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ピアノとコントラバス、極限の最小単位によるアンサンブル。木村イオリ&森田晃平 デュオ 「Common Nostalgia」インタビュー

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ピアノとコントラバス、極限の最小単位によるアンサンブル。柔らかさと芯が混在した世界観の中に、淡く色づいた音色が優しく綴られる――木村イオリ&森田晃平デュオの魅力は、そこにある。ドラマーの伊藤隆郎を含め、Primitive Art Orchestra(PAO)としてトリオ活動してきたが、2020年に木村と森田でデュオも結成。バンドサウンドを追求してきたトリオとは違うアプローチで、ジャズとポストクラシカルの世界観に切り込む。

2022年3月23日、2人にとって2作目となるアルバム「Common Nostalgia」をリリース。その創作への想いや、2人の音楽観に迫った。

INVERVIEW / Text:桒田萌
編集:山口隆弘(OTOTSU 編集担当)

――トリオとしても活動してきた2人。どこか通じるところがあって、デュオも結成したのでしょうか。

森田

僕たちは10年以上前にジャズセッションで出会ったのですが、周りにブラックミュージック好きの人が多くて。でも、僕たちはヨーロッパの景色が見えるようなクラシック音楽やジャズピアノが好きという共通点がありました。それはPAOの活動にもつながりましたし、デュオでも流行よりは自分たちの音楽や雰囲気を大切にしてきました。

――森田さんは高校時代、地元の鹿児島でオーケストラの経験があります。クラシック音楽への親しみは強いのでしょうか。

森田

どちらかというと憧れです。僕は高校生で音楽を始めたんですが、ヴァイオリンやピアノを弾く人って、幼少期から音楽に触れてきた人が多いわけで。そんな背景からアカデミックな音の響きに憧れて、今の自分の核にもなっています。

――木村さんはさまざまなスタイルを横断されてきましたが、このデュオではシンプルな場所に回帰している印象があります。

木村

これまでやってきたジャズやポップスは、リズムや瞬発力が求められる音楽なんです。でもこのデュオでは、音の響きの美しさや、作品の空間の広がりを追求したいと思って。だからこそ必然的に音が減って、自ずとシンプルなところに回帰したのかと。

――2人とも、ポストクラシカルに影響を受けたとか。多義的なジャンルですが、どんな点に惹かれていますか。

森田

聴き手に想像させる余裕があるんですよね。静寂の世界から音がポンと流れるまでの「0と1の間」があるし、テクニックに捉われない。

――今作の曲たちのタイトルを見ていると、まさにそうした「含み」も感じます。音楽とタイトル、どちらが先に生まれますか?

森田

僕の場合、景色にインスパイアされて音楽を作っています。頭の中で映画のように情景が流れているのを、音楽で追いかける。起因した言葉がタイトルになります。

木村

僕もタイトルは固有名詞にせず、聴き手に想像してもらうような、曖昧なものが多いです。音楽も直感で作ること多く、ボイスメモにモチーフを撮りためて、「今はこれで音楽が作りたい」というところから練っていくタイプです。

森田

付き合いが長いので、一緒に演奏するイメージもついているし、相手の音を想定して音楽を考えることは多いですよね。

――曲づくりでは、お互いの良さを引き出すことを意識するかと思います。2人の思うお互いの良さは?

森田

イオリさんは、ピアノのタッチと情景描写能力。

木村

森田くんは、楽器一台で多彩な音色を出すんです。低音域の役割だけでなく、高音でメロディも弾きこなす。だから、それを生かす曲づくりを意識しています。

森田

確かに PAOもそうですが、バンドの場合、ベースはドラムとの同調に重きを置くことが多くて。でもデュオでは、同じリズム隊のドラムがいなくなるので、自由になれるというか。バンドのように低音域を活発にして強いビートを生むこともありますが、あえて弾かず静寂を作り、ピアノの音色を浮き立たせて一つの芯を作ることもできる。役割の行き来ができます。

――今作のタイトルは「Common Nostalgia」。個人的には前作でもノスタルジーを感じたので、改めてこのデュオの音楽性が言語化されたように思いましたが、いかがですか。

木村

そうかもしれない。このタイトルは今回のコンセプトでもあり、そこに曲で肉付けしました。前作では儚さや切なさ、悲しみに似た感情が込められていましたが、今作は心の温かくなる思い出や、ずっとそこにある普遍的なもの、というイメージです。

――音楽的なアプローチは前作と変わりましたか。

木村

春っぽい前作に比べて、今回は秋冬で大人っぽい雰囲気です。例えば1曲目『IRO NAKI KAZE』や10曲目『Nocturne』は、これまでにはない曲になったと思います。

森田

僕も思います。『IRO NAKI KAZE』はPAOの世界観に似ていて、『Nocturne』はポストクラシカルの要素が一番強いんじゃないかな。「ノクターン」といえばショパンも書いていますし、僕のアカデミックな音楽への憧れが出ています。イオリさんのアルペジオがずっと流れていて、穏やか。

木村

アルペジオ、弾いている方は難しいけど、聴いている方は心地良いんですよね。

森田

電車の「ガタガタゴトゴト」や、波の音と同じ感覚ですね。僕は「シークエンスフレーズ」って呼んでいますが、DTMのなかで聴こえそうな、風景のようなフレーズ。

――前作に引き続き、マスタリングはZino Mikorey。彼はポストクラシカルに明るいですね。

森田

そうなんです。彼はオーラヴル・アルナルズやニルス・フラームの楽曲も手がけていて、僕はそれを前々から聴いては「この少ない音色で、どうしてこんなに満足感が得られるんだろう」と思っていて。特に低音域がすばらしく、木の下の根っこや、その下の岩盤のような音質のようで。僕たちの音源も、録音時より音楽のスケールが大きくなっていて、最初に聴いたときは感動しました。解像度が上がって、広葉樹が針葉樹になったというか。その場の空気感や響きも作品として楽しめます。

木村

マスタリング前は「ベースとピアノの二重奏」だったのが、彼の手でオーケストラになった感じですね。どこから一つの場所に導かれるような世界観になりました。

――今夏には四季をテーマにした次作を予定しています。

森田

次作は、今作と一緒に録音しました。一気に撮って、イオリさんが曲を振り分けてくれて。今作よりも開放的で風通しの良い一枚になっています。

木村

そうですね。懐かしさの感じる今作に比べて、次作はカラッと明るい曲が含まれています。色は違えども、どこか今作と共通するところがあると思いますね。

RELEASE INFORMATION

Common Nostalgia
木村イオリ&森田晃平DUO

 2022.03.23 RELEASE
Playwright

稀代のメロディーメーカーであるピアニスト木村イオリと、情感深く多彩な音楽性で魅せるベーシスト森田晃平のデュオ第2作。

ジャズをベースにポストクラシカルの要素を盛り込み、豊かなデュオの響きを追求した全11曲を配信開始。空間的できめ細やかな音の響き、生き生きと躍動し美しく煌くフレーズのかけ合いは、穏やかに、時に情熱的に、丁寧な音の対話のごとく紡がれ続ける。青々と色づくシアトリカルな音景に涙がこぼれ、音の余韻と胸の高鳴りに心を和ませる1枚だ。

木村イオリ Iori Kimura
(pf, bohemianvoodoo / PRIMITIVE ART ORCHESTRA)
Web Site : http://www.iorikimura.com
Twitter : https://twitter.com/iorikimura (@IoriKimura)
Instagram : https://www.instagram.com/iorikimura/ 

森田 晃平 Kohei Morita
(ba, PRIMITIVE ART ORCHESTRA)
Web Site : https://note.com/moritakouhei
Twitter : https://twitter.com/fairybassmorita (@fairybassmorita)
Instagram : https://www.instagram.com/kohey.morita/ (@kohey.morita) 

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