2023年11月29日にデジタルリリースされた paddy isleのEP『In Between』。レコーディングにまつわるエピソードやMVの制作秘話、そしてバンドとしての音楽性の進化について話を聞かせてくれた。
(文 : ナガオマサズミ)
─アルバム名の『In Between』の由来は?
丸山(Gt/Vo) : 2022年に1stアルバム『Cavemen’ Law』をリリースして、今回のEPで2枚目。今後、制作する2ndアルバムのことも視野にいれたいから、“過去と未来の間”という意味で『In Between』という名前に決めました。
新垣(Ba) : 最初のアルバムは、かなりボクらのルーツ寄りだったというか。好きな60年代っぽい音楽をイメージしていたんですけど、今回のEPではエレクトロだったり、ダンスミュージックっぽい音楽性が加わって、今までとはまた違った雰囲気のpaddy isleになってきていると思います。
─1stアルバムと比べて、音楽性が変わってきた?
丸山 : 『Cavemen’ Law』では、ルーツを表現するために録音機材や制作環境から、60〜70年代に寄せていたんです。でも「MOONSHINE」とか、他バンドやDJたちとパーティを重ねるうちに、今まであまり聴かなかったジャンルに触れる機会も増えてきて、その影響もあるのかな。無理矢理、自分たちの音楽性を変えようとしているわけじゃないけど、自然にモードが切り替わってきました。
三浦(Gt) : これまでと1番変わったのは、やっぱり曲そのものだろうね。自分たちでパーティを主催するからこそ、いろんなバンドと出会えて友達が増える。それでハマっている音楽を教え合ったりして。
新垣 : あと、ライブアレンジも当初とはかなり変わったと思う。曲づくり自体は大きく変わってないけど、完成した音源にステージ上でどう表現を加えるか。2年前は技量的にできなかったことも、今はできるようになって少しずつ引き出しが増えてきました。
丸山 : 今回のEPを踏まえて、2ndアルバムでは、今までとはさらに違った方向性だったり、好転したことをやっていきたいと思っています。
─ジャケットの写真とデザインには、どんな意味がある?
丸山 : 前回のアルバムを踏襲して、メンバー4人の集合写真をフィルムカメラで撮りました。ただ、1stのときはもう少しザラっと、ボヤっとした感じだったけど、今回選んだのはもう少しリアリティのある写真。今回のEPで加わった、エレクトロミュージックの要素、ポップさ、今っぽい遊びのある音楽性をジャケットでも表現したくて。グラフィックは雄飛(白石/Dr.)と達也(三浦)がやってくれたね。
三浦 : 印刷した写真を置いて、その上に文字を重ねて作りました。あんまり気づかれないけど、メンバーそれぞれの口から文字が出てきて、離れるほどだんだん大きくなるようにしているんだよね。
新垣 : 個人的にはシングルをリリースしたタイミングから、それぞれの曲に色があって賑やかな感じになるだろうとは思っていたから、割とイメージに近かったかも。
白石(Dr) : 写真は渋谷のLUSHってライブハウスで撮ったものですね。というより友達が勝手に撮影してくれた(笑)。メンバー同士で飲みながら談笑しているシーンです。
─EPの構成や並びはどうやって決めたの?
三浦 : メンバーみんなで話し合いましたけど、すぐに決まりましたね。しかも満場一致で。EPの中でも「Mk-VI」と「Nowhere To Nowhere」は、これまでの楽曲とはかなり違った印象だったから、最初と最後にしたかった。あとはバランスを見ながら自然に。
丸山 : 特に「Mk-VI」はシンセサイザーを多めに使って、今までのpaddy isleとは大きく雰囲気が変わった曲。だからあえて1曲目に持ってきて、ギャップを生みたかったんです。
─EPの楽曲はメンバーそれぞれが作曲したと聞いたけど?
丸山 : 今回のEP曲は、ボクと達也(三浦)、ガッキー(新垣)がそれぞれ作曲しています。「Queen In Red」は、まだバンド結成前の2017年に達也と宅録した曲が元になっていて、シングル化にあたって4人バンド編成にアレンジし直しました。まだ作曲経験がなかった頃に作った曲なので、かなり思い出深いです。
三浦 : 自宅でギターを弾いていたら、マル(丸山)に「そのツーコードを弾き続けて」と言われて、その場でメロディーを歌い始めたんだよね。原曲と比べるとリズムがタイトになって、ギターもキラキラした雰囲気になったかな。原曲はsound cloudでも聴けるけど、もっとスローでゆるい曲でした。
新垣 : 達也の家でギターを弾いている時にフレーズを思いついたのは、「I Never Like It」も同じ。その場でボイスメモに残して、家に帰って宅録しました。アメリカのオルタナロックからかなり影響を受けていて、コード進行はPixiesやMac DeMarcoを参考にしています。
丸山 :「Nowhere To Nowhere」はマッドチェスターっぽいビートに、サイケなボーカルを載せたいと思って大学生くらいのときに作った曲。2年くらい寝かせていたけど、Taylor Swiftの『Midnights』を聴いて、ドラムの打ち込みとベースを微調整。今のイメージに仕上がりました。「Here I Am」のシンプルなリフとかは、T.Rexがイメージソース。
三浦 : 個人的に「Here I Am」については、かなり意味わかんない曲だなと思ってる(笑)。キャッチーな歌メロなんだけど、リフが変な感じで。ちなみに「Mk-VI」について、もともとは「MOONSHINE Vol.6」のダイジェストBGMでした。作ったのは、おれがエレクトロに一番影響を受けていた時期で、Justiceから入って、LCD Soundsystemとか聴いていた時。BGMは最悪ダサくなければ何でもいいし、自由に好きなことを試せる場所でもあります。
─レコーディングでは、わざわざ新潟県まで行ったとか?
三浦 : そうなんです。レーベルのプロデューサーに知り合いのレコーディングスタジオをつないで貰って。EPに入っている「Nowhere to Nowhere」以外の曲は、すべて新潟で収録しました。長いときは2週間くらい、朝から晩までスタジオに籠ってひたすらレコーディング。新潟でライブとラジオに出演することもあったので、ここ1年で何度も新潟に行きました。
白石 : 毎回、メンバー全員でミニクーパー1台に乗り込んで、楽器を積んでギュウギュウになりながら新潟までドライブ。ちなみに、どのメンバーも新潟には縁もゆかりもないんですが(笑)。
丸山 : たしかに道中は大変だったけど、スタジオの環境は最高でした。エンジニアの方も僕たちがやりたいことを分かってくれて、ありがたかった。ただ、宿泊先が電気しか通ってない平家の一軒家で、水道とガスが使えず、風呂はもちろんトイレにも行けなかったのは思い出になりました(笑)。
新垣 : そんな中でもメンバー同士で飲みながら話し合ったり、制作に関わらない部分でも新潟での思い出は多いかもね。
丸山 : エンジニアさんから米とか、その日に釣ってきた魚とか新潟ならではの差し入れをいただくこともあったね。
三浦 : すごく良くしてもらった。彼はレザーの雑貨も作ったりしている人で、メンバー全員に革製品をくれたんです。実は、おれが貰った茶色のカバンが「Queen In Red」のMVに登場しています(笑)。
─東京でのレコーディングはどうだった?
丸山 : 東京でレコーディングしたのは「Nowhere To Nowhere」で、フィッシュマンズや坂本龍一さんのサウンドエンジニアも務めたことのある、ZAKさんにお願いしました。それと、今回のEPに入っている他のシングル曲もリマスターしてもらって、シングルと聴き比べればかなり違いが分かると思います。
新垣 : スキルはもちろん、ZAKさんはスタジオもすごかった。ちょっとしたコックピットみたいで、バカでかい卓と良質なスピーカー、珍しいシンセもあったり、とにかく機材も広さもめちゃくちゃ充実。初めましてだったけど、丁寧だし物腰も柔らかくて、本当にやりやすかった。
白石 : あと「Nowhere To Nowhere」は、客演でキーボーディストに入ってもらったね。
三浦 : 正直、最初はあんまり乗り気じゃなくて、「4人バンドなのにキーボードを入れる必要があるのかな」って疑問でした。当日までどうなるか想像すらつかなかった。でも、目の前でキーボードの演奏を聴いて、いい感じになるって確信できました。おれらにはない、鍵盤ならではの引き出しがすごかった。
丸山 : 曲に合わせて実際にフレーズを弾いてもらいながら、「もうちょっと、こういう感じで」とか調整をお願いしました。今振り返っても、すごく贅沢なことでしたね(笑)。
─「Queen In Red」のMVはどんな印象?
丸山 : 正直、完成するまでどういう映像になるか、まったく分からなかったのが不安でした(笑)。4人それぞれがカメラマンと一緒に、まったく別々のロケ地で撮影したので、メンバー同士もお互いどこで撮影したのか知らないみたいな。でも、仕上がりを見て安心。
三浦 : メンバーそれぞれのオフシーンを見せる感じが、楽曲自体のスローなテンションにも合っていて、シンプルに好きだったな。ちなみにおれは銀座と皇居周辺に行って、人生で初めて帝国ホテルにも入りました。金持ちの散歩コースみたいだった(笑)。
丸山 : たしかに、映像を見たら観光客みたいになっていたよ(笑)。残念ながら、このバンドに銀座が似合う男はひとりもいないね。意味ある場所だとpaddy isleというバンド名をつけた多摩川沿いには行ったかな。ガッキーは?
新垣 : よく散歩していた高田馬場らへんを回ったよ。MVはいい映像だったんだけど、雄飛(白石)だけひたすらイケてるカットが多かったよね。スケボーを乗り回して、ひとりだけBeach Fossilsがいるみたいな(笑)。
白石 : そうかもね。撮影はひたすら、いつもどおり楽しくスケボーしただけだった。
丸山 : あとMVの撮影では達也が一個やらかしたね。「Queen In Red」は最後のスタジオのカットだけ別日に撮影しているんですけど……。その撮影日に髭を剃ってきたんです(笑)。だから、MVのストーリーとしては繋がっているのに、よく見ると顔の印象が変わっている。ツルリとしています。7/1には「Here I Am」のMVも公開になるのでお楽しみに。
NEW MUSIC VIDEO RELEASE!!
Information
In Between
paddy isle
2023.11.29 RELEASE
WATER ROOM RECORDS
<Official Infomation>
paddy isle(パディ・アイル)
https://linktr.ee/paddyisle
WATER ROOM RECORDS
https://linktr.ee/water.room.records
Live Information
2024/7/5(fri) Stroll主催
Walk Into The Sea Of Music
会場:LIVEHAUS(下北沢)
2024/8/24(sat)
MOONSHINE vol.16
https://www.instagram.com/mmmmoonshine21/