2024年にSUMMER SONICで、2025年に単独公演として来日したTYLA(タイラ)の台頭を期に、それまでアンダーグラウンドのDJやプロデューサーの中で知られていた音楽ジャンル・アマピアノが音楽ファン、ユーザーの間でも認知されるようになって久しい。
この機会に、2025年12月17日にリード・シングルの7インチ『秘密 feat.CHIYORI』(JAR1)と、2026年2月4日にアルバム『JAPANESE AMAPIANO THE ALBUM』(JAR2)という日本国内でも恐らく初となるアマピアノ作品のレコード・リリースを控えたaudiot909による”アマピアノ”の解説文をお届けする。
TEXT:audiot909
編集・構成:森崎昌太
■Release Inforemation

■ARTIST:
audiot909
■TITLE:
JAPANESE AMAPIANO THE ALBUM
■RELEASE DATE:
2026.2.4 Wednesday
■LABEL:
JAPANESE AMAPIANO RECORDINGS
■CAT.NO:
JAR-002
■FORMAT:
LP
■PRICE:
¥4,840 (Tax in)
■ARTIST:
audiot909
■TITLE:
秘密 feat. CHIYORI / The Out Of Africa Hypothesis feat. 荘子it, TOMC
■RELEASE DATE:
2025.12.17 Wednesday
■LABEL:
JAPANESE AMAPIANO RECORDINGS
■CAT.NO:
JAR-001
■FORMAT:
7inch
■PRICE:
¥2,750 (Tax in)

改めて”アマピアノ”とはなんなのだろうか。
●Arthur Mafokate – Kaffir
アパルトヘイト以降の自由の象徴、そのサウンド・トラックとも評されることもあるクワイトは当時の若者文化や踊り、ファッション、つまりライフスタイルを表現していた。
90年代になり、アパルトヘイトが撤廃され、時代が確実に変わったことが反映され、当時手に入る機材や音楽理論教育へのアクセスなど限界を破り、自分たちの音楽を作るという気概が感じられる。
独特のハネ感、遅いBPM、腰にぐっとくるような独特の重心、何より現地の言葉によるボーカルが載ったことで「南アフリカ流」にアレンジされており、ただのハウスのローカライズ化だけでは説明ができない別物だ。
せっかくなのでもう一曲紹介したい。
TKZeeというユニットの大ヒット曲なのだが、なんと大胆にもEuropeというハードロック・バンドの楽曲をサンプリングしている。原曲の壮大なリフはそのまま使いつつも、当時のストリート感を反映した楽曲は痛快そのもの。
嘘か誠かわからないが、海外から取り寄せた45回転のハウスのレコードを誤って33回転でかけた際、それが爆発的にウケたという伝説がある。それがクワイトの独特なBPMに繋がっているというが、これは南アフリカではダンス文化が深く根付いていることに由来しているのではないだろうか。つまり、よりダンスがしやすい方向にBPMを落とし「南アフリカ流」にしたのではないかと推測している。
南アフリカでは海外の音楽が輸入された時、遅くしたり、リズムのアクセントを大幅に変えて、よりダンスしやすいリズムに変化させる傾向があるのは大変興味深い。
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では次にバカルディ(Bacardi、Barcadiとも)についても見ていこう。
90年代から流行したクワイトを経て2000年代に入り、南アフリカに三つある首都のうちの一つ、プレトリアで局地的に流行したローカル・ダンス・ミュージックがバカルディだ。
アマピアノが流行した時多くのアーティストが影響を受けたと公言されることが多い。
驚くべきことに、2000年代から2010年代に一部地域で流行した音楽が2020年代になり、現行の音楽に影響を与えていることになる。
No1アマピアノ・ラッパーであるフォカリスティック(=Focalistic)も「俺たちはみんなムジャバ(=Mujava / バカルディの代表的なアーティスト)の子供だ」とリスペクトを表明している。
日本でいうと名古屋でだけで局地的に流行った音楽が10年以上の時を経て隔世遺伝し全国に広がったようなものだと思うと不思議な気持ちになる。
Tohjiが浜崎あゆみから影響を受けたような時代を超えたインスピレーションともいうべき現象が起きていることは大変興味深い。
ローカルなハウス・ミュージックがなぜそこまでの影響力を持つか謎に思うかもしれないが、実際に聴いてみると、これとアマピアノが繋がっているのは即座に理解できる。
先ほども名前が上がった代表的なアーティストであるムジャバとDJ Spoko(=スポコ)の楽曲を聴いてみよう。
このベースのズーンといった進行や、シンセのリフ、跳ねたスネアのリズムを聴くと、これがハウスから派生した音楽というには、あまりにユニークな進化だ。
クワイトの時から独特のハネ感が搭載されていたが、さらにスネアやシンバルでアクセントをつけているのはアマピアノにそのまま引き継がれたと筆者は考える。
ストリートから生まれた音楽らしく、より荒々しく、ハードに踊るためのサウンドとして進化した印象だ。また、南アフリカ特有のハウス解釈というか、なぜかリズムがキックを中心としていないことが多いことも指摘しておきたい。
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クワイトとバカルディの理解も深まったところで、初期のアマピアノを聴いてみよう。
今や「アマピアノの王」として誰もが認めるKabza De Small(=カブザ・デ・スモール)の最初期のヒット曲だ。
この曲が出た前後で、それまでアンダーグラウンドな存在だったアマピアノが全国的に広がったという風に伝え聞く。
ハウスと比較すると遅いBPM、小さいキック、そして現地の言葉のボーカルが載ってすでにハウスのローカライズ化では説明できないアイデンティティを有している。
注目したいのがスネア。スネアとログドラムと呼ばれるベースを用いることによってグルーヴが作られているバカルディからの延長線にあると推測する。
ちなみにだがカブザは、出身は違えど、プレトリアで育ったので、バカルディを聴いていた可能性は高い。
その後、カブザとコンビを結成して南アフリカ、そして世界を席巻する相方DJ Maphorisa(=マポリサ)もプレトリアの近くのタウンシップ出身だ。アマピアノの歴史を掘っていく過程で必ずプレトリアは重要なキーワードとなるというが、実際ここまで調べていくと納得しかない。
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こうして一から歴史を紐解くと、90年代のクワイトから始まり、2000年代のバカルディがグルーヴの礎となり、2020年代に近づくにつれアマピアノとして生まれ落ちたことが判明した。決して突然変異のように生まれたわけではなく、南アフリカのグルーヴの結晶という自分の認識が正しかったらしい。
この機会にぜひ“Kwaito”や“Bacardi”などで検索して南アフリカのグルーヴを楽しんでもらえると幸いだ。
audiot909:
Japanese Amapiano Producer / DJ /Writer
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