昨年12月、新メンバー上原子K(エレキベース)参加の再録リミックス盤『グッド・バイ 継承篇』と『ジェラード 警鐘篇』をリリース。そして、いよいよオリジナル・ミニアルバム『夜明け来ず跪く頃に』を完成させたOLEDICKFOGGY。
ここに描かれているのは、どうしようもない現実にうんざりしたりジタバタしている人間だったり、現実と非現実が混在した世界だったり。殺伐且つ混沌としながら、しかしポップだしユーモラスだし疾走感もあり、つまりタフなのだ。“ロック”が増した『夜明け来ず跪く頃に』について、メンバー全員にインタビュー。
Interview 遠藤妙子
Photo Chabo
——TAKEさんからKさんにベースが変わりました。エレキベースというのは決めていたんですか?

そうです。エレキベースで募集をかけて。



最近やってる曲がエレキ寄りなんで。オールディック自体がそういうサウンドになってきていると思います。



Kは北海道の人で、怒髪天の上原子さんの遠い親戚なんですよ。
——そうなんですか!元々バンドはやっていて?



高校の頃はやっていて。社会人になってからはほとんどやってなかったんです。



なんでやってなかったの?



お、インタビュアー(笑)。



一緒にやりたいって思う人がいなかったんです。
——じゃ、かなり思い切った決断だったんじゃ?



しかも北海道から出てきたんだもんね。



メンバーに入れてくれるってなったら迷いはなく。
——Kさんから見たオールディックの魅力は?



THA BLUE HERBが好きだったんでしょ?ブルーハーブを観に行ったら、たまたまオールディックが出てて、たまたま好きになったと(笑)



そんなことないです(笑)。ブルーハーブとオールディックがやってる「弾丸さえあれば」を聴いて、オールディックをさらに好きになりました。不健全そうな雰囲気や佇まいもカッコイイなと。
——Kさんに決めた理由はなんでしょう?



なんかパッとしなかったんですよ。
——他の人が?



Kが(笑)。オールディックに入ってカッコよくなったらいいなって。これからどんどん輝いてくれるだろうし、そういうのを近くで見たいなって。



俺は、Kは自分を出すっていうより、オールディックでベースを弾くってことを意識してると思った。俺上手い!っていう見せ方じゃなく、オールディックのベースをやるっていうことを感じさせたのが彼だったんです。芯の強さも感じたし、一番カッコ良かったし。


——これからが楽しみですね。でも、いよいよって時にコロナが来てしまい。Kさんはメンバーになってすぐに活動自粛。モチベーション下がりますよね…。



3月からこっちに住んでたから家賃だけ払ってたんだもんね(笑)。



でもしばらくライブできないからって、やっぱり札幌帰りますってことは全く考えませんでした。



Kともメンバーとも全然会えない日が続いて、4月5月とスタジオも閉まって。6月の頭にスタジオが動き出して、Kがひょっこり現れたんだよね。あぁ、続けるんだなって安心したよね(笑)。



スージーさんから作品をエレキベースで再録音をするって聞いて、それがモチベーションになりました。



過去の音源を録り直したんですよ。
——あ、そうか。去年の12月にリリースした『グッド・バイ 継承篇』と『ジェラード 警鐘篇』を録ったんですね。



ベースだけ録り直して、ミックスも新たに。だからベースは勿論、音もかなり違います。Kは大変だったと思うよ。2枚分、25曲覚えないといけなくて。もう、俺らでも弾けない曲が多いし(笑)。順堂君と俺は練習も含めてスタジオにほぼ立ち合ったんです。



レコーディングではスージーさんと順堂さんにベースのフレーズのアドバイス、リズムをもっと意識するようにとご指摘いただいたので、以降のライブと今回の新作レコーディングではそれが活かされていると思います。
——私、去年の10月のBASEMENT BARでのAfter The NUKESとのライブで、初めてKさんを見ました。太くストレートなベースでとても良かった。あの日は何度目のライブ?



ありがとうございます。あの日はお客さんのいるライブは2回目でした。配信のライブも何度かやっていて楽しかったですが、お客さんがいると反応がダイレクトに伝わるので、やはり全然別物でした。ライブ後に「ベース凄く良かった」と言ってくれる方がいて嬉しかったです。もちろんTAKEさんのウッドベースじゃないと受け入れられないという方も居らっしゃいましたし、メンバーに選ばれていなかったら、もしかしたら自分もそう思っていたかもしれないので気持ちはとても分かりますが、自分がエレキベースとして選ばれた以上、いくら努力してもタケさんになれるわけじゃないので、「そうですか」ぐらいしか答えられない所です。


――これからどんどん自分の個性が出てくると思います。でもやっぱりライブに制限があるのは辛いですね。配信ライブはどうですか?



俺はやりづらいとかはなかったです。普段のライブのようにやれてます。客がいなくても、モニター越しにいるんだなって思ってましたから。見てるなって。



音もいいしね。



終わったら楽屋に戻らずカウンターに直行してビール飲めるしね(笑)。
——観客の人数制限をしつつ、年末には恒例の下北シェルターでの恒例のライブもやれたし。



60人しか入れられないんで入れ替えで。



70分を2回やって。



70分やった後に1時間ぐらい休憩。その1時間っていうのが微妙な時間。30分なら疲れても勢いでやれるかもしれないし、3時間あればゆっくり休まるし。



ひと息ついてすぐ始まるからね。結構辛かった。



辛いよね。やるんだったら間髪開けずにやりたい。



そういう、やり方とか具体的なことをよく考えます。
——それ大事です。早くツアーもやりたいですよね。



去年の暮れ、大阪と名古屋に久々に行ったんです。やっぱり楽しかった。現地のバンド友だちに会えたし。ツアーの醍醐味ですよね。



僕はまだ数えるほどしかライブをやっていないので、毎回ライブ中に「もう自分もオールディックの一員だ」と思うと足が震えます。今後ライブの数を重ねていけば、もっとメンバーとしての実感が出てくるかなと思います。
――そういう中でレコーディングしたアルバム『夜明け来ず跪く頃に』。まずアートワーク、いいですよね。



ずっと一緒にやってるNAOTORADAMSが今回もやってくれました。


——収録曲である「蟻」をモチーフにしてるデザイン。このアートワークもいい感じに気持ち悪いけど(笑)、「蟻」を聴いてオォッて思いました。こういう気持ち悪い歌詞を書く人だったなって(笑)。前作『POPs』は感情が素直に出ているような歌詞だと思ったんですよ。



いや、素直なのは今回なんですよ。「蟻」みたいな歌詞が素(笑)。本来の伊藤君はこっちだと思いますよ。
——現実と非現実が混在してるというか、現実に妄想をぷっこんでくるっていうか。確かに伊藤さんの真骨頂。



その通りです。うちは曲が先で歌詞が後なんですけど、イントロ聴いて、コレは絶対ヤバイ歌詞を書けばいいんだって思って。
——曲はスージーさん。



俺が作った3曲は、やったことないことをやろうって作ったんです。そしたら「蟻」は単なるハードロックになっちゃった(笑)。
——「蟻」を人間の比喩ととることもできますよね。ただただ行列に並んで進む悲しい人間。



そう解釈する人、絶対いるでしょうね。
——そうやって意味を持たれるのはどうですか?



いいですよ。思ったことと違うふうに解釈されてもいいし、そのほうがいい。そういうのが音楽の面白さだと思う。


——印象的だったのが、ストレートな疾走感でポップな「東京」と、ラストを飾るバラード「雨が止んでも」。「東京」はスージーさんの曲。



わりとオーソドックスなロックンロール。実はやったことないんですよ、こういう曲。
——ストレートなのに楽器の響きやアレンジが面白いですよね。



ピアノ、いいでしょ。
——いい!



今回はyossuxiが大忙しでした。



今作はホント大変でした。
——「東京」の歌詞の“墓石みたいなビルを眺めてた 誰かの抜け殻が街の風に舞う”って、コロナ禍の東京の景色がズバッと見える。



まぁ、歩きながら気になったことをメモったりはしていて。
——「雨が止んでも」の歌詞もいいですよね。



なかなかいいですよね。“窓を開けてみてもビルの壁が見えるだけ”つてとこ。最悪だよね(笑)。
——最悪なのがわかるとこが最高な歌詞です。この歌詞もコロナ禍のどんよりとした気分が現れてるなと。



これはコロナというより、窓ガラス清掃の歌ですね(笑)。



清掃作業で屋上に出るんで。そう見えるんですよ。普段の仕事から出てきた歌です。
——実は私も清掃のバイトしてるんですよ。ビルの清掃ってリアルに街の変化を感じるでしょうね。



オフィス関係は余計感じるよね。誰もいない。そこを掃除してる。



仕事はしやすいですよ、人いないから。
——リモートワークとかテレワークとか関係ないですもんね。



俺らは音楽だけじゃなく、普通に仕事もしてるんで。普段通りです。
——私、特に「東京」と「雨が止んでも」はコロナ禍だからこそ出来た曲だと感じたんです。だからもしかしたら、コロナが収束したら違う印象になるかもしれない。曲の印象が変わるっていうのは?



全然いいです。聴く時期によって、また人によって、解釈や感想が違っても全然いい。それが音楽の面白さだと思う。
——わかりました。オールディックの曲の面白さはそこだと思います。前に「歯車に惑わされて」って曲があったように、惑わされる楽しさがあるのがオールディックで。あ、「雨が止んでも」のyossuxiさんのキーボード、いいですよね~。



どの曲もアレンジは基本それぞれなんですけど、スージーからオーダーもらったり順堂君と話したり。「雨が止んでも」は最初アコーディオンでやろうと思ったんですけど、バロックっぽいチェンバロの音が意外と面白いんじゃないかって。
——フレーズがドアーズの「Light My Fire」っぽいですよね。



そうなんです。まっさらのコード進行だけのものを聴いた時に、すぐにドアーズや、そのあたりのバンドのイメージが出てきたんです。
——ロックですね~。ドアーズがあったと思えば昭和歌謡とビートロックもある。「ベイサイドモーテル」は昭和歌謡的。



歌謡曲のこういう世界、好きなんですよ。若い頃は恥ずかしくて歌えなかったけど、今は歌えます(笑)。実際にこのラブホテルあるんですよ。沼津に。小学校の時にあったんですよ。



学校のすぐ近くにあるっていう(笑)。



ラブホテルに行ける年齢になったら無くなっていて。だから誰も行ったことないんですよ(笑)。
——思い出の幻のラブホテル(笑)。



だから実はセンチメンタルな曲なんです(笑)。中に入ったことないけど、たぶん造花が飾ってあるような、汚ったねぇホテルなんだろうなと。で、造花と女の人とを重ねた歌詞で。枯れることもできない、花のままでいるっていう。歌謡曲のエロさ、好きなんですよ。あの世界観をやっと歌えるようになった。


——次の「行け若人」は80’sのビートロック的な。“OH ベイビー ベイビー ベイベー”つてとこがBO∅WYのオマージュ?



布袋じゃないですか?
——そうそう!そういうとこ、上手いよね~。



前は恥ずかしくて歌えなかった“ベイビー”も歌えるようになりました。しかも3回目は“ベイベー”(笑)。



今は連発できるもんね(笑)。



「行け若人」はちょっと前のストレートなパンクロックみたいなんですけど、難しいんですよ。コード進行が異常に多いし、謎の5拍子は出てくるし。マジ困惑した。



リリースが3月だし新社会人に向けて作りました。
——新社会人に向けてたのに、気づいたら同世代のおっさんに向けてるみたいな曲ですよね(笑)。



おっさんの戯言っぽいよね(笑)。
——その極めつけの曲が「低空飛行」(笑)。



底辺ですよね(笑)。
——でも力が沸く。なんか今作、明るい未来を歌ってるわけじゃなく、どうにもならない現実とかやりきれない気分とか、そういう歌ばかりなんだけど、聴き終わったら“よっしゃ!”ってなる。これこそロックの力かなって思ったり。



いいですね。その通りです(笑)。



サウンド的にストレートなのもあるかな。
——勿論あります。自分たちもそういう力を求めてたり?だからロックになったんでしょうか?



たぶん救いがなさすぎて、よっしゃって思ったんじゃないですか?(笑)



映画でも本でも、そういうのあるよね。



底辺を見せつけられて自分のほうがましだって、逆にポジティブになれるっていう(笑)。
——確かに元気がない時に元気な曲を聴いてもしんどいよね。



そうそう。



失恋した時は失恋ソング聴くのが一番立ち直りが早いって言いますからね。



もっとヤバイ奴がいるって(笑)。
——転びながら笑ってるっていうか、ある種のダンディズムかもしれないね。



村西とおるさんが、「人生、死にたいときは下を見ろ 俺がいる」って言っていて、そういうカッコ良さですかね。
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OLEDICKFOGGY 【Web / Twitter】
<MV>


リリース日:2021年03月24日
フォーマット:CD / DIGITAL
品番:PX360
価格:2,750円(税込)
レーベル : DIWPHALANX