〈OTOTSU〉は、diskunion DIW によるデジタル・キュレーション&ディストリビューションサービスです。詳しくはこちら

現代の音楽シーンにおいてアウトサイダーであることを自覚しながら、揺るがない美意識を掲げる気高いロック・バンド——ギリシャラブ、4thアルバム『魔・魔・魔・魔・魔』リリースを記念して、OTOTSU独占インタビューを敢行!

  • URLをコピーしました!

ギリシャラブが通算4作目のアルバム『魔・魔・魔・魔・魔』を完成させた。2021年に前作『ヘヴン』を発表後、メンバーの脱退を受けて3人体制となった彼ら。ともすればバンドは窮地に陥ってもおかしくなかったが、むしろ3人はここでバンドの組織体系を改革。生まれ変わったギリシャラブの姿が、この『魔・魔・魔・魔・魔』という作品には確かに刻まれている。

アルバム・タイトルに5つ並べられた“魔”。そして、同じく作中で頻出する“聖”。ギリシャラブの首謀者・天川悠雅は、こうした相反する文字をあえて用いながら、世間の良識に揺さぶりをかけてくる。簡潔でありながらも含みを持ったリリック。その挑発的な言葉を醒めたトーンで放つ、天川の艶やかな歌唱。あるいはポスト・パンク経由の鋭角的なリズムにせよ、劇的な転調や仰々しいコーラスにせよ、そのサウンドは極めてエクストリームだが、あくまでも彼らはそれを3分間のポップ・ソングとして完結させていく。現代の音楽シーンにおいてアウトサイダーであることを自覚しながら、揺るがない美意識を掲げる気高いロック・バンド、ギリシャラブ。その新たな代表作となる一枚について、3人に話を聞いた。

取材・文/渡辺裕也(ミュージック・マガジン編集部)

——これまで僕はギリシャラブのことを、天川さんを中心としたバンドと捉えてきたのですが、その印象が『魔・魔・魔・魔・魔』を通じて変わりました。つまり、今作からは 取坂さんと守屋さんの個性を非常に強く感じているのですが、ご本人たちの実感はいかがですか。

天川悠雅 仰る通りだと思います。実際、これまでの作品では曲のディテールも僕が作ってたんですけど、今回は二人にほぼ任せていたし、そのおかげで今作は過去のどのアルバムよりもはるかにリッチでふくよかな作品になったなと思ってて。それこそ過去作と比べると、こんなにベースがよく聞こえる作品はなかったし。曲の作り方自体、けっこう変わりましたね。

——具体的にはどんな変化があったんでしょうか。

天川
 きっかけとしてひとつ大きかったのが、ライヴで同期を使わなくなったこと。それまでの僕らは同期の使用を前提とした曲がわりと多かったんですけど、そこに何かしらのヴィジョンがあったのかというと、特にそういうわけでもなくて。そんな時にライヴでちょっとした機材トラブルがあって、演奏中に同期がズレちゃったことがあって。それを機に同期の使用を一旦やめて、録音でも極力オーヴァーダブせず、ライヴでそのまま演奏できるような曲にしよう、という方針を自分の中で決めたんです。そうしたら自然と次に作るアルバムの方向性が見えてきて。

——同期をやめて音数も減らせば、ギターの取り組み方にもおのずと影響がありそうですが、取坂さんはいかがでしたか。

取坂直人 そうですね。以前はバンドにギターが二人いたので、自分はその都度バッキングに回ることもあれば、リードを弾いたり、その時々でシンセを弾くこともあったんですけど、今回はギター1本で重ね録りも極力やらないことになったんで、これまでと同じ意識ではダメだなと。符割とかもしっかり考えて、ここは全部ダウン・ピッキングで弾いたほうがいいとか、そういう地味なこだわりもかなり増えました。個人的には80年代のポスト・パンクみたいなことがやりたいっていう気持ちもありましたし、何より今回は自分がギターを弾くってことに迷いが一切なかったので、それが演奏にも表れた気がします。

——OTOTSUに掲載されていた一問一答によると、取坂さんは80年代ロシアのポスト・パンクにも関心をむけていたんだとか?

取坂 そうですね。『LETO -レト-』っていう映画を観たのがきっかけだったんですけど、ロシアのポスト・パンクって、けっこうフォーク寄りというか、めっちゃローファイなアコギの音が入ってたりするのが、けっこう面白くて。あと、“英語以外の言語”っていうのもわりと重要でした。普段なんとなく音楽を聴いてると、英語ばっかりになっちゃうじゃないですか。それがちょっとイヤなんですよね。

天川 うんうん。意識的に英語以外の歌を聴くことは僕も時々ありますね。

——それはすごく大事な感覚ですね。無自覚なまま英語詞の音楽を基準とせず、歌で用いられる言語に対してフラットでいたいと。

天川 わからなさの中に身を置くこと、自分が慣れていないものに触れることって、すごく重要だと思うんです。それは創作においてもそうだし、普通に生きていく上でもそう。逆に、よくわからない状態がずっと続くことをいやがる人は、創作にあまり向いてないんじゃないかなと僕は思ってて。

守屋咲季 今の二人の話は、なんとなく自分に重なる部分もあるかも。私自身は、音楽を聴いたときの「なんかよくわかんないけどすごい」みたいな気持ちを大事にしてきたところがあって、そもそもギリシャラブがそうなんですよね。「なんかよくわかんないけど、すごく良い」と思ったから、私はこのバンドが大好きになったので。

——守屋さんはどのような経緯でこのバンドに加入されたんですか。

守屋 私は元々ギリシャラブのファンなんです。それで前任のベースの方が抜けた時にメンバーを公募してたので、思い切って応募したら加入できることになって。それ以前は特にバンドをやっていたこともなくて、関西で普通に働いてたんですけど、バンドへの加入を機に東京に引っ越してきて。それが今から2年くらい前のことですね。当時はバンドをやるってことがどういうことなのかも、正直よくわからない感じでした。

——すごい決心ですね。レコーディングはおろか、バンド経験もない状態で加入して最初に取り組んだのが前作『ヘヴン』だったと。

守屋 『ヘヴン』の時も自分なりに考えながらやってたつもりだけど、今思えば「これで本当にいいのかな?」みたいな感じでした。今回はだいぶ慣れてきたので、自分でもいいと思えるようなベースが弾けた気がします。コーラスは(天川が用意した)デモに従って歌うことも多いんですけど、今回は自分で考えたところもけっこうあって。

天川 今回のコーラスに関しては、俺が考えたのと守屋さんが考えてくれたのが半々くらいじゃない?

守屋 うん。なので、もし今回のアルバムに声の主張みたいなものが出てるとしたら、それは歌いやすいコーラスを自分で考えたからなのかもしれません。

天川 基本的に僕は全パートをカッチリ作り込んでから曲をメンバーに渡すタイプで、ギター・リフなんかもデモの時点で指定することがけっこう多かったんですけど、今回はそこも二人にお任せしてるんです。それこそコーラスをこんなに入れたこと自体、今までのアルバムにはなかったんじゃないかな。

取坂 メンバーが5人から3人になれば、ひとりひとりの存在感はおのずと上がっちゃうじゃないですか。そういうタイミングで守屋さんが加入してくれたので、コーラスをがんがん入れていくことに対してバンド全体がすごく前向きになれたんです。あとコーラスに関しては、音数を増やしたいというより、もっと極端にしたいという狙いもあった気がする。

——まさに今作は“極端”とか“過剰”という言葉がふさわしい作品だと思います。

天川 そうですね。でも、今の自分たちからすれば、これが自然だったんです。逆に言うと、『悪夢へようこそ!』の頃は自己模倣の一歩手前みたいなところも若干あったかもしれない。要はそれまでの作風を踏襲しようとする意識があったんですけど、今回はそんなことも考えず、導かれるようにしてこうなったというか。

——取坂さんが先ほど仰っていたポスト・パンクの影響というのも、今作のキーワードです。たとえばそれは1曲目「キス・ミー」の角張ったビートに顕著かと思うのですが、この曲はどんなアイデアから生まれたのですか。

天川 曲自体はずいぶん前からあったんです。というか、「キス・ミー」というタイトルで曲を作ったのは多分これが3度目くらいで、今回ようやくそれがうまく形になったというか(笑)。リズムに関しては、デモの段階では四分打ちの直線的な感じを想像してたんですけど、徐々にそれが16を感じるビートになっていって、結果的にこうなったというか。

——「キス・ミー」のぎこちないビート上で歌われる<快楽こそが人生>という一節は、このアルバムをひとつ象徴しているようにも聞こえました。

天川 確かに。iPhoneに残っていたメモの日付によると、このサビのリリックは2015年に書いているので、けっこう昔から考えていたことではあるんですけど、サウンド的にもリリック的にも、「キス・ミー」は今作のすべてを包含するような曲なのかもしれない。

——<快楽こそが人生>にしても、「退廃万歳」という曲にしても、天川さんがリリックで伝えていることは一貫してますよね。ある意味、アルバム1枚を通して同じ主張を繰り返しているようにも聞こえます。

天川 言われてみるとそうかもしれない(笑)

——天川さんのデカダンスな美意識は、どのようにして培われたんですか。

天川 それはやっぱり過去に触れてきた本や映画が大きいですね。高校を一年でドロップアウトした頃にひたすら本を読んでいた影響で、世間で言われている通念を疑ったり、カント的な意味で物事を批判的に見るようになったことは、今のリリックにも表れていると思う。それこそ「キス・ミー」の歌詞にはそれが直接的に出てるんじゃないかな。<ぼくらはただの物だから>とか。

——確かに。

天川 良識ある人ほど無条件に信じてることってあるじゃないですか。“人間性が大事”とか、“見た目より中身が大事”とか、もちろんそれは間違ってないんですけど、僕にはそういう風潮や常識をできるだけ否定しようとするところがあって。<数がものをいうのさ>というところもそうですね。それこそ音楽やってるとよく言われるんです。「20曲しょうもない曲作るより、いい曲をひとつでも作った方がいいよ」とか。そういう無条件に振りかざされたものを否定したいっていう気持ちが、僕には常にあるんです。

——「キス・ミー」は取坂さんの弾くエスニックなギター・ソロも非常に印象的でした。

取坂 あのソロは、ビートルズの「イン・マイ・ライフ」みたいなソロがいいんちゃう?と天川に言われて、そこから思いついたような…。あれ、俺が「イン・マイ・ライフ」みたいな感じでいきたいって言ったんやっけ?

天川 全然覚えてない(笑)。でも、「イン・マイ・ライフ」のチェンバロみたいなソロいいよねー、みたいな話はしたかも。というか、単純に僕と取坂は「イン・マイ・ライフ」大好きなんですよ。ビートルズの話になると、なぜか僕は「アイ・アム・ザ・ウォルラス」好きそうとか言われがちなんですけど、全然そんなことなくて(笑)。和音の使い方がちょっと変わってるからそう思われるのかもしれないけど、僕らとしてはそれこそ<イン・マイ・ライフ>みたいな、素直にいい曲を作ってるつもりなんです。

——今作に限らず、ギリシャラブの楽曲からは欧米のポップス以外の影響も強く感じます。

天川 それはあると思います。音楽はいろいろ聴いてきたつもりで、たとえばジルベルト・ジルとか、ブラジルの音楽もそうだし、アフリカの音楽も大好きですね。京都にいた頃はアニマル・コレクティヴとかのいわゆるブルックリン勢もよく聴いてましたし、フレンチ・ポップも大好き。ただ、楽曲の影響源についてはあまり話せないというか、自分でもよくわかってないところがあって。

——天川さんは主にどのようなやり方で作曲されるんですか。

天川 本当に誰でもできるやり方で、それこそお風呂で鼻歌を歌いながら作ってます(笑)。楽器もドラムは叩けるんですけど、メロディー系の楽器はほとんど弾けなくて。とりあえずテキトーにギターを握ってみて、変な感じがしたらちょっとポジションを動かして、自分でもよくわかってないコードで曲を作るっていう。こんな作り方してる人、多分あんまりいないですよね(笑)

——サウンド面でいうと、「人口の天国」のダブ・アレンジも強烈でした。他にも「バースデイ」のスネアに深いリヴァーブがかかっていたり、今作ではダブ的な音処理が随所にみられます。これはどういった発想から?

天川 「人口の天国」に関しては、オーガスタス・パブロみたいなイメージがまず念頭にあったので、けっこう直接的にダブっぽいことをやってみました。ただ、それ以外でもダブのことはずっと意識していたというか。これはアルバム全体に言えることなんですけれども、もし今回のアルバムにおける最も重要なリファレンスを挙げるとしたら、多分それはポップ・グループのファースト(1979年作『Y』)だと思ってて。

——なるほど。先ほどのポスト・パンクの話にも繋がってくるし、それは納得です。

天川 あと、これは作品に影響を与えたかどうかは微妙なんですけど、このアルバムの制作期間から現在に至るまで、ポリスはずっと聴いてますね。それこそダブとかレゲエの取り入れ方や、シンセの入れ具合もいいなーと思っていたし、スリー・ピース・バンドの在り方として、自分たちにフィードバックされたものも何かしらあったかもしれない。

——「聖俗」と「聖者たち」に関しては、シンセサイザーが大々的に鳴ってます。

天川 その2曲に関しては同期を使っていた頃から既にあったので、他とは成り立ちがちょっと違うんです。とはいえ、あくまでもそれは側(がわ)が違うだけというか。「聖者たち」から、あのニュー・ウェイヴっぽいシンセの音をのぞいたら、たとえばトーキング・ヘッズの影響なんかも表れてるような気がするし、そのあたりはうまく共存できたんじゃないかなと。

——“聖”は今作のキーワードですよね。時にはそれが“性”や“生”に聞こえたりするのも面白くて。

天川 アルバム・タイトルの“魔”もそこから来てるんですけど、“生”と“死”とか、“生者”と“死者”とか、そういう対立する事柄の境界を曖昧にしたいっていうのが、今作の大きなテーマなんです。というか、当初は“生と死”がアルバム・タイトルの候補だったんですけど。

取坂 そうだったの? 知らなかったよ(笑)

天川 いや、まだ曲も全然できてない時の話だよ(笑)。ただ、なんとなく“生”と“聖”をうまいこと絡めたアルバムにしたいなっていうイメージだけは、漠然とその頃からあったんです。

——前作『ヘヴン』はちょっとリハビリ的な側面もあったと仰ってましたが、現在の天川さんは作家としてどのような状態ですか。

天川 このアルバムの制作期間から現在に至るまで、めちゃくちゃ好調ですね。今の僕は明らかにいいものが作れていると思う。ただ、今回のアルバムに関しては、やっぱり“この3人で作った”という手応えの方が重要かな。こういう感覚、過去の作品にはなかったんです。それこそ以前は自分一人で作ってるような気持ちになることもけっこうあったので、その違いは作品にはっきり出てると思います。

RELEASE INFORMATION

ギリシャラブ
『魔・魔・魔・魔・魔』

2022.11.23 Release

品番:TKDU-1001
レーベル : 都市国家レコード

LIVE INFORMATION

ギリシャラブニューアルバム『魔・魔・魔・魔・魔』
リリース記念ライブ

12/3(土) 東高円寺 U.F.O.CLUB
出演:ギリシャラブ、渚のベートーベンズ
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKET adv. ¥2500 / door. ¥3000

ご予約フォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc_wEdedi5YQZeMX0_KoSvFkyrDyjhpj3Oy_cNgw5fzPHRGAQ/viewform

Official SNS

Official Site https://greece-love.jp/
Twitter https://twitter.com/greecelove_band (@greecelove_band )
Instagram https://www.instagram.com/greecelove_band/ (@greecelove_band )

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次