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ロサンゼルスのキーパーソン達が集結し、パンデミックを挟んで完成したカルロス・ニーニョの最新作。彼のルーツに迫りながら、本作のプロセスについて訊いた。 — Carlos Niño & Friends『Extra Presence』インタビュー

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『EXTRA PRESENCE』は、カルロスが2020年に自身のBandcampページを通じて独占的に自主リリースした『Actual Presence』という10曲入りの組曲に7曲の新たなトラックが追加された90分、17トラックの作品。本作の制作は、世界がパンデミックによって封鎖された2020年に始まる。アルバムにはジャマール・ディーン、ネイト・マーセロー、シャバズ・パレス、デアントニー・パークス、サム・ゲンデル、ララージ、ジャマイヤ・ウィリアムス、イアソスといったロサンゼルスのキーパーソンが集結している。

今回インタビューでは本作の制作プロセスに始まり、彼の近年の作品では欠かせない3つの要素、“即興演奏、霊性、編集”を主なトピックに気の向くままに話してくれた。話が進むにつれてこの会話はいったいどこへ向かっているのか…と思うほどに話は思わぬ方向へ膨らんでいき、お陰で初めて耳にする10代の頃のカルロスとドン・チェリーとの逸話や散歩道に落ちている楽器の話なんかも聞けたりした。そうした小話の一つ一つにもカルロスの音楽と結びつくような音楽精神を垣間見る事ができた。そして私自身、音楽を創作するものとしても何か揺り動かされるような言葉が何度かあった。彼のそんな話ぶりを聞いていると、彼の周りに世代を超えたたくさんの音楽家たちが集まってくるのも納得できる。着地することのないこのインタビューは、正に彼の実践する音の旅のような、不思議な時間の共有となった。

Carlos Niño & Friends『Extra Presence』 Interview
Interviewed by Takuro Okada
Translated and Interviewed by Hashim Kotaro Bharoocha

インタビュー・構成:岡田 拓郎
インタビュー・通訳:バルーチャ・ハシム
編集:三河 真一朗(OTOTSU 編集担当)


Carlos Niño(カルロス・ニーニョ)
photo by:Azul Niño

—— 『Extra Presencet 』は、2019年2月のジャスト・ジャズでのギグの録音をベースに再構築されたという事で間違い無いでしょうか。

カルロス・ニーニョ(以下CN):いや、そういうことではないんだ。17曲中、最初の2曲だけがJust Jazzのコンサートの演奏を素材として使っているんだ。僕がライヴで演奏したり、何かを録音している場合、それは必ず何らかの作品で使う可能性があるんだ。昔は、他のアーティストのレコードを機材、サンプラー、コンピューターなどを使ってサンプリングしていたけど、今は同じことを、自分の様々なアンサンブルと一緒にクリエイトしている音を素材として使っている。Just Jazzはそのほんの一例であって、たくさんのサウンドソースの一つでしかないんだ。

carlos nino + friends at mr musichead gallery

—— Just JazzはLAで行われているライヴ・シリーズですよね?

CN:そう、Just JazzはLAのサンセット通りで、リロイ・ダウンズが開催しているコンサートシリーズなんだ。でも最初の2曲は、Just Jazzのコンサートの存在のみを使っているわけではない。そのコンサートのライヴ演奏が土台になっているだけなんだ。他の音の要素を重ねたり、オヴァーダビングをしたり、エディットもしている。曲の土台がライヴ・レコーディングから来ている、というだけなんだ。

Just Jazz Live Music Concert Series Promo (Walter Smith III)

—— 他の曲は、別のライヴが土台になっているんですか?

CN:他のライヴ音源も使っているけど、ライヴだけではないんだ。自宅で行われたレコーディング・セッションを使うこともある。ミュージシャンとセッションをして、その素材を全く別のドラマーのセッションと組み合わせることもある。様々な素材をキュレーションして、それを組み合わせているんだ。アンサンブルで演奏した素材もあるけど、すべてがオリジナル素材なんだよ。ライヴ・セッション、スタジオ・セッション、オーヴァーダビング、即興演奏など、あらゆる音源を素材として使っている。

Carlos Niño(カルロス・ニーニョ)
photo by:Azul Niño

—— このギグは即興演奏されたものかと思いますが、演奏する際にメンバー間で事前に“こういう雰囲気で演奏しよう!”といったディスカッションはなされたのでしょうか。

CN:2割くらいは、ミュージシャンとディスカッションをすることはあるけど、他はしないね。一緒に演奏するアーティストたちとは、パーソナルな関係を築いているから、すでに強いつながりがあるんだ。だから指示をする必要がない。一緒に演奏したことがない相手であれば、説明をすることはあるけど、すでに信頼関係を築いていれば、会話をする必要がほとんどなくなる。

—— 『Extra Presence』で聴けるアルバムでの時間の流れと、実際のギグで演奏された時間の流れは違うものなのでしょうか。曲中で土台となるテイクの時間的な編集はされているのですか。

CN:曲によるんだけど、例えば3曲目”Actually”では、ピアノ、ドラム、僕のパーカッションはそれぞれ違う音源から抜き取っているんだ。

僕が求めているピッチ、アレンジの箇所を見つけて組み合わせているんだ。その上にさらに自分で演奏して、それをネイト・マーセローに送って、演奏を重ねてもらった。ネイトから戻ってきた素材に、さらに自分の演奏を重ねて、ミックスを完了させた。元々のピアノとドラムは、別々の演奏だったけど、相性が良かったから組み合わせたんだ。二つの欲しい素材を見つけて、直感的にそれがマッチすると思って組み合わせた。そこからアレンジを作って、さらに演奏を重ねていく。様々な音のレイヤーが、最終的な楽曲になるんだ。それもほんの一例で、いつもその方法で曲を作っているわけではない。1曲目と2曲目は別の方法で作った。4曲目は僕が親指ピアノをラバーマレットで叩いて即興演奏をしたところから始まった。

そこからループを作って、そのループの上に僕がパーカッションを演奏した。それをジャメル・ディーンに送って、オルガンとピアノを重ねてくれた。それをさらに切り刻んでアレンジを作った。それをさらにジャメルに再度送って、彼がそこにまた演奏を重ねてくれた。僕はそこに演奏を重ねて、ミックスを完成させたんだ。3曲目とはまた違う制作方法だけど、共通しているのは、元となる音源から新しいものを生み出している、ということなんだ。ライヴ音源をほぼそのままの状態で使った曲もあるよ。

—— どの曲で、ライヴ音源をそのまま使っているんですか?

CN:1曲目がライヴ演奏をそのまま使っているんだけど、そこにさらに後で音を追加している。楽器の音が混ざり合っているライヴ録音のステレオファイルと、アイソレートしてクリーンに録音した楽器をオーヴァーダビングをすることで、面白い音の並列になる。それぞれの音源を組み合わせることで、ミックスがより立体的なサウンドになると思うんだ。

—— あなたの話から様々なライヴ・セッション、スタジオ・セッション、即興演奏の興味深い部分を抽出~編集というようなプロセスを経ていることがわかりました。そうした音源を聞いた際に、どういった部分が耳に引っかかるのか詳しく伺えますか。

CN:DJ、音楽愛好家、プロデューサーなら誰でもやっていることだけど、自分が使いたいと思う音源を常に集めているものなんだ。場合によっては、それは演奏の大きなセクションをそのまま使うこともあるし、演奏の中の一瞬を抜き取ることもある。常に自分が面白いと思う音の瞬間を探しているんだ。演奏している最中も探しているし、演奏した後に音源を聴き返して面白い部分を探すこともある。演奏をした何年も後に聴き返して、使える部分を見つけることもある。だから、DJ的な感覚、サンプリング、ヒップホップ的な思考が土台にある。常にそういう耳で音を聴いて、クリエイトするための素材を探しているんだ。今回は、自分でアンサンブルをリードしたり、自分で演奏をして、それをまた後で素材として使用している。レコードを大量に買って、そこからサンプリングしているのと似ている感覚だよ。プロダクション・ソースをまず自分でクリエイトして、そこからさらにクリエイトしているんだ。だから、とても自由に音作りができるし、サンプル・クリアランスを心配する必要はない。僕はヒップホップを一つのフォームとして作っているわけではないけれど、サンプリング的なアプローチにインスパイアされている。DJ的なマインド、コラージュ的なアプローチに似ているんだ。

DJとしても、高く評価されているCarlos Niño

—— ライナーノーツに2019年2月のジャスト・ジャズでのギグで「私がコンサートで提示するのは音の旅であり、曲目や演奏エネルギーではないのです」という、天啓を受けたという話に触れられています。ここで言われていることについて、もう少し詳しく伺えますか?

CN:ある時期、ライヴをやるときの自分の方向性に疑問を感じていたんだ。ライヴで、リリースしたアルバムの楽曲を演奏するべきなのか、アルバムのプロモーションをしようとしているのか、何をしようとしているのか悩んでしまった。僕が一番興味があるのは、その瞬間にしかクリエイトできないものをクリエイトすることだということ気づいたんだ。それだけに専念したかったんだよ。それをやる上で、僕と他のミュージシャンは、リスナーの体験も意識していることが重要だということに気づかされた。だから、“sonic journeying”(音の旅)という言葉や、“spontaneous composition”(自然発生的作曲)という言葉で自分の音楽を表現するようになった。以前からいわゆる「曲」を演奏することはあまりなかったけど、曲を演奏することに自分は興味がないということに気づいたんだ。その疑問を感じていた夜に、僕は自分が果たしてどういう音楽を演奏したいのかということを考えていて、自分の音楽を定義付けたいと思ったんだ。その時は僕はまさに岐路に立たされていて、自分が今後進むべき方向性をはっきりさせたかった。そこで、“sonic journeying”という言葉を思いついて、ライヴでは曲を演奏したり、お客さんにエンターテインメントを提供するということや、決めたプログラムを演奏するという考え方から離れることができた。

Carlos Niño & Friends – Commend, NYC Peace 4

ライヴを通してオーディエンスと一緒に何かを経験することになるわけで、ライヴの内容は予想できない方向性に進む可能性もある。そして、オーディンスもその経験の不可欠な要素でもある。その考え方にシフトして目覚めてからは、もっとやる気が出て、解放された気持ちになった。それに気付くことで、素晴らしい音楽を生み出すことができた。もちろん、その何年も前からそういうライヴをやってきたんだけど、初めてその時に自分が演奏するべきアプローチを完全に受け入れて、身も心も精神もその方向性と一致して、自分のライヴをそういう風に見えるようになった。

—— 自分のライヴに対する考え方に目覚めた時に、ライヴで曲を再現しなくていいということに気づいて、心が解放された気持ちになったんですか?

CN:そうだね。他のミュージシャンのバンドメンバーとして演奏するときや、お客さんとしてコンサートに行くと、どういうライヴになるかある程度期待を抱いていると思うんだ。でもそのグループが、お客さんが期待していたものと違うライヴを提供した場合、期待という概念が消えて、ただその場で起きていることを純粋に経験する、という感覚に変わるんだ。僕はそこに興味があるんだ。完全に自然発生的なインプロヴィゼーションをやることに専念したかった。リハとか練習をしなくても、一人のミュージシャンや僕が一つの方向性に進んで演奏したいと考えて、それが自然にできるんだ。たまに、事前に僕がポエムを書いてそれを朗読することもあるし、僕が「ゴング・ソロで今日は始めて、そこからみんなで演奏していこう」という決め事をすることもある。スタジオでも同じようなことをしているんだ。何人かのミュージシャンと演奏をするときに、僕が一つの楽器を演奏して、そこから新たなアイデアが生まれることもあるし、僕がグループの誰かに演奏をスタートさせてもらって、みんなでその人の演奏に触発されて演奏することもある。これはすべてその瞬間に生まれていることなんだ。

—— Iasos(ヤソス)やLaraaji(ララージ)といったニューエイジ・レジェンドは『Bliss On Dear Oneness』、『More Energy Fields, Current』に続き本作でも参加されていますが、はじめに彼らと知り合った時のエピソードをよかったら教えて下さい。

CN:僕は二人のことは大好きだし、二人ともお互いのことを尊敬している。彼らが初めて顔を合わせた時も僕がセッティングしたんだ。カリフォルニアのマリンカウンティの森で二人は初めて顔を合わせたんだけど、それはダグラス・マガウエンがプロデュースした「I Am The Center」のコンピレーションがきっかけになった。僕がヤソスと初めて会ったのは2010年1月だった。

—— 二人の音楽を初めて聴いたのはいつですか?

CN:二人の音楽は、2000年代初頭、おそらく2005年くらいに初めて聴いた。ララージは、彼のコンサートで軽く話したことがあったけど、彼とちゃんと会って話せたのは2012年だった。それ以来、二人ととても親交が深まって、コラボレーションもしている。ヤソスとは12年前から親交があるし、ララージとは10年前くらいから親交がある。僕はララージのアルバムを3枚プロデュースしているし、彼は僕の作品に5枚参加している。彼とパフォーマンスをしたり、デュオとしてツアーをしたこともある。ヤソスは一人で音楽を作るコンポーザー、プロデューサー、アーティストなわけで、彼は他のミュージシャンを作品にゲスト参加させたり、他の人にプロデュースをしてもらうタイプではない。彼は僕の作品に何度も参加しているし、ビデオも制作してもらったことがある。僕は彼のことをいろいろと助けているし、彼とはとても仲がいい。二人からたくさんのことを学んだし、彼らもお互いのことが大好きだよ。ララージはハーレムに住んでいて、ヤソスは今はマウイに住んでいる。二人の大ファンだし、音楽でもプライベートでも彼らと仲が良くて光栄だよ。

Light In the AtticDocsPresents-ララージとヤソスの人生の秘密

—— カルロスがヤソスと出会ったのは、ヤソスがまだ北カリフォルニア住んでいる時ですよね?

CN:そう、ヤソスがマリンに住んでいる時だった。ヤソスは、マウイに2020年3月にカリフォルニアがロックダウンに入る直前に引っ越したんだ。彼はその後の状況を予測していたみたいだよ。

—— ヤソスと会ったのは、最初はファンだったからですか?それとも作品に参加してもらう時ですか?

CN:僕がファンで彼に連絡をしたんだ。電話で話して、それで意気投合して、その1週間後に僕は運転して彼に会いに行った。それ以来ずっと仲がいいよ。

—— ララージと会ったのはロサンゼルスですか?

CN:いや、ニューヨークだったんだけど、その時はちょっと挨拶をしただけだった。その後に、ヤソスとララージを面会させるために、マリンでちゃんと会ったんだ。「I Am The Center」のリリースパーティーがCinefamilyという会場で行われて、そこでヤソスとララージがライヴを披露したんだ。「I Am The Center」がリリースされる3ヶ月前に、Numero Groupからリリースされたヤソスのアンソロジー「Celestial Soul Portrait」を僕がプロデュースした。2012年はヤソスとララージが注目された年でもあった。

I Am The Center: Private Issue New Age Music In America 1950-1990 | LITA 107 | What’s Inside?
IASOS: Celestial Soul Portrait

—— なぜ、彼らの音楽を広めたいと思うようになったのでしょうか?

CN:地球上で最も美しい音楽だからだよ。僕はブライアン・イーノのアンビエント・シリーズのレコードを90年代後半に買っていて、そこからララージを知った。そこからララージの「A Day of Radiance」を聴くようになった。

2005年にジェシー・ピーターソンがララージの「Essence Universe」を聴かせてくれて衝撃を受けたのを覚えている。自分にインスピレーションを与えてくれる音楽と出会った時は、それをみんなとシェアしたくなるんだ。長年ラジオでDJをしていたから、彼らの音楽をラジオでプレイしたり、コンサートを企画したりした。僕はあらゆる方法でアーティストをサポートしたいと思っているから、彼らの音楽をみんなにも知って欲しかったんだ。ヤソスとララージの音楽はサウンドは全く違うんだけど、周波数的に、そして彼らが地球上で象徴しているものが共通している。彼らはとても知的で特別な存在。地球上で重要な存在だと思っている。ファラオ・サンダーズ、ミルトン・ナシメントなどに対しても僕は同じ気持ちを抱いている。ヤソスとララージは、自分にとって近い存在だったから、彼らとコラボレーションをしたいと思うようになった。僕がブラジルで育ってエルメート・パスコアールと仲良くなっていれば、彼とコラボレーションをしていたかもしれない(笑)。

—— ヤソスとララージはあなたにとって師匠のような存在ですか?彼らの精神をあなたも自分の音楽を通して継承しているように思えますが。

CN:彼らは間違いなく僕にとって師匠のような存在だし、お兄さん的な存在とか、先輩でもある。友人でもあるし、彼らのことをリスペクトしている。でも彼らは僕のことを同等のアーティストとして扱ってくれるから、彼らとはとても多面的な関係を築けている。

—— このレコードに参加しているNate Mercereau(ネイト・マーセロー、Sam Gendel(サム・ゲンデル)、Miguel Atwood-Ferguson(ミゲル・アトウッド・ファーガソン)、Jamire Williams(ジャマイア・ウィリアムス)など、あなたの周りには本当にユニークで素晴らしいミュージシャンが集まっています。あなたの音楽、そして彼らの音楽は、ジャズ的とも言えるしニューエイジやアンビエント的とも言えるかもしれませんが、あなたは自身の音楽を歴史的に位置付けるならどのような音楽だと考えていますか?

CN:僕は自分の音楽を説明するときに使っている単語が3つあるんだけど、最新の単語は、“Loving Experimental Music”(愛のある実験音楽)。“Loving”という単語を使っているのは、ハートと思いやりのある実験音楽だからなんだ。「実験音楽」というと、鋭くて、耳障りで、攻撃的で、聞きづらい音楽を連想する。僕はフォームレスで、ジャンルレスな音楽を作る上で常に実験をしているから、最近は“Loving Experimental Music”という言葉をよく使っている。他には、“Spiritual Improvisational Music”(スピリチュアルな即興音楽)と説明することもある。この音楽はハートを込めて作っているし、「なぜ我々は地球にいるのか」、「人間は何を表現してシェアするために存在しているのか」という疑問を投げかける音楽だから、“スピリチュアル”という単語を使っている。

“Improvisational”という単語は、僕の音楽が今この瞬間において、自然発生的にクリエイトしている側面を表している。事前に何も決めないで演奏することで、今この瞬間における自分の気持ちを表現できるんだ。または、“Space Collage Music”という言葉で自分のプロダクション・スタイルを説明したこともある。

“Space”という単語を使っているのは、僕の音楽がとてもオープンでドラム・マシンで作っていないような音楽だからなんだ。僕が好きなヒップホップは、特定の機材、エフェクター、サンプラーで作られていることが分かることもある。僕がそういった特徴を超越した音楽を作ろうとしているから、“Space”という単語を使っているんだ。Ableton, Logic, MPCなど、どの機材で作った機材かわかる音楽は作りたくないんだ。僕にとって偉大なプロデューサーというのは、どうやって音楽を作っているかを教えてくれても、そのジャンルやフォームを超越する人たち。彼らはわかりやすいトラックを作ることもあれば、それを超越することもあるんだ。“Space”というのは、超越的で、オープンな側面を表している言葉なんだ。“Collage”というのは、様々なサウンドソースを使っているから取り入れた言葉。その素材は、僕がプロデュースしたり、他の人とクリエイトしているものだけど、それを新たなクリエイションのために使っている。

僕にとってコラージュは、DJと似ているんだ。僕がDJをするときは、レコードのBPMを合わせることにあまり興味がない。音のレイヤーを生み出したり、モザイクを作ろうとしているわけで、それがコラージュ的なアプローチと似ている。「スピリチュアル・ジャズ」という言葉はとても不思議だと思うんだけど、そのジャンルに入れられているアーティストは好きだから、この言葉は受け入れている。でも正確な言葉ではないと思うんだ。自分が作っている音楽において、「ジャズ」という単語には興味はない。「スピリチュアル・ジャズ」という言葉は、一言で言うとImpulse Recordsからリリースされた作品を表していると言うのであれば、僕はそこからたくさんのインスピレーションを受けた。でも、「スピリチュアル・ジャズ」という言葉は、その音楽を作っているミュージシャンが生み出した言葉ではない。この言葉は、レコード・コレクター、ジャーナリストが使っているわけだけど、誰かに「君の作品をレコード店のどのセクションに入れて欲しい?」と聞かれたら、僕は「スピリチュアル・ジャズ」と答えると思う。ニューエイジ、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックの要素は入っていても、そのセクションに入れて欲しいとは思わないんだよ。

—— 『Extra Presence』をはじめあなたの音楽は即興演奏の要素が非常に大きいと思います。即興演奏(フリーインプロヴィゼーション)に関する質問をここでいくつか聞かせてください。

ステージで即興演奏をする際にあなたは何を聴いていますか?(音楽全体を聴いているのはもちろんだと思いますが、ほかの演奏者が奏でる和声の響きに特に耳をそばだてている、自身の楽器の音色に細心の注意を払いながら聴いている、外で演奏する際は楽器よりも環境音に耳を澄ませている、、、など特に注意しながら聴いているものがあれば教えてください。)

CN:一言でいうとフィーリングだね。またはエナジー。今この瞬間においてクリエイトしているわけで、そうするには自分は光を反射する鏡のような存在でなければいけないし、様々なエナジーとフィーリングに繋がってなくてはいけないと思っている。だから、演奏をするときは音符のことは考えていない。「今はどんなフィーリングを感じているか?」ということを意識している。自分が何を感じているか、今この瞬間において何を引き出せるか、ということを考えている。静かなサウンド、ダイナミックなサウンド、繊細なサウンド、大きなエナジーの波や風を生み出したいと思うこともある。でもそれは事前に決まっているものではないし、それを生み出さなければいけないという決まりごともない。自分がその瞬間に何を感じているか、そして全体のエナジーに対して自分がどうやって反応しているかが重要なんだ。

Carlos Niño & Friends – “WaterWavesArrival” (featuring Jesse Peterson)

—— 同様にステージで即興演奏をする際に、あなたは何を見ていますか?

CN:いや、特にないよ。共演しているミュージシャンとたまに目があったり、スマイルしあったりすることもあるけど、全体的に流れに身を任せて演奏している。海で泳ぐ時に、塩水や砂が目に入るから目をつぶって泳ぐ人もいるけど、僕はいつも目を開けている。太陽を直視すると目を痛めてしまうよね。瞑想やビジョンクエスト、サイケデリックな体験に似ているかもしれない。目で見える光景が、体で感じていることと一致しないことがあるんだ。他のバンドでは、指揮者がいたり、バンドリーダーがいて、キューを出されたり、演奏者は動きや演奏を一致させることがある。でも僕のアンサンブルでは、フィーリング、エナジーを一致させてることが重要なんだ。そして、完全に心を開いた状態で演奏している。僕がやろうとしているのは音のジャーニーであり、決まった展開のある楽曲を演奏しているわけではないんだ。

—— 即興演奏は多くの場合、終わりも始まりも決められていません。即興演奏における1手目、そして終わり方についてはいつもどのように捉えていますか?

CN:それはあまり重要ではないんだ。世の中のあらゆるものは、どうやって始まって終わるかなんてわからない。あらゆる現象に、スタートと終わりがそもそもあるのか、という疑問がある。どこで演奏するか、周りにどのくらいノイズがあるか、ということも関係してくるかもしれない。演奏している環境、その時に僕らが何を感じているかが重要なんだ。

僕は共演しているミュージシャンに、「こういうことをしないでほしい」というルールは出さないんだ。一人のミュージシャンが演奏中に喋りだしたら、僕はそれを止めない。その瞬間に、その人が何かを表現する必要性があるから、言葉を発しているんだ。オープンであることが大前提だから、そういうことを受け入れられるんだ。僕が集めるミュージシャンは、お互いに対して愛があるし、敬意がある。だから、誰も嫌な気持ちにさせるようなことはしないことを知っている。例えば、共演者が演奏中に政治についてしゃべることはない、ということはわかっている。みんなは、僕が政治に興味がないことはわかっているからね。その時のエモーション、景色がなぜ美しいか、オーディエンスが素晴らしいと思うとか、そういうところから演奏が始まることもある。楽器の音とか、シンバルの音とか、貝殻、ベルの音から始まることもある。とにかく、すべてはオープンであり、何をやってもいいんだ。その場にミュージシャンが来たいという意識が、スタート地点なのかもしれない(笑)。

—— 即興演奏(フリーインプロヴィゼーション)という言葉で、あなたが思い浮かべるレコードを3枚教えてください。

CN:一つは、ララージの「Essence Universe」。彼は2テイクでオープン・チューニングのツィターという楽器を演奏している作品だけど、とても開放的なサウンドなんだ。ララージは、”far in depth perception”(遠くて深い知覚力)という言葉で表現することが多いけど、素晴らしいエナジーのある完全にインプロヴィゼーションでクリエイトされた作品なんだ。

すべてフリー・インプロヴィゼーションではないけど、ファラオ・サンダースの音楽には常にインスピレーションを受けている。彼の事は常に意識しているし、彼のエナジーを感じている。ライヴで僕のパーカッション楽器を見て驚く人もいるけど、僕はドラマーではないし、リズムを演奏しているわけではない。ファラオ・サンダースのアルバムの中を見ると、イドリス・モハメッド、ロニー・リストン・スミス、リオン・トーマス、セシル・マクビーなどのクレジットが掲載されているけど、みんなパーカッション楽器を演奏しているとクレジットされているんだ。僕は一人で、彼らがファラオ・サンダースの作品でやっていたことをやっているんだ。一人でベル10個、ゴングを2個使ったりしている。それを説明すると、やっとみんな理解してくれるんだ。他のメンバー、ドラム、ベース、キーボードなどを演奏しているけど、僕はそれとは違う音の世界を担当しているんだ。一つの作品を挙げるとしたら、「Live at the East」。これは完全なインプロヴィゼーションではないけれど、素晴らしい作品だよ。

3枚目は、インプロヴィゼーションと曲が入っているけど、ドン・チェリーとエド・ブラックウエルの「Mu」のパート1と2。Acutelから2枚の作品としてリリースされて、2枚組としてもリリースされた。ドン・チェリーはピアノ、ポケット・トランペット、フルート、歌を担当して、エド・ブラックウェルはドラムとパーカッションを演奏している。

3枚とも素晴らしいインプロヴィゼーションの作品だよ。

—— ドン・チェリーのそのアルバムは昔から聴いていましたか?

CN:この作品は僕が最初に好きになったドン・チェリーのアルバムだよ。実は、僕は16歳の時にドン・チェリーとサンフランシスコで出会ったんだ。僕の従兄弟がUCバークレーに通っていて、彼に会いに行くためにサンフランシスコに行ったんだ。サンフランシスコ市内で知人のDJとレコードショッピングをした時に、確かRound World Recordsというショップに入ったんだ。主にCDとカセットのお店だった。ドン・チェリーのマネージャーは、サージ・エル・バズという人で、シェビ・サバという名義でDJもやっていた。このショップに入ると、このマネージャーと会話をして、自分がトランペットを演奏していることを伝えた。彼は、「あそこにいる人知ってる?」と指をさすと、「ドン・チェリーだ!」って僕は驚いたんだ。16歳で僕はすでにドン・チェリーの音楽が好きで、彼を見てすぐにわかった。16歳の時に「Mu」を初めて聴いて好きになったんだ。とても影響を受けた作品だよ。そのあとも、ドン・チェリーと5、6回会ったんだ。彼と直接仕事をすることはなかったけど、とても尊敬していた。シェビ・サバから連絡があって、ドン・チェリーの作品のコレクションを作りたいから、「ドン・チェリーのレコードを買って送ってほしい」と頼まれたんだ。ドン・チェリー本人があまり自身の作品を保管していなかったみたいで、僕が彼らのために掘り師になった。オーネット・コールマンのアルバムとかを見つけて、彼らに送ったんだよ。

Don Cherry & Herbie Hancock Bemsha Swing Live YouTube

—— あなたのパーカッションの演奏は音色こそ楽器から発せられていますが、草原を吹く風や海辺で聞こえる波の音、川のせせらぎなど、まるで自然の中に存在する流動的な環境音が音楽に溶け込んでいるように感じます。演奏をしながらそうして自然の環境音について考えたりしますか?

CN:常に意識しているよ。自然の音が最大のインスピレーションなんだ。外で風が木を吹いている音を聞くと、そういう音を作りたいと思うし、海に行くと波のような音を作りたいと思う。鳥の鳴き声を聞くと、それを再現したいと思う。僕はそういう自然の音を目指しているけど、僕が使っている打楽器は、自然にないような音を作り出すこともできる。金属的な音、神秘的な音を鳴らせるパーカッションもあるけど、最終的にはそれも自然の音だと僕は思っている。ウォーターフォンという楽器は、不気味だと言われるけど、僕にとってはソナーとか、宇宙の言語に聞こえる。またはクジラ、イルカなどの声にも聞こえる。そういう音を鳴らすのは大好きだよ。

—— 海や森や動物に虫など、自然が発する音、物で特に好きな音があったら教えてください。

CN:最近の僕のお気に入りは、木から落ちた枝など、自然の中で見つけるオブジェで音を鳴らすことなんだ。僕の楽器のコレクションの中には、自然の中で見つけ出した木の枝や葉っぱもある。様々な音を、作り出すことができるんだ。川のような音を鳴らすこともあるし、風に吹かれた木の枝のような音を作り出すこともできる。チャイムをセッティングして、その木の枝や葉っぱで揺らして、その風でチャイムを鳴らすこともある。だから、音を鳴らすための環境を作り出して、他の楽器を鳴らすこともできる。最近この手法を気に入っているから、ハイキングをするときは、いつも地面に落ちている植物を探しているよ(笑)。ヒョウタンからつくられたシェイカーがあるけど、そこには木から採取した種が付いていたり、貝殻が付いていることもある。それは自然界のものであり、そこから音を作り出せるんだ。同様に、自然界のものでフルート、ドラム、コラなどの楽器を作ることもできる。多くの楽器は自然界から誕生したものが多いんだ。だから、僕が使っている枝や葉っぱはもっとシンプルなバージョンの楽器なんだ。僕は決して木から枝や葉っぱをもぎ取ることはなくて、地面に落ちたものしか使ってないよ。

—— かつてはトラックメイカーやDJとしてのイメージが強かったのですが、今ではカルロスさんといえば多くの人が“パーカッショニスト!”と連想すると思います。改めてパーカッションの演奏を中心とした活動に切り替わり、最も変化したと思う事が何かあれば教えてください。

CN:何かの出来事があったというよりか、スタジオの中ではいつも自分でパーカッションは演奏していたんだ。ビルド・アン・アーク、ゴー・オーガニック・オーケストラでもパーカッションを演奏していたけど、初めてバンドと一緒に演奏することを誘ってくれたのは、ミゲル・アットウッド・ファーガソンだった。ミゲル・アットウッド・ファーガソン・アンサンブルでは、たくさん演奏させてくれたし、そこからインスピレーションは受けた。

Carlos Niño & Miguel Atwood-Ferguson – Chicago Waves [film by Dustin Houston]

—— 今は、ビートメイカーよりも、パーカッショニストとして活動することの方が居心地の良さはありますか?

CN:実は、ビートメイカーと呼ばれることにずっと違和感を感じていたんだ。ビートは好きだし、ビートは作っていたけど、決してビート作りが得意ではなかった。すぐれたビートメイカーはとても少ないんだ。ビート作りをやろうとしている人は多いけど、素晴らしい人は少ない。ビートメイカーの世界で、僕のレベルは平凡だった。ただ、自分が好きなサウンドは作ろうとしていた。でも、僕の制作スタイルは今でもビートメイカーのメンタリティに似ている。面白い音を組み合わせて、そこからパターンやフレーズを見つけ出して、そこから表現しようとしているんだ。洗練された耳を持っているリスナーであれば、その共通点を理解してくれると思う。いまはもう、形が大事ではないんだ。今もある意味ビートメイキングと同じことをやっているんだけど、出来上がったサウンドがビートではないんだよ。ビートメイキングがきっかけとなって、僕がのちに本当に作りたい音楽を作るための土台になったんだ。ギターを弾いて育ったけど、のちには違う方法で音作りをする人もいる。同様に、ビートを作る経験から、コラージュ、ミックス、音の組み合わせ方などを学ぶことができた。

—— カルロスがバンドと演奏する時、全体のサウンドをより立体的にしているように聞こえますが、様々なアンサンブルで演奏する時は、どんなことを意識していますか?

CN:そう、間違いなく僕はより多面的なサウンドを作って、拡張的なエナジーを作り出したり、音のスペースを拡張しようとしている。それに、テクスチャーを深めたり、他の演奏の前兆となる音を鳴らしたり、他の演奏への返答を提供することもある。他のバンドと演奏する時は、全体的なサウンドに深みを与えようとしている。だから、他のアーティストの作品のレコーディングに誘われることがあると思うんだ。例えば、そのアーティストの曲は完成しているんだけど、よりサウンドに深みが欲しいから、僕が開放的でテクスチャーのあるサウンドを提供するんだ。

—— 今後のリリース予定は?

CN:スーリャ・ボトファシーナ、ネイト・マーセローの新作に参加しているし、自分の作品もいろいろリリースされるよ。

—— この作品を聴く日本のファンにメッセージをありますか?

CN:みんなのことが大好きだし、また日本に行って演奏したい。この作品は、僕が聴きたいような音楽だから、みんなとシェアしたいんだ。この作品を聴けば、僕が好きな音楽、僕が聴いている音楽の世界観が理解できると思う。アルバムの最後の曲“Recurrent Reiki Dreams”にはヤソスが参加しているけど、22分22秒の曲で、とてもスペシャルな曲なんだ。“Mushroom Eclipse”という曲が、元になっているんだ。この曲をずっとリピートして聴いてほしいね。僕にとっては、「Essence Universe」に似たような曲だから、特別な存在だからね。


RELEASE INFORMATION

サム・ゲンデルやネイト・マーセロー、ジャメル・ディーンにディアントニ・パークスといったロサンゼルスのキーパーソン達が集結した、カルロス・ニーニョの最新作!!「スピリチュアル、インプロヴィゼーション、スペース・コラージュ」をテーマにした、コズミック・アンビエント・ジャズサウンド。2020年にプライベートでアナログとカセットテープでリリースされ、即完売していた話題の作品をリマスタリングを施し、新曲を追加して日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様の2CDでリリース!!

Carlos Niño & Friends
Extra Presence

日本限定盤は、ハイレゾMQA対応仕様の2CDでリリース

CD/LP
品番:RINC92(CD)IARC0047(LP)

レーベル : rings / International Anthem

OFFICIAL HP :

https://www.ringstokyo.com/items/Carlos-Nino-%26-Friends

https://intlanthem.bandcamp.com/album/extra-presence

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