ブラジル、アラゴアス州出身のシンガー・ソングライター、ブルーノ・ベルリ。彼が2022年にUKの名門レーベル、Far Out Recordingsから発表したデビュー・アルバム『No Reino Dos Afetos』(2022)の音作りは、伝統的なMPBのテイストとは一風変わっていた。ローファイなサウンド・デザインが施されたヒプノティックな音世界は、霧立つ深い森のようだ。この1stアルバムから2年ぶりにリリースされた2ndアルバム『No Reino Dos Afetos 2』(2024)は、タイトルを見ればわかるように、前作の続編といえるような内容だ。盟友バタタボーイもまた全面的に参加している。聴き手を白昼夢へと誘うローファイな音像は前作同様だが、少し霧が晴れたようにも感じられる。彼はどのような思いで本作の制作に臨んだのだろうか。リリースに際し、ブルーノ・ベルリ本人に話を聞いた。
序文・編集・翻訳 by diskunion
Interview by 風間一慶
――今作はどのようなコンセプトを設けて制作を進めたのでしょうか?
「当初、アルバムを一から作るという考えがありましたが、それには非常にお金がかかります。たとえレーベルに所属していても、私にはそれができないことに気づきました。ただ、同時に、自分のアイデンティティと創造的な自由を明確にした、よりプロフェッショナルなアルバムを届けたいと思っていました。 そういったこともあり最初のアルバムの制作中にすでに取り組んでいたアイデアを拡張し、サンパウロで作った新しいアイデアもいくつか取り入れ、音楽的な多様性を維持しつつ、北東部出身の黒人男性である私の視点から愛について語ることにしました。目をつぶるのではなく、全世界を見て、それらと関係を持つのです。」
――オートチューンを用いた「Acorda e Vem」や「Dizer Adius」、さらには少しローファイな音質の「New Hit」など、今作のボーカル・アレンジには様々なバリエーションがあります。シンガーとして、どのような心境の変化があったのでしょうか?
「シンプルなプロセスです。基本的には深く考えず、楽曲の雰囲気に合わせてエフェクトを使用しています。「Acorda e Vem」は、ダダ・ジョアンジーニョが制作した、非常に短いサンプルを発展させたセッションから作りました。そこでオートチューンを使ったほうがより意味があると思ったのです。ハイトーンで歌いたかったし、サンプルの性質上、より明るく、よりエレクトロニックですしね。「Dizer Adeus」も同様です。もう自分の声にそれほど執着していないので、さまざまな方法で聴いて、そこから作曲するのが好きです。」
DADA JOAOZINHO / DS BEM GLOBAL
――アルバム後半にはアトモスフェリックなアレンジの曲が並んでいて、歌詞もあいまってピースフルな雰囲気になっています。どのようなプロセスを経てこのようなアレンジになったのでしょうか?
「アルバムのSIDE-Bは、距離によって生じる感情について語っています。 この新しいアルバムでは、シンガーソングライターとしての私の少しメランコリックな側面を見せたかったのですが、ドラマチックには聞こえさせたくなかったのです。アレンジはもっと繊細で、メロディーのためのベッドのようなものを作る必要があると感じていました。ビートが少なく、軽快なシンセがハーモニーを奏でるアンビエントミュージック、特に吉村弘を聴くのが大好きなんです。」
――Arthur Russell「Love Comes Back」のカバーに関して、「letting ‘chance’ appear in the final work.」とArthurを表していたのが印象的でした。今作を制作していて‘chance’が宿った瞬間を教えてください。
「私は歌手や楽器奏者がリスクを冒してまで実験をしているアルバムを聴くのが大好きなんです。これが音楽の美しさだと思います、特に人工知能が登場したこの時代にはね。私は携帯電話で「Sonho」を録音しました。ギターとアタバキでこのアイデアを最初に録音したものがあります。そこにナイロン・イゴール(Nyron Higor)が自宅でベースを録音し、私のバーチャル・フレンドであるトーマス・スタンキェヴィッツ(Thomas Stankiewicz)がヨーロッパのどこかでシンセサイザーを録音しました。 「É Só Voce Chegar」も、2018年頃に私の街にある劇場のピアノで、シンプルなマイクを使って録音されたものです。そして4年も前のことですが、衝動的に木管楽器を加えたのです。バタタボーイの家の近くに住んでいた偉大な音楽家、ガブリエル・ミリエ(Gabriel Milliet)とのやりとりを思い出します。午後10時にこの録音に参加してくれるか聞いてみたのです。20分後、彼はフルートとサックスを持ってきてくれて、2016年に書いたこの曲に木管を加えるというかねてからの夢を実現してくれました。こういう言い方はあまり好きではありませんが、このアルバムは、シンプルな楽曲をベースに実験的な感覚が強く注入されているのです。」
――今作でもタッグ関係にあるbatata boyは、Brunoにとってどのような存在なのでしょうか?
「彼は私がこれまで一緒に仕事をしてきた中で最も倫理的な人です。本当の友人であり、非常に困難な時期からともに過ごし、信念を持って活動してきました。私たちのソロ活動に加えて、現在地元の友人達のアルバムも制作しています。そういった仕事により彼らがブラジル音楽の中枢で注目されることになるので、我々としても非常に真剣に受け止めています。大きな冒険であり、責任でもありますね。」
――これまでは自身の写真を作品のジャケットとしていましたが、今作ではDeborah Amoreiraによるカラフルな絵が用いられています。どのような経緯でこのアートワークが生まれたのでしょうか?
「この作品は、デボラが2019年に作って以来、私とともにありました。伝統的なアフリカ系ブラジル人の表現を掲示することに加えて、文脈に乗っていないイメージも雄弁に語っています。あたかも、子供が人生や音楽など美しいものに集中する魔法の瞬間にいるかのようです。私も彼らのようにありたいと思っています。」
――今作の制作中に聞いていたミュージシャンを教えてください。
「Bob Marley、Frank Ocean、吉村弘、Maurice White、João Gilberto、Domenico Lancellotti、Ana Frango Elétrico、Sade、Stevie Wonder」
――国内外問わず、自分の追求する表現と近いフィーリングを感じるアーティストがいれば教えてください。
「私はさまざまな点で多くのアーティストと似ていると感じます。 私にとって最善のことは、それぞれの物事について自分が最も好きなものを選ぶことです。 私はアラゴアス州を去りました。アラゴアス州はブラジルの中でもアートがほとんどない州ですが、時折奇跡を生み出します。そして、私は自分自身を奇跡だと思っています。田舎の人々の家族で音楽を勉強したこともなく、学問的な訓練も受けずに、チャンスがほとんどなかったにもかかわらず、ブラジル国外でセカンドアルバムをリリースすることができたのは信じられないことだと思っています。」

Artist : Bruno Berle
ブルーノ・ベルリ
Title : No Reino Dos Afetos 2
ノ・ヘイノ・ドス・アフェートス2
レーベル : Unimusic
フォーマット : CD
帯ライナー付
価格 : 2,640円 (tax in)
JAN : 4988044821637
品番 :UNCD085
