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シカゴのジャズレーベルInternational Anthem、11年間の歩み | 原 雅明ringsプロデューサー解説

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 シカゴのジャズレーベルInternational Anthem(IA)が11周年を迎える。マカヤ・マクレイブンやジェフ・パーカーなどを輩出し、いまや世界中に多くのファンをもつ大レーベルとなった彼らの歩みを、レーベルと関係の深い国内音楽レーベルringsのプロデューサーであり、音楽ライターの原雅明の解説でお届けする。記事は、カタログの紹介を含むため、これからIAの音楽を知りたい、聴きたいというリスナーの方々も必見の内容となっている。

構成:原 雅明 – Masaaki Hara
編集:篠原 力 – Riki Shinohara(OTOTSU)


Artist : Gilles Peterson
ジャイルス・ピーターソン

Title : Gilles Peterson Presents International Anthem
ジャイルス・ピーターソン・プレゼンツ・インターナショナル・アンセム

レーベル : rings
フォーマット : CD​, Digital

 

 International Anthem(IA)は、2012年にシカゴでスコット・マクニースとデヴィッド・アレンによって設立された。レーベルの初リリースは、コルネット奏者、作曲家のロブ・マズレクのアルバム『Alternate Moon Cycles』だった。マズレクはシカゴ・アンダーグラウンド・デュオやアイソトープ217°の活動で、トータスと共にシカゴのポストロック・シーンの発展にも深く関わった。マクニースが働いていたバーで企画したライヴ・シリーズで録音されたのが『Alternate Moon Cycles』だった。マズレクのコルネットとアイソトープ217°のメンバーだったマット・ラックスのベース、ミケル・パトリック・エイブリーのオルガンというトリオでの演奏は、ジャズとドローン、アンビエントを繋げる、昨今のアンビエント・ジャズと称されるサウンドに先駆けるものだった。それが、IAのスタートとなる音楽だった。
 マズレクやジェフ・パーカーのように、ポストロックと歩みを共にした、ジャズを出自とするミュージシャンたちの活動は、IAが誕生する下地を作ったと言える。そして、AACMに代表されるシカゴの前衛ジャズの伝統と、ポストロックを誕生させたインディ音楽のアイデンティティを、2000年代以降に台頭してきたジャズの新世代と結びつけたのが、IAだった。IAは2024年にレーベル設立10周年を迎え、今年は新たなディケイドを歩み出したことで、「IA11」シリーズと名付けて『Alternate Moon Cycles』の再発をはじめ過去のレガシーを紹介するリリースとイヴェントを展開している。

 ここでは、これまでringsで国内盤として紹介してきたタイトルを中心に改めて、IAのリリースを振り返っていきたい。まず、チャールズ・ステップニーの『Step by Step』はIAが初めて、過去の音源を発掘してリリースしたアルバムだ。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのプロデューサーとして知られたステップニーが自宅で録音した音源をIAがリリースできたのは、新世代の一人であるベーシストのユニウス・ポールがステップニーの音楽に影響を受けて、遺族との信頼関係を築いた結果だった。マカヤ・マクレイヴもそれをサポートした。また、トランペット/マルチ奏者でSZAの『SOS』にも参加しているレザヴォアことウィル・ミラーも、ステップニーからの影響を感じさせる音楽性を有している。『Resavoir (Second Album)』はアンサンブルのアレンジに特に光るものがあり、IAのリリースの中でも、作曲家としての魅力をアピールしているアルバムだ。

 IAはシカゴのみならず、ロンドンとも深い結び付きを形成してきた。ロンドンのジャズ・シーンの支えとなってきたトータル・リフレッシュメント・センターを拠点に活動するアラバスター・ デプルームのリリースは、最も印象的なものだった。パンク・バンドのヴォーカリストからスポークンワードのパフォーマーとなり、サックスを習い、障害者の自立支援団体の一員として音楽を介したコミュニケーションにも携わってきたという異色の経歴を持つデプルームの表現は、IAと自然と繋がった。彼の『GOLD』や『Come With Fierce Grace』は、音楽性は違えども、IAが大切にしてきたベン・ラマー・ゲイやエンジェル・バット・ダヴィドといったパフォーマーたちの表現と並べることができる。また、ノース・ロンドン出身のサックス奏者、作曲家のキャシー・キノシもIAが高く評価する才能だ。作曲家としてラージ・アンサンブルの可能性を追求した『gratitude』は、初演のライヴ音源をマクニースが気に入ってリリースまで漕ぎ着けた。

 また、IAは、ニューヨークでもトミンことトミン・ペレア=シャンブリーという新たな才能を発見している。スローソン・マローン1ことジャスパー・マルサリス(ウィントン・マルサリスの実息)も在籍したスタンディング・オン・ザ・コーナーの一員だったトミンは、ムーア・マザーを擁するイリヴァーシブル・エンタングルメンツや、故ジェイミー・ブランチが率いたフライ・オア・ダイといったIAがリリースしたグループとも交流を持ってきた。ジャズのレガシーにオマージュを捧げながらも、独自のアートフォームを探求しているマルチホーン奏者だ。

 そして、シカゴから移り住んだジェフ・パーカーが、LAで築き上げてきたものがIAのリリースに与えた影響は大きい。パーカーが『The New Breed』と『Suite for Max Brown』で成し得たビートとの融合はもちろんのこと、ソロ・ギターの『Forfolks』や緩やかな変化のある長尺の演奏を展開するETA IVtetの『The Way Out of Easy』は、一つのシーンを形成するサウンドとなった。ETA IVtetに参加したジョシュ・ジョンソンやアンナ・バターズは並行して、グレゴリー・ユールマンやジェレマイア・チュウらとSMLでミニマルでエレクトロニックなジャズを展開している。また、ユールマンとジョンソンはサム・ウィルクスを加えたトリオの『Uhlmann Johnson Wilkes』で、ミニマルなアンサンブルとアンビエントを融合させた。これらの元を辿るとすべてがパーカーから始まっていると言っても過言ではないだろう。それは、カルロス・ニーニョを中心に形成されていったアンビエント、ニューエイジ、スピリチュアル・ジャズを包括するような音楽と共に、いまのIAの核となる音楽となっている。

 もちろん、IAの音楽性はこれだけに留まるものではない。多様性を失うことなく一貫したスタンスを築き上げてきたことは、ジャイルス・ピーターソンがコンパイルしたIAのアンソロジー『Gilles Peterson presents International Anthem』からも伝わってくることだ。今秋、IAがトータスの16年ぶりとなる新作をリリースすることは大きな話題だが、音楽の背景にある文脈と過程を常に尊重してきたIAの活動が、世代を繋ぐ次のステップへと歩み出したことを象徴する出来事でもある。

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Artist : Gilles Peterson
ジャイルス・ピーターソン

Title : Gilles Peterson Presents International Anthem
ジャイルス・ピーターソン・プレゼンツ・インターナショナル・アンセム

レーベル : rings
フォーマット : CD​, Digital

Track List
DISC1
1. Chicago, January 13th, 2020 (Gilles Peterson: Gilles Peterson presents International Anthem)
2. The Jaunt (Makaya McCraven: In the Moment)
3. Asé (Junius Paul: Ism)
4. Taking Flight (feat. Brandee Younger) (Resavoir: Resavoir)
5. The Creator Has A Master Plan (Dezron Douglas & Brandee Younger: Force Majeure)
6. Open The Gates (Irreversible Entanglements: Open the Gates)
7. We Are Starzz (Angel Bat Dawid: The Oracle)
8. Abstract Dark Energy (Parable 9) (Rob Mazurek, Exploding Star Orchestra: Dimensional Stardust)
9. The Most Amazing Time (Gilles Peterson: Gilles Peterson presents International Anthem)
10. Rebuild A Nation (Damon Locks, Black Monument Ensemble: Where Future Unfolds)
11. A Shot in the Dark (Dos Santos: City of Mirrors)
12. In/On (Daniel Villarreal: Panamá 77)
13. Pokemans (Anna Butterss: Mighty Vertebrate)
14. Industry (SML: Small Medium Large)
15. Snåcko (Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer: Recordings from the Åland Islands)
DISC2
1. Cliche (Jeff Parker: The New Breed)
2. And Then The Anointing Fell (Jamire Williams: But Only After You Have Suffered)
3. Please, wake up. (Carlos Niño & Friends: More Energy Fields, Current)
4. Voice and Tongo Experiment (Thandi Ntuli with Carlos Niño: Rainbow Revisited)
5. Quiet as it’s Kept (Tom Skinner: Voices of Bishara)
6. Next time I keep my hands down (Ruth Goller: SKYLLUMINA)
7. A Gente Acaba (Vento Em Rosa) (Alabaster DePlume: GOLD)
8. Old Fashioned Chicago Music (Gilles Peterson: Gilles Peterson presents International Anthem)
9. theme 001 (jaimie branch: FLY or DIE LIVE)
10. Angela’s Angel (Tomin: Flores para Verene / Cantos para Caramina)
11. Melancholia (Asher Gamedze: Turbulence and Pulse)
12. MESTIZX (Brownswood Basement Live) (Ibelisse Guardia Ferragutti & Frank Rosaly: Gilles Peterson presents International Anthem)
13. Oh Great Be The Lake (Ben LaMar Gay: Open Arms to Open Us)
14. Step on Step (Charles Stepney: Step on Step)

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