シンガーソングライター、アライヨウコのソロプロジェクト「mismatch-smile」のデビューアルバム『INNERMOST』がついに完成した。
影響を受けてきた音楽と今後どんな音楽を作っていきたいかを主軸に、自身の作詞作曲や声を見つめ直し、1から活動を始める気持ちで作ったという本作。今までの弾き語りを軸にしたサウンドを一掃し、ロック、エモ、ポップス、エレクトロニカなど様々な音楽性で新たな可能性に挑むに至った心境や、killie、miscorner/c+llooqtortion、SEBASTIAN X、SZKNといったさまざまなバンドのメンバーが参加した際のエピソードなど、アライ(Vo.&Ba.)とワキタマサユキ(StDr.)(サイトウシンバ(Dr.)が途中参加)に結成~リリースまで制作の裏側を聞いたインタビューが実現。
インタビュアーはcinema staff、peelingwardsのメンバーとして活躍する辻友貴氏。ワキタとは十年来の知人であり、さらに昨年から喫茶店を運営するアライに対し、自身もバンド活動に加えて立ち飲み居酒屋「えるえふる」とレコードショップ/レーベル「LIKE A FOOL RECORDS」を新代田に構えるなど、音楽以外にもバンドと通じる部分の多い辻氏(今回のインタビューも「えるえふる」にて実施)。彼だからこそ聞ける質問の数々に、話もビールも進む赤裸々なインタビューとなった。
インタビュー:辻友貴
テキスト・編集:上野雅浩
⸺まずは今回なんで弾き語りじゃなくてバンドになったのか、という経緯を知りたいです。

もとは弾き語りのバンド編成みたいな感じでやろうとしてたんですけど、音源を作る時期に「いつまで弾き語りやるんだろうな」というやるせなさが募ってきて。ワキタさんと話をして「本当にそれやりたいの?」「いや、バンドやりたいですね」ってなって、作り始めました。
⸺じゃあ最初はもうちょっと弾き語りで作る可能性もあったんですね。

でもギターを弾くことに執着もないし、できれば弾きたくなかったですね。
⸺それで今回はベースボーカルなんですね。

当初はもうちょっと弾き語りに寄ったものを作ろうと思ってたんですけど、別に作りたくないなと思って(笑)。それで軌道修正を一気にかけて、作り始めていろいろやりたいことを確かめながら作りながら…という感じでした。
⸺曲自体は弾き語りから作ったわけじゃないんですか?

もともと弾き語りであった曲をリメイクというか、コードだけ拾ってとか、メロディー変えてとか、歌詞変えてとかやったのもあります。でも結局半分以上はゼロから作りました。
⸺それはバンドメンバーで一緒に作ったり?

バンドメンバーで作った部分もあるし、のちのち参加してくれる人が増えていって「このベーシックにこのギターをお願いします」みたいにどんどん足していった曲もあります。
⸺基本お任せでした?

ワキタさんが指示を出してくれた方もいるし、もともと弾き語りのバンドメンバーだった方達はスタジオでやりながらです。本当に作りながら足し、作りながら足し…っていう感じでした。

「こういうのをやりたい」っていう自分の願望に対して知識が追い付いてないから、それができない。それで俺が大枠だけ作ってあげた。
⸺今までの弾き語りと圧倒的に歌の感覚が違うじゃないですか。ミックス上もそうだし、歌い方も今までの感情を乗せる歌い方というより、むしろ今回は(感情を)なくすっていう。

なくしましたね。全部変えました。
⸺どうやってそこにたどり着いたんですか?

お!良い質問ですね~(笑)。

コンプレックスでもあったんですけど、自分の歌の声に特徴がないなと思ってて。あとは、弾き語りだといわゆる「癒されるよね~」みたいな聴き方をされることが多くて、それがずっと嫌で。自分が好きな音楽の人と明らかに声質が違って、性別も違って、持ってる声をどうしたら活かせるのかな、と考えたときに今までの歌い方じゃない方が良いなと思いました。
⸺じゃあ今まではどっちかって言うと「こういう風にしか歌えない」という感覚だったんですかね?

そうですね。あと、言い方は悪いですけ自分の歌い方が雰囲気作りのための手グセだらけになってきてないか?というか、そういう小手先のことばかりやってきたので、それは嫌だなと思って。
⸺全然抵抗なくやれました?「これ合ってるかな?」みたいにならなかったですか?

最初はちょっと抵抗があったし、単純に難しかったです。今までならしゃくりあげて録ってるところを平坦に歌うと下手さがバレるので、自分の手グセが全部封じられてる感じで。けど、今の歌い方のほうが良いと思います。
⸺うん、バンドにすごく馴染んでる感じがします。でも曲によっても変えてますよね?5曲目の「lovesong」とかは今までっぽい感じで。

そうそう。あれは歌い方を変えてなくて。
⸺だから、どっちもあって良いなと思いました。あと、7曲目「sumiiro to geppaku」、8曲目「eve」とかは完全にワキタさん節だなと思いました。ミスコーナー(miscorner/c+llooqtortion)の感じが出てるなって。

マジ!?ミスコーナーの感じ出てる?(笑)
⸺出てると思いました。音の使い方とか。

不思議ですよね、ワキタさんの音の使い方。
⸺あのミニマルな感じと今の歌い方は絶対合ってると思いました。

俺の中では米米CLUBぐらいのポップ感を込めたんだけど。

さっき街頭の液晶でたまたま見たからでしょ(笑)。

いや、だからさっき見て一緒だなと思って(笑)。

素材として声って変えられないので、持ってる素材をどう使ったら自分がやりたい音楽の中でどう聞こえるかはやっぱり考えました。

もともとの弾き語りだと文字一個一個に音を一個ずつはめていくような、コブシのある歌い方をしてて。今回はそれだとカッコ良くならないから直そうっていうのもあった。

自分の制作した楽曲で、初めて自分の歌をちゃんと聴けますね。声があんまり好きじゃなかったので。フォークを脱出したかったんですよね。
⸺脱出したかったのはすごく感じますね。

フォークがダサいわけじゃなくて、フォークはカッコ良い音楽だけど、今回は違ったっていうことで。
⸺そもそもバンド名のmismatch-smileってどういう意味なんですか?

なんでしたっけ?もう記憶がいろいろ錯綜してるんですけど。

うまくは言えないな、バンド名って。cinema staffは?そのままなの?
⸺うちは語感でした。もともとACIDMANとかも好きで、そのACIDMANが「cinema」っていう企画をやってたんですよ。それで「cinema」って良いなと思って、そこから取った感じです。昔は説明が面倒くさかったんで映画館で働いてるって嘘ついてましたけど(笑)。

mismatch-smileでもそういう話を用意した方が良いな(笑)。

mismatch-smileは言葉をいろいろ並べる中で、良いなと思いました。「不敵な笑み」って感じで。「mismatch」と「smile」が並ぶのって「笑ってるの?笑ってないの?」みたいにいろんな取りようがあるし、ちょっと皮肉っぽくて自分の性格にも合ってるなって。
⸺以前のインタビューの名古屋の話を読んで、北海道の感じと名古屋の感じってちょっと似てるのかなって勝手に思いました。

名古屋ではいわゆるライブハウスでライブをしたことがほぼないんです。たまたま名古屋の友達ができて、またその友達がやってる店でライブをやるようになって。その店をやってる友達がキウイロールとかCOWPERSとかすごい好きで馬が合って仲良くなって…という流れで。それでstiffslackに行ったときにたまたま名古屋にライブしに来てるハジメさんがいて。「malegoatのハジメさんですよね…?」って声かけて。
⸺直接はまだ会ってなかったんですね。

(吉祥寺)WARPでちょくちょく見てたけど、しゃべったことはなかったです。そのとき新川さんに「Climb The Mindもすごく好きで初めて来ました」って話したら「これから山内くん来るよ」って言われて。しかもstiffslackのツイキャスか何かで「ライブしに来たならうちのツイキャスで流すから今数曲歌う?」って言われていきなりライブをやることになり、っていうことがありました。

そんなことあったんだ。

札幌は本当にただただ通いまくりました。Discharming manのライブ予定を先にメールで聞いて、札幌のハコの人に「○日のDischarming man見に行くのでその周辺でライブ組んでください!」って言って(笑)。

タフだね~(笑)。
⸺あと、バックグラウンドが近い気がしてます。もともとJ-POPとかが根っこにあるんですけど、パンクやハードコアを好きになっちゃったからには、自分にはそういうことはできないけど、でもやりたいっていう葛藤がすごくあるじゃないですか。

「できないけど」っていうのは?
⸺周りにもっと最初からパンクな人とかいるじゃないですか。これだけ音楽にどっぷり浸かってると。

わかります。根幹が違うなって、好きな音楽だからこそ自分との差異がすごく見えちゃうし、それで弾き語りやってたところもあるかもしれないです。
⸺僕らもずっと葛藤しながらやってきたんですけど、僕らはそのバランスが変だから良いのかもなと思って続けられるようになりました。

辻くんにとってポップな感じの根幹とか影響を受けたパンクバンドって何なの?
⸺最初はGLAYとかから入って、洋楽は最初レッチリでした。

ふんふん、なんかでもちょっと古くない?俺と同い年の奴でそういう奴いっぱいいるよ(笑)。
⸺(笑)。でも、そこからいわゆるJ-インディーズと呼ばれてるような、ASIAN KUNG-FU GENERATION、the band apart、ACIDMAN、ストレイテナーとかが入り口になって、ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)とかNUMBER GIRLに行って、そこからはもうオルタナが好きになってという感じでした。

その感覚は確かにずっとあります。私の話になっちゃうんですけど、銀杏BOYZとかがそうでした。でも、最初はそれこそ倖田來未とか浜崎あゆみ、GLAYも聴いてたし。…あとはRAG FAIRとか。

え?今なんて言ったの?

RAG FAIRオタクだったの。東京の公演全部行くみたいな。

え~、すげぇの来たな(笑)。知らなかった。

女子校で周りにバンドとか洋楽とか聴いてる人がいなかったんですよ。あとは椎名林檎とか凛として時雨とかを聴いてました。でも20代の頃はシネマ(cinema staff)もめっちゃ聴いてました。残響レコードのバンドとかをよく聴いてて。それでそういうバンドをやりたいと思ってたのに、当時ライヴハウスに出演したらワキタさんに「お前はこれを聴け」ってNAHT、COWPERS、Discharming manとかを勧められて。

理由があって(笑)。ギターの弦とか4本くらいだけ押さえてディスコードみたいなのを弾いてる奴がまっすぐ歌ってる。それを見て「なんておもしろいオルタナバンドなんだ」と思ってしまって。でも話を聞いたら「ポップスだ」って言うし。
⸺突然変異的な感じなんですね。

それしか弾けなかったんですよ。
⸺でも良いですねそれ。ワキタさんにはそう伝わって、それで「これを聴け」って言われたアライさんもハマったなら。

でもJ-POPで育ってるから最初は意味がわからなくて。しかも歌ってる内容もよくわからないみたいな感じでした。クライム(Climb The Mind)も結構衝撃で。

クライムはどう聴こえるの?

当時は今まで聴いたことない音楽で、曲に対してのメロディーの乗せ方とかが変なのと思った。

でもあの独特の感じを出してるのはベースだよね?

やっぱりJ-POPとかばっかり聴いてきてるから、変なところでボーカルが入ったりする気がして。
⸺ベースのメロディーラインと歌のメロディーラインが独特に絡まってるから最初は不思議に聴こえますよね。それが心地良いんですけど。

でも、同じ音楽を聴いててもそれまでとガラッと変わる瞬間ってあるじゃないですか。

ある。
⸺ある。

それがDischarming manの初期あたりで。それがあってからはそっちにハマり込んで。

辻くんは何だった?
⸺僕はNUMBER GIRL、ブッチャーズです。

俺はNAHTだったんだよな。

私がDischarming manからだったのは歌詞がとにかく好きだったからだと思う。Discharming manってものすごい自分対自分を歌ってるから「私のことじゃん」って思えて、聴き方が変わってどっぷりハマりました。

ガラッと変わるときあるよな~。

最初に聴いたエモやオルタナ、それこそ札幌エモとかって「気持ち悪い」っていう感覚だったんですよね。気持ち悪いっていうか、自分が今まで聴いてきたものからすると「このバランスが成立するのか?」みたいな。

逆にそういうものを聴くのに音楽的に気持ち悪さのない、入りやすいオルタナバンドって何になるの?
⸺最初はだいたいどこかしら気持ち悪くないですか?

俺ね、わかんないんだよ。もうそればっかりを聴いてるから。そもそもミスコーナーの音楽もどこも気持ち悪くないすごいサッとしたポップスだと思って作ってるから。
⸺ミスチルと同じってことですよね。

もちろんもちろん。なんだったらJUDY AND MARYと一緒なぐらい。

そういう意味だと当時聴いてたシネマとかはちょうど良いところにいてくれたかもしれないです。すごい鋭角で特徴はありつつもすごく違和感があるわけでもなく、でもサウンドには衝動が乗ってるし。あとは凛として時雨とかかも。中間地点にいたのって。
⸺時雨、9mm(9mm Parabellum Bullet)がメジャーに行ったときはやっぱり「これメジャーでやるんだ、おもしろいな」って思いました。

私はとにかく音楽の幅が狭いので、好きなものはすごい好きで他は「ふーん」ぐらいしか思わなくて。洋楽もあんまり聴かないし。

辻くんは昔から聴いた?
⸺COWPERSとかブッチャーズとか聴いてると海外とつながっていくというか。あとはstiffslackに通ってたので、エモ、オルタナはやっぱり聴きましたね。

でも日本のエモと海外のエモって別物じゃないですか?
⸺あんまり思わなかったですね。つながってるなって思う。

私は全然違うじゃんって思っちゃったんですよ。
⸺それは僕は音に比べると歌詞を重要視してないっていうか、できないからかもしれないです。

わかるわかる。
⸺嫌な歌詞が入ってくると拒絶したりとかはあるんですけど。この言葉引っかかるな、音の邪魔になってるなって思うと。逆にクライムの山内さんとかは言葉は独特ですけど音楽と絡まってる感じがします。そうじゃなくて格好良い音が鳴ってるのに言葉が変な入り方してきちゃうと気になっちゃうんですよね。

私は逆に歌詞ばっかり聴いてきたので、洋楽があまり入ってこないっていうのもあるし、でも日本人独特のメロディーライン、いわゆる「いなたさ」みたいなのはあるし。
⸺めっちゃありますね。

そう。で、「いなたい」とは結局なんなの?

ダサいってこと?

すげぇこと言い出した(笑)。

うまく言えませんけど、でも「格好悪い」ではなくて、好きなバンドのメロディって、歌い方も相まって、綺麗に整えすぎていないその人の癖や衝動が生生しく滲み出てて、とても人間臭くて歪。音程も外してたりするし。でも、それが好きなんですよね。局所的なんですよ、好みが。結局いろんな洋楽を聴いても「COWPERS聴きたい」「NAHT聴きたい」ってなっちゃう。
⸺今回聴いてみてストリングスの曲とかはやっぱりNAHT感があると思いました。

それね、ボーカルもNAHT感出そうとして。あと、こいつ(アライ)ね、完全なディスコードにメロディー乗っけられるんだよ。
⸺それは強いですね。

「eve」って曲、あれ歌が先じゃなくて曲が先なんだよ。トラックをポンって送ったらボーカルだけ乗っけて返ってきて。俺は絶対不可能だと思って送ってるんだけど。

あんまりわかんないんですよ(笑)。

そこで判明したんだけど、逆にだからアレンジできないんだよ。どのコード弾いても歌えちゃうから。
⸺弾き語りで曲を作ってたときは、歌からできることもあるんですか?

弾き語りのときは二分してて、歌詞から作ったものに対して「歌詞が暗いからこのコードかな?」って弾いてみて、で、コードがちょっと不協和音っぽいものはきれいなメロディーを乗せて、コードがきれいなものはメロディーを外してっていう2パターンで作ってました。好きな音楽のエッセンスをちょっと入れたかったので。あまりコードに対してメロディーの音が順当なのと順当じゃないのがよくわからない。

だからずっとワンコードでなってる曲に延々そこにメロディーをつけ続けられるの。
⸺それおもしろそうですね。コード感がなくてもメロディーはいけるってことですもんね。

今回ミスコーナー名義で作ったトラックにもう1回違うメロディーを乗せさせようと思ってるくらい。それで格好良くなったら本当に格好良いはずなんだよな、と思ってる。

あまりわかってないんですよ(笑)。わかってないですよね?

わかってない。リズムとかもあんまりわかってなくて、わかってることは食って入るかどうか。食うか食わないかだけでやってきてるから(笑)。

このアルバムで学んだことは「これは食ってる」「これは食ってない」っていうのだけ学んだ(笑)。(机を叩いて拍を取りながら)こうやってやらないと食っていくし。
⸺アタマ拍作るんですね(笑)。

「こっちだから食ってるんですね!」とかずっとやってんの(笑)。
⸺じゃあ今までは感覚で、食ってても自分が食ってるかどうかもわかってない?

わかってないです。一人だと成立しちゃったんで。

それは言われ続けたからな。一人だとなんでも成立するって。

あとは今回がんばったことってなんだろうな。

「どういう風に歌う」っていうスタイルができてからは何も苦労してないじゃん。

しましたよ~(笑)。
⸺ゲスト陣には一緒にいるときに弾いてもらってるんですか?別で録ってもらって送ってもらったんですか?

別で録ってもらったものもありますね。

ウッチー(UK [killie / KID IS GONE(ex-sora)])とトモアキ(Tomoaki Sato [SZKN/heliotrope])はそう。
⸺「flow」と「compass」の2曲は本当にあの2人っぽいなって。

ね!ウッチーもトモアキも超良いよね。
⸺特に「compass」のアウトロのギターとか最高だなと思います。ちょっとブッチャーズの「7月」みたいだなって。ギターソロっていうか、ちょい後ろぐらいで鳴ってるギターの感じが格好良くて。

私は本当に皆さんの力を遺憾なくお借りして(笑)。ウッチーさんのギター本当に良いよね。

ウッチーのギター良かった~。トモアキもトモアキっぽいし。

あの曲に対してあんなにポップに出てこないじゃないですか。やっぱりトモアキさんすごいなと思いました。

トモアキがニヤニヤしながら弾いてる図がすごい目に浮かぶ(笑)。
⸺注文はどれくらいしたんですか?

トモアキはドラムとピアノが入ってるものとコード譜だけ送って一発。で、全部の音ありきでウッチーは俺の部屋で二人でやった。「どうしようか」って話しながら。「ダメだウッチー!そうじゃねぇんだ」とか言って(笑)。

バイオリンも最後の最後で足しましたもんね。札幌の子に弾いてもらって。
⸺ピアノはどういう感じで入れました?

ピアノはアリリ(Key. Kudo Ariri [音沙汰、SEBASTIAN X])に一緒にいるとこで決めてもらったよな。

私が一緒にスタジオに入って、もともとのピアニストとしてのクセもあると思うけど、すごく勘が良くて「ヨウコちゃんたぶんちょっと外れてるのが好きだね、こういう音階好きでしょ?」って察してくれてやってくれました。
⸺5曲目の「lovesong」のピアノは誰が弾いてるんですか?

あれは私が弾いてます。アレンジしてくれたのがHalf Mile Beach Clubっていうバンドでシンセやったり、自分の作品とかで打ち込みとかもしているアサクラくんっていう長年の友達で。ピアノの「チャーンチャーンチャーンチャーン」ってフレーズだけ「このピアノ良いからこのまま使ってくれ」ってMIDIを送って、それでアレンジは全部やってくれて。もともと弾き語りの曲だったんですけど、アルバム向けにコードだけ引っ張ってきて淡々とやる感じにリアレンジし、歌詞もほぼ書き直しました。
⸺良い感じになってますよね。ライブはどうするんですか?

ライブはピアノをゲストで呼ぶか、でも完全にアレンジを変えたいですね。音自体も私が好きな、いなたい方向に全振りしようかな。最高の誉め言葉としての「ダサオルタナ」みたいな。絶対に売れなさそうなバンドやりたいんですよね(笑)。今ってみんな賢くて小銭稼ぐバンド多いじゃないですか、言い方悪いけど。全然おもしろくなくなったなと思って。小銭は稼げないけど好きなことをやってるバンドでありたいです。
⸺要領良い人は基本いろいろできちゃいますからね。

でもバンドなんてわざわざスタジオ代かけて面倒くさくてアホみたいなことやって、小銭稼いでどうするんだろみたいな。あんまりいなくなりましたよね、アホな人って(笑)。
⸺どうなんやろ(笑)。
~ここでサイトウシンバ合流~

(シンバを差しながら)覚えてる?こないだここ(えふえふる)で飲んでた日に声かけて、そのままバンドに入れた。
⸺そういうことだったんですか?LINEもらいましたけど意味がよくわからなくて…

そう、あのときにナンパしておいて後で「バンドやるからお前ドラムやれよ、ドラムできるかどうか知らないけど」って言ったら「わかりました!」ってなって(笑)。
⸺え~!おもしろいですね(笑)。

サイトウシンバと申します。

もともとドラムがいたんだけど抜けちゃって。「俺良いやつ知ってるから大丈夫だよ。ドラム叩けるかどうか知らないけど」って言って。
⸺で、ドラムがたまたまできたってことですか?

いや、できない。
⸺え?

超スパルタ練習中。だから俺もメンバーとして入った。シンバがドラムできないから、じゃあリズムフォロー俺もやろうかって。二人ならなんとかなるでしょ(笑)。
⸺え~!(笑)

でもできない方が良いよ、おもしろい奴って後から作れないから。元からおもしろくないと。

最悪バスドラだけ踏んでれば良いんじゃないかって。

そうそう、最悪バスドラだけ踏んでもらえれば俺が上をフォローするみたいな(笑)。
⸺アルバムでドラム叩いてる人は違いますよね?

ルロウズ(Loolowningen and the far east idiots)のメンバー(Yamamoto Junpei [Loolowningen and the far east idiots、nouon、Rupurizu etc..])とか、新世界リチウムの元メンバー(Kei Ishikawa [Butter Knife Scarlet、ex-新世界リチウム])とか。mismatch-smileの正式メンバーじゃなくて音源のメンバーが叩いてる。
⸺なるほど。でもやっとあのLINEの謎が解けました。

「辻くんに会いに行ったらメンバー1人拾ってきた」ってやつね(笑)。
⸺送られてきてから「どういう意味だろ?」ってずっと思ってたんで(笑)。ギターの人は?

ずっとbulbs of passionってバンドをやってるギタリストなんですが、過去に別のバンドで私がベース弾いてた時期があってそのときにギター弾いてた昔のバンドメンバーですね。

こいつももともとおもしろい奴で。

性格があまりちゃんとしてなくて、小銭稼げなさそうで良いなって。だけどカッコいいギター弾くし。

しかしドラムできないのに「ドラムやります!」って言うの結構カッコいいことだと思うんだよな。
⸺いや、普通できないですよ(笑)。

できないよね。辻くんに「インタビューやってよ」って言ったら「いいっすよ!」って返ってきたときも「おぉ、カッコいいな」と思ったけどね(笑)。

最高ですね。

最高でしょ。ここで酒飲んでたらいろいろ進んでって。

最近って正攻法が確立されすぎててつまらないなと思って。他の人が面倒くさくてやらないけど「おもしろいじゃん!」ってことをやりたくなったんですよね。弾き語りでは私も小銭稼ごうとしたりとかいろいろして、でもそんなのは何にもならないなって思って。だから原点に戻った感じです。
⸺ライブは決まってないんですか?

ううん、辻くんと一緒にやりたいからさ。
⸺(笑)

ただ、このバンドをブッキングしたら、たぶんもれなくミスコーナーが付いてくるけど(笑)。
⸺あと、お店を始めた話も聞きたくて。僕も店をやりながら音楽をやってて、ヨウコさんも去年お店を始めて、そこから音楽に還元することはありますか?

店をやって「音楽はお金にならなくて良い」って振っ切れた部分がありました。自営で店をやってると「好きなことできていいね~」って言われるじゃないですか。でも実際に生計を立てようと思ったら、好きなことをやってるフリみたいになるときもあるし。
⸺あるある(笑)。でも僕はちょっと違ってバンドが先にあったので、店は誰にも何も言われたくないと思って始めて。

ってことはバンドやってるときは言われるの?
⸺言われます。それはメンバーも言うし、特に店を始めたのはメジャーのときだったので、いろんな人が関わりすぎて、自分の意思だけじゃどうしようもなくなっていっちゃって。それがつらくて一回僕もやめたいみたいな話をメンバーにしたこともあるんですけど。

シネマを?
⸺そうです。

えーそうなんだ!衝撃だわ。

衝撃です。この話の方がインタビューのネタになるじゃないですか(笑)。
⸺そういうのもあったんですけど、結局バンドがあるから店もうまくできる自覚もあるから。でもさっき言ってた仕事として成り立たせなきゃいけないっていうのはすごく思います。

音楽と店に対する金銭の動きが、辻さんと私で違うのでまたちょっと別かもしれないですけど、私は店とイラスト仕事とバンドをやって、その中で音楽だけが唯一お金のことを考えなくても良い場所になってて。店も絵も好きでやってるけど、イラスト仕事ってクライアントのイエスが正解なので、自分の創作活動として「好きに作る」のとはまた違うじゃないですか。で、店の方は自分の勝手にできるけど、お金稼がなきゃってなったら…自分が好きだったものをどんどんちゃんとお金にしなきゃいけなくなってきて。CDの売上は考えますけど、でも音楽だけはまず好きに作りたいなっていう感じで。

そこじゃないんだよね、そこは俺たちもよく考えてた。もちろんCDは売るんだけど。

「好きなことをしたい」というのがやっと音楽に戻ってきたんですよ。だからバンドは好きにしたい。誰にカッコ悪いと言われてもカッコいいと思ってるんで(笑)。そう言い続けられるところにやっと戻ってこれたところです。
⸺最後に、この時代にCDで出す意味やモチベーションはどんなところですか?

音楽が良いのはもちろん前提ですけど、アートワークやミュージックビデオってその世界観を補完してくれる存在だと思うので。サブスクでパッと聴くのも便利で私も使ってますけど、CDを買ってパカッと開けて中身を読むってやっぱりとても重要な事だと思っていて。歌詞がちゃんと読めるって大事ですね。(スマホを見せながら)あと今回のジャケはこのイラストの切り抜きです。
⸺おぉすごい。ちょっと見てもいいですか?

アートワークはずっと一緒に制作してくれてるあけたらしろめくんっていう画家の友達にやってもらって。いつもはもっとやわらかいテイストの絵を描いてるんですけど、今回はこの迫力あるイラストを手描きしてもらって。このアートワークが物質としてあるって良いなと思います。

今回参加した誰よりも有名なのが彼だと思う。

⸺ワキタさんもアートワークはこだわってた人ですもんね。

そう思うじゃん?全然。俺は全部人任せだもん。でも他人任せではなくて一人のデザイナーを信用して任せてたよ。
⸺え、そうだったんですか?ミスコーナーであんなにいろいろ特殊なジャケでやってたのに。

それはね、最初からずっとデザイナーを決めてTシャツとかも含めて全部やってたんだよね。それでデザイナーがやりたいことをやってもらった。
⸺そうだったんですね。

あとはCDで出すのは、やっぱり音源を買ってた世代なので。
⸺結局それですよね。

やっぱり欲しいじゃん(笑)。

歌詞のこだわりが強いので読んでほしいです。歌詞の解説するのは野暮だからしないですけど、何を書いたかはぜひ読んでみてほしいですね。
Release Information

mismatch-smile『INNERMOST』
2022/10/19 Release
CD(限定デジパック仕様)
SECRETA TRADES / STD23