3月20日にCHiLi GiRLの新曲「Secret Secret」が発表された。CHiLi GiRLは以前より渋谷系からの影響を公言しており、この曲も一聴してわかる通り、90年代の渋谷系を彷彿とさせるハッピーでポップな作風に仕上がっている。今回はその渋谷系ムーヴメントの中で最も影響を受けたという元Cymbalsの沖井礼二と初対談。お互いプライベートで親しくしているというだけあって、世代を超えたユニークな音楽談義を繰り広げてくれた。
インタビュー・執筆:栗本斉
編集:伊藤晃代(OTOTSU編集担当)
撮影:渡邊シン
― すごく仲が良さそうなのですが、お二人はどれくらいのお付き合いなんですか。

実はまだ、実際にお会いしてからは数カ月しかたってないんです(笑)。



直接会ったという意味では、たしかにそうだね。
― オンラインではずっとやり取りされていたということなんですか



最初はX(旧:Twitter)かな。



私はすごくよく覚えているんですが、イベントに出演していただきたいなと思って、2019年の年末に、オファーさせていただいたんですよ。
でも、私の力不足と、コロナの影響で機会を逃してしまったんですね。ちょうどその頃にCHiLi GiRLというソロプロジェクトを始めようと思っていた時だったので、その発足のお祝いコメントを頂くために改めてご連絡したのがきっかけです。
― 直接連絡したんですか。



そうです。DMを送ったらすぐに返信を頂けて。



あれからもう4、5年経つってことだよね。



その間も、友達と飲むから一緒に行きませんか、みたいな話もあったけれども、結局コロナで都合付かなくて。



そうそう、お互い気になっていたけれど、実際には会っていなかったね。



でも、Xでは絡むとかはあったんですけれど、ついこの間、今作「Secret Secret」の編曲家でもある渡邊シンくんがドラマーとして参加していた花澤香菜さんのライヴに行かせてもらって、そこでお会いしました。



それが初めましてだったんだけれど、“初めまして感”が全然なくて(笑)。それで一緒に飲みましょう、みたいな流れになりました。それからは結構なペースで会っているね。



月に2,3度くらい(笑)。何か食べに行こうとか、一緒にイベント行きましょうとか、お誘いしていたりして。



予定をしっかり決めるのではなく、「今日大丈夫?」みたいなノリで。そういうのを入れ込んできてくれるんですよ。



以前、「予定を教えてください」って言ったら、「了解です」っていう返事しかなかったんですよ。沖井さんは作家さんでもあるから、空いていればその日いける、みたいな感じなのかなと。それで、「今日空いていますか」っていうLINE送ったりしています。
― フットワークの軽いお二人の性格が一致したんでしょうね(笑)。お互いの印象なんですが、実際に会ってから変わったことってありますか。



そんなに変化したっていうことはないけれどね。まず、彼女は三味線っていう伝統的な楽器をしっかりと学んでいて、先生でもあるわけじゃないですか。その時点で音楽家としての視野がしっかりしているというか、音楽を学問として学んできた実績が、一緒にしゃべっているとわかるんですよ。ただ、世代が違うから、感じ方や捉え方は全然違いますけれどね。
― 音楽的な部分では通じ合っても、世代が違うとそうなるのは当然ですよね。



例えば、90年代や2000年代に僕が感じていたことを話すと、最初はびっくりするんだけれど、そこからの飲み込みや吸収は早いし、リアルタイムの人間には思いつかない解釈のようなものを見せてくれるから面白いですよ。


― そもそもCHiLi GiRLさんが沖井さんを知ったのはどういうきっかけなんですか。当然、Cymbalsはリアルタイムではないですよね。



はい、リアルタイムではなかったです。大学生の時に、私が好きな音楽のジャンルが渋谷系だということを教えてくれた先輩がいたんですね。ジャズとかサンバとかそういったジャンルをルーツに持つポップスやエレクトロなんかを聴いていたので。それで、こういった感じの音楽をもっと聴きたいけれど探す当てがなかった時に、渋谷系っていう言葉を知って、いろいろ聴き始めているうちにCymbalsに辿り着きました。それから、どんな日でもいつも寄り添ってくれる音楽がCymbalsだったなと思うくらいです。
― 当然その頃にはCymbalsは解散していましたよね。



知ったのは2013年くらいなのでそうですね。



Cymbalsは2003年に解散しているから。
― リアルタイムではないのにそれくらいどっぷりとはまったんですね。



CHiLi GiRLの「C」は、Cymbalsの「C」からとっているっていうことは、デビュー当時から言い続けているくらい。その話を沖井さんに数カ月前の初めてお目にかかった日に震えながらお話ししました(笑)。


― 沖井さんから見て、CHiLi GiRLさんのような若い世代のミュージシャンのことをどのように感じていらっしゃるのでしょうか。意外と90年代っぽい音楽をやっている若手が増えているように思えるのですが。



うらやましいですよね。YouTubeやサブスクで古い音楽を掘り放題じゃないですか。僕らの時代は散々ディスクユニオンなどに通って探して、しかも買わなきゃ聴けない。こういう作業を家でできるようになって。ただ、僕たちが60年代や70年代の音楽を探していたのと同じように、今の世代は90年代の音楽を聴いているんでしょうね。
― 渋谷系が再評価されているという現象も面白いですよね。



そうですよね。でも渋谷系という言葉に関していえば、これは一晩で終わらない話になりますよ。あまりにも定義が曖昧過ぎる。何が渋谷系なのかを誰もわからずに使っていましたからね。メジャー7thのコードを使えば渋谷系なのかというとそうでもないじゃないですか。逆に渋谷系ってどう思われます?
― 僕も渋谷系という言葉には少し抵抗はありますが、90年代で音楽シーンががらっと変わった印象があるんですよ。それまでは音楽のルーツやジャンルを体系立てて、その影響下で音楽を作っていましたよね。でも、渋谷系と言われている人たちって編集的な感覚で美味しいところを自由につまんでいって、その手法がめちゃくちゃ面白かった。渋谷系のイメージはそんな感じです。



そうなんですよね。それまでは若手のミュージシャンは昔の音楽を研究して吸収して、オリジナルなものを作ろうとしていたんだけれど、何が変わったかっていうと、AKAIのSシリーズ(サンプラー)が浸透したからなんですよ。誰もが気軽にサンプリングできるようになった。だから、渋谷系は手法としてはヒップホップだったと思いますよ。著作権に関しても当時は今と比べるとすごく緩かったから、面白いものが作れた。



うらやましい時代ですね。



大ネタ使うからこそかっこいい、とかね。そういう編集を楽しんでいたというのはあるかな。だから、こういうヴォイシングでこういう楽器を使うと渋谷系、みたいなものはないんですよ。若い世代の人たちがどういうところを渋谷系って指しているのかは、すごく気になる。



今の沖井さんの話とは少し矛盾するんですけれど、なんとなく私たち世代からすると、使っている音色とかコード感みたいなものから、”これは渋谷系っぽい”って知らずの知らずのうちにカテゴライズしていることは多いですね。あとはそういう音楽を聴いている人の性格やファッション性みたいなものにも共通項があって、私もそこにフィットするような感覚だったんです。だから、沖井さんのお話もよくわかるし、いろんなものが混ざっているのは承知の上で、我々世代の思う渋谷系とかサブカル系みたいなものが、私はずっと好きなんだと思います。



そういう意味でいうと、サブカルという言葉も90年代と今では全然違いますよね。今言ったサブカル系というのは、今の感覚のサブカルだよね。



私の思っていたサブカルって、音楽カルチャーでオタクと渋谷系が混ざっていたような、いわゆるアキシブ系みたいなものですね。でんぱ組.incとか日向美ビタースイーツとか。



僕らの時は秋葉原と渋谷は相容れなかった。そのあたりは初期のCAPSULE当たりの影響は強いよね。ゲーム、アイドル、アニメの文化が醸成されていったんだろうと思うんだけれど、僕はそのあたりはまったく詳しくないからそんなにコメントできない。でも、その周辺のカルチャーで育った人たちが、後々にCymbalsが好きですって言ってくれるのは不思議だしありがたいですよ。



なぜサブカルの流れからCymbals好きが多いのかというのは、実は発見されるルートがあるからなんですよ。音楽サブスクには、アキシブ系をまとめたプレイリストっていうのがいくつか存在していて、そこにCymbalsが違和感なく入っているんです。だから私たちの世代は、沖井さんの音楽にアクセスしやすかったんですよ。



あと、beatmania(コナミのゲーム機)というのも大きいかもしれない。音楽をいくつか提供させていただいていたので、Cymbalsを聴く前に「ビーマニで聴いていました」っていう人が実はかなりいるんです。それって、アーティストとしてどうこうではなく、単純に音楽が好きだったということじゃないですか。曲が好きだから「作者は誰だろう?」って調べたら沖井礼二を発見したっていうことだから(笑)。



ああ、それは本当にたくさんいますよ。実際に私もゲームセンターに通って音ゲーやっていた時に所謂アキシブ系の音楽に出会っていますし。



およそ90年代的ではない音楽とのふれあい方で、僕らの音楽を知ってくれるというのがすごく面白い。僕らにとってはゲーセンではなくディスクユニオンが遊園地だったからね(笑)。


― そう考えると、今のアニメやアイドルの音楽のクリエイターのクレジットを見ると、いわゆる渋谷系界隈の人たちがこぞって参加しているという図式は興味深いですね。



そこはきっとサンプリングとかデスクトップで音楽を作ってきたし、ゲーム音楽にデータで音楽を提供することに違和感がなかったからかもしれないですね。



私たちも、沖井さんたちがそうやって音楽を作ってきたことの恩恵を受けているんですよ。だからリスペクトしているし、共感もできるんです。
― 世代もカルチャーも違う中で音楽体験をしているのに、お二人がハモるというのは面白いことですよね。



それは単純に年齢や男女に関係なく、彼女が単順に面白い人だからですよ(笑)。



沖井さんも全然偉そうなこと言わないじゃないですか。だから私も大先輩の教えを請うっていう姿勢ではなく、遠慮せずに言うと友人としてお付き合いさせていただいているんです。沖井さんは私たちの世代を面白がってくれているし、私も後輩面するのもなんか違うかなって。もちろん知りたいことは聞くけれど、話しているうちにただ楽しい時間になっているっていう、そういう関係になるタイミングが早かったですね(笑)。



僕たちが作っている音楽はポップスじゃないですか。僕は、ポップスは若者がいいと思ってこそだと考えているんですよ。もちろん歴史を見てきているわけだから、事実はこうだっていうのはあるけれど、そこからどう感じるか、どう解釈するかは自由にやってもらえればいいと思っている。好き勝手やるのが正解なんですよ。自分で音楽を作る時も、18歳の沖井礼二くんに訊くんですよ。「これってポップスとしてOK?」って(笑)。だから、18歳の沖井礼二くんにの代わりに、若い人たちが反応してくれるのが一番うれしかったりする。



読者からしたら私はだいぶ生意気にお話させて頂いてますが、沖井さんだから言えるんですよ!(笑)



いやいや、さっき偉そうじゃないって言っていたけれど、偉いのはいつの時代も若者の方ですよ。僕の方こそ楽しませてもらっているし。例えば、今回のCHiLi GiRL「Secret Secret」のアートワークもすごく面白いじゃないですか。90年代好きって言っていたけれど、80年代の要素もあれば2000年代の要素も混じっている。





このイラストはすごくこだわっていて、女の子に何を着せるのかも考えているんです。服のイメージ参考は、『エミリー、パリへ行く』っていう海外ドラマのイメージなんですよ。ああいうバリバリ働く女性が好きなんです。『セックス・アンド・ザ・シティ』は私のバイブルですし、『プラダを着た悪魔』や『マイ・インターン』なんかも大好きなので。



なるほど、いろんな要素が入っていることで、これとこれが一緒にあるのは歴史的におかしいという人も出てきそうだけど、そういうのが混在しているのが21世紀的だなって感じますね。
― アートワークの話が先に出たのですが、音楽的に「Secret Secret」はやはり90年代へのオマージュという意識はあったのでしょうか。



作りたいものを作ったら、直球の私のルーツの音楽になっていました。リスナーの方は他の曲と比べて驚くかもしれないけれど、CHiLi GiRLならこれもありだなってしっかり届いてほしいです。



僕たちが作ってきた音楽をこういう風に見ているんだっていう新鮮な感覚がある。リアルタイムで知っている人のウンチクとか余計なものを、30年経って取り除いたらこうなるんだっていう面白さがありますよね。ただメロディが良くてサウンドがかっこいい、みたいな。
― もしも今後お二人が一緒に何かを作ることになったとしたら、どうなりそうですか。



すごく難しい質問ですね。沖井さんは私にとってとても大事な人ですから、気軽に言えない(笑)。ただ、単純に私が作った曲をアレンジしてもらうとかではなく、作曲段階からコライトしてみたいという気持ちはあります。私が作っても、どこかに沖井節が混ざってくる、みたいな。



よく沖井節って言われるけれど、自分ではさっぱりわからないんだけれどね。うちの母ちゃんが作った味噌汁が、母ちゃんの味になるのと一緒なんだろうね。ただ、僕はこうしたら自分の好みになるっていうのを繰り返して積み上げて曲にしていくから、そこをこうしちゃダメって言われたら大喧嘩になるかもしれないよ(笑)。



コライトの怖いところはそこですよね(笑)。だから信頼している人としかやりたくない。でも沖井さんと喧嘩するかな。喧嘩したくないから、私がすぐ折れちゃいそう(笑)。



以前、ROUND TABLEの北川勝利と共作したことがあって、それぞれがお互いの強みを出そうと意識して、これちょっと北川風だな、沖井風だなっていうのを放り込んだりしたんですよ。結果的にどっちがどのパートを作ったのかわからなくなってしまったけれど(笑)、ものすごくいいものができた。



へええ、コライト成功しているじゃないですか。



だからもし一緒に作るとしたら、僕はCHiLi GiRLのつもりになって、CHiLi GiRLが僕のつもりになって作ればいいものができるかもしれないね。



喧嘩しないようにタッグを組みましょう(笑)。いつか実現したいですね。


CHiLi GiRL


■CHiLi GiRL (チリガール)
三味線奏者 / ソングライター川嶋志乃舞による、伝統芸能とシティ・ミュージックを繋ぐスパイシーでチャーミングな次世代ポップ・プロジェクト「CHiLi GIRL(チリガール)」
<CHiLi GiRL>は、昨年シンガポールで開催されたジャズフェス「Sentosa Jazz By The Cove」に出演。プレイヤーとしてはアジアから西欧まで世界各地でのパフォーマンス経験を持ちながらも、ついにシンガーソングライターとして自身のポップミュージックを海外で初披露。伝統芸能とシティ・ポップを繋ぐ存在として国内にとどまらず海外でのライヴ演奏や、ストリーミング・SNSを通して自身のキーワード“スパイシーでチャーミング”をテーマにした音楽をグローバルに発信している。
とりわけ、“才能巻き込み型プロジェクト”を掲げ、Sara WakuiやGOOD BYE APRIL、宮野弦士、渡邉シンなど新進気鋭のアーティスト・クリエイターとのコラボレーションを行い果敢にジャンル領域の境界線を攻め続けている。
2022年にリリースした1st アルバム「MEBAE」は、FM 局、雑誌、インターネットなどでも好評に。
リード曲「都会の森」は、雑誌「non-no」ヒャダイン連載コラム「この歌詞がすげえ!」 / 日本テレビ系「バズリズム 02 -ルーレッ撮る LIVE-」 / 流線形のクニモンド瀧口 監修コンピレーション「CITY MUSIC TOKYO」など様々なところでピックアップされた。デビューライブを渋谷WWWで開催。
<川嶋志乃舞>としては、東京藝術大学入学前から津軽三味線の全国大会で 4 度の優勝を獲得した伝統芸能家。
人気テレビ番組「和風総本家」のテーマ曲にも起用された「花千鳥」のヒットにより、津軽三味線を携えてポップフィールドへの参入を果たした。その活動は多分野に幅広く、バッドボーイズ 佐田正樹主演「ひとり芝居 4」の音楽担当、劇中の奏者として参加するなど 芸能方面でも注目を集め、最近では新作歌舞伎「流白浪燦星(ルパン三世)」の編曲・録音に参加、日本テレビ「笑ってコラえて!」にも出演し伝統芸能界での活躍も著しい。


『Secret Secret』
CHiLi GIRL
2024.03.20 RELEASE
DOBEATU
<Credit>
Music&Words,Vo.Cho.Shamisen : Shinobu Kawashim
Arr.,Dr.,Key.,Programings : 渡邊シンBa. : 嶋田圭佑
Gt. : 小林ファンキ風格
Rec.Mix.Mastering : 友重悠
Art Work : 亀井桃
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