未だ絶賛の声とバックオーダーが途絶える事のない傑作アルバム『Green』の秘密(?)を紐解くべく、RAYプロデューサーみきれちゃんへ1万字インタビューを敢行!2022年9月19日、新体制となり新たな航海へと漕ぎ出したRAYのライブ写真も掲載!
RAYプロデューサー:みきれちゃん
聞き手:こばけん(Lonesome Record/エクストロメ!!主宰)
RAY 『Green』
フォーマット:CD
品番:LSME17
レーベル : Lonesome Record
こば>さて早速ですがみきれちゃん!『Green』という最高傑作を作り終えてディレクターとしての感想などあれば!
み>過去運営していた・・・・・・・・・(以下ドッツ)時代からも含めて完成度は最も高いものが出来たけど、必ずしも完成度と反応が一致する限らないなと思いました。ネガティヴな意味ではなく、『Pink』とは反応が違うなと。
こば>具体的に言うと?
み>リリース直後のリアクション自体は『Pink』の時の反応の方が大きかったです。一方で『Green』はボディブロウのように効いてる実感があります。分かりやすさとインパクトの『Pink』、作り込みと渋さの『Green』みたいなところはある気がしていて、それが反応にも表れているというか。『Green』については、アパレル関係者やハードコアシーンの人からも評価されているという話も最近聞きました。『Green』から知った方は『Pink』に遡って聴いて、ああこういう進化をしたんだと思って頂いたりもあるみたいです。RAYの活動歴も3年を超えて、楽曲に対する草の根的な広がり方は感じます。
こば>それはそうかもですね。『Pink』はライブでもずっとやってるキラー曲を満を持してリリースしたものだからダイレクトな反応が前作の方があったのは納得できますね。
み>僕はずっとB面になるような曲は作りたくないと思っている部分があるのですが、ポジティヴな意味での箸休め的ないい曲というのは全然あると思うので、そういうことも考慮して作ったのが『Green』です。
こば>僕的には音楽性や音だったりで芸術点が高いのは『Green』の圧勝だと思ってます。あの完璧傑作と言われた『Pink』でさえ『Green』の後に聴くと稚拙に感じる部分があってこれから本当の評価が始まると思います。ただ『Green』が内省的な部分が多いとは言え、ライブを見るとこれがかなりライブ映えするんですよね。特にムーンパレスとか。最初見たとき腰抜けました。振付師さんの功績もあると思うけど。
み>曲としてわかりやすさが落ちてる分、表現の難易度が上がっていて、あの4人(4人体制時代のRAY)の構成で初めて完全体になり、映える振り付けが多くなってはいます。7/23の現体制ラストワンマンに向かうまでの間にメンバーが欠けることが多くなってしまい、完全な体制で披露する機会が少なかったのが残念でした。完全な体制でもっとやれてたら『Green』の魅力を何倍にも広げられたかなとは思います。
こば>研ぎ澄まされて完璧な完成体になっていたかも知れないですね。
み>この前おやすみホログラムのプロデューサーのオガワコウイチさんが「曲や作品というのは欠点がないとダメなんですよ」というようなことを言ってました。その意味で『Green』は隙がないかもですね。
こば>ところでみきれちゃんの音楽遍歴を知りたいです!
み>中学生でギターを触り始めて、その時はもうゆずですね、弾き語りをやりたくて。高校時代は軽音楽部でコピーバンドをやっていました。コピーしていたのはHI-STANDARD、SOBUT、The Offspring、Balzacなどのパンクや、椎名林檎、JUDY AND MARYなどのギターの効いたJ-POPなどもコピーしていました。その後、大学でも軽音楽サークルに入って、すぐやめた企画的なものも含め凄い数のバンドを経験しました。オリジナル曲のバンドしか存在しないサークルで、そこでエモバンド、超頭悪いパンクバンドとやった経験が、その後のドッツの「エモい」、「ヤバい」という楽曲コンセプトの両軸に繋がっていった感じがします。それとメロディックパンクバンドもやっていて、これが一番ツアーとかリリースもしたりで周知され、僕個人としてもバンドの経験値のかなりの部分を占めていた活動でした。メロディックバンドが「The Lions」、エモバンドが「The Tigers」、アホパンクバンドが「ひとりで秋葉系」。
こば>(笑)。影響受けたバンドとかは?
み>高校時代は先ほど話した通りコピーバンドをしながら、一方でギターキッズでもあって(笑)、Ozzy OsbourneやMR.BIG、Stevie Ray VaughanなんかTSUTAYAで借りて聞いて、家で黙々とギターヒーローを片っ端からコピーしてもいました。高校2年生くらいから青臭い音楽も好きになり、HI-STANDARDから入ってCAPTAIN HEDGE HOG、SHORT CIRCUIT、BEAT CRUSADERS、海外だとMega City Four、Senseless Thingsとかメロディックパンクをよく聞いてました。その流れもあってか、大学に入ってからは自然とEMOを一番聴くようになりました。以降、EMOは常に僕の感性の中心でそれは今でも変わってないと思います。20代はINU、THE STALIN、あぶらだこ、FRICTION、PASS RECORDSとか80年代あたりの日本のパンクも好んで聞いていました。他には、当時はMySpace全盛期だったので、MySpaceでひたすら音楽をあさって、そこから新しい音楽を知って、海外のインディーバンドの作品を取り寄せたり。あと京都のパララックス・レコードにはとてもお世話になって、ノイズはじめいろんな音楽を教えてもらいました。初めて行った時「ノイズを聞いてみたいです」と店員さんに相談してMBとMSBRをおすすめしてもらいました(笑)。THIS HEATもここで知りましたし、LOCUSSOLUSの再発のAksak Maboul、Camberwell Nowとかも買って、とても気に入って聞いていたことを覚えています。
こば>FAUSTの再発と狂喜して買ったなあ~。でも関西に住んでて1986年生まれだったら、一番多感な時に関西ゼロ世代のバンド、オシリペンペンズ、あふりらんぽとが台頭してたと思うけど、その辺は?
み>関西ゼロ世代は直撃ですね。ミドリ、クッダチクレロ、チッツとかよくライブ見てました。あとYOLZ IN THE SKYはめちゃくちゃ聴いてました。
こば>ここまでの話でシューゲイザーが全く出てこないという(笑)
み>My Bloody ValentineやRide、Swervedriverといったレジェンドクラスは聞いてましたが、実はシューゲイザーはあんまり聞いてなかったんですよ。でもcruyff in the bedroomは昔から異常に好きでした。cruyff in the bedroomのハタさんが主催するTotal Feedbackはその頃から知ってて、「毎月開催されるシューゲイザー特化型イベント」という響きにとても惹かれていて、いつか行ってみたいとずっと思っていました。なので、今ハタさんと仕事出来てるのは僕にとってとても嬉しいことなんです。
こば>そこからドッツをやるまでの流れは?
み>元々アイドルとの出会いはももいろクローバーZだったのですが、東京に出てきてさくら学院に通うようになり、その後楽曲の良さからゆるめるモ!にどハマリしました。そうこうアイドルオタクをしているうちに、知り合いのアイドルオタクから「アイドルグループを作るのだけどどんな楽曲の方向性がいいか」と相談されて「シューゲじゃないですかね~」とか答えて(笑)。少女閣下のインターナショナルとかヤバ要素多めのアイドルも好きだった経緯もあり、シューゲイザー的な「エモさ」とアンダーグラウンド感のある「ヤバさ」を軸にするのはどうとか話しながら、楽曲面で関わり始めました。
こば>そんなみきれちゃんですが、これまでバンド経験やリリース経験があるとは言え、音源制作においてのMIXやmasteringに関しては知識はありましたか?
み>これがエンジニアがいる環境でレコーディングした事がなかったんですよ。バンドをやってた時もバンドメンバーがMTRでレコーディングしてましたし。かつ、人に歌ってもらって自分が判断するような事も無かったので、ドッツの最初のレコーディングでエンジニアさんに「どうですか?」って聞かれても「いいと思います!」としか言ってなかったです(笑)。ただ、MIX段階になると気になるところが結構出てきて20回くらい修正してもらったことを覚えてます。エンジニアさんには、コイツ知識も経験もないけど、ガチっぽいなと、異常に熱意のある奴と見られてたみたいです。
こば>アイドルでいうと曲がたまったからアルバムにするというパターンが多いと思いますが、今回の『Green』のような明確なコンセプトに沿って作られた作品ってあまりないですよね?
み>代代代の『MAYBE PERFECT』とかは正しくそうですよね。
こば>MIGMA SHELTERの『ALICE』とか。
み>コンセプトアルバムって受けないイメージがありますが、10年後も聞かれるようなものというか、コンセプチュアルに作るのであればそういうものを残したい思いはありました。
こば>あの完璧と思えた『Pink』ですら『Green』の後に聴くとボーカルが稚拙に感じるという恐ろしい事態になってますがこれはいったい…
み>ひとつはメンバーの歌唱力・表現力の向上ですね。3年やってレコーディングにも慣れて、自分の歌声がどうアウトプットされるかがある程度分かってきていたこともあり、メンバーから録り直しを要求してきたりということも多々あった作品群です。エンジニアさんもこんなに真摯に自分達の曲やレコーディング取り組むボーカルはバンドでもなかなかいないと言ってました。例えば、まのちゃんには無感情な淡々とした歌い方を指示する事が多かったのですが、「ナイトバード」である時突然陽気で温かみのある声で歌いだしたんです。え!って思ったんですげど、それがめっちゃハマってたんですよね。聞くと「自分なりにこういう表現がいいんじゃないかと思って」と言っていました。
こば>ここでアイドル楽曲における個性問題に切り込みますか?笑
み>正規音源でのボーカルの個性というか、メンバーの独自性って、そのメンバーのファンであれば当然嬉しいですが、アイドルファンに閉じずより広く届けようとすると、ある種無味無臭なボーカルの方が届きやすい、個性が逆に障害になり得るといまだに思っているところはあります。RAYはメンバーが変わっても録りなおさずそのままリリースしてきているのですが、実はそういう文脈もあったりします。でも、無機質に歌いつつもあふれ出てしまう個性というのは間違いなくあると思うし、そこを楽しんでもらえたらとも思います。
■『Green』全曲解説
・逆光
4thワンマン「PRISM」の開幕曲で、サウンドのハレーションが起こるところで照明も逆光ハレーションするイメージから作りました。パフォーマンスと公演のイメージからを曲作りをした珍しいパターンの曲です。「PRISM」は「楽曲をアレンジしまくる」というコンセプトのかなり力のこもった公演で、新パフォーマンス20曲、新曲9曲、新規アレンジ曲9曲という狂った内容でした。ここで楽曲的に様々新しい試みにチャレンジできたことが『Green』に大きな影響を与えていて「逆光」はその象徴的な1曲かもしれません。このタイミングでギターが8万円のFender JapanのJazzmasterから23万円のFender USAのJazzmasterに変わり、楽器の質が露骨に出た曲でもあります。ギタートラックが10本くらいあるのですが、サウンドに厚みと階層性を作るためにプラグイン上のアンプ種類、マイキング位置、EQはじめ鳴っているギターごとに様々な微調整をしています。楽器の方で言えばピックアップ位置を変える、カポ・フレット位置による微妙なテンション感の違いなどもかなり試しました。イントロレスな音楽が流行するご時世に反して、RAYはイントロや間奏、アウトロが長い曲が多いのですが、「逆光」は歌唱が2フレーズしかなくあとは音とダンスで勝負という楽曲になっていて、その点ではRAYを象徴する曲にもなってるかもしれません。
・わたし夜に泳ぐの
cruyff in the bedroomハタユウスケさん制作曲です。完璧すぎてあまり言う事が無いです(笑)。ハタさんとはドッツの頃から何度もお仕事をさせていただいていて、僕のオーダーを完全に理解して楽曲に昇華してくださるので、制作途中でほとんど言うことがない状態なんです。実はものすごくスルッと生まれた曲なのですが、それはハタさんのRAYへの深い理解と愛情、オーダーした楽曲テーマへの以心伝心があるからだと思います。楽器代理店MIXWAVEのスタジオでボーカルレコーディングをしたのですが、数千万円するapiの卓と一流ミュージシャンクラスのSoyuzマイクといった機材環境で、アルバム通して聞くと浮いてるくらい声の質感が違います。
・Gravity
「楽曲派」の曲はしばしば洋楽にリファレンスを持ち日本人作家がトレースする形を取りますが、リファレンスミュージシャンにそのまま発注した方がいいのでは?という思いが昔からあり、そういう前例をたくさん作りたいと思っています。「Gravity」を制作してくれたDaniel Knowlesの所属するAmusement Parks on Fireは昔から大好きなバンドで、EMOとシューゲイズを架橋する、いそうであまりいないタイプのバンドです。「サテライト」はDeafheavenがリファレンスではと言われたりするのですが、実はAmusement Parks on Fireにインスピレーションを受けた曲なんです。『Pink』収録の「Meteor」制作時は、制作してくれたRingo deathstarrとのやりとりにエージェントに入ってもらっていたのですが、「Gravity」はDanielさんと直接やりとりをしていて、そこは少し大変でした。「裏で鳴ってる単音リードギターの空間系のエフェクトをもうちょっと効かせて欲しい」を英語で伝えようとGoogle翻訳を駆使してメールしたら「頑張って英語で伝えようとしてくれてることには感謝するけど、何を言ってるか分からないんだ」と返信きたり(笑)。
・ムーンパレス
「ムーンパレス」、「スカイライン」、「ナイトバード」と続く管梓さんによる三部作の導入曲です。コロナ禍初期に「こんな状況だからオンライン上で(=映像ありきの)一つの物語を連作的にアウトプットしよう」と管さんと三部作を企画しました。アナログシンセサウンドの効いたシンセウェーブ曲「ムーンパレス」、パワーバラードなインターリュード「スカイライン」を挟んで、デジタルなシンセを押し出したエレクトロシューゲイザー曲「ナイトバード」と、電子音×シューゲイズの組み合わせで緩やかに80年代、90年代、00年代を旅するようなイメージです。そんな意図もあり「ムーンパレス」のLyric Videoはドット絵の映像作品になっています。
・TEST
元々吉田一郎さんのクリエイティブ、プレイ(12939db、NINE DAYS WONDER、ZAZENBOYS、吉田一郎不可触世界)が大好きで、いつか楽曲制作を依頼したいとずっと思っていました。楽曲制作を依頼したいミュージシャンはたくさんいるのですが、グループの時期的な方向性や、予算感、もちろん先方のスケジュール都合もあり、なかなかタイミングが難しかったりします。ずっと焦がれていた吉田さんに改めて発注したいと思ったタイミングで『Green』で電子音要素を強める構想がある程度イメージできるようになりました。第一線で活躍するミュージシャンなので、クリエイティブ面だけではなくマインド面でもすごく影響を受けた制作でした。こういう出会いが嬉しくてアイドル運営をしているところはあるかもしれません。
・17
クリエイター、イベンター、関係者からすごく人気がある曲です。もちろんいい曲だと思っていますが、なぜここまで人気があるのかよくわかっていません(笑)。制作者のKei Torikiさんはポストブラックメタルバンド明日の叙景のメンバーですが、いわゆるバンドサウンドだけでなくIDM的なDTMサウンドも得意な器用な方です。Torikiさんとの制作は、Aphex TwinとCOALTAR OF THE DEEPERSの融合を狙った「Blue Monday」、ど直球激情ハードコアを目指した「星に願いを」と、デジタル→バンドサウンドときて、「17」はその中間的な曲になったように思います。実はこの曲のリファレンスはMETAFIVEです。
・スカイライン
管梓さん三部作の第二部、インターリュード的な位置付けの曲です。当初はアナログサウンド〜デジタルサウンドの架橋的位置付けを狙っていましたが、管さんのアイデアでパワーバラードといういい意味での異物感が入り込み、かなり面白みが出たと思います。気づかれているかわかりませんが、実は三部作とも「ふわぁー」という同じアンビエント音が楽曲の背後で鳴っていて、サウンド的な繋がりもこっそり持ち込まれています。インターリュードで曲間を繋ぐ作法はありがちですが、影響を受けたのはThe 1975と管さんの所属するFor Tracy Hydeです。The 1975のインターリュードの使い方はとても綺麗で知的です。For Tracy Hyde作品中のインターリュードも必然性があり、直接聞いたわけではありませんがThe 1975の影響があるのではと思っています。と、ここまでインターリュードについて話しておいてあれなのですが、実はアイドル楽曲の作品でインストインターリュード曲はライブで使いにくいこともあってあまり効かない感覚があり、なのでポエトリーリーディングという選択をしました。
・コハルヒ
僕はYUKIの大ファンなのですが、「コハルヒ」制作者のTomoya MatsuuraさんはYUKIの「センチメンタルジャーニー」の作曲者です。Matsuuraさんは底抜けにポップで優しい作品を作る一方で、monocismという超ストイックなマスロック・シューゲイズバンドもやっている方です。monocismとはTotal Feedbackの台湾ツアーでご一緒して、素晴らしいサウンドを鳴らしていて、それに合わさって大好きなYUKIの曲も制作されているということで必然的なオファーだった気がします。「スカイライン」と「コハルヒ」の間にクロスフェードがはいるのですが、これはサウンドエンジニアさんのアイデアで、「スカイライン」を境にした作品の世界転換が表現されています。
・Rusty Days
2ndシングル『Yellow』収録曲ですが、シングル収録時の僕が組んだMIDIドラム、演奏したベース、ギターが気に食わなかったので全て録り直しました。ドラムは生ドラムに変更、ベースは信頼できるベーシストJun Yokoeさんに演奏を依頼、ギターも試行錯誤して録り直しています。当初はHartfieldのような疾走感のあるシューゲイズサウンドを目指していたのですが、僕の能力ではあのキラキラした感じがどうしても出せなかったので、もう少しオーソドックスなギターロックに落ち着けました。「PRISM」ではドラムのみ変更、『Green』ではさらにベースとギターが変更、と段階的に変わりながらアウトプットされてきた曲です。僕は作詞がとても嫌いなのですが、「Rusty Days」の歌詞はよく書けたような気がしていて、YUKIの「長い夢」にインスピレーションを受けています。
・レジグナチオン
死んだ僕の彼女ishikawaさんの制作曲です。RAYはお披露目まもない頃から死んだ僕の彼女の「彼女が冷たく笑ったら」をカバーしていて、Total Feedbackでの共演などもありながら、ishikawaさんに制作いただけることになりました。「レジグナチオン」というタイトルは「前向きな諦念」という森鴎外由来の言葉で、この言葉の持つ不思議な後ろ向きな雰囲気をアイドルが歌ったら面白いのではないか、というアイデアから生まれています。
・透明人間
17歳とベルリンの壁のYusei Tsurutaさんの制作です。17歳とベルリンの壁とは何度も共演させてもらっていて、いつかTsurutaさんに制作いただきたいと思っていました。実はデモ段階では2曲提示してもらっていて、「透明人間」の原型と、もう一つは17歳とベルリンの壁節が効いた王道歌モノシューゲイズ曲でした。かなり悩んだのですが、『Green』のイメージがほぼ固まっていた頃だったので、そこに収まりの良いと判断した方のデモで制作を進めることにしました。「タナトス」とか「台踏み出した」とか暗い歌詞が頻出するのですが(笑)、レジグナチオン→透明人間の流れは『Green』のなかで最も鬱っぽいパートです。この2曲が『Green』全体の雰囲気を引き締めてくれていると思います。バックで「チャカポコチャカポコ」したパーカッションループが入っているのですが、いわゆるギターポップ感にいい意味での違和感を持ち込んで独特の雰囲気をだしてくれています。
・しづかの海
アイドル×シューゲイズを表現するにあたって、僕がディレクションしてきた曲で最も適切、というか名刺代わりになる曲だと考えているのが実は「しづかの海」です。ドッツの楽曲ラインナップからわざわざこの曲を選んだのも、曲にかなり自信があるというのが第一にあります。蛇足かもしれませんが、「なぜドッツの曲を再録するのか」という点にも触れると、1つは「より良い形でアウトプットできたな」という感覚があることと、2つ目は「RAYは知っているけどドッツは知らなかった」という方に、自信のある曲をきっかけに「アイドル×シューゲイズにこんな曲があったんだ」ということや、受け継がれるDNA的なものを知ってもらいたいという思いがあります。『Pink』に収録された「サテライト」、「スライド」についてもおおよそ同じ文脈からの収録になります。「しづかの海」も「PRISM」でのアレンジ対象で、「PRISM」では生ドラム、生ベースで再録した上にストリングスも大幅な変更を加えました。ですがこのストリングスアレンジが意図的に不協和音を押し出すアレンジで、あまりにも強烈すぎたのでそこからストリングスアレンジを引き算したアレンジが『Green』には収録されています。「PRISM」きっかけで生演奏での再録を様々試しましたが、「しづかの海」は最もうまくその効果が出た曲で、劇的にダイナミックになりました。For Tracy Hydeのリズム隊である草稿さん、Mavさんのタッグに演奏をお願いしたことが大きいと思います。
・愛はどこいったの?
「わたし夜に泳ぐの」と同じcruyff in the bedroomのハタユウスケさんの制作曲です。2020年のTotal Feedbackのコンピレーションに収録された曲で、2年越しでRAYからの音源として発表されました。メンバーはライブでさらっと歌うのですが、実は音階が複雑でRAYの中でも歌唱の難易度がかなり高い曲です。ハタさんには「難しいメロディを作ってメンバーの歌唱力がそれに追いつかねばならないような曲にしたい」とオーダーしていて、落ちサビで露骨に歌唱が全面化するのも、剥き出しの歌唱で勝負する環境設計みたいな意味合いがあったりします。ハタさんはRAYへの愛と理解がものすごく深い方なので時点時点のRAYへの宛書きのような歌詞を書いてくれるのですが、この曲の歌詞は特にそうした色合いの強い曲です。
・ナイトバード
管梓さん三部作の第三部曲です。すでに話したように三部作はコロナ禍に対するオンライン的な試みを意図していたのですが、三部作の制作期間があまりに長すぎて、いつの間にか「みんなで拳をあげてシンガロングするような曲」というコロナ禍が明けて以降の未来志向のモチーフが入り込んできました(笑)。それが要所で入ってくる「オーオー」というパートです。アナログ的世界から始まり、インターリュードを挟んできた電子音×シューゲイズの旅は、「ナイトバード」のエレクトロシューゲイズサウンドで終わりを迎えます。分かりやすくM83がリファレンスになっています。
・Rusty Message
これも「PRISM」絡みでアレンジを試行錯誤した曲です。「PRISM」では僕が打ち込んだMIDIドラムだったのですが、まだやりようがあるなと思い『Green』収録版についてはマニピュレーターのYoshiki Niiokaさんにドラムを整えてもらいました。NiiokaさんはMIDIドラムを生っぽく聞かせるのことが上手な方です。僕は何でもかんでも生ドラムであればいいとは思わないタイプで、この曲についてはNiiokaさんのMIDIドラムがハマりそうだと判断し依頼しました。また『Green』でMIXに最も時間をかけた曲で、エンジニアさんとスタジオにこもってギターのバランス、ストリングスの鳴り、ボーカルの処理・質感、展開の微妙なオートメーション処理など数十パターンは試しました。cruyff in the bedroomやAIRといった良き邦シューゲイズを僕なりに解釈した曲です。
・Message
ボーナストラック的な位置付けを意識した曲です。実は「Rusty Days」、「Rusty Message」、「Message」は三部作になっています。どれも意図的に似たメロディにしていて、似たメロディだけどトラックの作りがギターロック、シューゲイズ、アコースティックと変わることで全く違う曲に聞こえるという、編曲寄りの実験がしたかった感じです。「同じ人間が作ったからメロディが似てるのか」ではなく、「似てるけどトラックでこんなに変わるのか」を目指しました。元々トラックはメンバーに演奏してもらおうと思っていて楽器の練習もしていたのですが、最終的に納期に追われて全て僕が演奏することになり、数少ない『Green』の後悔ポイントです。
以上、1万字に及ぶRAY楽曲ディレクターみきれちゃんインタビューいかがでしたでしょうか?『Green』が並々ならぬ熱量と偏執的なこだわり(笑)で生み出された事がお分かり頂けたかと思います。
2022年9月19日、RAYは新体制となり新たな航海へと漕ぎ出しました。船出は好調!メンバー、運営、レーベル一同、アイドルエンターテイメントの極北(頂点ともいう)に向けて邁進いたします。最後までお読み頂きありがとうございました!
(Lonesome Record/エクストロメ!!主宰 こばけん)