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「ただただ二人がインスピレーションに導かれるまま、どこまでも追いかけていくような感じかな」— Sam Wilkes & Jacob Mann『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』インタビュー

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ノウワーのサポート・メンバーとしても知られ、また同バンドに参加するサックス奏者サム・ゲンデルとのデュオ作品も評価が高いベーシストのサム・ウィルクスが、同じLA出身のピアニスト/キーボーディストである、ジェイコブ・マンと制作したアルバム『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』がリリースとなった。ここ数年、注目を集めるLAのインディペンデント・ジャズや、インプロビゼーションに焦点を当てたエレクトロニック・ミュージックの潮流の中で、特に異彩を放つ、この二人のコラボレーションが、どのような経緯で生まれ、またどのような環境下で制作されたのか、その答えを見つけるべく、それぞれ二人にインタビューを試みた。レコーディングや楽器・機材、そして今作に影響を与えた作品など、二人から興味深い話を訊くことができた。

Sam Wilkes & Jacob Mann Interview
サム・ウィルクス & ジェイコブ・マン インタビュー

インタビュー・構成:山本勇樹(Quiet Corner)
編集:三河 真一朗(OTOTSU)


Artist:Sam Wilkes & Jacob Mann (サム・ウィルクス & ジェイコブ・マン)
Title:Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann (パフォーム・ザ・コンポジションズ・オブ・サム・ウィルクス&ジェイコブ・マン)

発売日:2022/12/14
レーベル : astrollage / Leaving Records
品番:ASGE48
​フォーマット : CD​
ライナー解説:山本勇樹(Quiet Corner)
OFFICIAL HP : Sam Wilkes & Jacob Mann / Perform The Compositions Of Sam Wilkes & Jacob Mann – astrollage

Jacob Mann Interview

Jacob Mann(ジェイコブ・マン)


—— 二人は、知り合ってどのくらいになりますか?

ジェイコブ・マン(以下 JM):サムとは、12年来の付き合いなんだ。大学で出会って、たくさんの共通したアーティストやバンドと演奏をしていることに気がついて、それ以来、いくつかの音楽形態で一緒に演奏し、親しい友人になったんだ。

—— その長年の友人であるサムと共同名義でアルバムを作ろうと思ったのは、なぜですか?

JM:他のバンドと一緒にツアーをしていた時、サムと僕はホテルの部屋で作曲を始め、休みの日になると、ループペダルを使ってこじんまりとしたデュオのライヴをいくつかやっていたんだ。それでフルセットまで発展して、ロンドンでデュオとして演奏した後、サムのアイデアでレコード制作を開始したんだよ。

—— 『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』のコンセプトと、それに至った経緯を教えてください。

JM:このタイトルは、アルバムのコンセプトそのものなんだ。この音楽は、僕たちの心が交わる空間の中で生まれたんだ。いつも、僕はユーモラスな感じのする音楽を作り、サムは、誠実で心に響く音楽を作っている。この作品はその中間のようなもので、僕たち二人の友情をいい意味で凝縮しているような気がするんだ。ただただ二人がインスピレーションに導かれるまま、どこまでも追いかけていくような感じかな。

Sam Wilkes & Jacob Mann – Dr. T

—— 曲作りのプロセスはどのようなもので、お互いにどのような話し合いをしましたか?

JM:いくつかの曲は僕やサムの作曲のアイデアから始まったけど、ほとんどはサムのアパートで何の意図もなく即興で演奏することから始まった。僕がシンセサイザーの「JUNO-106」を弾いて、サムがベースもしくはシンセサイザーの「DX7」を弾く。このような即興演奏をすべて録音し、その中から最も良いものを選んで曲として完成させたんだ。僕たちは通常、「フルートやバイオリンはここで何を演奏するのか?」というように、オーケストラの用語を使って音について議論する。長年一緒に演奏してきた経験から、多くのボキャブラリーを共有している。しかし、最も重要なことは、深い信頼関係と、曲に捧げるという共通の目標があることかな。

—— あなたにとってJUNO-106はどのような楽器で、どんな魅力がありますか?

JM:「JUNO-106」は、僕がこれまでに所有した最初で唯一のアナログ・シンセサイザーなんだ。シンプルでありながら、非常に多機能なのが特徴。多くの人は80年代の艶やかなシンセパッドしか思い浮かばないけど、「JUNO-106」は何でもできる。このアルバムに収録されているドラムの音(とベースの音)の多くは「JUNO-106」によるのものだよ。僕は以前、音楽の要素はメロディとハーモニーとリズムだけだと思っていた。でも、「JUNO-106」を弾き始めてから、それと同じくらい重要な要素、つまり“サウンド”を発見したんだ。シンセのサウンドが違うだけで、演奏も作曲も違ってくる。そして、そのサウンドへのこだわりは、僕の弾くピアノの音色にも大いに役立っている。

Sam Wilkes & Jacob Mann (Live 2022) Los Angeles, CA at Lodge Room Full Show In The Round

—— サムとの共同作業は、あなたの音楽にどのような影響を与えていますか?

JM:サムは素晴らしいプレーヤーで、同時に素晴らしい作曲家、プロデューサー、ミキシング・エンジニア、そして音楽の歴史家だと思うよ。彼は自分の楽器をはるかに超えた、音楽に対する全体的なアプローチを持っていて、そのおかげで僕も音楽について、様々な方法で考えることができるようになっている。僕たちは似たようなタイプの音に惹かれるし、彼の作る音色に触発されて、このデュオ作品のために新しい方法で音楽を作ることができたよ。

Sam Wilkes 1st Album『Wilkes』

—— レコーディング・セッションの雰囲気や、印象的なエピソードがあれば教えてください。

JM:アルバムはロサンゼルスのサムのアパートで2、3年かけてレコーディングしたかな。アパートには、彼の楽器やペダル、レコーディング機材が所狭しと並んでいたよ。僕は自分のキーボードとループペダルを1台ずつ持っていったかな。そうそう、いつもレコーディングした後、通り沿いのレストランにサーモン丼を買いに行ったのを憶えているよ。

Sam Wilkes(サム・ウィルクス)& Jacob Mann(ジェイコブ・マン)

Sam Wilkes Interview

Sam Wilkes(サム・ウィルクス)


—— これまでの数多くのプロジェクトの中で、今回のコラボレーションはどのような意味を持ちましたか?

サム・ウィルクス(以下SW):ジェイコブと自分自身の友情の記録として、人々が聴くことができるというのは、とてもクールなことだよ。ジェイコブ・マンは一人しかいないし、彼と音楽を作ることがいかに楽しく、いかに簡単であるかは、彼の性格、そして作曲家、楽器演奏家、編曲家、オーケストレーターとしての彼の卓越性と独自性を証明するものだと思う。

—— サム・ゲンデルともデュオで録音されていますが、あなたにとってデュオとはどのような演奏形態ですか?

SW:デュオというアンサンブルは、音楽的、音響的なコミュニケーションやハーモニーの自由度が非常に高いと思う。

Sam Gendel & Sam Wilkes – 3/4/22

—— このアルバムの独特かつ心地よい音色は、どのように作られていますか?

SW:僕たちは常に、良い音、満足のいく音を得るために努力しているんだ。 サウンドは、作曲とアレンジのプロセスの重要な部分だよ。

—— レコーディング・セッションの雰囲気、あと印象的なエピソードがあれば教えてください。

SW:レコーディングは僕のアパートで行われて、とてもリラックスできたし、集中できるセッションだったよ。僕たちは、毎日ただ一緒に演奏することから始め、よりしっかりしたアレンジやレコーディング作業に移る準備が整うまでは、自分たちの即興演奏を録音するという、ルーティン・ワークに従ったんだ。いつもは、即興演奏のたびに、どちらが始めるかを決めていた。また午後に作業をして、セッションの最後には散歩がてら食事にも行ったよ。こういったルーティン・ワークのおかげで、セッションはすべて記憶の中で繋がっているんだ。

Sam Wilkes & Jacob Mann – Jakarta

—— あなたにとって「DX7」はどんな楽器ですか?

SW:今回のレコーディングでは、「DX7」をかなり使ったよ。明瞭でガラスのようでありながら、温かみがあって豊かな音色が、とても気に入っている。これは、デジタル・シンセサイザーでありながら、出力前に信号が通過しなければならないトランスの熱や回路が多いから、クリアで明るい音と関係し合って、美しく温かいノイズが発生するからだと思っている。「DX7」は非常に多くの異なるサウンドを作り出すことができ、僕のアパートにすでにセットアップされていたから、ジェイコブとのセッションに間違いなく役に立ったよ。

—— 今回のレコーディングでは、どんな機材を使用しましたか?

SW:キャピトルのスタジオA(現在使用しているNEVEを導入する前)録音コンソールの一部であった「Langevin AM-16」のプリアンプのビンテージ、ステレオペアを購入したんだ。また、「Roland RE-201 Space Echo」を「JUNO-106」とベース・パートに使って、ディレイ、サチュレーション、テープ・ヒスといった、温もりのあるサウンドを表現したんだ。

—— カセットテープ『Perform The Compositions』にはお二人の推薦盤が掲載されていますが、このインタビュー・ページの読者へのおまけとして、いくつか大切なレコードを紹介していただけますか?

SW:OK。その他、個人的に好きなレコードを教えるよ。

ビートルズ / The Beatles(White Album)(1968)
ブロークン・ソーシャル・シーン / You Forgot It in People(2002)
ジェームス・ブラウン / Motherlode(1988)
パトリス・ラッシェン / Shout It Out(1976)
アイズレー・ブラザーズ / 3 + 3 (1973)
ジョン・ハッセル / Aka / Darbari / Java: Magic Realism (1983年)
トーキング・ヘッズ / Speaking in Tongues (1983年)
ジョン・コルトレーン / Crescent(1964)
テッド・ルーカス / Ted Lucas(1975)
ニック・ドレイク / Pink Moon(1972)
フランク・シナトラ&アントニオ・カルロス・ジョビン / Frank Sinatra and Jobim(1967)
ビージーズ / Spirits Having Flown(1979)
クインシー・ジョーンズ / You’ve Got It Bad, Girl(1973)

RELEASE INFORMATION

Artist:Sam Wilkes & Jacob Mann (サム・ウィルクス & ジェイコブ・マン)
Title:Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann (パフォーム・ザ・コンポジションズ・オブ・サム・ウィルクス&ジェイコブ・マン)

発売日:2022/12/14
レーベル : astrollage / Leaving Records
品番:ASGE48
​フォーマット : CD​
ライナー解説:山本勇樹(Quiet Corner)
OFFICIAL HP : astrollage | Sam Wilkes & Jacob Mann (djfunnel.com)

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