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『新東宝キネマノスタルジア』×CINEMA-KAN 特別インタビュー!!

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劇場、ビデオ、DVDでも観られなかった幻の作品群がいま続々と商品化され、映画ファンの間でいま最も熱い制作会社・新東宝。話題の新東宝を商品化する『新東宝キネマノスタルジア』プロデューサー、株式会社ファイヤークラッカー代表の中村和樹氏と、CINEMA-KANレーベルから発売したCD『新東宝 地帯シリーズ リアルサウンドトラック』の構成・解説を担当した大塩一志氏に、それぞれの立場から新東宝について語って頂きました。

新東宝キネマノスタルジア プロデューサー
株式会社ファイヤークラッカー代表 中村和樹

●『新東宝キネマノスタルジア』レーベルの成り立ちについてお伺いをさせて頂きます。レーベルができるまえに中川信夫監督の『地獄』『東海道四谷怪談』のBlu-rayがハピネット社より発売になっていました。この2作に対する反響が関係しているのでしょうか?

 直接ではありませんが、当然関係しています。Blu-ray化に関して言うと、遡ること30数年前にこの2作品をLD化する企画があり、残念ながらその時は実現しませんでしたが、その後の初DVD化には携わらせていただきました。
 それからのご縁で、弊社(ファイヤークラッカー)にてBlu-ray作品をリリースする際に両作品を企画させていただき、ハピネットさんにも賛同いただいたことで共同発売に至りました。
 おかげさまでご好評いただき、次の商品化を権利元の国際放映様とご相談していく中で『新東宝映画』の映像商品をアーカイブ化していくレーベル設立企画が固まっていきました。
 Blu-rayでは無くDVDをメインとしたのは、1作でも多く皆様のお手元に届けるには、製作コストを抑えて販売価格を低く設定できるDVDがベターだとのレーベル判断でした。

『地獄』

『東海道四谷怪談』 

●『新東宝キネマノスタルジア』では『九十九本目の生娘』が第一弾商品として登場し、映画ファンの度肝を抜きました。この作品を商品化するにあたり、特別な苦労などはありましたか?

 まず関係各所のご理解とご支援で、長く映像商品化が見送られていた作品を無事にリリース出来た事にホッとしております。残されていた原盤の状態は芳しくなく、写真素材等の資料も乏しい中で可能な限りのレストアに挑戦いたしました。限られた予算で採算性も考慮しなければならず、残念ながらノイズや傷を全てクリアするには至ってはおりませんが、ご覧いただく方がストレスに感じない状態には仕上がったと思っております。デジタル処理でのパラの除去を行い、その後にフレーム単位(1秒24フレーム)での手作業による修復を行いました。フィルムが裂けているような箇所や映写機によるダメージ、経年劣化等は、機械による自動修復では対応が難しいのです。動画としては数秒なのに修正作業は数時間という箇所も多く、忍耐力を試されているようでしたね。パッケージデザインでもご好評を頂きまして、購入いただいた皆さまからの温かいお言葉にもスタッフ一同感謝しています。

『九十九本目の生娘』

弊社CINEMA-KANレーベルより、CD『新東宝 地帯シリーズ リアルサウンドトラック』、『地獄』のパーカー、バッグ、クリアファイルなどを発売させて頂きました。レインボー社から『昭和の怪談』というくくりでマグネットも発売され、映像ソフトも好評を持って受け入れられています。新東宝作品の人気の理由は何だと思いますか? 

 多様なご意見があると思います。私は、言葉は悪いですが乱暴でエネルギッシュな作りに魅力を感じています。作り手の熱を感じる作品が多いですね。ジャンルの振り幅が大きくしかも振り切った作風も魅力の一つだと思います。文芸、歌謡、ドラマ、コメディ、怪奇、怪談、サスペンス、アクション、戦争戦記、そしてちょっとエロティック。作られていないジャンルが無いように思える程です。苦手な作品ジャンルがあったとしても、自分の好きな1本を見つけられると思います。観客を意識した作りの作品が多いのですが、その中から化学変化的に『地獄』や『九十九本目の生娘』のようなカルト的人気を得る作品も生まれていて、まだまだ奥が深いですね。

『地獄』のパーカー

バッグ

手ぬぐい

クリアファイル

新東宝作品でおすすめの1本を教えて下さい。

 1作となるとかなり迷います。ベタですが、やはり『東海道四谷怪談』でしょうか。巷のホラー映画とは一線を画す作品だと思います。鑑賞の過程で蓄積され、増幅していく恐怖を味わえる人の業を描いた傑作ですね。『怨霊=恐怖』という単純な演出ではない、まさに死ぬまでに見る1作だと思います。レーベル既発作品では、あえて『明治天皇と日露大戦争』を推させていただきます。2001年公開の『千と千尋の神隠し』に抜かれるまで、歴代観客動員数1位だったと言われる新東宝を代表する作品です。今回のDVD化ではシネスコサイズと共にスタンダードサイズ版を併録していて、この撮影監督は後にブルース・リーの『ドラゴンへの道』や『死亡遊戯』を撮った西本正です。あらためて見比べると画面サイズが違うことでフォーカスされるストーリーが変わっていることを感じます。合わせて細部のカット割りやアングル演出されていて、作品全体の印象も変わっていることに驚きました。『新東宝の戦争映画は〜』という偏見は忘れていただいて、群像ドラマとしてご覧いただきたい1作です。

『明治天皇と日露大戦争』

今後の展開について教えて下さい。

 DVDでは4月に『海女シリーズ』を発売します。『海女の戦慄』には『人喰海女』の現存する映像を特典収録してリリースしますので、全4作をお楽しみいただきたいです。以降も初DVD化を中心に中川信夫監督作品や高峰秀子出演作品のリリースも予定しています。リリース情報は公式FBページで随時更新していきます。好評いただいた『怒号する巨弾』Tシャツに続くオリジナル商品も準備中です。引き続き天知茂出演作を中心にしつつ、様々なジャンルから作品をセレクトしていきます。YouTubeでは、新東宝【公式】チャンネルも開設されました。解説動画『どーも鈴木の新東宝キネマニア』を初め、新東宝ビギナーからマニアな方まで、幅広い皆様に楽しんでいただけるコンテンツをアップしていく予定です。そして、昨年10月に初開催したイベント『新東宝キネマニアfest.』も内容をブラッシュアップして開催を模索中しております。

『海女の戦慄』

公式FBページ

新東宝【公式】

中村和樹(ナカムラカズキ)プロフィール
札幌出身。日本工学院専門学校音響芸術科卒業。レンタルビデオ店勤務やCD、LDの輸入・販売会社を経て、1996年より(株)ビームエンタテインメント(現 ハピネット)の映像制作部に所属。洋画・香港映画の買い付けや邦画作品の制作、そのビデオグラム商品化を行う。2002年に(株)ファイヤークラッカーを設立。
ポン・ジュノ監督作『ほえる犬は噛まない』が第1作目の配給作品。アジア映画からホラー映画、特撮、手塚アニメまで幅広いジャンルの映像ソフト化を手掛ける。近年は国際放映(株)とともに『新東宝キネマノスタルジア』レーベルを展開中。

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ライター
大塩一志

●『新東宝 地帯シリーズ リアルサウンドトラック』は音楽テープが現存していないため、本編からの採録となりました。
 普通のサウンドトラックとかなり異なる特殊な構成作業になりましたが、アルバム全体の趣旨はどのようなものでしょうか?

 セリフ、効果音、音楽をミキシングして完成した映画の音声、本来の意味でのサウンドトラックを再構成した音による名場面集です。サントラ盤は、映画音楽をじっくり聴かせるスコア盤、そしてスターの声とドラマを楽しむドラマ盤に大別できますが、その後者にあたります。
 日本の映画会社が映画音楽の録音にテープレコーダーを本格的に使うようになったのは1950年代の半ば頃からで、それ以前はセリフや効果音と同時にフィルムに録音していたと聞いています。新東宝はずっと効果音と音楽が同時録音だったようで音楽だけの素材が存在しないのかもしれません。
 最初に企画をうかがったときは『地帯シリーズ』そのものがDVDソフトなどで鑑賞できるので、CDにする意義が感じられませんでした。新東宝作品を管理している国際放映さんがサウンドトラックの原版にあたる音ネガから起こした音源を提供してくださることになり、ソフトよりも良好な音質の素材があればCDにする価値があるだろうという判断で企画が進みました。
 リアルサウンドトラックと銘打っていますが、これは1970年に東宝レコードから発売されたLPレコード『黒沢明の世界 リアルサウンドトラック 天国と地獄/赤ひげ』(規格番号KX-1001)から借用したものです。この言葉には映画音楽だけでなくドラマも聴かせる本物のサウンドトラックだ、という意味が込められているようです。本CDではスコア盤と区別する意図で使わせていただきました。
 『地帯シリーズ』と呼ばれる新東宝映画は5本あります。当初はこの5本を均等に扱った構成を考えましたが、CD1枚の収録可能時間の3倍を超えるボリュームになってしまい、やむをえず『黒線地帯』『黄線地帯』『セクシー地帯』を中心とした構成となりました。構成作業は、音を繋いで聴く、余分な音を削って聴く、の繰り返しです。客観的に聴いてみて、映画の雰囲気を損なっていないか、演出のテンポとずれていないか、迷いの連続でした。新東宝映画には古くからの研究者や多くのファンがいらっしゃいますので、私などが作品の音を切り刻んでしまってよいのだろうか、という畏れにもとらわれました。『地帯シリーズ』では物語の背景や主人公の心情をモノローグで語ってしまう安直さがあるのですが、音を構成するにあたってはそれに救われたところもあります。

『新東宝 地帯シリーズ リアルサウンドトラック

●『地帯』シリーズの魅力、『リアルサウンドトラック』の聴きどころはどのようなところでしょうか?

 『地帯シリーズ』について多くの方が語っておられます。秘密売春組織と主人公が対決するというシンプルなストーリーがあって、そのうえでサスペンス、アクション、エロチックがテンポよく展開し息つく暇もない。ニヒルですが憎めない主人公を演じた天知茂さんと吉田輝雄さん、いつも彼らを煙に巻く三原葉子さんの新東宝スターの魅力。ロケ撮影が多く1960年代初頭の東京とその近郊の風景や風俗が記録されているのも貴重でしょう。当時、新進気鋭だった石井輝男監督が構築した独特のアクション映画で、淀川長治さんをはじめ多くの方が注目したそうです。実在したのか定かではありませんが、主人公が迷い込んでいくシークレットゾーン(地帯)、普通の人が立ち入ることができない世界を主人公とともに覗き見る、そんな面白さもあると思います。
 このCDの聴きどころは、石井輝男監督作品ならではの、ユーモアとウィットに富んだセリフの数々でしょう。そして作品毎に異なったアプローチの映画音楽です。『黒線地帯』『黄線地帯』の音楽を担当された渡辺宙明さんは御年96歳ですが、今も新作を発表されている現役作曲家です。新東宝の監督は音楽に関してあまり細かな注文がなかった、と渡辺さんは述懐されています。映画音楽ですから映画の雰囲気に沿った作曲であることに間違いありませんが、作曲者自身がその時々に関心があった音楽が反映されることもある、と渡辺さんから伺ったことがあります。『黒線地帯』はラテンリズムが効いたビッグバンド、『黄線地帯』は南欧の香りがするギターが印象に残ります。渡辺さんは最初から映画音楽を志しクラシック系の純音楽を学ばれたそうですが、ポピュラー音楽を研究し自身の音楽として消化したうえで映画音楽に採り入れていく手腕は流石だと思います。『セクシー地帯』の音楽は本職ジャズメンのヴィブラフォン奏者平岡精二さんが担当し、彼のクインテットが演奏しています。予告編やポスターにも記載がありまして、この映画のセールスポイントのひとつだったようです。

●松竹、東宝、大映、東映作品に比べて映像ソフトの入手が難しい時期のあった新東宝ですが、『新東宝キネマノスタルジア』レーベルの登場により作品の入手が容易になり、初商品化の作品も増えてきました。おすすめの1本を教えて下さい。

 『地帯シリーズ』の『黒線地帯』が好きです。当時の新宿や銀座、横浜の風景が興味深いです。渡辺宙明さんのパンチの効いた音楽がスピーディーな物語にさらに拍車をかけます。天知茂さんと三原葉子さんのためのしっとりしたラヴ・バラードも聴きどころです。

●新東宝作品で商品化を望む作品はありますか?

 純粋な新東宝作品ではないようですが芥川也寸志さんの音楽がすばらしい五所平之助監督作品『煙突の見える場所』をきれいな映像と音声で楽しみたいです。本当は、富士映画という会社が制作して新東宝が配給した『妖蛇荘の魔王』という怪奇映画が見たいです。よろしくお願いします。

●今後、新東宝作品でサウンドトラックを制作が出来ることになった場合、どのようなアルバムの制作を望みますか?

 中川信夫監督の名作『東海道四谷怪談』『地獄』、宇津井健さん主演のスーパーヒーローもの『鋼鉄の巨人(スーパー・ジャイアンツ)シリーズ』、『女吸血鬼』『花嫁吸血魔』『海女の化物屋敷』『怪猫お玉が池』など怪奇映画の名曲・名場面集を期待します。『女吸血鬼』は伊福部昭門下の作曲家・松村禎三さんの映画音楽第1作だそうで、松村さんは何本もの新東宝作品に魅力的な楽曲を提供されています。平岡精二さん音楽の『セクシー地帯』もそうでしたが、三保敬太郎さんや八木正生さんといったジャズメンが音楽を担当した作品も多く、日本映画におけるモダンジャズによる映画音楽=シネ・ジャズの萌芽期の様相を検証するのも意義深いと思います。

大塩一志(オオシオヒトシ)プロフィール
映画音楽研究
特撮、邦画を中心としたサントラ盤の構成・解説をしています。

CINEMA-KANレーベル
WEB:http://www.cinemakan.com/
Twitter:https://twitter.com/CINEMAKAN_LABEL

Spotify
新東宝 地帯シリーズ リアルサウンドトラック V.A. · Compilation · 2021 · 39 songs.

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