsexy2000
ポートフォリオ:https://note.com/keita_miyazaki/n/n8c862778bf9c
1977年神奈川県生まれ。2015年12月よりフリーランスに。日本語ラップ、ダンスミュージック、K-POP、ロックなどオールジャンルで執筆活動中。映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物も好き。主な媒体はFNMNL、TV Bros.、ナタリーなど。担当連載は「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」と「ラッパーたちの読書メソッド」。ラッパー・D.Oの自伝で構成を担当した。
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