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音楽というのは、自分のヒーリングのために使えるものだし、生き残るために使えるアートフォームでもある。— Nico Georis 『Cloud Suites & Desert Mirror Special Edition』インタビュー

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アメリカ西海岸のカリフォルニア州は海、砂漠、山など、豊かな自然環境で知られているが、世界中からカリフォルニアの美しさを堪能するために訪れる人々も多い。そんなカリフォルニアの大自然からのインスピレーションを吸収しながらも、幼少期からクラシック、ジャズを学び、アンビエントやエレクトロニック・ミュージックと融合させることで独自のサウンドを作り上げたピアニスト、キーボード奏者がニコ・ジオリスだ。カリフォルニアのセントラルコーストに位置するカーメルとビッグサーで育った彼は、厳格なクラシック・ピアノの教育を受けたのちに、パリ、ニューヨーク、サンフランシスコの音楽シーンでバンド活動していたわけだが、ライム病を発症し、地元のビッグサーに余儀なく戻ることになった。療養中の彼はビッグサーの山頂にあるキャビンで生活をしながら、雲にインスパイアされたアルバム『Cloud Suites』をレコーディングしていくうちに、自身の音楽的方向性を見つけた。そして、ライム病を乗り越え、世界で最も暑い場所として知られる砂漠地帯、デスバレーに移住した彼は、キャンピングカーの中で暮らしながら『Desert Mirror』を制作。そんなユニークな人生を送り、Leaving Recordsからリリースされたこの2作品を収録した特別仕様の日本盤のアルバムが発表されたわけだが、彼の生いたちとこの2枚のアルバムの壮絶な制作秘話について語っていただいた。

Nico Georis Interview
ニコ・ジオリス インタビュー

Text &Interview by:バルーチャ・ハシム廣太郎 Hashim Kotaro Bharoocha
Edit by:三河 真一朗 Shinichiro Mikawa (OTOTSU編集部)


Artist:Nico Georis(ニコ・ジオリス)
Title:『Cloud Suites & Desert Mirror Special Edition』 (クラウド・スイーツ&デザート・ミラー・スペシャルエディション)

発売日:2023/06/07
レーベル : astrollage / Leaving Records
品番:ASGE52
​フォーマット : CD​ / DIGITAL
ライナー執筆:バルーチャ・ハシム廣太郎(Hashim Kotaro Bharoocha)
OFFICIAL HP : astrollage | Nico Georis

Nico Georis(ニコ・ジオリス)photo by Lovelle Femme


—— 出身は、ビッグサーですか?

ニコ・ジオリス (Nico Georis):生まれたのはカーメルだけどビッグサーで育ったんだ。カリフォルニア州のセントラル・コーストなんだよ。

—— 音楽的な家庭の中で育ったんですか?

ああ、父親が1960年代にサンダルズというサーフロック・バンドのキーボードプレイヤーだったんだ。このバンドは、『エンドレス・サマー』という有名なサーフ映画のサントラを手掛けたことで知られている。子供の頃から、父親のバンドのリハーサルを見ていたし、父親の影響でビンテージ・キーボードが好きになったんだ。今でも自分が使っているいくつかのキーボードは、父親から譲ってもらった古いものなんだ。父親が使っていたテープマシンも未だに使っている。父親の世代は、デジタルが登場した時はすぐにデジタル機材に乗り換えてアナログ機材を捨てようとしたんだけど、僕の世代はアナログ機材が大好きだから、『そのFarfisaを僕にちょうだい!』と言って父親に譲ってもらったんだ(笑)。そこから僕はアナログ・シンセに興味を持つようになったんだ。

The Endless Summer – Trailer

—— クラシック・ピアノはどういうきっかけで学ぶようになったんですか?

子供の頃からあらゆるジャンルの音楽が大好きだったんだ。父親がレコードをたくさん持っていたから、そこからボブ・マーリーが大好きになったり、アフリカなど世界中の音楽も聴くようになった。父親がエリック・サティを聴いていて、その影響で僕も大好きになった。そこからクラシック・ピアノのレッスンを受けるようになって、クラシックとジャズにのめり込んだんだ。なぜか、僕はクラシックの世界が好きになって、6歳からピアノのレッスンを受けるようになった。僕が住んでいたカーメルに、ある女性のピアノの先生と出会ったんだけど、彼女の師匠がフランツ・リストから直々に学んでいたんだ。カーメルは小さい町だったけど、僕はフランツ・リストの第三世代の先生から学ぶことができて、6歳から11歳まではかなり厳格なクラシックの教育を受けた。11歳くらいから、モーツァルトよりもガンズ・アンド・ローゼスに興味を持つようになったんだけどね(笑)。先生は、僕にクラシックの大会に出場するピアニストになって欲しかったみたいだけど、もう嫌になってしまったんだ。そこから僕はジャズ、ロック、エレクトロニック・ミュージックに興味を持つようになって、クラシックから離れてしまった。クラシックは学んだけど、自分のことをクラシックのミュージシャンだとは思っていない。クラシックの世界の価値観にあまり共感できないんだ。クラシックの作曲家たちは、昔はインプロヴィゼーションをしていたし、天才的だったけど、その後に作り上げられたクラシックの世界は、作曲家たちが意図していたのとは違うものになってしまったと思う。今のクラシックにはインプロヴィゼーションの要素はないし、とにかくルールを守ることが優先されている。

Nico Georis – Curtain of Raindrops (excerpt) MV

—— そのあとはジャズを学んだのでしょうか?

高校生からジャズにのめり込んで、その時期から自分で曲作りをするようになった。アフロビート、レゲエ、ロック、ジャム・バンド、ジャズなど、いろいろなバンドで演奏するようになった。僕はインターネット世代だから、前の世代よりもたくさんの音楽を発見することができた。自分のスタイルを見つけるには、時間がかかると思うんだ。今まで影響された音楽を取り入れて自分のユニークなスタイルを作るまでに時間がかかったよ。

—— 大学ではジャズを学んだんですか?

大学には行かずに、パリに移住してそこで印象派の音楽にのめり込んだんだ。しばらくパリの音楽学校に通ったんだけど、ニューヨークでも1年間音楽学校に通った。でも、5年間ニューヨークで生活をして、週に4、5回は様々なバンドで演奏することが最大の音楽教育になった。ジャズ、ヒップホップ、アフロビート、ダブ、スペースロック、フォークロックのバンドでも演奏したし、ピアノ・バーではブギウギ、ラグタイムなどあらゆるジャンルを演奏した。ニューヨークはレベルの高いミュージシャンが多いから、とても勉強になったよ。自分で演奏したり、他のミュージシャンを見ることが教育になった。ニューヨーク時代に、他のバンドのレコーディングに参加したり、自分のプロジェクトもレコーディングした。でもその時代は、まだ自分が若くてスタイルが確立されていなかった。まだ成熟したアーティストではなく、キーボードは上手だったかもしれないけど、自分のサウンド、ビジョンは見つけていなかったね。

—— ニューヨークを離れてカリフォルニアに戻った理由は?

ライム病になってしまって、戻らざるを得ない状況になった。仕事もできなくなって、歩くこともできなかった。5年間くらい普通の生活ができなくなったんだよ。だからニューヨークを離れてビッグサーの実家に戻ったんだ。ニューヨークからビッグサーに戻って数年住んでから、サンフランシスコに引っ越した。都会に住もうとしても結局うまくいかなくて、またビッグサーに戻ったんだ。

Nico Georis(ニコ・ジオリス)photo by Lovelle Femme

—— どう言う経緯でライム病になったんですか?

高校生の頃にビッグサーでハイキングをした時に、ダニに何回か噛まれたことがあって、それが原因だったかもしれない。当時は、まだライム病のことはよく知られていなかった。その後から症状は少し出てきて、ニューヨーク在住の時に症状がひどくなってしまって、『Cloud Suites』を制作中の頃は隔離しているような状況だった。また歩くことを学び直さないといけなかったし、孤独な時期だった。若いのに、音楽活動ができなくて、ツアーもできなかった。当時ニューヨークに住んでいたんだけど、自分の足で歩けなくなって、カリフォルニアに戻ってこないといけなかったんだ。『Cloud Suites』を作ることで、自分は「雲」というファンタジーの世界に我を忘れて没頭することができて、この辛い時期を乗り越えることができたんだ。音楽があるから、自分は正気でいることができたし、逆境を乗り越えることができた。音楽というのは、自分のヒーリングのために使えるものだし、生き残るために使えるアートフォームでもある。そして、喜びを与えてくれて、ファンタジーの世界でもある。5年間病気だったけど、その期間の最後の方に『Cloud Suites』を制作して、また健康を取り戻し始めた時期でもあった。だから、また社会に戻れるという喜びも『Cloud Suites』の中に表現されている。そういう意味で『Cloud Suites』はダークな作品ではなく、高揚感のあるアルバムなんだ。

—— ライム病は、なかなか完治が難しい病気と聞いていますが、どうやって治ったんですか?

確かに完治するのは難しい病気だから、僕はとてもラッキーだった。僕は抗生物質を摂りながら、自然療法と組み合わせた。おそらく、僕は両方を組み合わせたから病気を克服することができたんだと思う。自然療法を好む人は、全く薬を飲まないから、なかなか細菌を完全に退治できないし、西洋医学の薬しか飲まない人は、抗生物質で肝臓がダメになってしまう。僕は両方を取り入れたから、完全に復帰できたんだと思う。ライム病になって、体が痛くて、足と腰が思うように動かなかった。でも、頭はクリアだったし、指の動きは問題なかった。だから、その間はたくさん曲を書いて、自分の音楽的スタイルを形成することができた。音楽を演奏する以外、やることなかったしね(笑)。

—— ということは、『Cloud Suites』を制作をすることで、自分のヒーリングにもなったということですか?

まさにそうだね。

—— 『Cloud Suites』はいつレコーディングされた作品ですか?

2年半前に完成したから、リリースまでにだいぶ時間がかかったよ。コロナの関係で、アナログ盤のプレスがとても時間がかかるようになってしまった。2017年から2020年初頭までレコーディングしていたよ。

—— なぜ雲にインスパイアされた作品を作ろうと思ったんですか?

ビッグサーの山の上でキャビンの中で暮らしていたけど、そのキャビンを”Sky Shed”(空の小屋)と呼んでいたんだ。9メートル四方の小さな部屋にピアノが置かれていたんだ。大きな窓があって、そこから雲を見ながらインプロヴィゼーションをしていた。Sky Shedでインプロヴィゼーションをして制作した作品なんだよ。1年から1年半は、このスタイルで曲を作っていたんだ。『Cloud Suites』をレコーディングしていた時期は、様々な奇妙な事故がたくさん起きて、レコーディングを何度も中断しないといけなかった。テープマシンが故障したり、キーボードが故障したり、嵐のせいで地滑りが起きて、キャビンが破壊された。だから、レコーディングしようとすると、想像もつかないような事故が連続で起きて、曲を断片的にしかレコーディングできなかったんだ。3年間の間に、『Cloud Suites』の楽曲は、複数のピアノ、キーボード、テープ・マシンを使ってレコーディングするしかなかった。だから、最終的に作品としてまとめる時に、ダブ・ミックスの手法を使って、様々なレコーディングの断片をつなぎ合わせないといけなかった。通常はこのようなレコーディング方法は取らないんだけど、技術的な問題があったから、ダブっぽい手法を使うしかなかったんだ。さらに、その上にオーヴァーダビングをしたんだ。そういう意味でもユニークな作品なんだよ。3年間の間に様々な場所で、その時に使える楽器を使ってレコーディングしたんだ。

Nico Georis(ニコ・ジオリス)photo by Adam Zerbe

—— 住んでいたキャビンから雲や海が見えやすかったわけですか?

海抜600メートルくらいのところに住んでいたから、雲の中で生活しているようなものだった(笑)。とても雲が見やすい環境にいたんだ。前から雲をコンセプトにしたいと考えていたわけじゃなくて、たまたまピアノを置いてある場所が雲の真ん前だった。ある日、遊びで雲の形を即興的にピアノで表現しようとして、それが楽しかったから、そこから始まった。景色があまりにも美しいから、スーパ-8ミリのカメラを入手して、撮影するようになったんだよ。3年かけてタイムラップスを撮影したんだけど、これからその映像を発表して、自分のライブでも使用する予定なんだ。だから、この作品は一つの世界観になっているんだよ。トリッピーな白昼夢のようなファンタジーで、ローファイなサウンドだし、カラフルな荒い質感の映像を作って、独自の世界観に仕上がったんだ。

—— すでに『Cloud Suites』から“Ice Crystals”のミュージックビデオが発表されていますが、それはあなたが撮影したものですか?

そうなんだ。この映像は、デスバレーからスーパーマーケットに運転している最中に撮影したものなんだ(笑)。スーパーまで2時間かかるんだけど、国立公園を通らないといけなくて、道中に野生の馬の群れがいたりするんだ。パートナーと一緒にスーパーに行く時に、毎回美しい光景が見えて、ものすごいアドベンチャーになっちゃうんだ(笑)。何度も車を止めて、映像を撮影していたから、何時間もかかるんだよ。ある日、池のそばに60頭の野生の馬の群れを発見して、雪の中を何キロもハイキングして撮影した。冬の間に、2、3ヶ月間かけて”Ice Crystals”の素材を撮影したんだ。

Nico Georis – Ice Crystals MV

—— 『Cloud Suites』は、即興演奏で作られたとは思えないサウンドですが、作曲方法について教えてください。

作曲をするときは、まずはとにかく自由奔放にインプロヴィゼーションをするんだ。気に入ったフレーズを見つけるまで冒険的に演奏をして、そこから曲を構築していく。このアルバムは、作曲されているし、構成もあるし、完全に自由な作品ではない。作っている時は、音楽的なゲームと捉えていた。それぞれの曲では、インプロヴィゼーションから中心となるリフ、メロディを見つけるんだ。それをもとにさらにインプロヴィゼーションをするところに、ゲーム的な感覚があったんだ。そういう意味で、ジャズに似たアプローチかもしれない。ジャズでは、メインテーマがあって、それをもとにインプロヴィゼーションをして、またメインテーマに戻る。アンビエントにも影響されたけど、エリック・サティ、ドビュッシーなどの印象派の作曲家にもとても影響されている。

—— 影響されたアンビエントのアーティストは?

まずは、ブライアン・イーノだね。テリー・ライリーにも多大な影響を受けた。ポーリーン・アンナ・ストロームというサンフランシスコのエレクトロニック・ミュージックの作曲家がいるんだけど、あまり知られていないんだ。生まれたときから盲目で、何本かシリーズでカセットを80年代にリリースしたんだ。本当に素晴らしい音楽を作った作曲家で、ある意味女性版のムーンドッグみたいな人なんだ。彼女からかなり影響を受けたよ。アンビエントだと、吉村弘など日本のアンビエントミュージックも大好きだし、イタリアのラウル・ロヴィソーニとフランチェスコ・メッシーナの『Prat Bagnati del Monte Analogo』も大好きだね。『Ethiopiques』シリーズから作品を発表したエチオピアの女性のピアニスト、エマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルーも大好きなんだ。あとはエリック・サティ、ショパン、ドビュッシー、ラヴェルなどの印象派の作曲家も好きなんだ。ダブやアフロビートも大好きで、昔はアフロビートのバンドで演奏していたこともある。ダブのアプローチがとても好きで、僕がやっているようなポスト・クラシカル、アンビエントに取り入れている。『Cloud Suites』は友人のエンジニアのスタジオで、エコー、プレート、リヴァーブ、ミキサーを使ってダブ・ミックスをしたんだ。3年間の間にレコーディングされた断片的な素材を、ダブ・ミックスをすることでつなぎ合わせることができた。

—— 『Cloud Suites』のダブ・ミックスの手法について教えてください。

いくつかの曲は、僕がストレートに演奏したものをそのまま曲に仕上げた。今回使った楽器は、主にワーリッツァーとProphet 600だったんだけど、それ以外はアコースティック・ピアノ、Roland Juno、Yamaha DX7、Yamaha CP-70なども使った。レコーディングをするたびに、何らかの故障が起きたから、曲の半分しかレコーディングできないこともあった。そう言った素材をパッチワークのようにつなぎ合わせたんだ。演奏をするときは、必ずメトロノームを使っていたから、過去にレコーディングした曲の半分の素材と、別の場所で2年後にレコーディングした素材を重ねることができた。つぎはぎをするかのように曲を作ることが多かった。だからユニークな作品なのかもしれない。このようなアプローチで作品を作りたいと事前に計画していたわけじゃなくて、機材の故障が多くてこうなってしまったんだ。素晴らしい瞬間をいくつかレコーディングできたから、それをAbletonの中で組み合わせたんだ。機材の故障によって、異なる音質でレコーディングした素材とか、キーボードの音色を重ねることになったんだけど、故障がなければ、こういうアプローチは取り入れなかったと思う。パッチワークのように色々な素材をつなぎ合わせたんだけど、ダブ・ミックスをすることで、一貫性を持たせることができた。“Ice Crystals”もよく聴くとわかるけど、実は16小節ごとにアルペジオをアコースティック・ピアノ、ワーリッツァー、Yamaha CP-70などの違うキーボードで演奏しているんだ。

—— 今回、日本では『Cloud Suites』と一緒に『Desert Mirror』もリリースされますが、この作品について教えてもらえますか?

『Cloud Suites』の後にレコーディングした作品なんだ。『Desert Mirror』はデスバレーのエアストリーム・トレーラーの中でレコーディングしたんだよ。テリー・ライリーの『A Rainbow In Curved Air』をカバーした作品を昨年リリースしたんだけど、彼は「ミラー・ディレイ」というテクニックを使ってあのアルバムをレコーディングしたんだ。このテクニックでは、エフェクトがかかっていない楽器の音が左チャンネル、ディレイがかかった楽器の音が右チャンネルに入っていて、すごくトリッピーなサウンドになるんだよ。左右に音が飛び跳ねているように聴こえるんだ。『Desert Mirror』の曲の多くは、ミラー・ディレイのテクニックを使ったんだ。いくつかの曲は、友人のスペンサー・ハートリングのLAのスタジオでレコーディングした。彼がライヴ・テープ・ループの手法を使って、僕のピアノの演奏にダブ処理をしていたんだ。彼が僕の演奏をテープ・マシンでループさせて、さらに僕はそれに触発されて演奏していた。ただのソロピアノよりも実験的なサウンドに仕上がったのは、テープ・ループを取り入れたからなんだ。『Desert Mirror』は、主にアコースティック・ピアノでレコーディングしたんだ。ミラー・ディレイには、テープ・ディレイを使ったんだけど、スペンサーは実際にアナログ・テープを使ってテープ・ループをその場で作っていたんだ。

Nico Georis – Mirror I

—— テープ・ループのプロセスについて詳しく教えてもらえますか?

スペンサーはスタジオで、僕の演奏をアナログ・テープにレコーディングして、その場でテープを切り刻んで、ループを作って、様々なスピードでそれを再生したり、エフェクトをかけていた。それに反応して僕はさらに演奏したんだ。“Gone”という曲では、僕がインプロヴィゼーションをしながら、彼がダブ処理をしたり、テープ・ループを使っているんだ。僕が演奏したフレーズが、様々な形でテープ・ループとして後から登場する。前から彼とよくコラボレーションをしているから、直感的に一緒に演奏できるんだよ。『Desert Mirror』は、インプロヴィゼーションが元になっていて、作曲しているわけじゃない。だから、あのアルバムをどうやって再現すればいいか自分でもわからない(笑)。僕は朝起きてすぐにピアノを演奏するから、いつもレコーディングするようにしているんだ。そこから、スペシャルな瞬間を選んで使った。『Desert Mirror』は、2021年からレコーディングした様々なインプロヴィゼーションの素材を抜粋して作り上げたんだ。だから、『Cloud Suites』は作曲の要素が強くて、『Desert Mirror』は完全にインプロヴィゼーションの作品なんだよ。

—— 『Desert Mirror』は何にインスパイアされた作品ですか?

このアルバムは、自由にインプロヴィゼーションをして作ったんだけど、砂漠にインスパイアされたと思う。砂漠のゴーストタウンに引っ越したばかりで、西部劇の荒野のような場所なんだ。何もなくて、とても静かで、不思議なエネルギーのある場所。砂漠に住んでいると、寝ている時に不思議な夢を見ることも多い。『Desert Mirror』というタイトルにしたのは、砂漠にインスパイアされた音楽だからで、砂漠の空虚感、広大さが表現されている。あと、ミラー・ディレイがこのアルバムのメインテーマだから、このタイトルになったんだよ。

—— Leaving Recordsとつながった理由は?

共通の知人を通して繋がったんだ。一時期、植物のバイオデータを使って音楽を作っていたんだ。ビッグサーに住んでいた頃に、植物を使って制作したアルバム『Shirley Shirley Shirley!』をリリースしたんだ。友人が、マシュー・デイヴィッドが開催している公園の音楽イベントに連れて行ってくれて紹介してくれた。その時に、友人が『Shirley Shirley Shirley!』をマシューに渡すように勧めてくれて、マシューとすぐに意気投合したんだよ。当時僕はまだビッグサーに住んでいた。1年後にマシューに電話をして、『Cloud Suites』をリリースしないか提案してみたんだ。このアルバムがリリースされるまで3年半くらいかかってる(笑)。

Human-Plant Duet with Nico & Scooter

—— 今後の予定は?

オークランドでは、マジックマッシュルームが合法なんだけど、友人が育てていて、キノコのバイオデータを使った作品を発表するよ。化学実験をやっているような感覚だったけど(笑)、植物とはまったく違うサウンドになったんだ。今は新しい方向性の音楽を探求している。ソロピアノはまだ続けているけど、実験的なサンプリング主体の音楽も作っているし、ビート系の音楽とか、アップテンプなダンス・トラックも作っている。エキゾチックでヘビーでリズミックなサウンドの音楽も作っているんだ。アンビエントはこれからも続けるけど、これからビートをリリースすることを楽しみにしているよ。

— 日本のリスナーにメッセージをお願いできますか?

とてもカリフォルニアらしい体験を今回の作品に収めたんだけど、日本のリスナーとそれをシェアできてとても嬉しいよ。これらの作品は、自然と自分のライフスタイルに基づいているんだ。みんなにとって、エキゾチックに聴こえるかもしれないけど、カリフォルニア・デイドリームとも呼べる音楽だから、みんなにそれを楽しんでほしい。

RELEASE INFORMATION

Artist:Nico Georis(ニコ・ジオリス)
Title:『Cloud Suites & Desert Mirror Special Edition』 (クラウド・スイーツ&デザート・ミラー・スペシャルエディション)

発売日:2023/06/07
レーベル : astrollage / Leaving Records
品番:ASGE52
​フォーマット : CD​ / DIGITAL
ライナー執筆:バルーチャ・ハシム廣太郎(Hashim Kotaro Bharoocha)
OFFICIAL HP : astrollage | Nico Georis

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