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Will Miller – Resavoir『Resavoir (Second Album)』インタビュー | 時代と環境が生み出したResavoirという「状況の産物」、その音楽的アイデンティティーと2作目となるセルフタイトルの制作背景について

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シカゴ発のフォーク・ロック・デュオWhitneyから、Chance the RapperやLil Wayne、Mac Miller、最近ではSZAのアルバム『SOS』などのヒップホップ/R&Bにも作曲や演奏で参加するトランペット/マルチ奏者/プロデューサーのウィル・ミラー。彼によるプロジェクトがResavoirだ。2019年にシカゴのジャズ・レーベルInternational Anthemからデビュー・シングル「Escalator」、そしてアルバム『Resavoir』をリリース。ピッチフォークやジャイルス・ピーターソンをはじめ各所で絶賛されたのを覚えている人も多いだろう。そこから4年、ついにリリースされたのが2ndアルバム『Resavoir(second album)』である。

各方面で精力的に活動しつつも、なかなか日本では情報が少なかったウィル・ミラーに、今回メール・インタビューを行うことが出来た。彼の経歴から独自の演奏方法、今作の制作手法と幅広い質問に丁寧に答えてくれている。「即興とエレクトロ」「集団演奏とプロダクション」「瞑想」など、ジャズに軸を置きながらも多方面へと広がるウィル・ミラーの関心の現代性がわかるはずだ。そして、ウィル・ミラー=Resavoirにとって象徴的な要素であっても、全肯定でも全否定でもなく、丹念に考え尽くし新たな可能性を探っていく語り口は、まさに本作のなめらかでありつつ耳に残る実験的なサウンドの質感と同じに思える。このインタビューが作品の奥深さをより楽しむきっかけの一つになれば嬉しい。

Will Willer Interview
ウィル・ミラー インタビュー

インタビュー・構成:高橋 アフィ – Affee Takahashi
インタビュー・通訳:バルーチャ・ハシム – Hashim Kotaro Bharoocha
編集:篠原 力 – Riki Shinohara(OTOTSU)
Special Thanks:Will Miller (Resavoir), International Anthem


Artist : Resavoir
レザヴォア

Title : Resavoir (Second Album)
レザヴォア (セカンド・アルバム)

価格 : 2,970円 (tax in)

レーベル : rings / International Anthem
JAN:  4988044094291
品番:RINC113
​フォーマット : CD​
ライナーノーツ解説:高橋 アフィ

Will Miller(ウィル・ミラー)
Resavoir 『Resavoir (Second Album)』

——音楽活動を始めたきっかけを教えてください。はじめから現在のような活動を想像していましたか。

Will Miller (ウィル・ミラー) – 6歳でピアノを弾き始めて、10歳でトランペットを吹き始めたんだ。おじいちゃんが素晴らしいピアニストだったんだけど、8歳のときに他界しちゃったんだ。音楽家になりたいと思う前は、「発明家」になりたいと思ったり、シェフになりたいと思った時期もあった。今の自分のキャリアは、全部の要素を組み合わせているような感じだよ。

おそらくキャリアのスタートは、14歳のときにシカゴの芸術/学習センターのGallery 37のオーディションを受けたことかな。Gallery 37にはビジュアルアートを作るところや、合唱団、劇団があったりして、僕はジャズバンドのオーディションに合格したんだ。そこは時給もらえる仕組みでね、その頃は友達の誰もがまだアルバイトができる年齢にもなってなかったのに、僕はすでに稼ぎ始めたんだ。そういうこともあって、当時はジャズで生計を立てられるという幻想を抱いていたし、かなり真剣にストレートなジャズに取り組んでいた。そこから高校でも必死で頑張って、最終的にはオハイオ州のオバーリン音楽院から奨学金をもらったんだ。

オバーリンでは、音楽の境界線を押し広げているたくさんのミュージシャンやアーティストと出会ってインスピレーションを受けたよ。彼らから、新しいスタイルの音楽やアーティストを教えてもらったから、目から鱗の経験だったよ。

そして大学を卒業するころには、現代のジャズの状態にかなり幻滅していたから、新しい表現方法やアプローチを模索したくなってたんだ。そこからResavoir名義で音楽を作り始めたんだ。

——Resavoirの楽曲にはジャズやヒップホップ、エレクトロなど様々なジャンルの要素を感じます。あなたの音楽のルーツを教えてください。

両親がクラシック、ジャズ、ロックが好きだったから、そういうジャンルを幼い時から聴いて大好きになった。姉からインディ・ミュージックを教えてもらって、学校の友達からヒップホップやエレクトロニック・ミュージックを知った。高校時代は、ハードコアなジャズ・マニアだった。

高校時代というのは、自分のテイストを決定づける時期だと思うんだ。高校時代に好きになって、自分の音楽的テイストを定義づけたアルバムをいくつか挙げるよ

Glenn Gould – Complete Goldberg Variations

Common – Be

Radiohead – In Rainbows

Kanye West – Late Registration

Freddie Hubbard – Straight Life

Ornette Coleman – The Shape Of Jazz To Come

John Coltrane / Thelonious Monk – At Carnegie Hall

Kenny Dorham – Quiet Kenny

Keith Jarrett – Facing You

Kenny Dorham 『Quiet Kenny』

——Resavoirははじめから現在のような音楽性だったのですか。

Resavoir名義で音楽を作り始めたのは、ジャズのギグをこなして生活費を稼ごうとする考えにだんだん嫌気がさして、バックグラウンドミュージックを演奏する仕事をやめて、家賃を払うためにピザ屋で働くようになった時なんだ。その頃、フライング・ロータスやマッドリブにハマって、ビート作りと自分の音楽にエレクトロニクスを取り入れることに夢中になってた。ジャズの世界にサンプリングを取り入れることが一番の方法だと思ってた。即興演奏のマジックをサンプリングと新たな音のテクスチャーで再解釈したかったんだ。

人々が現代のジャズに共感できなくなっている理由は、文化的に古臭いと感じているからなんだ。スタジオに生楽器のプレイヤーたちを集めて一緒に即興演奏させても、60年前にやっていたこととサウンドは変わらない。でも、もっとモダンなサウンドでアプローチできれば、僕と同じように、若い人たちがジャズに興味を持つかもしれない。シンセサイザーをただ追加することも、すでにやり尽くされていることだから、それだけではダメなんだ。サンプリングが答えだったんだ。古いレコードから小さなフレーズを切り取って、それをキーボードに割り当てれば、過去の音楽のDNAを持つ新しい楽器を生み出せるんだ。デビュー作に収録されている「Escalator」とか、「Resavoir」などの曲は、即興演奏とエレクトロニクスのギャップを繋げる方法を探求していた時期に作って、その中で「こうやってもいいんだ」 という閃きを捉えた曲なんだ。

Resavoir 『Escalator (Demo Version)』

——トランペットにキーボードを使ったMIDI操作でハーモナイズを行う演奏もあなたの大きな特徴の一つかと思います。このような独自の演奏を行うようになったきっかけやエピソードを教えてください。

2014年頃、僕はシカゴでたくさんライヴをやっていて、ワンマン・ホーンセクションのアプローチを取り入れたいと思っていた。僕はキーボードも弾くので、自分自身の伴奏もやりたいとずっと思っていた。そんな時、あるハーモナイザー・ペダルを見つけたんだけど、このペダルはキーボードからMIDI情報を受け取ることができたんだ。そこから右手でトランペットを演奏し、左手でコードをリアルタイムで演奏して、ホーンの音をハーモナイズする方法を開発したんだ。このアプローチを発見したときはすごくエキサイトしたね。ちょうどその頃にWhitneyに加入したので、このテクニックをライブでたくさん使って慣れることができたんだ。

Whitney 『Friend of Mine (Live at The Current)』

——2ndアルバムの制作に入ろうと思うきっかけを教えてください。

2019年にファーストをリリースしてから、セカンドをもっと早く作れると思ってた。素晴らしいバンドメンバーも揃っていたから、1年以内にアルバムを完成できると思ってたんだけど、コロナが始まってから、バンドメンバーを一つの部屋に集められなくなってしまったんだ。2020年9月から人生で初めてレンタルスタジオを借りるようになって、毎日そこで作業をしていたんだけど、そこは多くて3、4人しか集まれないスペースでね。

とはいえファーストは2013-2019年の間に7年間かけてレコーディングしたから、セカンドの方が実は短期間で制作できたんだ。今回のアルバムは2020-2023年の間にレコーディングしたものだね。

——本作を聞いた時、即興演奏に感じる開放感と綿密なプロダクションの素晴らしさを同時に感じました。制作はどのように行われたのでしょうか。

ありがとう。僕のアプローチは状況の産物だったんだ。ライブバンドの生々しいエネルギーは大好きなんだけど、ほぼ2年間も一つの部屋でバンドを揃えることができなかった。このアルバムを作り始めた最初の頃に、実際にフルバンドをスタジオに集めないでレコーディングするという制限を設けた。ファーストとは異なるサウンドを作り出すためのチャレンジでもあった。フルバンドをスタジオに招かずに、ライブバンドのサウンドを作り出したかったんだ。だから、自分の庭でジャムセッションをいくつか開催したあと、録音した素材をチェックして、それをエディットしたり、ループ、サンプリング、オーバーダビングをすることで、録音を限界まで広げようとしたんだ。

一方で、自分のスタジオで一人で作った曲もいくつかある。楽器はいつでもレコーディングできる状態にして、全ての楽器のマイクをセッティングしておいて、シンセサイザーも繋げて、スタジオに行ってすぐに録音を始めるようにしてあった。そういう状況を作ることで、 「Heavenly」、「On n On」、「Sunset」、「Facets」のような曲を生み出すことができた。こうした曲は、ほとんどが一人で自分の世界に入って作ってたんだ。

Resavoir 『Sunset』

——前作でも感じましたが、管楽器や鍵盤やシンセサイザー、そして声も含め、すべてが混ざり溶け合うようなサウンドになっているのが印象的でした。このアレンジ/アンサンブルについて、エピソードやイメージがあれば教えてください。

世界観を作る作業が好きなんだ。今まで存在しなかったサウンドスケープを作り上げることに興味がある。サンプリングや生楽器を使ったり、さまざまなテクスチャーを組み合わせることで、フレッシュで、エキサイティングで、没入感のある音の世界を作っているんだ。

まだインスピレーションが沸いて新鮮な気持ちのうちに、曲作りをはじめて、なるべくたくさんのパーツをレコーディングする。その後にしばらく休んで、また聴き直して作業を再開する。なるべく早い段階でトランペットをレコーディングしないと、自分の演奏を気に入らないということがわかった(笑)。だから、自分の演奏のレコーディングは、インプロヴィゼーション中に録ったものたか、曲を生み出した数時間以内に録ったものなんだ。

——制作の中で印象に残ったエピソードはありますか。

2020年の6月に、友達のレーン・ベックストロムとジェレミー・カニンガムと一緒に、僕の裏庭でジャムセッションをやったんだ。ロックダウンのあと、誰とも音楽を演奏してなかったから、ある夕方にジャム・セッションをやってみて、運良くそれをレコーディングしていた。近所の人たちも集まってきて、ビールを置いて行ってくれる人もいたんだ。すごく素敵な瞬間だったね。「First Light」と「Midday」はそのセッションから作られたんだ。

Resavoir 『First Light』

もう一つ印象に残っているエピソードは、エディ・バーンズと初めて一緒に演奏した時だった。彼の父親が僕の高校のトランペットの先生で、それ以降何回かエディと会って連絡は取ってたけど、一緒に演奏したことはなかったんだ。僕は彼のドラムプログラミングが大好きで、それで彼に声をかけたんだ。会ってすぐに意気投合して、彼は最終的に 「Inside Minds」、「Sunday Morning」、「Blutopia」で演奏して、最近はライブ・アンサンブルのメンバーとして演奏してくれてるんだ。

「Sunday Morning」は、1年くらいかけてコツコツと作ってた。エディがかっこいいドラムを入れてくれて、レーンがアップライトベースを弾いて、基盤はできてたんだ。それを特別なコラボのためにとっておいてたんだ。エルトンとコラボしたいっていうのはずっと前から思ってたから、スタジオに招いて、いくつかの曲を聴かせたんだ。彼はこのトラックを選ぶだろうと予感していたけど、予想通り彼はこのトラックを選んで、その日にすぐに歌詞を書いて録音したんだ。仕上がりにはとても満足していた。その次の日に、ジュリアン(Whitneyのメンバー)が、まさに同じ曲にメロディをハミングしたボイスメモを送ってきたんだ。彼は、このトラックの古いバージョンに歌をのせていた。僕が約1年前に彼にこの曲をスタジオで聴かせて、ドラムのアイデアがあるかどうかをチェックしてた時に、彼がこっそりと携帯電話でその美しいメロディを録音してたらしい。それをエルトンが歌詞を録音した翌日に、一年後になってから僕に教えてくれたんだ。それがあまりにも奇跡的な偶然だと思って、マックスとジュリアンを招待して、そのメロディを完成させて、3人でアウトロセクションを作ったんだ。

Resavoir 『Sunday Morning』

——本作のテーマとして、「medicinal」や「introversion」、「mindfulness」、そして「transformation and healing」と言った言葉が挙げられていました。そのようなテーマに至った経緯を教えてください。

パンデミックの間、瞑想と仏教にハマって、僕のクリエイティビティに大きな影響を与えたんだ。意識的に、これらのテーマで作品に一貫性を持たせようと思ってたわけじゃないんだけどね。とにかく毎日音楽を作ろうとしていた時期だったんだ。パンデミックの間は、暗くなったり、鬱々とした気持ちになる日が何度もあったんだけど、音楽はそれらの感情から逃れ、心の状態を変える手段でもあった。マッドリブがブラジルでビート作りをしていた時に発した言葉がすごく印象に残っているんだけど、「まずは自分自身と自分の健康のために音楽を作っているわけで、それを他の人に気に入れば、ありがとうっていう感じさ」と彼は言ってたんだ。その言葉にすごく共感するんだ。本物のアートを作るなら、まずは自分自身のために作るべきだと思うんだ。そうでなければ、単なる販売目的の商品を作っていることになってしまう。

——前作以上にベッドルームなサウンド、シンセの音色が心地よい作品になっています。個人的に、アンビエントや電子音楽の数々の名作と連なる素晴らしさを感じたのですが、制作においてアンビエント音楽やニューエイジ音楽のフィーリングをイメージすることはありましたか。

このアルバムを制作していた間は、Harold Buddの『The Pavilion of Dreams』にハマってた。また、Luiz Bonfáの『Introspection』も、電子音楽ではないけれど、ニューエイジのアルバムと同じような感覚で大好きなんだ。多くの人は、パンデミック中は、ニューエイジやアンビエントを聴いてたと思うんだ。これらのジャンルは心地良くさせてくれたり、安心感を与えてくれるからね。最近はGreen-House、Brain Eno、そしてKaitlyn Aurelia Smithなども大好きだよ。

Luiz Bonfá 『Introspection』

——今回タイトルは1stと同じくセルフタイトルとなっています。その理由を教えてください。

アートワークに焦点を当てたかったんだ。リスナーが僕の作品を「リーフ・アルバム」とか「ぼんやりしたジャケのアルバム」などと呼んでくれたら面白いと思ったんだ。このアイデアは、70年代に3枚のアルバムをリリースしたブラジルのElis Reginaの作品からアイデアを得たんだけど、彼女の当時の3枚のアルバムはどれも『elis』というタイトルだった。それに、Resavoirという名前をとても気に入っていて、意図的なスペルミスと、この名前がもつ意味も気に入っている。これらのアルバムがセルフタイトルであることは、音楽的にも合ってると思うんだ。

アートワークを担当してくれたクリスタル・ザパタは、僕のライフパートナーなんだ。彼女は、僕の生活にはなくてはいけない存在で、彼女の作品が大好きなんだ。それに僕以外でResavoirを一番よく知ってくれている。この新しいアルバムでは、ブルーアワー、つまり日が沈み始めたあとの15分間の空の色をカラーパレットとして使いたかった。それと、鳥を使いたいと思っていた。一緒に西海岸を旅したときに彼女は写真を撮って、それを魔法のようにレイヤリングして、イラストと組み合わせてこのアルバムアートをクリエイトしてくれた。彼女はまさに天才だよ!

Resavoir 『Resavoir (Second Album)』

RELEASE INFORMATION

Artist : Resavoir
レザヴォア

Title : Resavoir (Second Album)
レザヴォア(セカンド・アルバム)

価格 : 2,970円 (tax in)

レーベル : rings / International Anthem
JAN:  4988044094291
品番:RINC113
​フォーマット : CD​
ライナーノーツ解説:高橋 アフィ

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