トロピカル・ファンク・バンドof Tropique (=オブトロピーク)が新たに制作中のフル・アルバムには、小林ムツミ (民謡クルセイダーズ / ムンビア・イ・スス・カンデロソス)、moe (民謡クルセイダーズ)、ワダマンボ (カセットコンロス)、長久保寛之 (エキゾチコ・デ・ラゴ)、ロッキン・エノッキー(ジャッキー&ザ・セドリックス)、八木橋恒治や、クマイルスの西岡ディドリー、和泉美紀、サムット野辺、さらにUSのニューウェイヴ・ラテンの旗手であるミラマールの全メンバーやチチャ・リブレのジョシュア・キャンプといった国際的かつ多彩なジャンルでいて、それぞれを代表するミュージシャン達が参加。既存のカテゴライズに抵抗するように、まるで極彩色のおもちゃ箱のような無国籍音楽を紡ぎ出している。
“トロピカル”であり”エキゾ”であり”モンド”。この音楽をどう形容すれば良いのだろう?
その答えを求めて、オブトロピークの近藤哲平とゲスト・ミュージシャンによる対談シリーズを連載としてお届けする。
第3弾となる今回は、ジャッキー&ザ・セドリックス(Jackie and The Cedrics)を筆頭に、サーフ、ガレージ、リズム&ブルース、ロックンロールのシーンを中心に名を馳せるギタリスト、ロッキン・エノッキー(Rockin’ Enocky)が登場。アルバムに参加したゲスト・ミュージシャンの中でも、とりわけ意表を突いたであろうロッキン・エノッキーと近藤との対話は、その人柄を示すように軽妙洒脱で愉快な掛け合いが繰り広げられることとなった。
取材/構成:森崎昌太
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◆Release Infromation◆

ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)
TITLE:Fishcake and Fortune / Here Comes Andi
LABEL:Pepei Records
CAT No:PPR-004
FORMAT:7″ Vinyl
PRICE:¥2,750(Tax in)
ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)
TITLE:Looking For My Foot Foot
LABEL:Pepei Records
CAT No:PPR-005
FORMAT:LP Vinyl
PRICE:¥4,950(Tax in)

●この楽器の「不自由さ」が、僕のフレーズを作ってくれてるんだと気づいたんです。(近藤哲平)
—— 5月にリリースされるオブトロピークのアルバムに合わせ、ゲスト参加者との対談連載をスタートさせています。テーマは実体の捉えづらい「トロピカル・ミュージック」というものをあえて一つのムーブメントとして提示する試みで、初回は意外な組み合わせである二人の出会いから掘り下げます。きっかけは覚えてますか?お二人のファンからすると、けっこう意外な組み合わせのような気がするのですが。
近藤哲平正直、最初にどこで会ったかは覚えてないですね。
エノッキーライヴハウスだよね、きっと。西荻窪のミントンハウスじゃないかな。トラッドジャズ系の店でやってたよね。
近藤哲平やってましたね。共通の知り合い経由か、同じ現場で打ち上げで話したか。でも、僕が最初にエノッキーさんを認識したのは高円寺のムーンストンプでのワンマン・バンドでした。
エノッキーバスドラとハイハットを自分で踏みながらギターを弾いてた頃だ。間が持たないから、ドラムを少しやってたので、ビートを出しながらやってました。
近藤哲平その編成でバディ・ホリーとかやっていて、あれが最高で。「これがロッキン・エノッキーか!」と思ったんですよ。そこから10年くらい、そろそろと近づいていって、ようやく今、隣に座ることができました(笑)
エノッキー話していて「面白い人だな」と思ったのは覚えてる。”アルバート式”っていう古いクラリネットを使ってるのも興味深かった。サックスとかと運指が違って難しいんでしょ?
近藤哲平よく覚えてますね。
エノッキー管楽器は吹けないんだけど、興味はすごくある。浜松の楽器博物館に行くと変わったクラリネットがたくさんあるでしょ。ああいう系統の話ができる人が周りにいなかったから面白かったんだよね。
近藤哲平アルバート式は今のクラリネットより穴の数も少ないし、指遣いも違う。ニューオリンズ・ジャズの人にはいますけど、ポピュラー・ミュージックのフィールドで吹いてる人は、僕以外ほとんどいないんじゃないかな。
エノッキー何が魅力でそれを使ってるの?
近藤哲平結局は「音色(トーン)」ですね。僕のは120年前の楽器なんですけど、実は一度、修理中に少し新しめのアルバート式を使ったことがあるんですよ。そしたら運指がやりやすくて、指が動く分、フレーズが複雑になりすぎちゃって。でも、自分はそれを望んでなかった。この楽器の「不自由さ」が、僕のフレーズを作ってくれてるんだと気づいたんです。
エノッキーそれ、いい話だね。何でもできちゃうと、つまんない方向に行っちゃう難しさがあるから。制約がある中で生み出す工夫こそが、聴き手に届く魅力になる。
近藤哲平究極、打ち込みやAIなら何でもできちゃいますからね。人間らしい「バグ」や「間違い」が楽しいんです。
エノッキー今回のレコーディングもそうだったよね。俺なんてほぼ間違いみたいな演奏だけど(笑)、それを哲平くんが面白がってまとめてくれる。
——レコーディングの時にも、間違いが面白いという話がありましたね。
近藤哲平そう。「間違いは再現できない」ですからね。レコーディングを頼むと、大体の人は考えてきたものを最初に出してくれるけど、それはあまり使わない。むしろ、どうやって“間違えさせるか”。そこで出たものが面白い。
エノッキー完璧にうまくいくものを壊そうとするんだよね(笑)。
●ただ、正統派なんて最初はそもそもないんですよ。パイオニアと呼ばれる人たちはみんな、こきおろされてきたわけで。(ロッキン・エノッキー)
近藤哲平かつての「モンド・ミュージック」の本みたいに、真面目にやってるんだけど何かがズレちゃった面白さってありますよね。僕はそういう「バグ」みたいな音楽が好きなんです。
エノッキージャンルの隙間や、発展途上の過渡期にある音楽って魅力的だよね。僕はサーフ・インストから入ったけど、二番煎じにならないネタを探しているうちに、いろんなレコードを片っ端から聴いていたら、変なオーケストラのレコードとかも好きになっちゃった。
——今回のアルバムを聴いてみてどうでしたか。
エノッキーエキゾチックな曲が並びつつ、日本的なフレーズがちらっと出てきたりするんですよね。阿波おどりみたいなリフが一瞬顔を出すけど、狙っていないからこそ引っかかる。ビートはロックもファンクもバラードもあって面白い。
近藤哲平今回はいろんな人を呼んでいるけど、フレーズの指定はほとんどしていない。投げてみて、何が出てくるか。呼んでいるのは信頼している人ばかりだから、悪いものは出てこない。
——エノッキーさんに弾いてもらうイメージはあったんですか。
近藤哲平この曲は、エノッキーさんの演奏をイメージして書いたんですよ。ファンとして「この曲で弾いたらどうなるだろう」という感じで聴いてみたかった。自分のやりたいことを実現する機会でもあります。
エノッキー誘ってもらえるのは嬉しい。普段と違う場所に呼ばれると緊張するけど、刺激がある。適当に油断させられて、気づいたらやらされている感じも含めて楽しい。
—— エノッキーさんが弾いている曲も、並べて聴くと違和感がないのがすごいです。
近藤哲平ロックの人を入れたいと思っていたんですよ。エノッキーさんはジャッキー&ザ・セドリックスで、レジェンドでありつつ、音楽マニアで幅広く聴いている。50〜60年代の変なインスト周辺の空気も知っているから、どんな曲調でもはまると思っていたんです。
エノッキーぶつけて化学変化というのはやってみたくなりますよね。ミクスチャーは皆さん好きなわけですから。でも、かたやこれぞ正統派みたいなのもある。ただ、正統派なんて最初はそもそもないんですよ。パイオニアと呼ばれる人たちはみんな、こきおろされてきたわけで。聴いたことないし全然馴染まないし、そういった変人扱いされていたはず。正統派にならなかった人ももちろん好きだけどね、波に乗れなかった人にも愛おしさがある。
近藤哲平時代に取り残された人たちが面白い。
エノッキー最近、テキサスのウエスタンスイング(=Western Swing)の団体からメダルをもらったんですよ。
—— なんと。テキサスでですか?
エノッキーそう、テキサスの古い音楽。いわゆるウェスタンスイングの流れですね。たとえばテキサス・プレイボーイズ(=Texas Playboys)っていう有名なバンドがあって、リーダーのボブ・ウィルス(=Bob Wills)はロックンロール・ホール・オブ・フェームとカントリーの殿堂の両方に入ってる。
—— そんなに評価されている存在なんですね。
エノッキーもともとはヨーロッパ、特にアイルランド系の移民が持ち込んだフィドル音楽があって、それがアメリカ南部の初期ブルースと混ざる。三度や七度がフラットする、あの独特の響きですよね。そこにジャズの要素も加わっていく。ボブ・ウィルス自身、ベッシー・スミス(=Bessie Smith)が好きだったって言ってるし。
近藤哲平ブルース以前のブルース、みたいな。
エノッキーそうそう。いわゆる“ホワイトブルース”って言われたりもするけど、エリック・クラプトンみたいなロック以降の話じゃなくて、もっと前段階の話。そこからスイング時代に入っていく。ジャズとも違うし、カントリーとも言い切れない。ちょっと時代遅れにも見えるけど、独自に発展していった。
———エノッキーさんがそこに惹かれたきっかけはあるんですか?
エノッキー高校生の頃はブルースが好きだったんです。でも掘っていくと、「カントリー」と括られている中に、実は変なジャズやストリングバンド的な要素があると気づく。管楽器も入っていたりして。ジャンル分けでは説明できない混ざり方が面白かった。
近藤哲平フェンダーとの関係もありますよね。
エノッキーそう。僕はフェンダーのギターが好きなんだけど、レオ・フェンダー自身がそのウェスタンスイングのファンだった。彼らに使ってもらうためにスティールギターやストラトキャスターを開発したと言われている。フェンダー社内にも、そういう系統のギタリストがいたりして。
—— それで実際にテキサスへ?
エノッキー二十年くらい前かな。まだインターネットも今ほど機能していない頃に調べて、現地に行った。年配の人が多い世界で、1940年代後半にフェンダーのエンドーサーだったようなサイドマンとも知り合えた。自分にとってはスターですよ。
近藤哲平すごい世界ですね。
エノッキー通い続けていたら、国際親善みたいな形で、ある団体から表彰状をもらったんですよ。カウタウン・ソサイエティ・オブ・ウェスタン・ミュージックっていう団体。
近藤哲平カウタウン?
エノッキーフォートワース周辺の、いわゆる“牛の町”を象徴する言い方ですね。州知事のサイン入りの証書で、「永久会員にする」と書いてあった。僕は正式な会員じゃなかったんですけど、日本から来てるからってことで受け入れてくれて。
—— 現地ではどんなことを?
エノッキーセッションです。参加者はほとんど80代。でもなぜか孫世代、20代の若い人も混ざってる。家族で音楽が受け継がれているんでしょうね。
近藤哲平音楽的にはどんな特徴があるんですか?
エノッキーフィドルチューンの2コード進行みたいな曲を、コードを6つ7つに細かく分解してジャズ的に弾く。アコギはズンチャカじゃなくて、ベースラインを入れながらコードワークする。そこにドラムが入るとスイングになる。歌のときは2ビート、ソロでは4ビートに変わる。完全にミクスチャーですね。テキサス的混交。
●だから“遠くの世界”を音でつくる。エキゾチックって、そういう欲望なんじゃないかな。(ロッキン・エノッキー)
近藤哲平若い人もやっているんですか?
エノッキー少数派だけどいるし、つながってるんだよね。家族で演奏する文化があるんでしょうね。バーベキューで演奏したり。子どもの頃から自然にフィドルを弾くようになる。しかも日本のスズキ・メソードで学んでる子も多いんですよ。
近藤哲平あ、あのヴァイオリン教育の。
エノッキーそう。テキサスの田舎でスズキ・メソード、っていうのが面白いですよね。ローカルでありながら、実はグローバルでもある。
—— ジャンルの枠を超えて混ざり、世代を超えて受け継がれているんですね。
エノッキーうん。だから単なる“カントリー”じゃない。ブルース、ジャズ、ヨーロッパ民謡、全部がテキサスという土地で混ざった音楽。その雑種性が好きなんです。
近藤哲平無国籍というか、でも確実に土地の匂いがある。
エノッキーそう。混ざっているのに、ちゃんとテキサスなんですよね。
近藤哲平アメリカのスーパーに行くと普通にオーティス・レディングとかサム・クックが流れてたりするんですよ。向こうの人は、好き嫌いは関係なく、そういうクラシックな音楽に触れる機会があるし演奏する機会もあるから、アバンギャルドな音楽とかストイックな音楽をやっていても、カントリーとかブルースとかも知ってるんですよね。
エノッキーそういうのをやろうと思ったらできるもんね。
近藤哲平すぐにできるだろうし、フレーズの端々にそれが出てきたりとかね。そこはかなわないな、とは思いますよ。
—— でも、それこそさっきの運指の話じゃないですが、制限されているからこそやれることもいっぱいあるわけですよね。
近藤哲平そうですね。それが「モンド・ミュージック」みたいな。行ったことない国の音楽を想像してやる。
エノッキー「エキゾチック」ってそういうことみたいですね。
——そうなんですか。
エノッキーたとえば“知らない場所”を想像することというか。現地の民族音楽もそうなのかもしれないけど、どちらかというとそことは関係のないところの、たとえば都会にいる人が勝手に想像した南国、みたいなものも含まれているのかなって。
近藤哲平でも“トロピカル”はともかく、“エキゾチック”って言葉自体は、必ずしも南国限定じゃないですよね。日本だと南の島を思い浮かべがちですけど、本来は単に“ちょっと違うもの”とか、“見慣れないもの”って意味合いに近い。
エノッキーそうそう。昔はスーパーカーのことを”エキゾチック・カー”って言ったじゃないですか。あれも別に南国じゃない。見たことない形とか、異様なフォルムとか。スペースサウンドみたいな宇宙的なものだってエキゾチックって言うでしょ。自分の住んでいる日常の延長線上にないもの。それだけでいいのかもしれない。
近藤哲平うん、たぶん“自分の外側”にある感じですよね。
エノッキーアメリカのスリフト・ショップに行くと、ボロボロのレコードがどうでもいい値段で山積みになってて。そこにアーサー・ライマンとか、YMOも参考にしたようなレコードが大量にあるんですよ。50〜60年代の人たちが、普通にリビングでBGMとして聴いてたのかなって想像すると面白い。ジャズでも“Chinatown My Chinatown”(William Jerome / Jean Schwartz)みたいな曲とか、異国をテーマにしたものってすごく多いじゃないですか。それっぽいフレーズをちょっと入れてね。
近藤哲平あの“うさんくさい”感じね(笑)
エノッキーデューク・エリントン(=Duke Ellington)の”Caravan”とかもそうだけど、ああいう“ジャングル感”とか、遠い世界への憧れって、やっぱりあるんですよね。現実は普通だからね、毎日。つまらないから。
——日常の外にあるもの、ですよね。
エノッキーそう。だから“遠くの世界”を音でつくる。エキゾチックって、そういう欲望なんじゃないかな。
——今回のアルバムを聴いていて思うのは、モンドとかエキゾって、実は作品全体に通底しているなって。リスナーとして最高なんですけど、マーケティングも考えなきゃいけない立場なので、これをどう市民権のある言葉にして伝えていくのか、というのはとても悩むんですよ。
近藤哲平難しいところですね。“トロピカル”は、ある意味”エキゾチック”なのかもしれないですね。なるべく“南国感”を排してるんですよ。もちろん南国も嫌いじゃないけど、一般的に浮かぶハワイアンとかスチールパンのほのぼの感とは違う。
エノッキー民族音楽系でもないしね。
近藤哲平そう。ちょうどいい言葉が足りない。
——まさにそこなんですよね。言葉がない。
近藤哲平個人的には“モンド”とか“エキゾ”が一番しっくりくるけど。
エノッキーでも、言葉で伝えられないものがいいんじゃない?
近藤哲平それ言っちゃったら終わりでしょ(笑)
エノッキーそうか。それ言っちゃおしまい(笑)。でもやっぱり言語化はしたいよね。文学的にでも。
近藤哲平それをやったのが『モンド・ミュージック』って本なんじゃないかな。いろんなジャンルをまとめて“モンド”ってパッケージにした。

●「最近始めたんだよ」とか言ってフィドル取り出してギコギコ弾き出したら、それはそれで最高じゃないですか(笑)。(近藤哲平)
エノッキー今回ほぼインストだよね。全部インストかと思ったら歌が入ってて。あれは新鮮だった。
近藤哲平初の歌モノです。
エノッキー日本語とクメール語の掛け合いのとか。(The Theme of Kitaro Okuwa)あれはすごいね。歌モノとかインストとか、あんまり区別してない感じも面白いよね。デモ段階ではたまたまああいう曲順で入ってるから、余計に「関係ないんだな」って思ったというか。同じ並びで、分け隔てなく配置してる感じがあった。
近藤哲平まあ、どっちでも音楽だろ?みたいな(笑)。
——最後のラテン・プレイボーイズ(=Latin Playboys)のカバーも本当はボーカル曲です。
近藤哲平そうそう。ボーカルもののカバー。このカバーは、最後までボーカルのメロディーが出てこないのが肝なんですよ。一番最後にやっと出てくる。
エノッキー昔の曲って、ワンコーラス全部やってからボーカル入る、みたいなのあったよね。今だったら、Apple MusicとかSpotifyで聴くでしょ。最初だけ聴いて「これインストか」って飛ばしちゃう人もいるかもしれない。でも半分以上いってから歌が来る、みたいな。
——「歌あるんかーい」って(笑)
近藤哲平前奏長すぎるって言われそう。ちなみにセドリックスはボーカルは?
エノッキーみんな歌うよ。インストで売ってるけど、ライブではやっぱり歌もあったほうがいいなと思って入れてる。この前ね、カリフォルニアでサーフ・インスト系のフェスに呼ばれて。いわゆる筋金入りのオタクたちの祭りみたいなやつ。そしたら直前に主催者から「できればほぼインストでやってほしい」って言われて。歌ものは3割まで、とか指定が出てきて。
——3割ですか(笑)?
エノッキーそう。ヒゲ、メガネ、帽子、半ズボン、ビーサンのおじさんたちがずらーっといて。俺より年上の人もいっぱいいる。みんなエレキ・ギターの音がとにかく好きで集まってる。でも自分のバンドは、そういうコアな世界を目指してるわけじゃなくて。昔のバンドみたいに、インストもやるけど、普通にロックンロールもやる、みたいな。適当な感じのね(笑)。なんか、インスト至上主義みたいな最先端があって、でもそれって時代に合ってるのかどうかもわからない。しかも若い人、全然来ないんだよ、そのフェス。
——なるほど。
エノッキー奥さんと一緒に来てたりしてね(笑)。でも、「あなたの知らない世界」ってほんとにあるなと思った。インスト、好きなんだよ。でもずっと聴いてると飽きるよなって思う。ちょっと歌もあったほうがいい。でも歌ばっかり聴いてたら、今度はインスト聴きたくなるでしょ。結局、両方やりたいだけなんだよね。ストイックに「インストだけ」って人もいるけど、それはそれで幸せそうだったよ。好きなことしかやらないっていう潔さ。
——やっぱりギターの音が好きで来てるんですかね、お客さんは。
エノッキーそうだね。エレキ・ギター至上主義の世界。ドラムもベースも聴いてるんだろうけど、やっぱりギター。自分もギタリストだから、その気持ちはわかるんだけど。でも「ここまでなるんだ」っていう感じはあって(笑)。面白いよ。面白いけど、話してると「全然かなわないな」って思う。
——今回、ギタリストもいろんなタイプの方が参加していらっしゃいますね。
近藤哲平ワダさんとかね。八木橋さん、長久保さん、あとクマイルス(=Les Khmers)の西岡くんも。
——一緒にやりたいギタリストがそれだけ多かった、ということですか?
近藤哲平まあ、そこはね、実は全然考えてなかったんですよ(笑)。たとえばクマイルスに関しては、フロントの2人にボーカルを頼みたくて。でも、ちょうど対バンする機会があって、その時に実際にステージでのギターを聴いていたら「あ、このギターを入れたら面白いんじゃないか」ってその場で思いついちゃって。
——その場の直感だったんですね。
近藤哲平そう、計画性はあまりないんです。
エノッキーじゃあもし俺がギターで呼ばれたのに、デモを聴いて別の楽器持ってきたりとかしててもよかったの?(笑)
近藤哲平全然大丈夫でしたよ。「最近始めたんだよ」とか言ってフィドル取り出してギコギコ弾き出したら、それはそれで最高じゃないですか(笑)
エノッキー「呼んだ甲斐がないな!」っていう(笑)。メイン楽器を禁止されるとかね。「哲平くん、今日はクラリネット以外で頼む」みたいな。苦肉の策で(笑)
近藤哲平僕の好きなThe Shaggs(シャッグス)なんてまさにそれですよ。「ユニゾンできてないだろ!」っていう。でも、あれは狙ってできるものじゃない。
エノッキー長く続けてスタイルが確立される前の、あのヘタヘタな感じが最高なんだよね。
——確かに。どんなものでも続けたら上達して、こなれてきちゃいますもんね。
エノッキーそう、こなれるんです。3つぐらいしか音使えなくて、デデデデデデしかできないんだけど、そのデデデがすごい上手い、とかね。「ドミソなら俺に任せろ。それしかできませんけど」っていうピンポイント(笑)。ドミソだけの需要なかなかないですからね。
——そこで専門性を獲得してくわけですね(笑)
エノッキーもっとすごい「ドドド」だけのやつが現れたりして。一個の音しか弾けなくても、ビートさえ良ければいい。周りが動いていればソロとして成立するんですよ。一生懸命やってる熱意が伝わってくる方が魅力的じゃないですか。
——そうですね。上手すぎても逆に伝わらないことがあります。
エノッキー上手い人が適当にやってるのって、不思議と魅力がないんです。昔のスタジオミュージシャンが、食うために流行りのサーフミュージックを「こんなの逆立ちしてもできるよ」って片手間で録った音とか、綺麗だけど全然面白くない。それより、子供が必死に頑張って録った下手なガレージパンクのシングル盤の方が、後で聴くと「宝物」だったりする。上手かろうが下手だろうが、熱意が伝わればどっちでもいいのかな、と。
近藤哲平余裕で弾けてしまったら、熱意なんていらなくなっちゃいますからね。
エノッキーでもかたや職人というか名人芸のような、そういう良さもあるじゃないですか。すごいうまい人。
近藤哲平ありますね、ため息が出るような人いますからね。
エノッキー結局は「魅力」があるかどうかなのかな。めちゃくちゃステージ上で暴れまわっている人がかっこいい場合もあるし、逆に全然見た目もパッとしないけど微動だにせず物凄い速弾きを弾いてて「なんかすごいなあいつ、たぶんちゃんとした社会生活送れてないだろうな」って(笑)。そういうある種の狂気が魅力というかね。
近藤哲平スライドギターの名手のボブ・ブロズマンっていたじゃないですか。彼は亡くなったのですが、事故の後遺症で思うように弾けなくなったことが苦で、自ら…という説があるんです。真偽は不明ですが。
エノッキー音楽ができなくなったことがそれほどショックだったのかな……。普通は「死んだ方がマシだ」なんて言いながら別の楽しみを見つけるものだけど、彼なら本当にそうしてしまうかもしれない、と思わせる凄みがありましたね。
●少しでもはみ出そうとする。その積み重ねが音になる。大げさな革命じゃなくて、ほんの少しの偏り。(ロッキン・エノッキー)
エノッキー昔、ボブ・ブロズマンのワーク・ショップに行ったことがあって。その時に参加してた人たちが質問していくんだけど、最後に「音楽で一番大事なものは何か?」と聞かれて。少し考えてから最初は「ビートや間合いだ」と言ったんです。でも、すぐに「待て、違った。一番大切なのは気持ちのいい『トーン』だ。それが全てだ」と言い直したんですよ。トーンさえ良ければ、メロディがシンプルでも聴ける。
近藤哲平それ、すごくわかります。マイルス・デイヴィスだって結局ずっとトーンの話をしてたって言いますし。ロングトーンだけは毎日でもやれって。僕が古いクラリネットにこだわるのも、結局はそこに行き着くんですよね。
エノッキー技術が上手いか下手かよりも、その人の人間性が出るトーンがあるかどうか。今回のアルバムも、そういう「キャラクターのあるプレイ」をする人ばかりが集まってる。だから、聴いていて違和感がないし、ずっと聴いていられるんだと思うよ。
——エノッキーさんもトーンに対するこだわりはありますか。
エノッキーこだわるように心がけてはいるんだけど、でも妥協しちゃったりもするよね。理想通りなんてまずない。ただ、人の演奏を聴いてて「うまいけど惜しいな」って思う瞬間があるんですよ。フレーズはいいのに、トーンがちょっと違うとか。そこが気になり出すと止まらない。
近藤哲平フレーズって譜面に書けるし、説明もできるじゃないですか。でもトーンは書けない。解析はできるかもしれないけど、再現はできない。トーンってすごく感覚的なものだと思うから。そこに執着してる人って、ちょっと狂気に近いと思うんですよ。
エノッキーなるほどね。確かに、理想の音を追いかけていくと、どんどん細かいところに入っていく。誰かが録音した音源を、自分の好みの鳴り方で聴きたいっていう欲望もそうだしね。あれはある意味、終わらない夢ですよ。
——その“狂気”って、どこか肯定的な響きがありますよね。
近藤哲平昔は完全に褒め言葉でしたよね。「音楽バカ」とか「変態」とか。今は「いい意味で」をつけないと危ない。でも、創作ってやっぱり少しズレてないと面白くならない。
エノッキーそうそう。別に社会に反抗したいわけじゃないけど、普通のままだと音も普通になる。だから“狂ってる”って言われるくらいの偏りは、むしろ必要なんですよね。
——その偏りが、今回の作品の“無国籍さ”にもつながっている気がします。
近藤哲平僕は無国籍なものが好きなんですよ。どこにも属してない感じ。でも、自分一人だと作り方が分からない。だからエノッキーさんみたいな“偏った人”を呼ぶ(笑)。そうすると、自分の想像してない歴史とか手触りが入ってくる。
エノッキー無国籍って言うけど、材料はどこかから来てるんですよね。ただ、混ざったときに実体がぼやける。それが面白い。狙ってやるというより、結果としてそうなる。
——でも今って、無国籍とかエキゾチックって感覚が薄れてきている気もします。ネットで全部聴けるから。
近藤哲平そうなんですよ。関連ページばっかり出てくる。「これが好きな人はこれも好き」って。効率はいいけど、”想定外”に出会いにくい。
エノッキーエキゾチカって、本来は“知らないものに触れるドキドキ”だったんですよね。昔は海外の音楽自体が未知だった。でも今は全部アクセスできる。だからこそ、逆に偶然の体験が貴重になる。
近藤哲平この前、渋谷のタワレコで試聴してたら、家でも聴けるはずの曲にめちゃくちゃ感動したんですよ。でも家のパソコンで同じ曲を聴いても、たぶんそこまで感動しない。
エノッキー外にいるからじゃない? 制御できない場所にいるときの方が、感覚が開くんじゃないかな。本屋ってさ、大型書店がだいたいなくなっちゃって、みんなネットで買ったりするけど、たまに本屋行くと本好きだから、バーッて見ると、余計なものを買っちゃって読まない、みたいなね。レコードもそれに近くて。その時は気持ちが上がってるから。それだけでいいってちょっと前向きに思うよね。なにかしらのインスピレーションを受けてるはずじゃん。聴いてないし読んでもないんだけど。
——それ、創作にも通じますよね。
エノッキーそう。アイデアって、机に向かって「来い」って待ってても来ない。満員電車とか、寒い帰り道とか、そういうどうしようもない状況のときにふっと来る。コントロールしてないときの方が強い。
近藤哲平だから、今回の作品も、ある意味では“制御しすぎない”ことを大事にしてる気がします。無責任なエキゾチカって案外、そういう意味かもしれないですね。
エノッキー責任感のあるエキゾチカなんて、ちょっと息苦しいでしょ(笑)。音楽って、どこか逃げ場であってほしい。だけど、ちゃんと未来に残る可能性もある。
——未来に残るというと?
エノッキー全部の音源が消えて、このレコードだけ残るかもしれないじゃないですか。もし残るなら、その中に自分の“狂気の断片”が入ってたら嬉しいなって。
近藤哲平確かに。情報は無限にあるけど、残るものは限られる。その中に入るとしたら、やっぱり少し変なものの方が強い。
——結局、トーンも狂気も無国籍も、全部“少しズレること”なのかもしれませんね。
エノッキーうん。少しでも良くしようとする。少しでもはみ出そうとする。その積み重ねが音になる。大げさな革命じゃなくて、ほんの少しの偏り。
近藤哲平その偏りが、誰かにとってのエキゾチカになるかもしれないですしね。
——制御できないものを、完全には握らないまま作品にする。それが今回の核心かもしれません。
エノッキーうん。それでいいと思う。全部説明できないまま、ちょっとだけ残る。それが音楽なんじゃないかな。
●PROFILE
▼ロッキンエノッキー/Rockin’ Enocky
1964年東京中野生まれのギタリスト。 1990年、サーフバンドのJackie & The Cedricsを結成。アメリカ数十ヶ所を始め、フランス、スペイン、中国などでもライブを行う。 2000年にEnocky and His Guitarというソロアルバムを発売。 アメリカ、イギリス、日本各地でワンマンバンドのスタイルでライブを行う。バリトンサックス奏者の浦朋恵との バンド(Rockin’ Baritones)や、ダブルベース奏者のトネーロと組んだデュオ、ドラムの大澤公則を迎えたENOCKY & THE TOP HANDSなどで活躍中。 カントリー、ウエスタンスウィング、R&R、 アーリージャズ、etcなどに根ざした演奏を続けている。
▼of Tropique (オブトロピーク)

近藤哲平(clarinet)、田名網大介(bass)、藤田両(drums)
クラリネット、ベース、ドラムの3人によるエキゾチック・ファンク・バンド。
2018年にイラストレーターのオタニじゅんと制作したアートブック『La Palma』(オークラ出版)を発表。架空の南の島での冒険を描いた楽曲群がヨーロッパで話題となり、フランスでは2つのラジオ局で同時に特集が組まれた。
2021年より米ワシントンD.C.のElectric Cowbell Recordsから作品のリリースを続け、これまでにアメリカのみならずフランス、ドイツ、イタリア、クロアチアなど欧米各国のラジオ局で楽曲がオンエアされている。2023年のアルバム 『Buster Goes West』(Electric Cowbell Records)は複数の海外メディアで年間ベストにランクインし、Bandcampにインタビューと特集記事が掲載された。また、AppleやGimletをはじめ複数の欧米企業で楽曲が使用されている。
国内では映像作品への参加も多く、東海林毅、冨永昌敬監督作品の音楽やアパレルブランド等への楽曲提供を行う他、『彼女のウラ世界』『僕の手を売ります』などTVドラマの音楽も担当している。
2025年にはアルゼンチンの人気ミュージシャンRolando Brunoとのスプリット・シングル(Electric Cowbell Records)を発表した。
