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Jeremiah Chiu (ジェレマイア・チュウ)インタビュー | 電子音楽の最前線で見つめるオーガニックとエレクトロニックの関係、最新アンビエント・ジャズ・クインテットSMLについて

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シカゴ出身LA在住のジェレマイア・チュウは、いま最も注目される電子音楽家、シンセシスト、そしてインプロヴァイザーだ。ソロ・アルバム『In Electric Time』、ヴィオラ奏者のマルタ・ソフィア・ホーナーとのデュオ作『Recordings From The Åland Islands』、フランスのアンビエント作家、電子音楽家のアリエル・カルマとホーナーとのコラボ作『The Closest Thing to Silence』をInternational Anthemからリリースしている。

チュウが関わる最新のプロジェクトが、エレクトリック・ジャズ・クインテットのSMLである。ジョシュ・ジョンソン(サックス)、アンナ・バタース(ベース)、グレゴリー・ユールマン(ギター)、ブッカー・スタードラム(ドラム)という気鋭のミュージシャン、プロデューサー、インプロヴァイザーの集まり。デビュー・アルバム『Small Medium Large』は、エレクトリック・マイルス、クラウトロック/コスミッシュ・ミュージック、アフロビート、ポストパンク、Gファンク、アンビエント/ニューエイジなど様々なアマルガムであり、LAジャズの最前線でいま起こっているドキュメントでもある。

チュウのオーガニックで即興性のある電子音は、このクインテットの要となるシーケンスを作り出している。リズムボックスと同期したドラムを叩いたカンのヤキ・リーベツァイトを思い起こさせるユニークな存在だ。自身の音楽的なバックグラウンドからSMLのことまで、チュウに話を訊いた。

Jeremiah Chiu Interview
ジェレマイヤ・チュウ インタビュー

インタビュー・構成:原 雅明 – Masaaki Hara
通訳:バルーチャ・ハシム – Hashim Kotaro Bharoocha
編集:篠原 力 – Riki Shinohara(OTOTSU)
Special Thanks:Jeremiah Chiu, International Anthem


Artist : SML
エス・エム・エル

Title : Small Medium Large
スモール・ミディアム・ラージ

レーベル : rings / International Anthem
フォーマット : CD​, Digital
ライナーノーツ解説:原 雅明

価格 (CD) : 3,080円 (tax in)
JAN (CD): 4988044120228
品番 (CD):RINC124

*日本限定CD

クラシック音楽の伝統に反抗して、パンクやエレクトロニック・ミュージックを探求するようになった

——シカゴ出身だそうですが、どのような家庭で育ったのでしょうか? 両親も音楽家でしたか?

Jeremiah Chiu (ジェレマイヤ・チュウ) – シカゴの郊外で育ったんだ。特に音楽的な家庭というわけじゃなかったけど、家族でフリートウッド・マックやジム・クロウチ、エンヤなんかをよく聴いていたよ。6歳からピアノとバイオリンを習って、中学になるとバンド活動を始めた。ギター、ベース、ドラム、シンセサイザーは独学で学んだ。

——いまのような音楽を始めるまで、どのような変遷を辿ってきたのでしょうか?

J – ユース・オーケストラやピアノの発表会に参加するところから始まったんだけど、若い頃からバンド活動をするようになったのが大きいね。そこから自然と発展して、クラシック音楽の伝統に反抗して、パンクやエレクトロニック・ミュージックを探求するようになったんだ。シカゴの郊外にはDIYの音楽カルチャーがとても根付いていて、シカゴの周辺地域全体でカセットテープやCDのインディ・レーベルが盛り上がってた。ジャスティン・ロング(Justin Aulis Long)やDJファンクなどによるハウス/テクノのテープ、スクリーチング・ウィーゼルやHewhocorruptsなどのパンク/ハードコアグループ、フライング・ルッテンバッカーズのフリージャズやパンクジャズ、様々な音楽スタイルに触れることで、音楽的にオープンになる上で強力な影響を受けた。このシーンは、非常にオープンで互いにサポートする空気感に溢れていたんだ。

——エレクトロニック・ミュージックに興味を持ったきっかけは?

J – 今でもシンセ・ファミリーとは密接な関係が続いているけど、シンセに関しては、マイク・ブロアーズ(Mike Broers)、ケン・ザワッキ(Ken Zawacki)、ダン・ジャグル(Dan Jugle)など、ゴースト・アーケード(Ghost Arcade ▶︎ Mr. Bossa Suicide – GA001 | Ghost Arcade | Ghost Arcade LTD (bandcamp.com))周辺のネットワークの人たちに多大な影響を受けた。仲間の家の裏庭に集まって、レコードをミックスしながら、ドラムマシンと同期させることをみんなで練習していたんだ。今考えると信じられないことをやっていたけど、まだ同じことをやっているティーンエイジャーがいることを願っているよ。僕たちは全員、レイモンド・スコットやディスコ以前の初期のようなエレクトロニック・ミュージックに強く影響を受けてきたヴィンテージ・シンセのオタクなんだ。

オーガニックとエレクトロニック、人間と機械の間に生まれる緊張感に魅力を感じる

——エレクトロニック・ミュージック以外で、あなたに影響を与えた音楽は?

J – マイルス・デイヴィスとその周辺のアーティストは大好きだ。過去の数十年の音楽を調べて発見するのが大好きなんだよ。本当にたくさんあるからね。YMO関連の音楽全てが大好きだし、マイルス関連、アウトサウンド、ECM、デヴィッド・バーマンのCBSレコードのリリース、コスミッシュ・ミュージック系、カンタベリーシーン、80年代のアフリカのエレクトロニック・ミュージック、アラン・ロマックスのフィールド・レコーディング、Sublime Frequenciesなど、挙げればキリがないよ。

——機材はハードウェア中心ですか? ハードに拘って制作している印象が強いですね。

J – そうだね、曲作りはほぼ必ず、ハードウェア・シンセやサンプラーの即興演奏や実験から始めるんだ。自分が持っているシンセのそれぞれのクセを知り尽くしているから、それを利用して新しい表現方法を見つけるのが好きだ。ハードウェアのシンセは不安定で、それぞれの機材が独特のクセがあるけど、魂を持った楽器なんだよ。

——曲作りのプロセスを教えてください。どういったやり方で形作られていくのでしょうか?

J – 過去数枚の作品では、まずは即興演奏をレコーディングし、それを素材として使いながら作曲したり、コラージュして曲として形成して、ミックスしてきた。このプロセスが好きなのは、いい意味でアクシデントが起きたり、人間っぽい要素が入るからなんだ。この即興的なコンポジションの方法を今も探求し、勉強しているところだよ。

——あなたの音楽は、テクノのようなBPMに縛られた音楽ではないし、アンビエントと括ることもできない音楽です。どのような志向やヴィジョンを持って音作りに取り組んでいるのでしょうか?

J – 実験音楽の視点から作曲を探求しているんだ。だから、あまりアンビエントを聴いてるわけじゃない。それよりも、テリー・ライリーなどの現代音楽のミニマリズム、ポール・ランスキーなどのアカデミックな音楽、ジャズや即興音楽、ミュージック・コンクレート、初期のフランコ・バッティアートなどの実験的な作品を聴くことの方が多いね。

——マルタ・ソフィア・ホーナーとのアルバムにしても、あなたのソロやアリエル・カルマとのコラボレーションもそうですが、エレクトロニック・ミュージックだけど、とてもオーガニックな音楽に聴こえます。音作りで大切にしていることを教えてください。

J – この質問をしてくれてありがとう! エレクトロニック・ミュージック、シンセサイザー、サンプラーを使うときの僕のアプローチは、試行錯誤しながら、そこにオーガニックな要素や人間的な表現をもたらすことなんだ。こういう機材を使うときに、完璧に同期させることのほうが簡単なんだけど、クロックに逆らって、ズレとか、同期されていない音とか、常に変化している音を作り出す方が難しい。オーガニックとエレクトロニック、人間と機械の間に生まれる緊張感に魅力を感じるんだ。

SMLは譜面もルールもないんだ。僕らはライヴの現場でしか一緒に演奏したことがない

——SMLが結成された経緯を教えてください。

J – SMLは、ロサンゼルスのハイランドパークにあるETA(注:ジェフ・パーカーらが定期的にライヴ・セッションをおこなっていたレストラン・バー)での素晴らしい即興ジャズのイベントから生まれたんだ。最初はグレッグ(グレゴリー)・ユールマンとライヴでのコラボについて話していて、ETAで一緒に演奏しようと誘われた。もっと話を詰めていくうちに、僕らの音楽仲間であるジョシュ・ジョンソン、アンナ・バタース、それにブッカー・スタードラムも呼ぶ絶好の機会だってことに気づいた。International Anthemが一緒に2夜連続のライヴを企画してくれて、ブライス・ゴンザレスが全部録音してくれた。最初の2回は、完全にノープランで純粋な即興演奏をしたんだ。このメンバーの相性が自然に良かったから、ETAで再び2夜連続のレジデンシーが開催されたというわけ。

——その2回に分けて実現した2夜連続のセッションから生まれたのが、アルバム『Small Medium Large』というわけですね。

J – その通り。

——SMLの他のメンバーは皆、楽器演奏者ですね。そこにあなたが加わることに、どんな意義を見出したのでしょうか?

J – ジョシュとグレッグはサックスとギターを演奏してるけど、エフェクト・ペダルを多用して、楽器の音色を加工しているんだ。ブッカーは、パーカッション、ドラム、エレクトロニクスを融合させた作品を多数リリースしてきた。このグループを通して、それぞれのサウンドを組み合わせる自然な方法だと感じたんだ。シンセシストとして、即興演奏の場でモジュラーシンセサイザーを生楽器のミュージシャンと共演して使っている人を見たことがあまりない。これらの要素をすべて組み合わせて、一緒に新しい音を作る方法を探ってみたかったんだ。

——SMLで演奏するにあたって、譜面のようなものや約束事はありますか?

J – 譜面もルールもないんだ。これまで、僕らはライヴの現場でしか一緒に演奏したことがないけど、それは全てレコーディングした。だからこそ、お互いの演奏をしっかり聴かないといけないし、こういう演奏スタイルになった。唯一のルールは即興演奏をすることと、楽しむことかな。

——SMLの曲は実際どのように組み立てられているのでしょうか? 誰かが作った曲がベースになっているのでしょうか?

J – グループの中で、唯一自分がクロックテンポに縛られていることがあるんだ。だから、みんなの演奏に自分はシーケンスを取り入れて、そこからメンバーがテンポ/リズムを見つけないといけないことがある。それ以外では、全てが即興演奏で、その瞬間にお互いに反応し合いながら音をクリエイトしている。

——SMLの各メンバーについて、あなたが感じる魅力を教えてください。

J – SMLのミュージシャン全員が大好きなんだ。SMLはとても面白いグループで、このメンバーだけで少なくとも7つの異なるグループが組める。各メンバーは自身の音楽を作曲しているソロ・アーティストであり、いろいろな編成があるんだ。グレッグとアンナ、ジョシュ、グレッグとアンナ、ブッカーと僕、などね。だからこそ、このグループ名はSML(Small Medium Large)なんだ。

LAの実験音楽、アンビエント、ジャズ・シーンが互いに影響し合って、ハイブリッドな音響的世界を探求している

——ジョシュ・ジョンソンの新作もそうですが、近年、アンビエント・ジャズとも言われるような、楽器演奏者によるアンビエントへのアプローチがよく目につくようになりました。こうした流れについて、あなたの考えをぜひ訊かせてください。 

J – そういう要素を意図的なアンビエントの手法だと個人的には捉えていないんだ。LAの実験音楽、アンビエント、ジャズ・シーンが互いに影響し合って、みんながハイブリッドな音響的世界を探求していることが面白いと思う。コミュニティやコラボレーションに僕はインスパイアされているし、たくさんの素晴らしいアーティストに囲まれていることに感謝してるよ。

——「クラシック音楽の伝統に反抗した」と言ってましたが、あなたのようなエレクトロニック・ミュージックを作るにあたって、楽理は必要だと思いますか? 

J – 特定の音楽教育を受ける必要はないと思うけど、悪いことでもないと思う。知識は力だからね! 子供の頃にクラシック・ピアノとバイオリンを習っていたし、もっと続けていれば良かったなと思う。正直言って、一番役に立つ勉強は、できるだけ多くの音楽を聴いて、新しい音にオープンでいることだと思う。自分の経験、知識、スキルを自分だけのユニークな方法で組み合わせることにマジックがあると思うんだ。

——シカゴ、そして現在の拠点であるLA、それぞれの音楽シーンから、どのような影響を受けてきましたか?

J – 両方のシーンから全く違う方法で影響を受けた。どちらのシーンも素晴らしくて深いよ。シカゴのシーンからは音楽のフィーリングについて学んだ。正しい音を演奏するだけじゃなくて、ヴァイブスが大事なんだ!LAにも独特のヴァイブスがあって、これからも特に実験音楽とインプロヴァイズド・ミュージックのシーンは成長していくと思う。

——日本の音楽で興味があるものはありますか?

J – もちろん! YMO関連の音楽には結構前から夢中だ。細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏、オノセイゲン、清水靖晃、佐藤博、吉村弘、ボアダムス、OOIOO、嶺川貴子などが好きだよ。それに、Chee Shimizuの著書『Obscure Sound』からたくさんの音楽、日本以外の音楽についても学んだ。この本は素晴らしい情報源で、今でもインスピレーションをもらってるよ。

——現在進めているプロジェクトや予定されているリリースを教えてください。

J – SMLのメンバーそれぞれの新作に注目しておいて欲しいね。このメンバー関連でここ数ヶ月から今年の間にたくさんの作品がリリースされる予定なんだ。

RELEASE INFORMATION

Artist : SML
エス・エム・エル

Title : Small Medium Large
スモール・ミディアム・ラージ

レーベル : rings / International Anthem
フォーマット : CD​, Digital
ライナーノーツ解説:原 雅明

価格 (CD) : 3,080円 (tax in)
JAN (CD): 4988044120228
品番 (CD):RINC124

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