2023年夏、ソロ作品では初となる全国流通アルバム『The Unforgettable Flame』をリリースし、その後も会場限定盤・自主制作音源のサブスク解禁や新曲の配信リリース、2024年3月には同アルバムのLP化、10月にはユニットclassicusでのカセットリリースなど、活発な活動を続ける岡山健二(classicus / ex.andymori )。そんな彼にとってひとつの節目を迎える2024年、OTOTSU独占で岡山の音楽人生の振り返りと今後を深堀りしてゆく新連載が2024年1月からスタートし、今回で最終回となる。年の瀬、そして総括としてもふさわしい今回も、岡山の空気感を感じながら、じっくりお楽しみいただいたい。
毎月最終木曜日更新 / 全12回。
文:岡山健二
編集:清水千聖 (OTOTSU編集部)
ドラムを叩き、歌も歌うという活動のスタイルを何年も続けている。
よく珍しい、変わっている、といったことを言われたりもするけど、自分からすると、会社に勤めながら、シンガーソングライターを続けている人と何ら変わりないような気もしている。どうなんだろう。それとは、少し違うのかもしれない。
自分が、どのように音楽を続けてきたかを、順を追って書いて来たのだけど、ようやく今・現在のところまで辿り着いた。
ちょうど1年間、当初自分が考えていたよりも、多くの人に読んでもらえたようにも思えるし、毎回楽しみにしています、といった声も聞くことができ、自分としては、書いたということよりも、そういう声を聞けたことが何よりの収穫だったのじゃないかと思う。

ソロに関して言えば、2023年にリリースした「The Unforgettable Flame」に至るまでが、なかなか険しい道のりだった記憶がある。
もちろん、その後も大変なことには変わりはないのだけど、この作品の制作を開始するまでに、自分にしては、けっこうな数の作品を作ったわけで。
2016年にソロEPの「Salad Days Songs」classicusのアルバム「classicus is not like that」の2作品を、引っさげて、しばらくライブを続けた。
そこから、宅録音源にシフトチェンジし、2019年に「M.G soundtrack」「Unknown Picture」「Poet & Piano」の3枚のアルバムを1ヶ月毎に発表。
そして、2020年以降は、何をするにも大変な時期だったのだけど、たぶん制作は止めたら駄目だろうなと思い、半ば、やけくそで宅録を続け、2020年に「白話音楽」「34」という2枚のEP、classicusのEP「ZERO #1」2021年にアルバム「SV-1」2022年にEP「DORAGON HEAD SHAKE」を作った。
ドラムサポートも断続的ではあったものの、話があったので、わりに忙しくやっていた印象がある。

andymoriの頃は、自分の作った曲を音源として発表するという余裕もなかったし、具体的な方法もわからなかった。
その時期に作った曲を形にしていくというのが、自分の制作の半分くらいを占めてきたのだけど、やっぱり、過去の曲より、作ったばかりの曲を録音する方が健全だと思う。
そういったストックを少しずつ減らしながら、その時その時の新曲で、これは、というものはなるべく録音していくようにしている。もう同じ過ちは繰り返したくないなと思っている。
過ちと書いてしまったけど、自分にとっては、その発表できなかった時間が、大事だったなと思っている。曲について考えることができたし、自分と同じような境遇のミュージシャンについて、いろいろ調べたりした。
名の知れたバンドの、ヴォーカルなどではなく、例えば、ベーシストやドラマーのソロ作だったり、あるシンガーがいたとして、その人の名作とされているアルバムの前後の作品だったり、とにかく人が見向きもしないような音楽に、興味がある。そういった音楽特有の響きがあるような気がしていて、その響きを聴きたくて、いろんな音源を買っているように思う。
元々、自分が生まれ育った街のレコード・CDショップの品揃えが、都会に比べると(当然のことだけど)乏しかったことも関係があると思う。その中で、知識が無いながらも、中古盤を買い続けた結果、今みたいな感じになった。
安出来の読物のことをパルプ小説というらしくて、何でも、集めて溶かして再生紙の原料にでもするしかないというので、そう呼ばれるみたいなのだけど。
一説によれば、とある外国のことを知りたいとして、そういう時は、その国の1流の作品ではなく、2流の作品を読めば、その国のことがよくわかるという話があるみたいで。
何となくだけど、自分の音楽の聴き方は、そういった雰囲気に近いものがある気がしている。
ただ自分は、自分の好きな音楽は、多くの人に聴かれていないだけで、本当に、いい音楽だなと思っているので、そこは全然違うところだなと思うけど。

こんな風に音楽を聴いたりしながら、その時その時で思ったことを歌詞にして、なんだかんだと続けている。
さっきも書いた通り、「The Unfogettable Flame」までの道のりが、長く険しかったのだけど、それ以降も自分は少しずつではあるが音源を発表している。
何となく、その時々のモードというか、感じが、ひと区切りつく周期みたいなものがあって、それが終わるタイミングで音源を出しているように思う。
所属している事務所も何もなく、ただただ自分で活動しているだけなので、別に誰かに何かを言われたりするわけではないのだけど、少し先に決まっている、このライブまでには、この音源を仕上げよう、といった感じで、締め切りみたいなものを設けて、それに間に合うように制作している。
この連載でも書いてきたように、自分はいろんなバンドで活動してきた。そして、それと同時に音源も沢山作ってきた。どの音源も、よかったなと思う部分と、ここはこうすればよかったなという部分がある。
そういったことを繰り返してきた結果、この作品は、こんな感じじゃないかなといった、落とし所みたいなものが、(良くも悪くも)見えるようになった感じがある。

14才くらいからバンドを始めて、いろいろ渡り歩いて来たのだけど、結果、自分がどのようになりたかったのか。少なくとも、昔は今のような状況は、想像できていなかった。
普通に、バンドを組んで、プロになって、それで活動していく、くらいしか考えていなかったようにも思う。
自分がいろんな活動を通して、学んだことというのは、さっきも書いた、落とし所のようなものだったり、何か問題が起こったとして、それに、どう対処したらいい、とか、何かを続けていたら、自然と、身につくであろう、普通のことで。
ライブやコンサートといったものは、やっぱり、お客さんが日中、働いたり、いろんなことをして、その後、息抜きだったり、はっちゃけたり、お酒を飲んだりしながら、演奏を楽しむ、そういった要素があって。
昔は、(今もそうだけど)若い人たちに向けて、日々過ごしていく上で、大切なことだったり、日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすような激しい演奏だったり。そういうものを表現するということが大事だと思っていたのだけど。(もちろん、今でもそれはやっているけど)
最近の自分は、仕事終わりに、お客さんが、ひと息つけるような演奏が、けっこう音楽のひとつの役割として、あるなと思っていて。

自分のドラマーとしての活動はどうだったんだろう。何となくだけど、その人その人のけっこう大変だった時期を手伝って来た気がする。
ほとんどの場合が、最初から、その場にいたわけではなく、呼ばれて、途中参加で加わることが多かった。うまく協力できたなという時もあったし、うまくいかなかったなという時もあった。巡り合わせなんだろうなと思う。
基本的には自分は、ドラムに座って、曲に取り組む姿勢は、それほど変えてこなかったつもりだ。

昔、こんなことがあった。
個人練習の前だか後だか忘れたが、スネアドラムを片手に、スタジオの下にあるコンビニで買い物をしていると、50歳手前くらいのタクシー運転手さんに、「ドラムをやっているんですか?」と声をかけられ、「はい」と言うと、「よければ、一緒にスタジオに入ってもらえませんか」と、誘われたことがあった。
さすがに、自分もそんなことは初めてだったのと、何だか、おもしろそうでもあったので、「あぁ、いいですよ」と応えた。
その頃は、何でもやってみようという時期でもあった。21〜2才だった気がする。
運転手さんと予定を合わせて、何日後かにはスタジオに入った。
先日の制服姿とは打って変わって、ロッカーといった身なりで、現れた運転手さんは、立て続けに自作の曲を披露した。
軽快なロックンロール・ナンバーだった。
たしか、カセットテープでデモを手渡された記憶がある。
その運転手さんとは、2回くらいスタジオに入った。2回目のスタジオでは、仲間だという、気難しそうなベーシストを連れて来たりしていた。

そうやって思い出すと、自分は本当にいろんな人とスタジオに入って来たと思う。
この連載を通して書いてきたバンド活動を続けながら、合間合間で、1回きりのライブや録音、遠征にも行ったり、もう覚えていないことも沢山あるけど、自分は、人と演奏するということを大事にしてきたつもりだ。
去年リリースした「The Unforgettable Flame」のツアーを終えて、来年はどうしようかと考えた時に、自分の今までの活動を振り返ってみたい気持ちになった。
自分はこれまでに、どんなことをしてきて、そして、その上での、今がどういうものなのかということを、もう少し理解しておきたいなと。
この作品をリリースしてもらった、DISK UNION内のレーベル、モンシェン・レコーズの清水さんに相談し、月1で連載したら、どうでしょうという提案を受け、自分にそんなことができるのだろうかと、不安はあったが、ここでやらないと、おそらく、この先やることはないだろうなと。
まだ意欲がある、若いうちに、こういう苦労をしておいたほうがいいかもなと思い、やってみることにした。
結果、振り返ってみると、何とか自分のこれまでの活動を記せたようにも思えるけど、大事なことは何も書けてないないような気もする。
だけど、順を追って、何が起こってきたかというのを、こういった形で、残すことができたのは、本当によかったなと思っている。
この先、自分がどういう活動をしていくか、ほぼ決まってなく、どうしようかというのが正直なところで。
ただ、こうやって、文章で、何かしらを表現するという方法を、この1年で多少なりとも学べたので、何かを書くということは、今後も続けていきたいなと思っている。

ドラマーとしての活動は、何だかんだで、自分は恵まれてきたのだなと思う。
自分が気をつけて来たのは、今にして思うと、その日の練習で叩けなかったところを、次の練習までには、ちゃんと叩けるようにしておくくらいだった気がする。
でも、そんな当たり前のことしか、してこなかったわりには、自分はドラムを通して、本当にいい夢を見させてもらったと思っている。
散々、いい夢を見させてもらった後、この先、どうやって現実と折り合いをつけていこうかと、目下、検討中ではあるのだけど。まあ、普通にやっていこうと思っている。
ちゃんと音を鳴らしていれば、悪いことは、そこまで起こらないということを、何となく理解してはいるつもりで。
あとは、この連載を始めるきっかけとなった「The Unforgettable Flame」について、何か書けたらいいなと思うのだけど、やはり、気の利いたことはあまり浮かばない。
でも、作ったまま発表できずに、屋根裏で眠っている曲達を、どう出していけばいいか考えている人がいたとして、岡山はこんな感じでやっていたなと、自分の活動を何かしらの参考にしてもらえたら、それに越したことはないなと思う。

RELEASE INFORMATION

ZERO #1 : ZERO #2
classicus
2024.10.14 Release
second hand LABEL
Price: 2,500yen (tax in)
Format: CASSETTE / Digital
Catalog No: SHLT1
Track List
Side A 「ZERO #1」
01 真夜中
02 sea you
03 車輪の下で
04 ひらめき きらめき
05 恋の伝説
06 コチニール
Side B 「ZERO #2」
01 ホタル
02 シネマのベンチ
03 デッドストックのペイズリー
04 盟友
05 夜のプール
06 グッドナイト
The Unforgettable Flame (CD&LP)
岡山健二
CD 2023.08.02 Release
LP 2024.03.20 Release
monchént records
Price:
CD 2,200 yen (tax in)
LP 4,500 yen (tax in)
★ブックレットに書き下ろしライナーノーツ掲載
★ディスクユニオン&DIW stores予約特典:
オリジナル帯
Track List
Side A.
01. intro
02. 海辺で
03. 名もなき旅
Side B.
01. あのビーチの向こうに空が広がってる
02. 軒下
03. 永遠
04. My Darling

LIVE INFORMATION

1/17 新高円寺 STAX FRED
1/26 吉祥寺 MANDA-LA2 | classicus (昼)
2/7 新高円寺 STAX FRED
2/15 京都
2/18 新宿 red cloth
2/21 下北沢 440
3/13 下北沢 CLUB Que | classicus
ARTIST PROFILE

1986年三重県生まれ。12歳でドラムを始め、のちにギターとピアノで作曲を開始。19歳の時に上京し、2011年にandymoriでデビュー。2014年、同バンドの解散後は、自身のバンドclassicus(クラシクス)を結成し、音源を発表。
現在は、ソロ、classicusと並行し、銀杏BOYZ 、豊田道倫 & His Band!ではドラマーとして活動している。
【Official SNS】
岡山健二 Official SNS / リリース一覧
https://monchent.lnk.to/kenjiokayama
classicus
Web Site
https://www.classicus.tokyo/
YouTube
https://www.youtube.com/@classicusofficialchannel186