トロピカル・ファンク・バンドof Tropique (=オブトロピーク)が新たに制作中のフル・アルバムには、小林ムツミ (民謡クルセイダーズ / ムンビア・イ・スス・カンデロソス)、moe (民謡クルセイダーズ)、ワダマンボ (カセットコンロス)、長久保寛之 (エキゾチコ・デ・ラゴ)、ロッキン・エノッキー(ジャッキー&ザ・セドリックス)、八木橋恒治や、クマイルスの西岡ディドリー、和泉美紀、サムット野辺、さらにUSのニューウェイヴ・ラテンの旗手であるミラマールの全メンバーやチチャ・リブレのジョシュア・キャンプといった国際的かつ多彩なジャンルでいて、それぞれを代表するミュージシャン達が参加。既存のカテゴライズに抵抗するように、まるで極彩色のおもちゃ箱のような無国籍音楽を紡ぎ出している。
“トロピカル”であり”エキゾ”であり”モンド”。この音楽をどう形容すれば良いのだろう?
その答えを求めて、オブトロピークの近藤哲平とゲスト・ミュージシャンによる対談を、
シリーズ連載としてお届けする。
第4弾となる今回は、リーダー・バンドであるムンビア・イ・スス・カンデロソス(Mumibia Y Sus Candelosos)で日本から発信する新世代のクンビアを布教し続け、民謡クルセイダーズのパーカッショニストとして世界を駆け抜けるムーピーこと小林ムツミが登場。全12曲中8曲でコンガやボンゴを叩き、影のメンバーともいえる小林と旧知の仲である近藤との対談は、四ツ谷のタイ料理バル「ラブエイジア」の絶品料理と酒も加わり、熱気を帯びたものとなった。
取材/構成:森崎昌太
協力:ラブエイジア四ツ谷
▼第1弾(オブトロピーク・メンバー)はこちら▼

▼第2弾(×Ryota Watanabe)はこちら▼

▼第3弾(×ロッキン・エノッキー)はこちら▼

◆Release Infromation◆

ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)
TITLE:Fishcake and Fortune / Here Comes Andi
LABEL:Pepei Records
CAT No:PPR-004
FORMAT:7″ Vinyl
PRICE:¥2,750(Tax in)
ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)
TITLE:Looking For My Foot Foot
LABEL:Pepei Records
CAT No:PPR-005
FORMAT:LP Vinyl
PRICE:¥4,950(Tax in)

——今夜はよろしくお願いします。
小林ムツミえ、これどういう感じなんですか?わたしが哲平さんに逆インタビューする感じですか?
——どう転んでも大丈夫です(笑)。プロモーションになるので。
近藤哲平ムーちゃんはもう、ほぼメンバーだからね。
——準メンバー、準レギュラーというか。
小林ムツミ影のメンバーですね。
近藤哲平ほぼ全てのレコーディングに参加してるんじゃないかな、多分。
小林ムツミかなあ。うーん、最初のアルバム以外ですね。あの時はまだ知り合いでもなかったので。
近藤哲平そう、最初の『La Palma』は参加してないね。
——どういうきっかけで知り合ったんですか?
近藤哲平どこからだろう? 僕、本当に記憶がなくて。
小林ムツミ私も負けないよ(笑)。私の記憶だと、ムンビア(Mumbia Y Sus Candelosos)のライブに哲平さんが来て、話しかけてくれたのが最初。場所は渋谷のThe ROOMだったと思います。
近藤哲平あ、ROOM行ったよ。
小林ムツミそうそう。ムンビアが初めて音源を出したか出してないかくらいの時。
近藤哲平まだ出してなかったと思う。
小林ムツミ私がショルキー(ショルダー・キーボード)とか色んな楽器をやっていて、それが面白くて話しかけてくれたのかな。
近藤哲平でも、なんで見に行ったんだろうね。
小林ムツミ哲平さんは元々フットワークが軽いから。2018年以降ってことかな。年代を覚えるのが一番苦手。でも、そのあたりですよね。
近藤哲平その後、交流ができて。最初はオブトロの7インチ(Wooo / Zoro)の録音に参加してもらったんだっけ。
小林ムツミ国立(くにたち)の、エスパー清水さんのあの未知な場所で。あそこはすごい場所でした。
●ムーちゃんは「この曲はこのリズム」という決まった型に嵌めようとしないし、そこが相性がいいんだと思う。(近藤哲平)
近藤哲平そこでやったのが最初だけど、その前にライブも一緒にやってたかもしれない。
小林ムツミ突然ストイックなレコーディングに呼ばれて。哲平さんがバンバンとアイデアを言ってくるんですけど、全然何を言っているのか分からないの(笑)。昔のインタビューにも書いてあると思うけど、「もっと下手っぽく叩いて」とか。基本、無茶苦茶なことが多いですよね。
近藤哲平いや、そういうの好きでしょ?笑。
——間違いが欲しいんですよね。
小林ムツミいい言葉ですね、「間違いが欲しい」。
近藤哲平そう、間違いはマジックだから。再現できないから。それからずっと、7割8割くらいの音源に参加してもらっていると思います。
小林ムツミそういえば、ライブでショルキーを弾き間違えた時、「今日のそこが一番良かった」って言われました。弾き間違いに気づいて、そこを褒めるんだと思って。
近藤哲平それは覚えてないけど(笑)、間違いは大事。今回のアルバムも8曲くらい参加してもらっているけど、録音はめちゃくちゃ早かったね。
小林ムツミそうですね。「はい、次、はい、次」って感じで。
近藤哲平3時間か4時間くらい? ほぼワンテイクかツーテイク。ムーちゃんは優秀なミュージシャンだから、僕の表情から何を求めているか的確に読み取ってくれる。
小林ムツミ違う時は、哲平さん違う顔をするから。
近藤哲平あるレコーディングで、僕が作ったパーカッション入りのデモを渡したことがあって。ムーちゃんがそのパターンを踏まえて練習してきたんだけど、僕が「そうじゃないんだ、ゼロからやってくれ」って言ったことがあった。たぶん、そういうやり取りを経て「こういうのを面白がるんだな」っていうのを分かってくれてる。
小林ムツミあ、分かってるのかな。
近藤哲平僕はもうムーちゃんに転がされているから。
——オブトロピークとして一緒にやるのはどうですか?
小林ムツミ楽しいですね。自由度が高いからやりがいがあるし、何でも許される感じ。
近藤哲平そうだね。
小林ムツミ色んな人とやっている哲平さんを見ていると、つまらないことをされると顔が強張る瞬間がある。でも私の時は大体笑顔ですね。「つまんねえ」と思うとすぐ顔に出るから。
近藤哲平口には出さないけどね。もめないように、その場を去るスタイル(笑)。
小林ムツミ常に楽しくありたいっていうプロ意識の表れですよね。お客さんを喜ばせたいという気持ちが強い。
近藤哲平それはあるね。お客さんが喜んでくれるなら、僕は楽器すら吹かなくてもいいと一瞬思うこともあるくらい。だから、ムーちゃんはオブトロではゲストだけど、ジャンルに縛られず無責任にプレイヤーとして楽しんでくれているのは嬉しい。
小林ムツミでも、ゲストみたいに扱われたことは一度もないですよ。なんか「常にそこにいる人」みたいな感じ。
近藤哲平オブトロの黒幕というか、ビートルズにおけるジョージ・マーティンみたいな存在だね。
——改めて、今回の作品のレコーディングを振り返ってみてどうですか?
近藤哲平ムーちゃんは素晴らしかった。最初にドラムとベースを録って、後からパーカッションを乗せてもらったんだけど、本当にスムーズだった。マイクプリ(音を増幅させる機材)の使い勝手が分からなくて、つまみをいじって調整する方に時間がかかったくらい。
小林ムツミ哲平さんが個人じゃ買えないような高い機材を借りてきたんですけど、使い方が分からなくて「どうやるの?」ってずっと言ってて。
近藤哲平そのコツを掴むまでは時間がかかったけど、演奏自体はほぼワンテイク。ミックスでも編集はほとんどしていない。そのまま。
小林ムツミ怖い、まだ細部まで聴いていないから。
近藤哲平やっぱりトロピカルな音楽はパーカッションが肝だから。誰がやるかで出来が全く違う。ムーちゃんは「この曲はこのリズム」という決まった型に嵌めようとしないし、そこが相性がいいんだと思う。
小林ムツミ変なことをすればするほど喜んでくれるし、怒られない。変なことをやるのにもセンスが必要だと思うんですけど、そのベクトルが合っているんでしょうね。
近藤哲平最初のレコーディングで、何も頼んでいないのに「鳥笛」を持ってきてくれた時から、そういうところを評価しているよ。
小林ムツミそこなんだ(笑)。鳥笛がポイントだった。哲平さんはプロデューサーというかディレクター体質ですよね。この前飲んでいる時に、映像(映画)をやっていた時代の話をしていて、「ああ、だからなのかな」って腑に落ちたんですけど。
近藤哲平自分はプレイヤーというより、リスナー寄りなんだと思う。クラリネット奏者になりたくて生きてきたわけじゃないし。音楽を面白くやりたいって思ってやってるうちに、気づいたらたまたまクラリネットを吹いているだけでね。
●惹かれるものには理由がないというか。やりたいことと自分の感覚が合わさる場所がクンビアだった。(小林ムツミ)
——小林さんはどうしてパーカッションだったんですか?
小林ムツミ高校生の時にヒッピーカルチャーにどっぷりな友達に影響されて。
近藤哲平この人はレイヴ上がりだから。高校生なのに山に行って大人に揉まれてた。
小林ムツミ別に揉まれてないですよ(笑)。私は元々クラブカルチャーが好きで。同時にワールドミュージックもパンクもハードコアも、立川の進学校に通いながら全部浴びていた感じ。
近藤哲平ゲットー上がりと教育を受けた人間が出会ったというストーリーにしようよ(笑)。
小林ムツミ西東京はレゲエ文化も強いし、国立の「FUKUSUKE」で飲んでいたらピアニカ前田さんやこだま和文さんが普通にいたりした。レゲエは大好きだし常に身近にあったけど、自分がやろうとはならなかったな。
——クンビアはどうして好きになったんですか?
小林ムツミ惹かれるものには理由がないというか。やりたいことと自分の感覚が合わさる場所がクンビアだった。2013年頃かな。デジタルクンビア(ZZKレーベルなど)のDJカルチャーに刺激を受けて。当時は周りにクンビア好きなんて一人もいなくて、本当に孤独なスタートでした。コロンビアのフレンテ・クンビエロ(Frente Cumbiero)周辺を見て、「日本にもこんなシーンがあったらいいな」と思ってたら、一人また一人と仲間が増えていった。
—— ドラクエみたいですね。
小林ムツミそう、まさに(笑)。それが今のムンビアや民謡クルセイダーズ(以下、民クル)に繋がっていったんです。
——民クルはどういう流れで始まったんですか?
小林ムツミ吉祥寺の「バオバブ」でライブをしていた時に、DJをしていた水野さん(DADDY-U/民クル元ベーシスト)に初めて会って、数日後「今度スタジオでセッションするから遊びにおいで」って言われて。行ってみたらガチの民クルのリハだったんですよ。「騙された!」って。最初はサポートのつもりだったけど、そのままレコーディングが始まって、気づいたらジェットコースターみたいに忙しくなって。
近藤哲平俺がダイちゃん(田名網大介/オブトロピークのベーシスト)を誘った時と全く同じだね。
——日本のトロピカル・ミュージック・シーンをどう見ていますか?
近藤哲平一番走っているのはやっぱり民クルだよね。大衆がイメージしやすい民謡とラテンを組み合わせる発想はすごい。
——ムンビアもヒップホップのアーティストとの共演など、クラブ・シーンでもよくライブをしていますね。
小林ムツミ私が始めた頃は孤独だったけど、今はSNSを通じて世界と繋がっている。DJの皆さんが発信してくれて、海外から見ても「日本にシーンがある」と認識されている。スウェーデンの「クンビアサウンド(Cumbiasound)」と共同制作をしたり、世界中の気の合う人たちと直接繋がれる時代。ジャンルが細分化した分、ニッチなコミュニティが世界規模で連動している感覚があります。
近藤哲平ただ、僕の体感では、日本国内でそこまで横の繋がりが密にあるわけじゃない気がする。ボゴタ(コロンビア)の連中みたいに、みんなが複数のプロジェクトを行き来して……という空気感とは少し違う。
小林ムツミ哲平さんが一匹狼なだけでしょ!(笑)。交流はありますよ。
近藤哲平いや、もちろんリスペクトはあるけど(笑)。例えば「アフロビートをやる」となったとき、多くの人はアフロビートを研究して「再現」しようとする。でも、僕がやりたいのは再現じゃない。オブトロピークの場合、サルサにインスパイアされた曲を作っても、あえてサルサの専門家を呼ばなかったりする。別のジャンルの人を連れてきて、化学反応を見る。
——今後のトロピカル・ミュージック・シーンはどうなっていくと思いますか?
近藤哲平ムーちゃんにかかってるんだよ。民クルというトップランナーと、ムンビアというクラブ・シーンに根ざした活動の両方にいる。
小林ムツミそんなつもりは全くないです(笑)。私は無責任に、やりたいことをやって、その後に何かが残ればいいと思っているから。意識して「シーンを作ろう」とした瞬間に、音楽がつまらなくなる気がする。
近藤哲平その「無責任さ」が大事なんだよね。今回のアルバムも、マスタリングが終わっても「これ何のジャンルだろう?」って自分たちでも首を傾げるような仕上がりになった。クンビア、エキゾ、ラテン……それらのルーツを愛しながらも、未来に向けて実験を止めないこと。
小林ムツミ昔の音楽を踏まえた上で、いかに実験を楽しめるか。そこが共通点ですよね。
近藤哲平ありがとう。ムーちゃんみたいなパーカッショニストはなかなかいないから。専門的な人に頼むと「そのリズムはこうだよ」って怒られることもあるけど、僕は再現をしたいわけじゃないから。
小林ムツミ哲平さんは怒られたら逆ギレしそう(笑)。
近藤哲平ボゴタのミュージシャンみたいに、ルーツをリスペクトしつつも、もっと柔軟で実験的な姿勢を持つ人が増えたら、本当の意味でゴチャっとした面白いシーンができるんじゃないかなと思っています。
小林ムツミ哲平さんの、一小節ごとに音を修正したMixの話とか、もっとインタビューしたかったな(笑)。
近藤哲平それはさすがに言わないかな(笑)。
●PROFILE
▼小林ムツミ (ムンビア・イ・スス・カンデロソス / 民謡クルセイダーズ)

MUUPY の愛称で親しまれる打楽器奏者。 バンド「民謡クルセイダーズ」のメンバーとしてこれまでコロンビア、US、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、タイなど世界各地をツアーし演奏している。 自身のクンビアバンド「Mumbia Y Sus Candelosos」ではヒップホップやアフロビート、昭和歌謡などが入り交じる豊かな土壌に根を張った「東京オリジナルのクンビア」でフロアを熱狂させる。これまでピアニカ前田、Dub master X、Adrian Sabogal(Colombia)、Conjunto Media Luna(Colombia)、Cumbiasound(Sweden)等、多様なアーティストとコラボレーションしている。
▼of Tropique (オブトロピーク)

近藤哲平(clarinet)、田名網大介(bass)、藤田両(drums)
クラリネット、ベース、ドラムの3人によるエキゾチック・ファンク・バンド。
2018年にイラストレーターのオタニじゅんと制作したアートブック『La Palma』(オークラ出版)を発表。架空の南の島での冒険を描いた楽曲群がヨーロッパで話題となり、フランスでは2つのラジオ局で同時に特集が組まれた。
2021年より米ワシントンD.C.のElectric Cowbell Recordsから作品のリリースを続け、これまでにアメリカのみならずフランス、ドイツ、イタリア、クロアチアなど欧米各国のラジオ局で楽曲がオンエアされている。2023年のアルバム 『Buster Goes West』(Electric Cowbell Records)は複数の海外メディアで年間ベストにランクインし、Bandcampにインタビューと特集記事が掲載された。また、AppleやGimletをはじめ複数の欧米企業で楽曲が使用されている。
国内では映像作品への参加も多く、東海林毅、冨永昌敬監督作品の音楽やアパレルブランド等への楽曲提供を行う他、『彼女のウラ世界』『僕の手を売ります』などTVドラマの音楽も担当している。
2025年にはアルゼンチンの人気ミュージシャンRolando Brunoとのスプリット・シングル(Electric Cowbell Records)を発表した。
