近藤哲平そうだね。今では上手な演奏なんていくらでもできる。ちなみに今思い出したから言いますけどオリジナル・ラヴが大好きなんです。特に昔の。
——そうなんですね。
近藤哲平シングルはヒット曲のイメージが強いと思うけれど、アルバムは毎回、趣味性の高いのを作っていて。1枚ワールド・ミュージックみたいなアルバムがあって、そこに「ガンボ・チャンプルー・ヌードル」っていう曲が収録されているんです。それはもう名前の通り。ガンボでチャンプルー。ニューオーリンズのピアノと、沖縄の三線。沖縄とニューオーリンズと、歌詞でも「東京、沖縄、ニューオーリンズ、ありがとう」。もう、そのまま。タイトルそのまま。めちゃくちゃ好きなんです。最高に素晴らしい。ただ、ごちゃごちゃ感はないよね。
小関一馬まとまっちゃってるの?
近藤哲平うん。これとこれとこれをくっつけたらこうなるなって感じで。でも個々の演奏がもうグルーヴィーで。田島貴男が最強にグルーヴィーだし音楽マニアだから。全身音楽家みたいな(笑)。極上で、本当に好きで何回も聴いたけど、それはもう僕の中ではそういう組み合わせたもののわりと最高峰ではある。ただ、そういう感じのことはたぶんできるっていうかね、メソッド的に。
——今回アルバム参加したゲストの人たちと個々にやることはあると思いますが、一緒に集まってやるってことはあまりないですよね?
近藤哲平そうですね、ただ6月4日にレコ発をやりますからね。東高円寺のUFOクラブですね。
——最後にライブ情報も載せておきますね。今回のアルバムには、タワーレコードでの購入特典としてカズマさんと哲平さんデュオによる楽曲がつきます。カズマさんのご自宅で録音されたとか。
小関一馬そうそう、うちのピアノで、猫と一緒にね(笑)。
近藤哲平あれは本編とは全く違って、すごくストレートで良い仕上がりになりましたよね。面白いのが、カズマ君がそこまでラテンっぽいアプローチをしていないところ。
小関一馬哲平君に「ニューオーリンズっぽいフレーバーに寄せよう」って言われて、数ヶ月間そのリズムにトライしてみたんだよね。まあ、ずっと何年も弾いてきたジャンルじゃないから、最初はしっくりこなくて、アイディアも手探りだったんだけど。
近藤哲平でも、カズマ君って意外と真面目なんですよ(笑)。最近よくカズマ君の家で二人で練習してるんですけど、「次はこの曲をやろうね」って約束したのに、次の時に行ったら「俺、毎日すごい練習したんだよ」って言って、全然違う曲を1曲だけ集中的に猛練習してたりする。それがブラジルのショーロ(=Choro)の曲で。
——ショーロの曲を?それはおもしろい。
小関一馬哲平君がクラリネットとピアノのデュオの参考音源を送ってくれて、それがめちゃくちゃ格好良かったから「これやれたら最高だな」と思って。ショーロって異常に難しいし、弾いたこともなかったから最初はぎこちなかったんだけど、この前ライブで1曲試してみたら、だんだん様になってきて。
近藤哲平ライブ感が出てきて凄かった。録音の時は一応録ったけど、それは一度ボツにして。今回は番外編みたいにしようかって話になりましたけど、ラテンのファンがこれを聴いたら度肝抜かれると思います。「カズマ君、こんな素敵なピアノも弾く人だったんだ」って、またファンが増えちゃう。そんな風に、僕の中で今は「脱・ラテン」というか、違うジャンルを触っている方が面白いというテーマがあって。
小関一馬わかる。僕、ぶっちゃけラテンはちょっと飽きちゃったというか(笑)。いくらやってもこれ以上は現状維持で、上手くなっていかない気がして。でもニューオーリンズのピアノとかだと、昨日より今日の方が絶対に上手くなっている実感が得られる。常に刺激が欲しいんですよね。
——常に成長を感じていたい、ということでしょうか。お二人にとって、音楽を突き詰めていく上での「練習」とはどういう位置づけなのでしょうか。
小関一馬というより、僕はとにかく「練習」が一番好きなんですよ。趣味が練習。普通の人はライブのために練習すると思うんですけど、僕の場合は「練習するためにライブを入れる」。目標があれば大好きな練習ができるから。自分の時間で、誰にも文句を言われず自由にできる。オタクなんですよね。
近藤哲平でも、僕らの練習って「曲の構成を覚える」とか「メロディを間違えないように弾く」ためのものじゃないですよね。そういう練習はあまり意味がないと思っていて、もっと色々なものを身体に叩き込んでいく感覚。あらかじめ決められた段取りを丸暗記するための防衛的な練習には、音楽的な意味があまりないと思っています。それよりも、「自分の身体の手癖や、表現の引き出しを無限に増やすための、知的な遊び」として、世界中の様々な音楽の要素を身体にひたすら叩き込んでいく感覚。次集まった時には前にやったことなんてお互い忘れてるんだけど(笑)、咄嗟のセッションの時に身体から染み出てくる。
——身体に染み付いた技術といえば、凄腕のヒップホップDJがテキーラを大量に飲まされてフラフラなのに、いざプレイが始ると完璧な繋ぎをする、みたいな話を思い出しました。無意識に出せるレベルまで体に叩き込まれているんですね。
近藤哲平だから「練習」っていう堅苦しい言葉を使うのがよくないのかも。僕らにとっては完全に「遊び」なんですよ。ただ、これが「レコーディングに向けてこの通りに弾かなきゃいけない練習」になると、一気に嫌いになっちゃう。手癖やボキャブラリーを増やしていく遊びが楽しいし、音楽を長く続けていく上でも、そのモチベーションのベクトルの変化はすごく大事な気がします。ニューオーリンズ・ジャズも、ジャンル自体は今でも大好きなんです。ただ、同じメンバーと同じボキャブラリーでお約束のライブを続けていると、どうしても自分のなかで“ぬるく”なってしまう。
——なるほど。
近藤哲平前それこそ、パーカッションのムーちゃんと二人でライブやったことがあって、その時に1曲か2曲やったんですよ、ニューオーリンズ。そしたらムーちゃんがすごいそれを褒めてくれた。やっぱ血肉になってる、みたいなこと言われて。そういうのやればいいじゃんって言われたんだけど、まあ別に俺それはできるからさ、今さらやってもしょうがないじゃんって思っちゃう。できないことやった方が楽しいよね。
——できることばかりやっていると、周りもみんな褒めてくれるだけですしね。
近藤哲平そう。歳を取ったり有名になったりすると、誰も批判してくれなくなる。そうなったら嫌だなと思って。自分を常にシビアな緊張感の中に置いておきたい。だから、なるべく偉くならない方がいいし、なるべく一つの「スペシャリスト」に収まらない方がいいんじゃないかって、今話していて思いました。
小関一馬だから今、哲平君と一緒にやるのがすごく楽しい。哲平君はニューオーリンズをちゃんと通ってきているから、身近にそんな人がいるチャンスを逃さず、僕はそのエッセンスをどんどん吸収してやろうと思ってる。
近藤哲平逆に僕はカズマ君からサルサを吸収したい。お互いのルーツが混ざり合った時が面白い。たとえば、最近ライブでスウィングっぽいリズムの曲をやると、ジャズをやってきた人の出すスウィングと、サルサをやってきたカズマ君の出すスウィングって、微妙にアタックやニュアンスが違って最高に楽しいんですよ。
小関一馬そこで僕が惰性で合わせちゃったら駄目。哲平君の出すリズムに、こっちがどう寄っていくか。共通のお約束で綺麗にまとまる演奏もいいけれど、やっぱりこういう刺激的なズレがある方が、飽きっぽい僕らには合っていますね。バンド全員が共通の教科書と完璧なお約束のルールだけで寸分の狂いもなく綺麗に整列して演奏できちゃうような優等生の音楽は、僕らは二人とも重度の飽き性だから、3分で退屈して眠くなっちゃう(笑)。
——今回のアルバム制作を通して、色々な方との対談をお願いしてきたのですが、共通しているのは「専門性が強すぎないこと」だと感じました。既存の記号化されたジャンルに収まらない野生の塊を、自分たちの手癖と感性だけでこの世に生み出そうとする人間の純粋な初期衝動こそが、時代を超えて愛される音楽の正体であり、今回のアルバムはその結晶になっているなと、今日のお話を聞いて改めて腑に落ちました。
小関一馬でも「型にはまらない」っていうのは大事だけど、実は「型にはまったことがない人は、型を破ることもできない」んですよ。型ができて初めて「型破り」になれる。哲平君も僕も、ベースとなる型はちゃんと持っている。型を知らないままめちゃくちゃなことをやるのと、型を知った上でそこからズレていくのは、全く意味が違うんです。
近藤哲平違いを分かった上で、型を破っている時間があるかないか。僕らもこう見えて、もう初期衝動だけで突っ走れるような甘い若造じゃないですからね(笑)。若い人が初期衝動でぐちゃぐちゃな音楽をやるのも格好いいけれど、ちゃんとした大人が真面目に型を修めた上で、あえてこういうめちゃくちゃで歪な音楽をやる。そこにこそ、このアルバムの唯一無二の価値があるんじゃないかと思います。歳を取ってめちゃくちゃやるのって、一歩間違えるとすごく格好悪くなっちゃうから、その微妙なラインを攻めるのが本当に楽しい。
——最高の締めの言葉をありがとうございました。それでは冷えたビールと焼き鳥でも食べに行ってきてください。
近藤哲平お疲れ様でした。
小関一馬行ってきます(笑)
◆LIVE INFORMATION◆

of Tropique
“Looking for My Foot Foot”
Release Party
Date. 2026.06.04.Thursday
Venue. 東高円寺UFO CLUB
ADV.¥3,000 / DOOR.¥3,500 (ともにD別)
●LIVE:of Tropique
with
小林ムツミ (民謡クルセイダーズ, Mumbia Y Sus Candelosos)-Per,
moe (民謡クルセイダーズ)-Synth
ロッキン・エノッキー(Jackie & The Cedrics)-Gt
小関一馬(BANDERAS)-Pf
サムット野辺(クマイルス)-Vo
和泉美紀(クマイルス)-Vo
西岡ディドリー(クマイルス)-Gt
●DJ:大石始 / SHOCHANG
●予約/問い合わせ
oftropique@gmail.com / 03-5306-0240 (UFO CLUB)
各SNS / 出演者まで
●PROFILE
▼小関一馬 (BANDERAS)

ラテンジャズとサルサを軸に、 リズミカルで情熱的な演奏を届けるピアニスト。 「楽しいから」演奏する。 その音は会場の空気を一瞬で熱くし、 聴く人の身体を自然と踊らせる。
▼of Tropique (オブトロピーク)

近藤哲平(clarinet)、田名網大介(bass)、藤田両(drums)
クラリネット、ベース、ドラムの3人によるエキゾチック・ファンク・バンド。
2018年にイラストレーターのオタニじゅんと制作したアートブック『La Palma』(オークラ出版)を発表。架空の南の島での冒険を描いた楽曲群がヨーロッパで話題となり、フランスでは2つのラジオ局で同時に特集が組まれた。
2021年より米ワシントンD.C.のElectric Cowbell Recordsから作品のリリースを続け、これまでにアメリカのみならずフランス、ドイツ、イタリア、クロアチアなど欧米各国のラジオ局で楽曲がオンエアされている。2023年のアルバム 『Buster Goes West』(Electric Cowbell Records)は複数の海外メディアで年間ベストにランクインし、Bandcampにインタビューと特集記事が掲載された。また、AppleやGimletをはじめ複数の欧米企業で楽曲が使用されている。
国内では映像作品への参加も多く、東海林毅、冨永昌敬監督作品の音楽やアパレルブランド等への楽曲提供を行う他、『彼女のウラ世界』『僕の手を売ります』などTVドラマの音楽も担当している。
2025年にはアルゼンチンの人気ミュージシャンRolando Brunoとのスプリット・シングル(Electric Cowbell Records)を発表した。
