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日本ポップス史に宿り続ける美しい魂ー EPO×GOOD BYE APRIL。世代を超え通じ合うシティポップの普遍的魅力を語る(後編) (取材・文:金澤寿和/Light Mellow)

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去る10月21日、六本木のライヴレストランCLAPSにて、『Autumn Conjunction 2023』と銘打ったステキなステージを観せてくれたEPO with GOOD BYE APRIL。

このライヴを、“最近よくありがちな、世代を超えたシティポップ・アーティスト同士による対バン・ライヴだったのだろう”、そんな風に思っていたとしたら大間違い。GOOD BYE APRILが自前のレパートリーを披露しつつ、EPOのバック・バンドも務める構成で、EPO登場以降は双方の持ち歌が入り乱れるというセットリスト。彼女はラストまで一度たりともステージを降りることなく、GOOD BYE APRILの曲ではコーラスに廻って若手をサポートするなど、真に両者が一体となった、胸ワクワクのバンド・パフォーマンスを楽しむことができた。EPOもAPRILのメンバーも、そしてオーディエンスの皆さんも、み〜んな笑顔、笑顔また笑顔。終盤はステージ上のほぼ全員が感極まってしまうほどの感動的パフォーマンスで、想定外のダブル・アンコールという、いつまでも記憶に残るような素晴らしいライヴ・ショウとなった。

こうしてベテランとニュー・カマーが短期間でこんなに親しい関係を築き、一丸となったステージを繰り広げることができたのは、互いの音楽に対する想い、スタンスが、極めて近かったから。普遍的ポップスのあり方、シティポップ・ブームとその裏に潜む由々しき現状、その中で自分たちがどこを目指していくのか。わずかな時間でディープなところまで行き着いた、濃密な音楽談義の断片を紹介しよう。

取材・文:金澤寿和 / 編集:伊藤晃代(OTOTSU 編集担当)


倉品

今の僕たちは、シティポップという大きなジャンル括りで同世代のバンド、アーティストさんと共演させていただく機会が多いんですが、いざやってみると、本質的にちょっと違うなぁ、と思うことが意外に多いんです

EPO

どんなところでその違いを感じるの?

倉品

僕らはとにかく楽曲至上主義で、土台となるメロディと言葉に重きを置いています。しかもそれが普遍的であればあるほど良い、と思っていて。だけどそこにプライオリティを持って活動している同世代が少ないって、よく感じるんです。他の方々はもっとサウンド重視だったりとか、トレンドに寄っていたりとかで、正直あまりシンパシーが持てない。そうした中で、EPOさんを含む70〜80年代のポップスにはスタンダードな魅力がたくさんあって、メロディや歌詞がとても輝いている、そう見えたんです

延本

私たちは、まず香り立つようなメロディと歌詞を書いて、それを美しく包みこむアレンジでパッケージングしようと心掛けています。でも最近は、それがうまく噛み合っていない音楽が多い気がして、これではすぐ飽きられちゃうんじゃないか?と思っています

EPO

同感! まったく一緒よ。ブームだってことで、“EPOさんにとってシティポップとは何ですか?”と訊かれる機会が多いけれど、私にとってのシティポップは、とっても頑丈な建築物なの。まず詞とかメロディ、これ必須でしょ? それとアレンジ。スタンダードなポップスがどう作られていたかを考えると、作詞家・作曲家がいて、素晴らしいアレンジャーがいて、素晴らしいプレーヤーがいて…、というのが基本なの。だから綿密に書いた設計図を書いて、それをそのまま演奏してもらう。だけどミュージシャンが自己主張を始めたりすると、自分が思い描いていた通りの仕上がりにはならなくて、録り直しせざるを得なくなってしまうの。だけどそれぐらい緻密に作り込むからこそ、時代や流行が変わっても、ずっとずっと長く聴き続けられる。そういうものだと思うのね。でも最近は、経済的とかビジネス的な事情からエッセンスの薄いモノばかりが作られて、それを宣伝とかお金の力でヒットさせちゃう。これは問題だなぁ、って思うんです

延本

そうですね。今は林(哲司)さんとか筒美(京平)さんのようなヒットメイカーっていないですよね? 一発当てた人はいても、コンスタントに名曲を書ける方はいない。作風の違いを楽しませてくれる作曲家さんやアレンジャーも見当たらないから、自分でいろいろ掘ったりすることが少なくなったなぁ、と思います

EPO

あとね、ミュージシャンがとても大事。スタジオ系の一流の方たちだとね、アレンジャーの狙い通り、設計図である譜面をしっかり再現した上で、そこにホンのちょっとだけ新しいことを乗せてくるの。2〜3回繰り返せば完璧なのに、何度も何度も録り直して、その度にドンドン良くなっていくの。編曲通りに演奏するのはもはや当たり前で、少し工夫すればもっと良くなるんじゃないか?って、休憩時間に黙々とアイディアを探っている人もいた。それもみんな、名前の通っている有名ミュージシャンだよ。詞曲アレンジ、そしてその設計図をミュージシャンがどう読み取ってくれるか。シティポップって、そうやって作られてきたんですよ

延本

アレンジャーから言われた通りに演奏しているのに、でき上った曲を聴くと、ちゃんとプレイヤーの個性が出ている。演奏自体にアイデンティティーがある

つのけん

“あ、コレ、青山純さんのドラムだ!こっちはポンタさん(村上秀一)が叩いてる!”って分かるからスゴイですよね

EPO

しかも彼らに一緒にライヴで出てもらうと、これまたスゴイの。スタジオとはまた別モノで

倉品

でしょうね。スタジオ録音が頑丈な建造物って、凄くよく分かります

吉田

曖昧じゃなくて緻密ですよね。僕らも林哲司さんとコラボさせてもらってちょっと経験できましたから、設計図というのはメチャクチャ腑に落ちます

ー 最近ではイントロが不要とか、ギター・ソロは要らんとSNSで話題になったが…

吉田

聴きたいと思えるようなソロだったら、あって良いと思います。意味のないソロだから“要らない”って言われるんです

延本

イントロだって長くて良い

EPO

イントロは曲の一部だからね

倉品

(イントロは)家だったら玄関なワケで、ちゃんと人を迎えるのに相応しいモノにすれば良いんです

EPO

普通はいきなり家には侵入しないもんね…(笑)

延本

イントロもソロも不要って、何だか音楽がシステム化しちゃってますよね

(一同頷く)

倉品

このバンド、そういうところは結成当時から、みんなが共鳴し合っているんです。個人のエゴではなくて、良い音楽、いい曲を作るために尽くそうというのがルールみたいになっていて。じゃあ“良い”というのは何なのか?というと、やっぱり普遍的なものではないのか、というのが自分の中にずっとありました。それがおそらく頑丈な建築物ってことなのだろう、と思います

ー 70~80年代はメロディメイカーと呼ばれていたのが、ヒップホップ全盛を経て、トラックメイカーに変わった。海外から入ってきた現在のシティポップ再評価のブームも、元を正せばDJからの発信である。

倉品

あぁ、それはよく分かりますね。僕らの場合、トラックから作ることはあまりなくて、ほとんどが詞曲から書いています。トレンドを追うこともしてこなかったし。今どき、こういう人間は少ないんだろうと思いますが(苦笑)

延本

一時はライヴハウスに出ても浮きまくってました。16年に最初のアルバムを出す前は、ギター・ロックっぽいことをやっていたんですが、“でも何か違うかも…”と思っていて。私たちは歌が好きでバンドを組んだのだから、もっといいメロディとかコーラスを入れていこうと話しあったんです。でもその頃はJ-ロックのブームが来ていて、フェスとかがすごく盛り上がっていた時期で、自分たちは完全に浮いてました。
ライヴハウスに出てもお客さんがつかなくて、仕方ないからショッピング・モールみたいな場所でアコースティック・セットのフリー・ライヴをやったりして。そういう所だと家族連れとか買い物客とか、年齢層が広くて難しいんだろうと思っていたら、逆にウケがいいんですよ。子供たちが寄って来てくれたりとかして。そこでコーラスを入れてハモると、もっとたくさんの人が集まってくれるんです。もしかすると、自分たちが目指しているのは、こういうことなんじゃないのかな?と思って

倉品

そこに普遍性を感じたんです。メロディとハーモニー、普遍というのはそこでしょ!と証明された気がした。世代とかは関係ないな、と

延本

シティポップのブームが来ているのも、最初は全然知らなくて。私たちがサウンドを80’sっぽくしたいな、と思ったタイミングが、偶然にもドンピシャだったんです。だから今こうやってシティポップの波に合流できた、と思うんですよ。だから流行りでやっているんだとは思われたくない。そういう気持ちが強いんです

EPO

私の中では、いまシティポップと呼ばれているような日本のポップスって、ずーっと流行っているんですよ。自分の心の中ではヒットし続けている。普遍的というのは美味しい食パンみたいなもので、シンプルだけどしっかり作られていて、デイリーで食べても飽きられないし、どんな惣菜にも合う。そういう当たり前の存在だと思うんです。だからブームと言われると、ちょっと違う気がしちゃうんですよね

延本

自分たちもシティポップのプレイリストに入れていただくことが多いんですけど、同じリストの中にも、自分の基準でフィットする曲と違和感を持つ曲が混在しています。世代的には私もシティポップのレッテルを見て、自分好みを探すような聴き方をしてきましたから、嗜好が偏っているところがあるかもしれません。でも今は、その枠組みを広く大きく捉えることがすごく大事なんじゃないか、と思っています

倉品

おのおのの理想の形があるにしても、それはひとつじゃないんですよね。R&B寄りもあれば、DJ寄り、歌謡ポップス系もある。その中で僕たちは、メロディと言葉っていうところからシティポップにアプローチしている、ってことなんでしょう。そこが共鳴したから、EPOさんとのジョイントに繋がったのだと思います

EPO

きっと、1回共演するだけじゃ終わらないよね(笑)

2023年10月21日(土)
東京・六本木CLAPS / Autumn Conjunction 2023
EPO with GOOD BYE APRIL

出演
・EPO
・GOOD BYE APRIL
Vo&Gt. 倉品翔
Gt. 吉田卓史
Ba. 延本文音
Ds. つのけん
(Support) Pf. はらかなこ

配信チケット:¥4,000 (夜公演のみ)
★アーカイブ視聴期限:2023年11月4日(土)21:00
※ネットチケットは該当の有料生配信LIVEが視聴できる “有料視聴券” です。
※本ライブ配信は別途システム利用料と決済手数料が付加されます。
※ネットチケットを購入された場合、アーカイブ映像の別途購入は不要でご視聴いただけます。

7inch vinyl『BRAND NEW MEMORY
Side.A BRAND NEW MEMORY / Side.B TRANSIT IN SUMMER
GOOD BYE APRIL
ニューミュージック界の名門レーベル 日本クラウン”PANAM”からのメジャーデビューシングル「BRAND NEW MEMORY」(Side-A)シティポップ界の巨匠・林哲司氏がプロデュースを手がけ、 忘れられない大切な人とのひと夏の思い出を、懐かしさ感じる80年代のフィリーソウル/AORサウンドにのせた楽曲となっている。B面には同じく林哲司氏プロデュース・杉山清貴&オメガトライブの名曲「TRANSIT IN SUMMER」カヴァー を収録。 (レーベル:DOBEATU)

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