ガロートをはじめジョアン・ジルベルト、エグベルト・ジスモンチ、トニーニョ・オルタ、ハファエル・ハベーロ、パウロ・ベリナッチ、ギンガ、さらには近年のヤマンドゥ・コスタやペドロ・マルチンスまで。ブラジルは個性豊かな多くの名手を送り出してきたギタリスト大国である。一方でこのグスタヴォ・インファンチは、ブラジルらしい流麗な超絶技巧を持つものの、これまでの系譜に属さない極めてオリジナルなスタイルを持っている。その実験的で音響的なアプローチはジョン・フェイヒィやジム・オルークなどから強い影響を受けているのかと思いきや、どうやらそうでもないらしいということもわかってきた。
そこで今回はグスタヴォ本人に、過去の名盤・名演から現代の名盤まで、ブラジルにおけるお気に入りのギタリストのアルバムを5枚選んでもらった。グスタヴォがどんなギター表現に心を動かされているのかがわかると同時に、ブラジル・ギターの歴史における彼の立ち位置を明らかにする内容になっている。
なお、ライナーを担当した原雅明氏による詳細なインタビューも後日アップされる予定だ。こちらもお楽しみに!
文・ディスクユニオン ラテン部門 / グスタヴォ・インファンチ
Text by Diskunion Latin / Gustavo Infante
グスタヴォ・インファンチ『パッサロス』
https://diskunion.net/diw/ct/detail/1008514227
ジョン・フェイヒィ~ジム・オルークの系譜にあるギターミュージックのエクスペリメンタル・サイドとミルトン・ナシメントなどクルビ・ダ・エスキーナの融合。 今もっともブラジルで先鋭的ともいえるミナスの音楽家、グスタヴォ・インファンチ(Gustavo Infante)の2ndアルバムを世界初CD化!! サム・ゲンデルらを擁するLAシーンで活動するブラジル人ギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメントの音楽性をさらに先鋭化させたともいえる、靄がかった深いエコーによる空間的なサウンドに、フィンガーピッキングでつま弾かれる超絶技巧のギター、そして歌。 カセットやアナログ・テープを録音に使用し、さらにディレイやリバーブなどのプロセスを経由することで時空間を歪曲させるかのような磁場を発生させ、しかしながら伝統に根差したソングライトにより超自然的な音世界を生み出すことに成功している。
■世界初CD化
■ライナーノーツ:原 雅明
Dorival Caymmi『Caymmi e Seu Violão』 (1959)
ドリヴァル・カイミは1914年生まれの歌手/作曲家。バイーアの文化風俗に根差した楽曲や歌詞で全国的な人気を博し、ジョアン・ジルベルトらボサノヴァ世代にも絶大な影響を与えたブラジル音楽の巨星である。本作『カイミと彼のギター』(1959)は、その名の通りシンプルな弾き語りが堪能できるアルバム。
For me, Caymmi is the foundation of the accompaniment guitar. In this album he brings a particular imagetic and rhythmic guitar. One of my favorite albums of all time. This album influenced me a lot due to the connection of Caymmi’s guitar in the construction of poetic images. As if his guitar were a soundscape, building a scenario, an ambiance for his singing. That aspect of the album influenced me a lot.
私にとってカイミは弾き語りにおけるギター演奏の基礎となる存在です。このアルバムでは、特にイマジネーション豊かでリズミカルなギターを聴かせてくれます。すべての作品の中で私が最も好きなアルバムの1つです。なぜなら、このアルバムは、ギターが詩的なイメージを構築する上で、大きな影響を与えているからです。ギターがサウンドスケープとなって、彼の歌のための情景や雰囲気を作り出しているのです。そういう意味で、このアルバムには大きな影響を受けました。
Baden Powell『À vontade』(1963)
バーデン・パウエルは1937年生まれのブラジルを代表するギタリスト/作曲家。アフロ・ブラジル音楽など、フォークロアを取り入れたボサノヴァの範疇にとどまらないギターで知られ、ブラジルだけでなくヨーロッパでも活躍した。多作なアーティストだが、本作はそんな彼のなかでも代表作とされる名門ELENCOに残した1964年作。
Classic in the discography of the Brazilian guitar, Baden will always be one of the pillars of the Brazilian guitar. “À vontade” influenced me in my search for the rhythmic diversity of Brazilian music on the guitar, in the freedom to use the rhythm, and also in creating dynamic contrasts on the guitar, working smoothness and explosion in the way of playing.
ブラジリアン・ギターのディスコグラフィーにおける古典、バーデンは常にブラジリアン・ギターの柱の1つです。『À vontade』が私に与えた影響は、 ブラジル音楽のリズムの多様性をギターで追求すること、リズムを自由に使うこと、またギターでダイナミックなコントラストを作り、演奏方法に滑らかさと爆発を生み出すことです。
Gilberto Gil『Ao vivo na USP』(1973)
ジルベルト・ジルは1942年生まれのシンガー・ソングライター。カエターノ・ヴェローゾらとともにトロピカリア・ムーブメントの旗手として頭角を現し、現在も活躍するブラジル音楽を代表する巨匠。本作は2017年にブラジルのレーベルDISCOBERTASによって発掘された1973年のライブ盤。
The guitar proves that it can be something transcendent in this live album by Gilberto Gil. This album influenced me in the freedom to fit the guitar with singing, in the independence of the guitar in relation to singing. How each of these two elements can be strong and potent in musical discourse, as if both were protagonists of the song. The guitar in the foreground along with the voice.
このジルベルト・ジルのライブ・アルバムで、ギターは何か超越した存在になりうることが証明されています。このアルバムは、ギターを歌に合わせる自由さ、歌に対するギターの独立性において、私に影響を与えました。この2つの要素が、あたかも両方が主人公であるかのように、音楽の対話においていかに強く、強力なものになりうるか。声と一緒に前景にあるギター。
Lello Bezerra『Desde até então』(2019)
ペルナンブーコ出身のギタリスト、レロ・ベゼーハの2019年作品。シバやカリーナ・ブールといった同郷のエクスペリメンタルな側面もあるアーティストとの共演や、サンパウロのR&B系シンガー、べべー(Bebé Salvego)のアルバムへの参加などでも知られている。音楽だけにとどまらないマルチジャンルへの興味を生かしたユニークなスタイルが特徴。本作はグスタヴォ・インファンチの1stアルバムも手掛けたセルジオ・マシャードがプロデュースしたデビューアルバム。
Lello brings a new meaning to contemporary guitar, making the instrument sound like machines, synthesizers and other things. This is the first album released by guitarist Lello Bezerra by Selo Bastet. It had a lot of influence on my quest to make the guitar, through processing and pedals, sound like other things that are not exactly from the guitar universe. As if the guitar sounded like another instrument or unimaginable sound.
レロは現代のギターに新しい意味をもたらし、この楽器を機械やシンセサイザーなどのように聴かせています。これはギタリスト、レロ・ベゼーハがSelo Bastetからリリースした1stアルバムです。このアルバムは、プロセッサーやエフェクトペダルによって、ギターをギターの世界のものではない、他のもののように鳴らすという私の探求に多くの影響を与えました。まるでギターが他の楽器や想像を絶する音のように聴こえるかのようです。
Kiko Dinucci『Rastilho』(2020)
サンパウロ・インディーを代表するギタリスト/作曲家、キコ・ヂヌッシによる2020年作品。バーデン・パウエルやドリヴァル・カイミ、ジョルジ・ベン、ジルベルト・ジルといったアフロ色濃厚なアーティストからの影響と、カンドンブレのスピリチュアリティを、自身の音楽的ルーツのひとつであるハードコア的フィルターを通じて表現。国外での評価も高く、インターナショナル盤もリリースされた。
Kiko brings an explosive single guitar, afro punk, passing through universes of deep Brazil and the concrete of São Paulo. “Rastilho” influenced me in the search for a more aggressive and dark sound on the guitar, in a look at a more explosive guitar, with a less clean and dirtier sound. I think explosion on the guitar is the best word to describe the feeling.
キコは、ディープなブラジルの宇宙とサンパウロのコンクリートを通り抜けて、ギター1本で爆発的なサウンド、アフロ・パンクをもたらします。『Rastilho』はクリーンではないダーティなサウンドで 、よりアグレッシブでダークなギターサウンド、より爆発的なギターを求めていた私に影響を与えました。ギターの爆発という言葉は、この感じを表現するのに最適だと思うんです。
グスタヴォ・インファンチ (Gustavo Infante)
ブラジル、ミナス・ジェライス州出身。作曲家、ギタリスト、歌手であり、レーベル、Bastetの運営にも携わる。2ndアルバム『Pássaros』は、プロセッシング(リバーブやディレイ)、ブラジルのリズム、テープループ、カセットテープ、声、ギターなどを使った彼の継続的な研究の結果である。すべてのトラックは、アーティスト自身が自宅でカセットテープやマイクロカセットに録音したもの。このアルバムは、空と大地と水の生き物である鳥(ポルトガル語でPássaros)を通して、自由、変容、夢、勇気、連帯などの詩的なイメージを表現している。