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Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra『Lightning Dreamers』インタビュー | シカゴの前衛音楽の伝統とエクスプローディング・スター・オーケストラの歩み、あるいはジェイミー・ブランチについて

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作曲家/コルネット奏者のロブ・マズレクによるプロジェクト、エクスプローディング・スター・オーケストラ(以下、ESO)の約2年4ヶ月ぶりとなるアルバム『Lightning Dreamers』が完成した。緻密なオーケストレーションが織り成す現代音楽的な要素の強かった前作『Dimensional Stardust』(2020)に対し、今作ではグルーヴィーなリズムからスピリチュアルなサウンドまで、より自由なムードを湛えた音楽を展開。あらゆるシャーマンへの呼びかけをテーマに、アマゾン熱帯雨林のサウンドスケープからもインスピレーションを得た作品に仕上がっている。そのような今作は、ESOのメンバーとしても活動し、2022年8月に39歳の若さで急逝したトランペット奏者ジェイミー・ブランチに捧げられたアルバムでもある。果たして、ESOが提示する「シカゴの響き」とは何か。また、ジェイミー・ブランチが遺したものとは。マズレク本人に話を伺った。

Rob Mazurek Interview
ロブ・マズレク インタビュー

インタビュー・構成:細田 成嗣 – Narushi Hosoda
インタビュー・通訳:バルーチャ・ハシム – Hashim Kotaro Bharoocha
編集:三河 真一朗 – Shinichiro Mikawa(OTOTSU)
Special Thanks:Rob Mazurek, International Anthem


Artist : Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra
(ロブマズレク・エクスプローディング・スター・オーケストラ)

Title : Lightning Dreamers
(ライトニング・ドリーマーズ)

価格 : 2,600円 + 税​ (CD ONLY) / 6,000円+税(CD&T-shirts)

レーベル : rings / International Anthem
品番:RINC99
​フォーマット : CD(MQA仕様)​
ライナーノーツ解説:細田 成嗣

Rob Mazurek(ロブ・マズレク)photos by Britt Mazurek


—— あらためて基礎的なことからお伺いできればと思うのですが、もともとESOというプロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか?

Rob Mazurek(ロブ・マズレク)- 2005年にシカゴ文化センターとジャズ・インスティテュート・オブ・シカゴから依頼を受けたんだ。シカゴのあらゆるシーンからメンバーを集めたグループを結成してほしいとね。それでシカゴ・アンダーグラウンド、アイソトープ217°、トータス、それにAACMやニコール・ミッチェル周辺、さらにシカゴのノースサイドを拠点に活動するアンブレラ・ミュージックというインプロヴァイザー集団まで、様々な派閥のミュージシャンを集めることにした。コンテンポンラリーでアバンギャルドな音楽を演奏することがコンセプトだった。

このアイデアをとても気に入って、その後、ESOのファースト・アルバム『We Are All From Somewhere Else』(2007)を〈Thrill Jockey〉からリリースすることになった。作曲は全て僕が担当したんだ。このグループを通して自分なりの実験的な方法で作曲に向き合うことができた。それでその後もESOでアルバムを作り続けてきたんだよ。最初はシカゴの様々なシーンで活動する人たちを集めたグループだったけど、今ではシカゴだけでなく、ニューヨークやロサンゼルス、さらにヨーロッパのミュージシャンも参加するグループになった。日本でもぜひESOのライヴをやりたいね。日本のミュージシャンにも参加してほしいと思っているよ。

—— 当初は「シカゴの様々なシーンのミュージシャンを混ぜ合わせる」ということが、一つのテーマとしてあったのでしょうか?

2005年に依頼を受ける前から、僕はすでに様々なシーンのミュージシャンと演奏していた。だからメンバーを集めることは、自然と様々なシーンが混ざり合うことでもあったんだ。僕がミュージシャンに声をかける時は、あのシーンとこのシーンから人を呼んで……というように、それぞれ特定のシーンに所属しているから声をかけるわけではなくて、まずはそのミュージシャンにESOに参加してほしいということが先にあった。彼ら/彼女らがたまたま、色々なシーンで活動するミュージシャンだったというだけなんだ。もちろん、多様性のあるグループにはしたかったし、多様性は強みになる。ESOは今でも多様性を深めようとしていて、だから、『Lightning Dreamers』ではクレイグ・テイボーンやジェラルド・クリーヴァーなど新たなメンバーが加わることになった。

—— マズレクさんはシカゴ・アンダーグラウンドやサンパウロ・アンダーグラウンドなど、複数のプロジェクトやグループを同時並行で運営していますが、ESOではどのような音楽的コンセプトを実現することを目的としていましたか?

シカゴ・アンダーグラウンドとサンパウロ・アンダーグラウンドは、以前ほどライヴはやっていないけど、解散したわけじゃない。数ヶ月後にサンパウロ・アンダーグラウンドのライヴをやる予定だからね。それに2020年にシカゴ・アンダーグラウンド・カルテットのアルバムもリリースしている。ただ、ここ5年くらいを振り返ってみると、僕にとってはESOが主な音楽表現の手段になっているんだ。それぞれのグループのコンセプトの違いはそんなにないかな。あるとしたら、使用している楽器の違いだね。

僕は今でも毎日作曲をしているから、ノートには山ほどアイデアが書かれている。作品を制作する時にアイデアの断片を書くんだけど、その時に楽器編成も考えている。シカゴ・アンダーグラウンド、サンパウロ・アンダーグラウンド、ESOなどのうち、アイデアの断片に最も合う編成に適用するんだよ。コンセプトはどのグループもわりと似ているね。僕が作曲をする時は、紙に書くこともあれば、モジュラーシンセで音作りをすることもあるし、グラフィック・スコアを使うこともある。完全に作曲する場合もあれば、完全なインプロヴィゼーションにすることもある。前作の『Dimensional Stardust』は完全に作曲された作品だった。『Lightning Dreamers』はもう少しオープンで、ミュージシャンが楽譜を解釈したりインプロヴィゼーションをしたりできるようになっている。

—— これまでESOには様々なミュージシャンが参加してきました。ニコール・ミッチェルさんのように、最初期から現在まで関わり続けている方もいます。毎回、メンバーはどのように選定しているのでしょうか?

コンポジションの方向性、そしてその時にスケジュールが空いているメンバーで決まる。作品を作るごとになにか違うサウンドを追い求めているんだけど、それはある意味で永遠に達成不可能なものでもある。自分でもはっきりとはわからないものを探しているのかもしれない。自分を驚かせたいんだよね。

ESOの初期はジョニー・ハーンドンとマイク・リードがドラムで、マット・バウダーがサックス、ジェブ・ビショップがトロンボーンを担当していた。『Lightning Dreamers』では、チャド・テイラーにも参加してほしかったけど、予定が合わなかったんだ。それで、フェスに出演した6人でスタジオに入ることになった。僕のほか、ジェフ・パーカー、アンジェリカ・サンチェス、デイモン・ロックス、クレイグ・テイボーン、ジェラルド・クリーヴァーのセクステットだね。このメンバーが集まったのは、ある種の錬金術というか、魔法に近いとも言えるかもしれない。

Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra – “Future Shaman”

今回はサックスやトロンボーンというより、2つのエレクトリック・ピアノの音が頭の中で鳴っていたので、それを実現したかった。テキサスが拠点なのは僕だけで、ジェラルドは長年ニューヨークで活動して今はサンフランシスコ。クレイグはニューヨークで、アンジェリカはニュージャージーに住んでいるよ。

—— 今では「シカゴのグループ」にとどまらないメンバーからなるESOですが、設立当初の目的の一つは「シカゴのアヴァンギャルド音楽の伝統を調査すること」でしたよね。設立から18年経過した現在、「シカゴのアヴァンギャルド音楽の伝統」にはどのような特徴があると捉えていますか?

やっぱりシカゴの歴史は大きいよね。AACM、アンブレラ・ミュージック、ポストロックなどのシーンがあって、それぞれのシーンがさらに進化し続けている。僕もジェフもチャドも、もうシカゴに住んでいないけど、それはアート・アンサンブル・オブ・シカゴも同じだった。彼らはアート・アンサンブル・オブ・シカゴと名乗りながらも、シカゴには住まなくなっていた。だけど、やっぱりシカゴ独特のフィーリングがあるんだよ。

色々な人に同じ質問を訊かれるけど、自分でもはっきりとした答えはわからないな。シカゴの人たちは、面白いものを生み出して、彼らはみんな進化し続けている。その歴史があるから、アーティストたちはその歴史から刺激を受けながら、別のものも探し求めているんだと思う。少なくとも自分はそうだね。

—— たしかに、サン・ラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴの時代から現在に到るまで、シカゴには独特のアヴァンギャルド音楽が根づいているように見えます。いったいなにがシカゴをそのような特異な場所にしているのでしょうか? たとえばAACMの活動はやはり重要なものとしてあるのでしょうか。

もちろん、サン・ラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴ、AACM周辺の人たちはシカゴの土台を築いてきた。さらに歴史を遡るとルイ・アームストロングだってそうなんだ。深いブルースの歴史もある。シカゴには独自の歴史や空気感があるよね。でも、どの街だってそうだと思う。それぞれの街で、誰かが土台を築いている。僕は8年間ブラジルに住んだこともあるけど、全く違う環境だし、ブラジルにはブラジルの歴史があった。アート・アンサンブル、サン・ラー、そしてその後に登場したアーティストたちも、みんなシカゴを形成したんだ。

—— ちなみに、ブラジルではどこに住んでいましたか?

主にマナウスに住んでいた。アマゾンの中だった。他にもブラジリア、サンパウロにもしばらく住んでいたよ。2000年から2008年までブラジルに住んでいたんだ。その間はツアーをよくやっていたし、シカゴに滞在することも多かったけどね。2005年にESOを立ち上げた時、僕はアマゾンの熱帯雨林の中で暮らしていた。シカゴに戻って1~2ヶ月滞在して音楽制作をして、またブラジルに戻るという生活だった。

—— ブラジルでの生活はマズレクさんの音楽やアートにどのような影響を与えましたか?

アマゾンの中に滞在することは想像を超える体験だった。熱帯雨林に入って、船に乗ってブラック・リバーに出たり、とても不思議な経験ばかりだったよ。そこにある歴史はもちろん、そこで聞こえる音やそこで経験したことにもインスパイアされた。当時のマナウスではフォホーという大衆音楽がよく流れていた。川沿いに住む人々の壊れかけたスピーカーから聞こえたり、ダウンタウンでも爆音で流れていたね。ブラジルの場合、フィーリングが独特なんだ。特にマナウスの自然音だったり、壊れたコンポから流れる音は刺激になった。

—— ブラジルでは都会には住んでいなかったのでしょうか?

都会に住んでいたんだけど、前妻がブラジル人の研究者だったから、彼女について行って、熱帯雨林に行くことが多かった。ボートに乗って熱帯雨林の中で宿泊することも多かったけど、サルの鳴き声とか、色々な音が聞こえてくるんだ。逆に、森の中での静けさも凄かった。静かすぎて、アリが動いている音も聞こえるくらいだったよ(笑)。嵐になると、木と木がぶつかる音も聞こえたり、面白い音がたくさんあった。デンキウナギの音を研究所でレコーディングしたんだけど、それを長年曲で使っている。ブラジルでは様々なサウンドソースを見つけて、それが自分のコンポジションのボキャブラリーの幅を広げた。アマゾンで暮らしたのは3年間だった。

—— シカゴの話に戻りますが、現在マズレクさんが注目している、「シカゴのアヴァンギャルド音楽の伝統」を継承するミュージシャンはいらっしゃいますか?

たくさんの人が継承しているよ。ジェフ・パーカーがやっていることは本当に素晴らしいと思う。彼はつねに独自の道を突き進んでいたけど、ここ数年は本当に才能が開花して、パーソナルな方法で音作りをしていると思う。チャド・テイラーは、ドラマーとしてだけではなく、コンポーザーとしてもムビラ奏者としても優れている。ジョシュ・エイブラムスは2010年にナチュラル・インフォメーション・ソサエティを始めて、今はシカゴを代表するグループになっている。他にもニコール・ミッチェルやトメカ・リード等々、ESOのメンバーもみんな美しい方法で音楽のボキャブラリーを広げている。トータスも忘れてはいけないね。彼らは新作を作っているらしいよ。サム・プレコップとジョン・マッケンタイアのデュオのプロジェクト、ダグ・マコームズのソロ・プロジェクトも素晴らしい。みんなそれぞれの方法で進化して、シカゴの音の宇宙を拡張させている。

Jeff Parker – Suffolk (Official Video)
James Brandon Lewis & Chad Taylor – at 6BC Gardens – Arts for Art, NYC – October 2 2016

—— 今回、ESOによる約2年4ヶ月ぶりのアルバム『Lightning Dreamers』がリリースされました。制作はいつ頃からスタートしましたか?

1年半くらい前に制作を始めた。テキサス州マーファでトランス・ペコス・フェスティバルという大きなフェスが毎年開催されているんだけど、彼らからESOのライヴをやってほしいという依頼があってね。前作『Dimensional Stardust』が結構注目されたので、パフォーマンスをやることになったんだ。それで2つのエレクトリック・ピアノ、2つのモーグシンセを含む編成でライヴをやりたいと思った。二人のピアニストに、それぞれウーリッツァーのエレクトリック・ピアノと、ベースライン用のモーグシンセを演奏してもらいたかった。頭の中には、伝統的なコントラバスを使わずにパフォーマンスをしたいという構想があったんだ。

何人かのミュージシャンに声をかけて、スケジュール的に無理な人もいたけど、ジェラルド・クリーヴァー、クレイグ・テイボーン、アンジェリカ・サンチェスが参加することになった。他にデイモン・ロックスがボーカルで参加することになって、ジェフ・パーカーも参加することになった。ジェフはこのアルバムでとても重要な役割を果たしたから、「Lightning Dreamers featuring Jeff Parker」という作品のタイトルにしてもいいくらいだった。彼のギター・サウンドが抜群だった。

Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra – “Shape Shifter”

フェスでパフォーマンスをすることになって、近くにソニック・ランチというスタジオがあるから、出演する前にレコーディングしようということになったんだ。ピーカンナッツ畑のど真ん中にある大きなスタジオなんだけど、何年か前にサンパウロ・アンダーグラウンドのアルバムもそこでレコーディングした。ライヴのメンバーがマーファに来てフェスに出演するついでに、スタジオに2日間入ってレコーディングすることにしたんだ。〈International Anthem〉もアイデアに賛同してくれて、サポートしてくれた。レコーディングの仕上がりは素晴らしかったよ。

—— ジェフ・パーカーさんは共同プロデューサーという役割で関わったのでしょうか?

彼が共同プロデューサーだったのは1曲目の「Future Shaman」という曲だね。あの曲を作曲した時に、ジェフが参加したら完璧だと思ったんだ。彼がプロデューサーとして参加したのはその曲だけで、アルバム全体というわけではない。けれどジェフが「Future Shaman」にベースラインを追加してくれて、それが曲の要になった。

今回のレコーディング・メンバーには、いわゆるベーシストはいない。「Future Shaman」では、キャスリン・ピネダにシンセ・ベースを演奏してもらっているんだ。他にも、一緒にスタジオに入ったわけじゃないけど、サンパウロ・アンダーグラウンドのマウリシオ・タカラが5曲のうち4曲のために素材を送ってくれて、それが作品に一貫性をもたらすことになった。彼はエレクトロニックなパーカッション機材を使っていて、それが素晴らしいサウンドなんだ。彼の素材が曲にぴったりだった。マウリシオはサンパウロに住んでいるから、ネット上で素材をやり取りしたね。

それと「Dream Sleeper」と「Black River」では、パリで開催されたソン・ディヴェール・フェスティバルでのESOのパフォーマンスの一部をサンプリングして使った。ソニック・ランチでレコーディングした素材に、パリのライヴの素材を重ねたんだ。そこに、ストリングスとコントラバスの素材が少し入ってる。ダブルベース奏者のインゲブリグト・ホーケル・フラーテン、チェロ奏者のトメカ・リード、ラベイカ奏者のトーマス・ロイヤー、ドラムのチャド・テイラー、それにエレクトロニクスを担当したジェイミー・ブランチもパリのライヴのメンバーだったから、クレジットされている。

ジェイミーとは今回のアルバムのためにスタジオには入ってないけど、パリのライヴの時は一緒だったんだ。亡くなる1ヶ月前、彼女はリスボンのコンサートでもESOのメンバーとして参加してくれた。ブラジルにも来てライヴに参加するはずだったけど、彼女が亡くなったというニュースが突然入って、とても大きなショックを受けた。亡くなる数日前に喋ったばかりだった。その時彼女はアラスカに滞在していて、ESOで一緒にブラジルに行くのを楽しみにしていた。航空券のことも話していたよ。本当に残念だ。

—— ジェイミー・ブランチさんについては後ほどあらためてお伺いできればと思います。今回のように、過去のパフォーマンスを素材としてサンプリングすることはよくあるのでしょうか?

時々やるよ。作曲をするときは、僕の場合は何でもありなんだ。かっこいいサウンドになれば何でも試すよ。僕は純正主義者ではないから、あらゆる素材を使う可能性がある。曲を作っている時はランダムに色々なことを試すんだ。今回は、パリのライヴ音源をサンプリングしてみた時に、すぐに「これはいい!」と思って使うことにした。だから少しだけサンプリングして使ったんだ。他のミュージシャンのパーソナリティを入れて、もっと濃厚なサウンドにしたかったんだよ。

—— 『Lightning Dreamers』はどのようなコンセプトで制作を進めましたか?

さっきも少し話したけど、まずは2つのウーリッツァーと2つのモーグシンセを使うということがコンセプトだった。前作の『Dimensional Stardust』では、エレクトリック・ピアノとアコースティック・ピアノとヴィブラフォンを使ったから、違うサウンドだった。今回のアルバムは、もっとオープンなサウンドにして、完全に作曲していない方向性にしたかった。「Future Shaman」は作曲している部分が多くて、前半も作曲している箇所は多いけどね。

「Black River」をレコーディングした時は、ブラック・リバーに実際に船で乗っている感覚を表現してほしいとミュージシャンたちにリクエストしたんだ。僕はあの地域に住んだことがあったから、その時のフィーリングを彼らに事前に伝えるようにした。船に乗ると、川岸から色々な音が聞こえてきて、川の中にはデンキウナギやピラニアなどがいて、空からは鳥の鳴き声が聞こえたり、雷や嵐の音が聞こえたりする。ブラック・リバーの水は茶色だったけど、その中でピンクイルカを見ることもあった。とても不思議な生き物だよ(笑)。川沿いの人々がどういう生活をしているのか、そして彼らの生活音がどういうものなのか、ということもミュージシャンたちに伝えた。「Black River」に関しては、ブラック・リバーの世界観を表現しようとしたんだ。「White River」も同じコンセプトなんだけど、あの曲は完全に作曲されたもので、ハーモニーをシフトさせながら同じメロディを繰り返しているね。

『Lightning Dreamers』というアルバムは、すべてのシャーマンに呼びかけることをコンセプトにしている。それは世界が今、危機に瀕しているからなんだ。「Future Shaman」、「Dream Sleeper」、「Shape Shifter」は、そのコンセプトを表現した曲になっている。過去、現在、未来のシャーマンに呼びかけて、「世界がヤバいことになっているから、みんなで助け合おう」というメッセージが込められている。環境問題、政治問題、暴力、差別など、世の中の問題はどんどん悪化しているように見えるし、情報社会だから、こういう問題がより顕著に目立つ。20~30年前は情報が入ってこなかったから、こういう問題の存在を知ることもなかった。でも本当は、大昔からこういう問題は存在しているんだ。だから、スタジオに入った時のこのアルバムの壮大なコンセプトは、スピリットたちに呼びかけて、ポジティヴなエネルギーを作り出して、世界が前進できるようにすることだった。

—— ブラジルでは実際にシャーマンとの交流はありましたか?

そうだね、何人かと会ったよ。ある女性のシャーマンと出会った時に、5分間くらい抱擁されたことがあった。当時は2000年くらいで、シカゴ・アンダーグラウンドの活動で忙しかった。抱擁された後に「あなたは、今よりも有名になる。でも、今とは違う人たちと音楽を作ることになる」と言われたんだ。つまり、シカゴ・アンダーグラウンドではなく、別のグループでもっと脚光を浴びるよ、というメッセージだったみたいなんだ。それはESOを始める前の出来事だった。2005年にESOを始めて、今はもう2023年だから、当たっていたのかもしれない(笑)。今は絵を描いたり彫刻を作ったりもしているから、当時と比べて活動の幅が広がっている。

—— 『Lightning Dreamers』は、ESOとしてはコンパクトな8人編成ですよね。それぞれのメンバーについて、あらためて教えてください。

ジェラルド・クリーヴァーは大好きなドラマーで、ベルリンで一度だけジュリアン・デプレのプロジェクトで共演したことがあった。それで、トランス・ペコス・フェスティバルで彼と一緒に演奏したいと思って、連絡をしたら快諾してくれた。アンジェリカ・サンチェスは前にも一緒にやっていて、クリス・デイヴィスの前にESOに参加したことがあった。クレイグ・テイボーンはずっと演奏したいと思っていたピアニストで、彼にも連絡をしてみたら、快諾してくれた。僕が作曲したメロディは、ギターとウーリッツァーのためだったから、ジェフ・パーカーは完璧に演奏してくれた。デイモン・ロックスの声は、ESOの声でもあるから、彼に参加してもらった。

ニコール・ミッチェルも参加するはずだったけど、スケジュールの関係でダメだったんだ。彼女にはアルバムに参加してほしかったから、「Black River」のフルートのパートをレコーディングして送ってもらった。マウリシオ・タカラも同じ方法で素材を送ってもらった。さらに、パリのライヴ・レコーディングのサンプルをところどころに入れた。このアルバムでは、僕はあまりトランペットは吹かなかった。僕の役割は、作曲をして、コンピューターの中でアレンジしたり、モジュラーシンセを使って素材を加工したりすることが多かった。

—— プレスリリースにはマズレクさんが久しぶりにトランペットを演奏したと書かれてありましたが、今回新たに取り組んだ手法や、特に力を入れた技法などがあれば教えてください。

僕は20年間ずっとコルネットのみを演奏してきた。ここ3年間は、ピッコロ・トランペットだけを演奏していた。けれど以前、ビル・ディクソンのトランペットを、彼のパートナーのシャロンから譲り受けたことがあったんだ。それで1年半くらい前にトランペットを吹いてみたら、すごくいいフィーリングだったから、今回のアルバムで使うことにした。このアルバムでは、トランペットとピッコロ・トランペットを吹くようになって、逆にコルネットを使うのはやめている。それと今回、レコーディング・セッションの素材を、モジュラーシンセのフィルターに通して加工したりもした。

日本盤のボーナス・トラックは、すべてモジュラーシンセで作った。デンキウナギの音をモジュラーシンセに通して作った曲なんだよ(笑)。リオで8チャンネルのインスタレーションを展示したことがあるんだけど、地面には100個のLEDを使ってブラック・リバーの形を再現したんだ。そこでデンキウナギをモジュラーで加工した音を流した。この曲をボーナス・トラックにしたのは、「Black River」と相性がいいと思ったからなんだ。もともとアルバムのタイトルを「Black River Suite」にしようと思ったんだけど、「Lightning Dreamers」を思いついて、誰も使っていないタイトルだからこれに決定した。

「Black River」と「White River」という曲があるから、デンキウナギの曲をボーナス・トラックとして使うことがぴったりだと思ったんだ。デンキウナギのサンプルは、色々な作品で使っているんだけど、たしかESOのファースト・アルバム『We Are All From Somewhere Else』で使ったのが最初だったと思う。今回のボーナス・トラックでは、サンプルを切り刻んで使っている。大きなデンキウナギは「ガッガッ」ってはじくような音を発するんだ。小さな種類のデンキウナギもいるんだけど、その種類はバイオリンに似た音を発する。そういう音をモジュラーに通したね。

—— 先ほど、今回のアルバムは前作と比べて「完全に作曲していない方向性にしたかった」と仰っていましたが、どのくらいの比重で即興演奏を取り入れているのでしょうか?

「Future Shaman」はインプロヴィゼーションの箇所もあるけど、だいたいが作曲されている。「Dream Sleeper」は作曲されているけど、モートン・フェルドマンっぽくオープンに作曲されているよ。コード進行を決めておいて、そのコード進行の後にインプロヴィゼーションが始まるんだ。たしかメジャー7thのコードを使っていた。そこからコンポジションのセクションに移って、クレイグが高い音符のエレクトリック・ピアノを演奏している。リスナーがそれを聴いて、インプロヴィゼーションだと思うかもしれないけど、50%が作曲、50%が即興演奏の曲なんだ。

「Shape Shifter」は3部に分かれている曲で、曲名の通りに形がどんどん変形していく。途中で変拍子の中間部分があって、そこにクレイグとジェフのインプロヴィゼーションが入っているよ。そしてさらに変形して、僕がモジュラーで作った音に変わるんだ。「Shape Shifter」の中間部分は、もともとモジュラーで作った音だけど、それを生楽器だけで演奏してもらった。三つ目の部分はモジュラーの上にマウリシオの演奏を重ねている。

—— スタジオでのレコーディング・セッションでは、全員一緒に演奏しましたか? それとも個別の演奏を編集したのでしょうか。

みんな一緒にレコーディングしたよ。それをのちに少し編集したり加工したりしたけど、ほとんどはそのまま使っている。「Future Shaman」では、生演奏のテイクをそのまま使って、ベース・パートをウーリッツァー、コンピューター、モーグシンセなどに入れ替えた。クレイグのウーリッツァーは、彼自身が持参したペダル・エフェクトに通したんだ。「Shape Shifter」では、モジュラーをかなり使ったね。

—— 今回のアルバムで特に印象的なのが14分を超える4曲目「Black River」です。サンプリング素材も駆使したカオティックなサウンドが壮観ですが、この曲についてより詳しく話していただけませんか。

実は「Black River」という曲は、以前、シカゴ・アンダーグラウンドでアルバムをリリースする前の自分の初期の作品でレコーディングしているんだ。この曲はサンパウロ・アンダーグラウンドのアルバムでも別バージョンで演奏している。この曲を今回の編成で演奏するのに最適だと思って、「White River」も演奏してもらっている。「Black River」はオープン・フォームな曲で、ソニー・シャーロックとアマゾンを融合させたような音楽なんだ。川岸で色々な人が違うラジオ局を聴いているかのようなサウンドにしたかった。現地のフィーリングを表現したくてね。ジェフがまずメロディを演奏するんだけど、グルーヴとベースラインが後半に登場するんだ。このパートでは、ソロを載せるのではなく、リスナーがグルーヴに入り込めるように入れたかった。

—— 「White River」は「Black River」に基づいている曲ですか?

「White River」は別の曲だね。マナウスでは、ホワイト・リバー(リオ・ソリモンエス)とブラック・リバー(リオ・ネグロ)が実際に交差している。マナウスの住民は、ボートに乗って、ホワイト・リバーとブラック・リバーが交差するポイントまで行って、川に飛び込んで泳ぐことが一種の通過儀礼になっているんだ。川の中はとても深いし、ピラニアやアナコンダがいるから怖いんだよ(笑)。流血してなければピラニアに噛まれることはないんだけどね。ブラック・リバーとホワイト・リバーが交差する場所は、スピリットの融合、人間の融合など象徴的な意味合いがある。ブラジルの建築物では、白と黒の石が使われているのも、この2つの川から由来している。ブラジルのミックスされているカルチャーを象徴しているんだ。僕も実際にその交差点で泳いだ。「White River」は完全に作曲されているけど、ジェフが繰り返しメロディを演奏して、少し即興演奏を入れている。でも、僕がディレクションをしていて、ハーモニー、メロディの空気感が反復されているんだ。

—— 今回のアルバムは急逝したジェイミー・ブランチさんに捧げられています。彼女の突然の訃報は遠く離れた日本のリスナーにも大きな衝撃をもたらしました。ESOでも活動されていましたが、マズレクさんにとってジェイミー・ブランチさんはどのような存在でしたか?

jaimie branch – Fly or Die

ジェイミーのことはシカゴ時代から長年にわたって知っているし、素晴らしい人格を持った人間であり、優れたミュージシャンでもあった。彼女は僕の音楽が大好きだったみたいで、僕の作品を聴いてくれていた。彼女はこの1年間で、独自の表現方法を見つけたという印象を持っていたし、シカゴ・アンダーグラウンドなどの影響を彼女の音楽から感じ取ることができて、とても光栄だった。彼女は、僕らの音楽から影響を受けながらも、それを消化してとてもユニークな方法で表現していた。とにかく、ジェイミーの進化を見届けることができなくて残念だよ。彼女に出会うことができて、彼女と演奏して、彼女の音楽を聴くことができて感謝している。ESOと一緒に演奏する時も相性がすごく良かった。まるで雷のような人間で、感情も演奏もとてもダイレクトに表現する人だった。彼女は「自分らしく生きてもいいんだよ」というメッセージをそのまま体現しているようだった。

—— もともとマズレクさんはジェイミー・ブランチさんとどのように知り合ったのでしょうか?

彼女は若い頃からシカゴに来て、僕のライヴを見に来てくれたり、シカゴでもよく演奏していた。どうやって彼女がESOに参加することになったか覚えてないけど、おそらく3~4年前のベルリン・ジャズ・フェスティバルの時に初めて彼女が参加したんだと思う。それで、1年前のパリのフェスにも参加してもらった。彼女のトランペットのサウンドをグループに入れたかったのと、彼女のエレクトロニクスも面白かったから、その要素も入れたかった。ジェイミーはESOにぴったりだったよ。だから、パリだけではなく、リスボンなど他のコンサートにも参加してもらった。

Anteloper – “Earthlings”

グループに参加してもらってから、彼女には毎回参加してもらいたいと思うようになった。その後は、ブラジルのコンサートにも参加してもらう予定だったし、その他にも予定があった。だから、彼女と演奏し続けることを楽しみにしていたんだ。そういう意味でも、今回のアルバムをジェイミーに捧げたかった。彼女のエレクトロニクスが「Black River」にフィーチャーされている。

—— 同じトランペット奏者として、ジェイミー・ブランチさんのトランペットの魅力はどのようなところに感じていましたか?

彼女は、レスター・ボウイ、ドン・チェリーなど、大好きな音楽を吸収して、独自のサウンドを作り出したんだ。それに、彼女は途中から歌うようになって、ライヴではよくスポークン・ワードも披露していたから、彼女自身の声もとてもユニークだった。声とトランペットの組み合わせがスペシャルだったね。感情を揺さぶる演奏をするミュージシャンだったよ。

—— 今回、ジェイミー・ブランチさんが参加したESOの音源がサンプリング素材として使用されています。音源の使用は、彼女が亡くなる前から決めていたのでしょうか?

「Black River」を制作している時に、パリのライヴ音源の素材を使おうと思ったんだ。それで、ジェイミーがあのライヴに参加していたことを思い出した。彼女のトランペット、エレクトロニクスがストリングスと一緒に鳴っている。それを思い出した時に自分でも驚いた。「これはジェイミーの演奏だ!」ってね。どっちみちアルバムを彼女に捧げるつもりだったけど、あの曲には彼女のオーラが反映されている。彼女もシャーマンのような人だった。強烈なエネルギーを放っていたからね。何が正しいか、何が間違っているかという価値観をとても強く持っている人だった。彼女のオーラがこのアルバムに反映されていることは、僕にとってとても大切だよ。

ソン・ディヴェール・フェスティバルに今年ソロで出演したんだけど、そのパフォーマンスもジェイミーに捧げた。彼女はとてもオープンな人で、僕と同じで何でもありなアプローチだった。そのアプローチは、美しいリリカルなメロディと同じくらいに重要なんだ。彼女はサンプラー、ドラムマシン、ディレイなど色々な機材を取り入れていて、サウンドと生命の科学者のような人だった。それが魅力的だったんだ。僕もそういうアプローチだから、他の人も似たことをやっていると、心地いいんだ。彼女は何も境界線がなかったミュージシャンなんだよ。

—— 「シカゴのアヴァンギャルド音楽の伝統」という点で、ジェイミー・ブランチさんはどのような音楽の可能性を切り開いた人物だと思いますか?

ジェイミーは間違いなくシカゴのアバンギャルド音楽の伝統を継承していたと思う。彼女は過去2年間はニューヨークに住んでいたけど、そこでもシカゴのサウンドを継承していたと思うよ。僕もシカゴのサウンドをいまだに定義づけられないんだけどね。彼女は、何にでも挑戦する姿勢、もしかしたら失敗するかもしれないけど、新たな表現方法を探求する勇気があって、それがシカゴのサウンドなのかもしれない。いつか人間は死ぬわけだから、生きている間は、表現することの大切さを彼女は体現した。

—— 最後にメッセージはありますか?

このアルバムは、すべてのスピリット、人間へ、自分のスピリチュアルな覚醒にオープンになることを呼びかけているんだ。

RELEASE INFORMATION

Artist : Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra
(ロブマズレク・エクスプローディング・スター・オーケストラ)

Title : Lightning Dreamers
(ライトニング・ドリーマーズ)

価格 : 2,600円 + 税​ (CD ONLY) / 6,000円+税(CD&T-shirts)

レーベル : rings / International Anthem
品番:RINC99
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ライナーノーツ解説:細田 成嗣

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