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倉品翔「風はパーマネント」リリース記念インタビュー。淡々とうつろう日常の中に浮遊する “変わらずに残る思い”

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今年(2023年)4月、林哲司がプロデュースを手掛けた「BRAND NEW MEMORY」で活動歴12年目にしてメジャーデビューを飾ったGOOD BYE APRIL。以来、非常に精力的かつ彼ららしい動きでファン層を拡大しているところだが、バンドのフロントマンである倉品翔のソロ活動もまた、今年に入って新たな段階に入った感がある。

倉品はもう何年も前からバンド活動と並行してソロ活動を行っており、地元の長野県を始め、各地で弾き語りのライブを長く続けてきた。そして初めてソロ曲を作品としてまとめたのが、2019年12月からライブ会場限定で販売していたCD『風の眼』(配信開始は2021年)だったわけだが、そこから段階を経て、彼自身のなかでもソロで表現したい音楽の世界観が徐々に明確化。miida(ミーダ。シンガー/ギタリスト、マスダミズキのソロプロジェクト)とコラボして今年8月にリリースされたシングル「ふたりは夏雲 feat.miida」は、切なくも夏の風情を感じさせる曲で、ラジオでも多数オンエアを獲得した。この曲を聴いて倉品翔というシンガー・ソングライターを認識した人、あるいはこの曲を好きになってGOOD BYE APRILを聴き始めたという人もいたくらいに、いい結果を残したのだ。

そして11月22日にはニューシングル「風はパーマネント」を配信リリース。これがまた素晴らしい楽曲で、ソロワークが完全に軌道に乗ったことを感じさせる。

バンドがアグレッシブな動きを見せるなか、倉品はどうして、どんな思いで、ソロ活動を行っているのか。「ふたりは夏雲 feat.miida」、そして新曲「風はパーマネント」にどんな思いを込めたのか。ソロ活動に焦点を絞って聞いたが、結果としてバンドに賭ける思いも伝わってくるインタビューとなった。

取材・文:内本順一 / 編集:伊藤晃代(OTOTSU 編集担当)
写真:瀬能啓太


― Hugh Keiceがリミックスした「missing summer」の韓国語ヴァージョン、林哲司さんのトリビュート盤『A Tribute of Hayashi Tetsuji –Saudade』に収録された「SUMMER SUSPICION」(杉山清貴&オメガトライブのカヴァー)、それにメジャー2ndシングル「サイレンスで踊りたい」とリリースが続いている上、2マンツアーがあったり、EPOさんとのコラボライブがあったりと、このところかなりアグレッシブな動きを見せているGOOD BYE APRILですが。

倉品翔

はい。頑張り時ですね(笑)

― ファンの層も広がったのでは?

倉品翔

そうですね。「林さんの楽曲のファンだったので聴いてみたら好きになりました」という人がかなり多かったですし、EPOさんのファンの人もそう。林さんやEPOさんの曲を好きで聴いてこられた僕らより上の世代の人たちから、とてもいい反応をいただけている。音楽的な親和性があるからこそなんでしょうけど。

― 林さんにしてもEPOさんにしても、1回限りのコラボで終わらず、これからもAPRILとの関係が続いていきそうな予感がする。まさしくそれは音楽的な親和性があるからで。

倉品翔

そうなんですよ。自分たちの好きな人とばっか繋がれているのが大きくて。メジャーデビューの年だからということでの作戦としてではなく、音楽性あっての濃い繋がりができていることがすごく嬉しいんです。

― そんなふうに非常に充実したバンド活動が進むなか、倉品くんはソロ活動も並行してやっている。バンドが行き詰まったときにソロで動いて空気を循環させるというアーティストは少なくないけど、倉品くんは、バンドはバンド、ソロはソロという感じで、これまでも両方走らせてきたわけで。

倉品翔

バンドに何かあるからソロをやっているんじゃないか、っていうふうに見られたくないんですよ。

― ソロではソロで表現したい楽曲を制作して、フットワーク軽くあちこちで弾き語りライブをやっている。それは決してバンド活動の片手間なんかじゃないってことを、ちゃんと伝えておきたいよね。

倉品翔

ほんと、そうなんです。

― あっちは仕事でこっちは遊びみたいなことではないでしょ?

倉品翔

そういう意識はないですね。ただ、バンドに対してはやっぱり責任感が強くあって。それはずっとそうなんです。自分が(バンド結成の)言い出しっぺである以上、バンドとしてちゃんと結果を出さなきゃいけないし、それを自分の人生の大命題として20代の頃から生きてきたところがあって。

― 結成当初からそういう意識を持っていたの

倉品翔

始めたての頃は、もう一回バンドをやれて嬉しいっていう純粋な喜びだけでしたけど、やっていくうちにバンドというものが自分には向いてないんじゃないかと悩みだして、やめちゃったほうがいいんじゃないかって考える時期もあったんです。長い間、その葛藤が続いていましたね。でも自分が言い出しっぺだし、みんなの人生を預かって……預かってじゃないな、引きずりこんじゃったから、結果が出るまで責任を持って踏ん張らなきゃなと。その感覚は今も抜けてないです。

― でも責任感だけでは、インディーで12年間も続けられないわけで。

倉品翔

可能性が途切れなかったんですよ。もしかすると諦めポイントもあったのかもしれないけど、やっぱりみんながそれぞれちょっとずつ成長しあえる関係性だったから。まだ全然伸びしろがあるじゃん、こんなこともやれるようになったじゃん、っていうことの繰り返しで、それがどんどん大きくなって今に至っている感じなので。

― 「もうここまでだな」と思う瞬間がなかった。

倉品翔

なかったんです。それは幸せなことだったと、今になって思いますけど。

― バンドをそういう思いで続けてきて、じゃあどうしてソロもやっているんですかって思う人もいるかもしれないけど、そう訊かれたら?

倉品翔

もともとソロは趣味から始まっているんですよ。僕は家で曲を作っている時間が大好きで。ひとりで打ち込みとかをしているのが楽しくて、その延長線上でソロをやっている。というのと、3~4年前からシティポップだったり80’sだったりとバンドでやりたい方向性が明確になるに連れて、自分がほかに昔から好きで聴いてきた音楽……例えばサイモン&ガーファンクルのようなフォーキーなものだったりをバンドでやる感じではなくなっていったというのもあって。当面こういう曲はバンドでやらないだろうな、だったら自分で趣味的にやればいいじゃん、っていうところで始めたのがソロなんです。

― バンドの音楽の方向性が明確になったことにより、ソロではこういうことをやりたいという気持ちも同時に強くなっていった。

倉品翔

そうです。別ベクトルのやりたいことがそれぞれにある。でも例えば20年後とかにそれが混ざっちゃってもいいと思っているんですよ。歳をとったら、今ソロでやっているようなことをバンドでやれるようになるかもしれないし。今は明確に自分のなかで分かれているから、両軸でやれるなっていう。どっちも楽しくやれる。そういう健全なマインドです。

― APRILは柔軟性の高いバンドだけど、それ以上にソロだとフットワーク軽くやりたいことがなんでもできるってところもあるのでは?

倉品翔

気楽さはありますね。バンドにおいての曲作りは、衣装を着る感じというか、ちょっと余所行きの服を着て出かけるようなマインドで、もちろんそれはそれですごく楽しいんですけど。ソロはそういうんじゃなくて、部屋着のまんまをポロッと見せられる場所としてある。もともとひとりでいるのが好きなんですけど、そういう自分をそのまま見せられる気楽さというか。

― 両方あるからいい

倉品翔

うん。でも、どっちかが欠けたら困るというよりは、どっちも楽しいからやっているって感覚ですね。

― こんなことはありえないけど、もしも今誰かにバンド活動の場を取り上げられたら……。

倉品翔

あ、それは困る。バンドは志半ばですからねえ。自分には向いてないんじゃないかと思っていた時期もあったけど、今はもう生涯バンドとしてやりたいというところまで来ているから。一生やりたいバンドになれたので。

― ソロのほうは?

倉品翔

ソロ活動ができなくなったら心の健康が保てない、とはまったく思わないです。単純にやりたいことがもういっこあったからやっているって感じなので。

― 曲作りに関しては、「さあバンドの曲を作るぞ」「ソロの曲を作るぞ」というふうに別の意識で書くものなの? それとも、特にそういう意識を持つことなく、曲ができてからこれはバンド、これはソロというふうに振り分けるの?

倉品翔

両方ありますね。ただバンドの曲は、“こういうシチュエーションで流れたらいいなぁ”といったイメージありきで作ることが最近多くなりました。それとあと、チームの総意として“次はこういうことをやったらいいんじゃないか”“こういう曲をリリースするのがいいんじゃないか”というのを持って、それに沿うように作ることも増えた。純粋に自分が今やりたいことの比重とチームとしてのそれとの割合が、以前とは変わってきていますね。ソロの場合はそういうことを何も考えず、自分の心のなかのちょっとした衝動を曲にしている。ポロッと出てきたものが曲になるということが多いです。

― バンドでやるつもりで作ったけど、しっくりこなくてソロでやることにしたという曲もあったりする?

倉品翔

あります。バンドでやりたいと思って持っていった曲が、ほかの3人はそんなにピンときていなくて、だったら自分が趣味全開でやったほうが面白くなるなと思ってそうした曲もあるし。

― 具体的に言うと?

倉品翔

『satellite flying alone』に入れた「River」がそうですね。あの曲はバンドのデモに紛れ込ませていたんですけど、あまりにもピアノ弾き語りの作りだったからか、これをバンドでやるというイメージがみんなのなかに湧かなかったみたいで。

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