アマーロ・フレイタス、ディアンジェロ・シルヴァ、フィリップ・バーデン・パウエル~ハファエル・マルチニといったジャズ系ピアニストの躍進が目立つ現代ブラジルにおいて、ヨーロピアン・ジャズのようなメロディアスな方向性で突出して美しいアルバムを今年発表したのがアレシャンドリ・ヴィアナだ。アレシャンドリは1982年リオグランデ・ド・スル州生まれ。サンパウロのソウザ・リマ大学でピアノを学んで以降、同地で活動を続けている。自身のピアノトリオ、アレシャンドリ・ヴィアナ・トリオで2016年にデビュー作『Ânimo』を発表し、翌年にはエレクトリックな方向性を取り入れた別のプロジェクト、Årvollでもアルバムをリリース。また、彼はジゼリ・ヂ・サンチやカロル・ナイニといった女性歌手の作品の伴奏、アレンジなどでも知られている。
今回は、アレシャンドリ・ヴィアナ・トリオ名義での第2作『ムジカ・パラ・ダール・ソルチ』の発売を記念し、ブラジル国内外を問わず影響を受けたピアニストの作品5つと、それぞれの作品についての彼のコメントを掲載する。ピアニストとしての彼の原点が垣間見えるような、興味深いセレクションだ。
なお、筆者によるインタビューも後日OTOTSUにて掲載予定。ぜひ彼の音楽を聴きながら、記事の公開をお待ちいただきたい。
文・宮本剛志 / アレシャンドリ・ヴィアナ
Text by Takeshi Miyamoto / Alexandre Vianna

アレシャンドリ・ヴィアナ・トリオ『ムジカ・パラ・ダール・ソルチ』
https://diskunion.net/diw/ct/detail/1008542008
アマーロ・フレイタスやディアンジェロ・シルヴァらブラジルの新世代ピアニストに並ぶ俊英、サンパウロで活動するジャズ・ピアニスト、アレシャンドリ・ヴィアナのトリオ2作目となる2022年作を日本盤CD化!! カラフルなリズムを生み出すアンサンブルはコンテンポラリー・ジャズとサンバなどのブラジルの伝統的なリズムやエッセンスの境界線を融和させている。言うなれば、1960年代に活躍したブラジルの伝説的なサンバジャズのピアニスト、テノーリオ・ジュニオールの音楽性をモダナイズさせたかのようだ。しかし何よりキース・ジャレット、エンリコ・ピエラヌンツィ、マリオ・ラジーニャ~シャイ・マエストロといった、リリシズム、美メロ系の系譜とも呼べる、歌うように奏でられるメロディこそが素晴らしい。新世代・南米リリシズムの地平はここから始まると言っても過言ではない。ティングヴァル・トリオやマヤミスティ・トリオのようなヨーロピアン・ジャズ、欧州ピアノトリオ好きも必聴の1枚だ。
■ライナーノーツ:村井康司

Egberto Gismonti『Alma』(1986)
エグベルト・ジスモンチは1947年ブラジル、リオデジャネイロ生まれのピアニスト、ギタリスト、作編曲家。ナディア・ブーランジェらに師事。1969年にシンガーソングライターとしてデビュー作『Egberto Gismonti』を発表して以降、次第にインストゥルメンタル音楽に傾倒していく。長年所属するレーベル、ECMではヤン・ガルバレク、チャーリー・ヘイデンらとも共演するなど世界的に活躍。テクニカルでありながら抒情性を持った独自の音楽世界を生み出し、世界中の音楽家にインスピレーションを与え続けるブラジル音楽を代表する巨匠の一人。
“Alma” for me is the best solo piano album of all time. Authorial music album full of vigor and very melodious. Egberto has complete mastery of the instrument. Egberto’s piano looks like there’s a band playing along with it, it’s so well played and filled. This record influenced me a lot to compose and seek my essence in music.
『Alma』は私にとって最高のソロピアノ・アルバムです。力強さと旋律に満ちた作品。エグベルトは楽器を完全に支配しています。エグベルトのピアノは、まるでバンドが一緒に演奏しているかのようで、満ち足りています。このレコードは、作曲や音楽の本質を追求する上で、私に大きな影響を与えました。

Lyle Mays『Street Dreams』(1988)
ライル・メイズは1953年アメリカ、ウィスコンシン州生まれのピアニスト、鍵盤奏者。パット・メセニー・グループの一員として活動するとともに、ソロ・アーティストとしても活動した。ジャズ以外でも、リッキー・リー・ジョーンズ、ジョニ・ミッチェル、アース・ウインド&ファイアらの作品やコンサートにも参加したことでも知られている。
This album had great importance in my learning on the piano, it influenced me to look for other harmonic sounds. Lyle mays always with his surprising melodic and harmonic details. This record has moments of great intensity and relaxation at the same time. “Chorinho” is my favorite track and I’m always practicing this song because I find it a great challenge to play it.
このアルバムは、私がピアノを学ぶ上でとても重要なもので、これまでにない和声的な音を探求するという点で影響を受けました。ライル・メイズは常に驚くべきメロディとハーモニーのディテールを持っています。このアルバムは、強烈な瞬間とリラックスした瞬間が同居しているんです。「Chorinho」が特に好きな曲なんですが、演奏することはとてもチャレンジングな難曲だと思うので、いつも私はこの曲を練習しています。

César Camargo Mariano『Samambaia』(1981)
セザル・カマルゴ・マリアーノはサンバランソ・トリオ、ソン・トレスを率いたことでも知られる1943年ブラジル、サンパウロ生まれのピアニスト。エリス・レジーナの公私のパートナーとしてブラジル音楽の黄金期を支えた名鍵盤奏者 / 作編曲家であり、エリスとアントニオ・カルロス・ジョビンによるブラジル音楽を代表する名盤『Elis & Tom』にもピアニスト、アレンジャー、音楽監督として参加したことでも知られている。
César Camargo was the first musician who influenced me when I was starting with his improvisations and his rhythmic swing on the piano. This album is a lesson in music, rhythm and arrangements. César Camargo and Hélio Delmiro make us sigh with such musicality. César’s rhythmic beat influenced a legion of Brazilian pianists and still influences today.
セザル・カマルゴは、私がピアノを始めた頃、即興演奏とリズムのスイング感という点で影響を受けた最初のミュージシャンです。このアルバムを聴くことは、音楽、リズム、アレンジのレッスンを受けているみたいなものです。セザル・カマルゴとエリオ・デルミロの音楽性には驚嘆させられます。セザルのリズミカルなビートは、多くのブラジルのピアニストに影響を与え、今でも影響を与え続けています。

Brad Mehldau『Art of the Trio 4: Back at of the Vanguard』(1999)
ブラッド・メルドーは1970年アメリカ、マイアミ生まれのジャズ・ピアニスト。フレッド・ハーシュやジミー・コブに師事。1994年にジョシュア・レッドマンに見いだされて以来、世界を代表するジャズ・ピアニストとして現在まで精力的に活動している。なかでも、ラリー・グレナディア、ホルヘ・ロッシィとのトリオによる「アート・オブ・ザ・トリオ」シリーズは評価が高い。
I discovered the pianist Brad Mehldau through this album and I remember at the time I was about 24 years old and I was shocked by his musicality, his phrasing. I listened to this record non-stop, I really wanted to understand the way this pianist thought and developed his phrasing. Mehldau has his own phrasing, a way of harmonizing and a musical identity of his own.
私はこのアルバムでブラッド・メルドーというピアニストを知ったのですが、当時24歳だった私は、彼の音楽性、フレージングに衝撃を受けたのを覚えています。このピアニストがどのように考え、どのようなフレージングを展開しているのかを本当に理解したいと思い、ノンストップでこのアルバムを聴き続けました。メルドーには、彼独自のフレージング、ハーモニー、音楽的アイデンティティがあります。

Stefano Bollani『Carioca』(2007)
ステファノ・ボラーニは1972年イタリア、ミラノ生まれのジャズ・ピアニスト。ブラジル音楽にも造詣が深く、ブラジル曲集も多数録音。2018年作『Que Bom』では、カエターノ・ヴェローゾ、ジョアン・ボスコ、ジャキス・モレレンバウム、アミルトン・ヂ・オランダらブラジルを代表する音楽家達とも共演している。
I could choose a jazz pianist series that I’ve listened to my whole life, but I chose this album because I’m always listening to this album a lot and I’m a big fan of Stefano. He is a great pianist with a very popular language that can please everyone in the world. In this album he overflows musicality and presents a beautiful Brazilian language on the piano with a very melodic and intense phrasing. Your arrangements are very good and your improvisations are very beautiful.
ずっと昔から聴いてきたジャズ・ピアニストからもう一人選んでもいいのですが、いつもよく聴いていて、大ファンであるステファノのこのアルバムを選びました。彼は、世界中の誰をも喜ばせることができる、とてもポピュラーな音楽言語を持つ偉大なピアニストです。このアルバムでは、彼は溢れる音楽性を持ち、ピアノでブラジル音楽をとてもメロディアスかつ強烈なフレージングで表現しています。なんて素晴らしいアレンジ、そして美しいインプロヴィゼーションなんでしょう。
アレシャンドリ・ヴィアナ・トリオ『ムジカ・パラ・ダール・ソルチ』

