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ハードコアレジェンド達によるバンド「D・O・T」が、彼らを旧くから知る人物達とのインタビューで最新作『BOKU NO TOMODACHI』を様々な角度から紐解き、語る。
~ライター・大越よしはる~【後編】

photo: Genro Kitajima
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明日、2023年6月7日に4thアルバム『BOKU NO TOMODACHI』をリリースするアラビック・パンク・バンドD・O・Tインタビュー、後編をお届けしよう。NEKO(ヴォーカル)、MARU(ドラム、ヴォーカル)の話に加え、当日に参加出来なかったHIROSHI(ベース、ヴォーカル)も、病床からメッセージを寄せてくれている。

インタビュー・テキスト:大越よしはる
編集:汐澤(OTOTSU編集部)

▼本記事は後編のため、前編を見逃した方は以下からチェック


―6曲目「I’M FROM ANCIENT」…は、9曲目の「HOLY BABY」と並んで、僕にとっては“ANCIENT二部作”なんですけど。

NEKO:この“ANCIENT”が、一番東田直樹くんの影響を受けてるんです。「古代人だ」みたいなことを言ったことがあって、彼が。その発想は「なるほどな」って、凄い腑に落ちたんですよ。古代からやって来たよ、って。

―それはどういうことか、もう少し説明していただいていいですか?

NEKO:普段私たちは、現代人として時間に追われて、忙しさで心を亡くしていったり、効率ばっかりを追い求める日々を送っていると思うんですが。もっとダイレクトに古代とつながっている人たち…障がいっていう言葉自体が嫌いだから使いたくないんですが、障がいを持つと言われている人たちはもっとダイレクトに…空を見たりだとか、チョウチョを追いかけたりとか、光を見て楽しんだりとか、私たちが忘れていたこと?…自分にとって何が大事かみたいな、もっと根本的な、魂にとって大事みたいなことを大切にしているって思って。彼らの存在が、普段忘れている大事なことを教えてくれている気がしたんです。そんなことを伝えられたらなって思ったんですけど…もっと自然と結び付いている。自然と共生…彼らの方がしていて、大事なことを忘れてないんじゃないかな。

―そうすると、間に「SPRING HAS COME」が来るのも自然な流れですね。10分ある大曲ですけど、究極には、言ってることはひとつだけですよね。自然であろうっていう。

NEKO:そうですね。全部が自然と共にあるんだよっていうのが込められてますね。

―この曲はアルバム中で一番長いんですけど、歌詞に込められたメッセージはシンプル。自然と共に生きようっていう。

NEKO:あと、そんなに急がせないで、待ってて…っていうのもあるんですよね。自分のリズムと時があるんだよ、っていうのも「SPRING HAS COME」には込められている。「HOLY BABY」もそうですね。

―最後に「回転木馬」、コレは…イントロは何を重ねているんですか?…不思議なイントロ。

MARU:ベースのエフェクターですね。

NEKO:HIROSHIくんがベースでやってる。シタール的なベースってことだよね。

MARU:そうそう。

NEKO:重ねてるっていうか、シタールの音でベースを弾いてる?

MARU:うん。

NEKO:ライヴでもやったよね、シタール調ベース、みたいな。

―“止まらず、変わらず、続く世界”“めぐる命”…個人的には非常に、ニーチェ的な前向きさを感じたんですけど。

NEKO:(笑)ありがとうございます。ニーチェ、今回は意識してないけど、それはありますね。幸せな状態が永遠に続くといい…という、願いとか、希望とか、そんなことが込められているのかな。あとやっぱり、命をつないで行きたいっていう想いがありますので。私たちも根底はそうなんでしょうが、障がいを持つ子とかって、毎回同じことが好きですよね。リピート好き。

―ルーティンにこだわりますよね。

NEKO:あれは安心したいからっていうのが根底にあるので。でも私たちも本当はそうですよね。何でも同じことが同じタイミングで出来ると安心。あと回転木馬って、いろんなみんなが、一緒に乗って、グルグル続いて行くっていう、エタニティ。究極に言うと、輪廻転生まで含めて、生成が続くといいなあっていう、願いですね。死んでも終わりじゃないよ、っていうか。死んでもいなくはならないし、っていうか。

―なるほど。

NEKO:さっきの大越さんの分類分け、自分でも正直改めて考えさせられました。

MARU:そういう発想がなかったもんね。

NEKO:なんか、改めて気が付くことが多くて。「回転木馬」も「永遠の祈りだったんだ?」って、自分で腑に落ちました(笑)。前回もそうだったんですけど、今回も歌詞が一段とシンプルになっちゃうのは、世界が一段と悪くなるから、余計ダイレクトに、簡単に伝えたいっていう想いが強いのかなって、思いましたね。

―曲は長くなってるけど、言葉数は多くなってないですもんね。

NEKO:そうなんです(笑)。逆にどんどん少なくなっている。HIROSHIくんが作っている歌詞なんかは無茶苦茶シンプルですよね。逆に、想いをいろんな風に捉えることが出来る、深いことだったりしますね。

―そしてその、世界がますます悪い方向に向かっているという…。

NEKO:うん…ホント。

―ますます危機感を持って生きなければならないというこの状況。

NEKO:本当ですね。ちょっと良くなって来たって、1回もないです。どんどんひどさに加速が増してますね、逆に。

―戦争は起きてるわ物価は上がるわ総理大臣はボンクラだわ…。

NEKO:ホントですね、ひどい。

―例えば、D・O・Tという“一介の”パンク・バンドが、世界を変えることは出来ないじゃないですか。ただ、やっぱり自分たちが…さっき、根底に怒りがあるとおっしゃいましたけど、自分たちの中にあるモノを自分たちなりに出していくことでしか、世界と向き合えないっていうか。…という風に感じるんですけど。

NEKO:はい。おっしゃる通りです。いつも、実感を伴ったことしか、歌詞とか歌に出来ないと思っていて。絵空事は無理で。自分が実際体験をして、実感を持って出てくる言葉しか、歌として歌えないっていうのが私にはあって。そういう感じのものになって行きます。やっぱり、先ほどおっしゃったようにどんどん状況悪くなっているんで、どうやって生き延びて行こうっていうのもあるし、みんなで一緒に何とかして、生きて行こうねっていう感じもありますよね。

―D・O・TはHIROSHIさんとMARUさんで組んで、NEKOさんは後から入られたんですよね。MARUさんは、D・O・Tの世界観…少しずつシフトしてきてる気もするんですけど、こういう方向で続いて行くっていうのは、最初からある程度予感出来ていましたか?

MARU:全然出来てない(笑)。

―HIROSHIさんの曲に対するコンセプトがあって、それに対してNEKOさんの歌詞があり。ドラムの後ろからそれを、どのように見ていますか?

MARU:そうですね…まあ、ベタな言い方すると、寄り添う感じかなあ。ベタな言い方するとね(苦笑)。いかにその想いを飛ばすか、後ろから。歌がボンッてくる時に、一緒にドンッて飛ばす。遠くに届いてくれ、みんなに届いてくれって、そういう感じかな、うん。

NEKO:それはいつも感じますね。寄り添って。想いを感じますね。

―そして、ドラムだけじゃなくて、MARUさんの声もなくてはならない。

NEKO:うん!…1曲歌ってもいいと思う(笑)。みんな1曲歌ったらいいのかなーなんて思うけど。

MARU:なんか、喜んでもらいたいっていうことですよ。届けたい、喜んでもらいたいっていう。そういう…(リスナーにも)どう思うか教えてくれ、とかね。相手があっての自分という気がするんですよ。

NEKO:なるほどね。

MARU:やっぱり歌が好きなんですよ。自分が歌うっていうんじゃなくて、歌が、好きなのね。自分の中でも、歌を歌いながら、ついでにドラムを叩く感じ。歌ありきなんですよね。まあインストとなるとまたちょっと別だけど(笑)。歌が好きなんだ。やっぱりみんなね、歌を聴くんですよ。だから、歌心があるドラムっていうのを…。

NEKO:あ、そうだね。

MARU:歌心ね。難しいことをやるんじゃなくって、歌心がある、音質と、間。

NEKO:なるほどね。

MARU:音のないところに音があるっていう、その感覚を非常に…そこが、目標ですね。僭越ながら(笑)11年もこのバンドやってるので、そこそこ体が慣れてくる。1stの時はダメだったね。全然、出来てないですね…。4枚目にしてやっと、裸に近い姿をさらしても、そんなに恥ずかしくない…。メジャーで最初にレコーディングした時なんか、自分の音だけ聴く時とかあるじゃないですか。もう恥ずかしくてね。「何だよこれ、勘弁してよ…」って(苦笑)。(D・O・Tの)4枚目にしてようやく、自分の音だけ聴く機会を得ても、「まあ長く続けてみるもんだな」って。61にして、やっとそんな感じがしています(笑)。…今、エンジニアさんにお願いして、楽曲を分解してるんですよ。

NEKO:あの、二人で出来ないかなって、アイディアを、思い付きまして。

MARU:今ちょっと、実験してるんですけど。

NEKO:HIROSHIくんがいないからって、D・O・Tとしての歩みを止めたくなくて。出来ることをしたいなと思ったんですよ。といって、サポートで誰かに入ってもらうのも、ちょっと思い付かなくて、正直。「そうだ!」と思って。レコーディング、4枚目終わってるじゃないですか。音を分けて入れてるんで、それで、二人で出来るように。そしたら、ライヴ出来るじゃないですか。(HIROSHIが倒れて)ライヴ、断ったんですね。ツアー直前で10個ぐらい断って。でも、CD出るし、やっぱり多くの人に聴いてもらいたいし、売りたいし…っていうところで、「あっ、二人でやればいいんじゃないか!」って。

MARU:まだあくまで実験に入ってるところで。

NEKO:でも私は出来ると思って。

MARU:うん。今、それぞれが、音源聴きながら、イメージトレーニングをしてるんです。

NEKO:何曲もやんなくてもね、少しの曲でも、やらせてもらって、歌わせてもらって、皆さんにお伝え出来たらなと。カラオケでも行きますぐらいな。それがHIROSHIくんのいない間に出来ることかなと。そこで考えたんですよ…HIROSHIくんの等身大パネル!

―(笑)

MARU:笑かしてね(笑)

NEKO:今発注してるんですけど。

―本当に発注してるんですか?

NEKO:ええ、HIROSHIくんに写真を選んでもらって。そしたら、私がいいと思った写真と別の写真を選んで(笑)。まあいいや、HIROSHIくんがいいんならそれにしようかっていって、等身大を今発注してます。それが出来たらHIROSHIくんのパネルを置いて、“3人”がステージに立って…っていうのを考えています。なんか面白いかなと(笑)。

―アルバムからHIROSHIさんのベースを抜き出して同期音源にするみたいな感じですか?

NEKO:はい。

MARU:アウトプットでスピーカーからHIROSHIのベースの音をバンと出して、コーラスもHIROSHIのコーラスを出して…。

NEKO:まあ、出来る曲と出来ない曲があるでしょうね。

MARU:うん。モニターの問題もあるから。

NEKO:どんな風になるかわからないんですけど(笑)、考えたら、出来そうって。

―凄いなあ。

MARU:わかんないですよまだ、やってないんだから(苦笑)。

NEKO:これからなんですけどね。でも、それをやるつもりで今進んでいます。そうこうしているうちに(HIROSHIが)復活出来るかも知れないし。

―そうですよね、それが一番望ましいですよね。

NEKO:望ましい。その間にね、私たちも前進しないとね。

MARU:意外にいいベースの音が鳴りそうな気もするんだ(笑)。

NEKO:そこにパネルがあるの、紙の(笑)。

―想像しただけで笑えます(笑)。

MARU:(笑)

NEKO:おかしいでしょう?(笑)私はそれを持って、各diskunionの店舗も行こうと思ってるんですよ。

―(笑)それは凄いな…。

NEKO:演歌のドサ廻りみたいに(笑)。

―せっかくの作品が出来ながら、ツアーやプロモートが飛びまくっているワケですけど、お二人で出来る可能性があるワケですね。

NEKO:はい、見えてきました。

MARU:うん。面白いかも知れない。

NEKO:何らかの形で、歩みを止めずに活動して行くので、楽しみにしていてください。

MARU:そうだね。

―ファンは待っていると思います。

NEKO:最悪一人ででもカラオケで…。

―NEKOカラオケショー…。

MARU:(笑)

NEKO:受け入れてくださいね皆さん!…それでもやって行きたいと思いますので、是非とも。

MARU:意外とすんなり行く気もするよね。

―そういうアイディアが出てくるのもHIROSHIさんがいなくなったからなんですけど。HIROSHIさんの病状はいかかでしょうか?

NEKO:本人が、自分がこうなったってことを話してもいいって言ってたので、話せるところまで話すと、小脳出血です。平衡感覚とかを司るところなんで、常に泥酔しているような状態なんです。めまいと吐き気が凄いんですよ。出血したところは手術でとったんですけど、後遺症がひどくて、常に揺れてて気持ち悪いっていう状態が続いています。それによって意欲が落ちたり、あとまっすぐ立ったり歩いたりっていうのがまだ出来ない状態です。そこがクリア出来ればっていう感じですかね。まだベースとかは触れないです。

MARU:出血がちょっと多かったんだよね。

NEKO:でも内視鏡でとれたからよかった。開けてない(開頭手術はしていない)。きれいにとれてるので。ただ、いろんなところに影響は…。

MARU:そうだよね、揺れてるからね。

NEKO:まだ大分揺れてるんですよね。

―80年代にブイブイいわしたパンクの人たちも、軒並み還暦とかになってきてるんで、誰も例外にはなりえない…。

NEKO:元気でやってる人の方が少ないですよね。

MARU:そうだねえ。

NEKO:みんな何かを抱えてやってますよね(苦笑)、いろいろね。自分が元気でも家族の介護とかね。

―実際健康あってということで、注意しながら行きましょう!

NEKO:そうなんですよね(笑)。

 ≪入院中のためインタビューには参加出来なかったHIROSHIにも質問を送り、回答してもらうことが出来た。以下はHIROSHIからのコメント。

―HIROSHIさんが今回のアルバムに込めた想いを聴かせてください。

HIROSHI:今回はコンセプトありきで曲をつくっていった。今回のアルバムのコンセプトに、発達障がいがある。それは長年勤めた会社にいる時からやっていた同行支援にルーツがある。仕事を辞め、同行支援の仕事が一気に加速していった。知的障がいに関する文献、本、映画に至るまでたくさん見たり聞いたりした。NEKOは国家資格試験に向け多忙にしていたので、練習をMARUと二人で演る中、インストゥルメンタルが多くなっていったのは、必然である。同行支援の仕事をやればやる程、知的障がい者に興味が湧き、アルバムが完成されていった。

―ファンの皆様にコメントをお願いします。

HIROSHI:今までと違ったD・O・Tの一面をみてくれ! 知的障がいの子供らも自分の主張を持っていて、我々と一緒なんだよ! ぜひ、そういう皆んなの気持ちに寄り添ってくれ!


インタビュー:大越よしはる(フリーライター/DJ)

90年代後半からライターとして活動し、DOLLやEURO-ROCK PRESS、FOLLOW-UPなど各種媒体で執筆。

近年は音楽以外にも幅広いジャンルのライティングを手掛けている。

D・O・Tともdiskunionとも付き合いは長い。

DJとしても2002年から20年以上活動中。

https://lsdblog.seesaa.net/


Release Information

BOKU NO TOMODACHI
D・O・T

2023.06.07 RELEASE
ANKH records


D・O・T / BOKU NO TOMODACHI (Official Music Video)


【D・O・T】

2009年、初期あぶらだこのリズム隊であるHIROSHIとMARUの2人により結成。その後2011年、世界初の女性ハードコア・パンクバンドとして80年代に活動したTHE NURSEのNEKOを新ヴォーカリストとして迎え、現在のメンバーで本格的に始動。

Twitter:https://twitter.com/DOT_official3

▼コメント前編

▼コメント後編

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