女性プレーヤーのみで構成される世界的にも珍しいビッグバンド「たをやめオルケスタ」のリーダーであり、「チャラン・ポ・ランタンとカンカンバルカン楽団」のメンバーとしても活躍しているアルトサックス奏者の岡村トモ子。彼女が2017年に立ち上げたスカ・バンドが、The SKAMOTTS(ザ・スカモッツ)だ。その名前を知らずとも、TBSラジオ午後のワイド番組「こねくと」の軽快なテーマソングを耳にしている人は多いはず。これまでにPlaywrightからフルアルバム3作と、7インチを4作リリースした彼らが、この度4枚目となるフルアルバム『FILMSKA』を完成させた。国内外の名作映画のテーマ曲をジャマイカン・ミュージックにアレンジしたカバー・アルバムについて、そしてバンドのこれまでについてリーダーの岡村トモ子、トロンボーンの真之輔、ベースの野月隆志に語ってもらった。
取材・文:宮内 健
――岡村さんがスカと出会ったのはいつ頃ですか?
大学に進学するために下関から18歳で上京して、初めてやったバンドがスカタライツのコピー・バンドだったんです。入ったサークルが中南米研究会というところで、当時スカ・ブームだったしスカのイベントも多かったこともあって、学生バンドでずっとやってて。だけど普通の大学なので、卒業する時に私以外のメンバーは全員就職しちゃったのでバンドは解散しました。だけど私は音楽をやっていきたいって思ったから、その後もサックスを続けて。しばらくしてたをやめオルケスタとチャラン・ポ・ランタンでの活動をスタートさせたんです。
――僕が岡村さんの演奏に触れたのは、たをやめオルケスタとチャラン・ポ・ランタンのステージからだったんです。たをやめはジャズやラテン、ポップスなど幅広いジャンルを横断しているバンドで。一方、チャラン・ポ・ランタンではバルカン音楽をゴリゴリに演奏されていたので、そんな岡村さんがスカ・バンドを始めたというのはちょっと意外にも感じていたんです。だけど、そもそものルーツはオーセンティック・スカにあったんですね。
そうなんです。ずっとバンドはやってきたけど、自分自身のルーツであるスカのアルバムを、1枚だけでもちゃんと作りたいと思って。「私の思い出のアルバムを作りますので」と、レコーディングするためだけにみんなを呼んで作ったのが、SKAMOTTSの1stミニアルバム『The SKAMOTTS』(2017年)でした。
――バンドを結成するというのではなくて、あくまでもレコーディング・セッションとして集まったのがきっかけだったんですね。
曲のアレンジとかも全部私がやって。しっかり御膳立てをして、あとはみなさんに演奏してもらうだけ……みたいな感じで1枚作って。
僕は、そのミニ・アルバムの制作から参加してるんですが、いま彼女が言ったみたいにレコーディングのお誘いが最初にあって。やっぱりスタジオで演奏していくうちに楽しくなってきて。呼ばれた面々もみんなスカが好きな人たちが集まってたし、もともと好きな音楽をみんなで合わせたら楽しいじゃないですか。それに、オリジナル曲も用意されていて、その曲もよかったし。これをレコーディングだけして、お披露目しないのはもったいなさすぎるだろうって。みんなでライヴやりたいねって話が、どんどん盛り上がっていったんです。
―― 岡村さんは、レコーディングを終えた時点で気持ち的にはどんな感じだったんですか?
当時30代前半だったので、そのタイミングでバンドやろうって誘うのは、正直怖かったんですよね。みんなそれぞれに音楽活動していて忙しい人たちだったし、普通に断られるのも嫌だなって思ってたから。だから、最初は1本の仕事としてオファーすれば、ギャラは安いけど1回限りだったらやってくれるだろうっていう考えでCDを作ったんで。メンバーみんなが続けたいって言った時には、おお、できるんだ!って嬉しかったですね。もちろん、心の底ではバンドとしてやりたいと思ってたけど、断られるのが嫌だから。
振られるんだったら、そもそも告白しないっていう感じ?(笑)
そうそう。ノスケくん(真之輔)は、ミュージシャン仲間に紹介してもらって、レコーディングの時が初対面だったし。メンバーについては個々の演奏力ももちろんだけど、バンドとしてやっていく上で一緒にいられるかどうかの方が重要かなって。音に関しては、お互いに育っていく部分が多分にあるけど、もっと根本的な人間性みたいなところってわからないじゃないですか。のんちゃん(野月)も、前のベースが抜けてからはしばらくサポートメンバーとしてやってきてくれて。でも、すごく気が合うし、一緒にやっていきたいって気持ちがメンバー内でも固まって、正式に一緒にできませんかって話して。
お願いしますって言うまで、時間かかったね。やっぱり、告白して振られるのが怖いから(笑)。
のんちゃんも別のバンドを並行してやっているから断られるかもしれないし。うちのバンドでは、キーボード(坂本貴裕)もギター(青山哲哉)も2代目で、メンバーが変わる時はいつも結構 ドキドキするけど、やっぱり人間性重視です。
――真之輔さんから見た岡村さんは、どんなタイプのミュージシャンだという印象を持ってますか?
正直、彼女は一人でなんでもできる人だとは思ってて、しかもどんなジャンルの曲でも作れる。こんなことも、あんなこともできるの? すげえな……って、いつも感心してます。もちろんバイタリティもあるし、バンドも違うタイプのものを並行してやってるし、レコーディングもやれるし、映像も撮れる。音楽以外に服も作れるし、自己プロデュースもできる。それでいてサックスも当然上手いですし。ただ演奏が上手なだけじゃなくて、ステージングも出す音も、めちゃくちゃかっこいいなって惹きつけられる魅力があるんですよね。かっこいいわぁ、この人……って、純粋に思えるミュージシャンですね。自分としては、こんな同世代のスターみたいな人と一緒にバンドをやれて嬉しい限りです。
褒められすぎて死にそう(笑)。
――たしかにチャラン・ポ・ランタンでの演奏なんかを見ても、岡村さんはプレイヤーとしての華がありますよね。
自分はThe SKAMOTTSのことを最初よく知らなかったんですけど、岡村とは、彼女がチャラン・ポ・ランタンで吹いてる時に、小さいハコで一度だけ対バンしたことがあったんです。その時はもうベロベロに酔っ払ってライヴハウスに入ってきて、チャランポのステージで吹き散らかして、すぐ帰っていった(笑)。なんだコイツ!って思ったけど、すごく光って見えたんですね。それで、後からThe SKAMOTTSで一緒にやってみたら、ただの酔っ払いじゃなくて、積み重ね型の天才だったんだって気づいて、あらためて惚れ直したというか。さっきノスケが言ったみたいに才能はいっぱい持ってるんで、それを咲かすも枯らすもウチら次第だなって思ってます。
――リーダーの愛され度合いがすごいですね! The SKAMOTTSがライヴや作品を重ねていくことで、バンドとしての面白味や充実度が増していったと思いますが、それはどんなところに感じますか?
これだけ純粋にスカをできるってことが、他になくて。たとえば、私自身も別のバンドでスカの楽曲をやることはあるし、アーティストのサポート現場でスカっぽいアレンジの曲を演奏することもあるんです。だけど、心の奥でなにか、自分のルーツであるオーセンティック・スカとは別のものだという意識がずっとあったんです。だけど、The SKAMOTTSを始めてからは、自分たちはスカ・バンドですって言いながらスカができるって超楽しいし、あとメンバーみんながやっぱりスカがすごく好きなんですよね。その上で音楽を作るにあたって、スカ好きだからこそ生まれるアイデアが出てきたりとか。他の現場にはない「スカで繋がってるんだ!」って感覚を実感できるのが、このバンドをやってよかったなって思うところですね。今いるメンバーはみんな楽器も達者ですし、そこにプラスしてスカへの愛があるから。多分うちらじゃないとできない世界が出せてるのかなと思います。
――The SKAMOTTSは、当初からオリジナル曲をしっかり作られていますよね。カバー曲も焼き直しではなく、バンドの個性が打ち出されたアレンジが魅力的です。曲作りやアレンジについては、岡村さんがすべて担当しているんですか?
最初はほぼ100パーセント私がやってたんですけど、 途中からノスケくんやトランペットのチャンケン、テナーサックスのモルちゃんも曲を書いてます。また今回の『FILMSKA』からはのんちゃんが数曲アレンジしてくれていて、それがまたすごくいいんですよね。徐々にですけど、メンバーみんなが曲作りに参加してくれるようになったので嬉しいですね。
ちょっと顔色を伺いながらね。あまり出しゃばりすぎると怒られるから(笑)。
(笑)そんなことないよ!
まあ、それは冗談だけど。でも、岡村が出してくる曲があんまりにもクオリティが高いので。これを超えられなかったら、俺はかなりカッコ悪いぞ、と。
それ、すごいわかります! いつも作ってくる曲がすごいから、自分のはそんな大したもんじゃないですが……って思いながら曲を提出してます。
みんなが作ってくる曲が、それぞれ全然毛色が違うのがいいんですよね。
また、岡村が持ってくるデモ音源がすごくいいんですよ。だから、そのデモをライヴで超えられなかったら、俺はもう辞める時だなって。それぐらいに思ってます。
――岡村さんのデモは、かなり作り込んだ状態で渡されるんですか?
そうでもないですね。ある程度遊びを残したまま持ってくるので、お前どうすんだ?って逆に試されてる感じはあります。
ホーンセクションについては、ある程度決めておかないと事故っちゃうけど、とくにリズムセクションはね、それぞれの感性で作ってほしいっていうのはあるんで。ベースラインやドラムのフィル、ピアノのオブリみたいなのは、基本的に任せていて。でも、すごくいいのをみんな持ってくるんで、自分の想定していた楽曲とは、いつも違う形で完成してます。
――プレイヤーそれぞれの個性や遊びみたいな要素が混ざり合って、いい意味での揺らぎが生まれるところもスカ・バンドの魅力ではありますよね。
そうそう。私は根が真面目なので、最初1~2枚目ぐらいまでは、結構きっちり細かいところまで作り込んで録音してたんですよね。ここを直したい、ここもう1回やってみたいな、ディレクションのスタンスだった。だけど、3枚目を制作するにあたって、過去の音源を聴き返したら、なんか窮屈でつまんないなって思えてしまって。なのでここ数年は、もうみんなに自由にやってもらって。テイクもそんなに重ねず、間違えたら間違えたで逆にそれがいいみたいな。ちょっとズレたり間違えたりみたいなところの、なんというかザラつきみたいなところもスカの魅力だから。そこを全部綺麗にしちゃうと、つまらない音になっちゃう。これから作っていきたいThe SKAMOTTSのサウンドは、あれ?って思う瞬間が散りばめられているほうが、もう一回聴きたくなるのかなって感じていて。だから今は、レコーディングの時でも、基本的には「いいよいいよ、はい次、はい次」みたいな感じで、みんながよければ全然OK。自分の体感とか、プレイバックして聴いてみて自分がいいって思ったものが一番いい。私が最終的な方向性だけ見失わなければ、それでいいやって思うようになりましたね。
――そういう風に考えをシフトできたのは、なかなか大変なことだったのでは? 最初のほうに話していたけど、「スカ・バンドは下手っぴだからなめられるんだ」みたいに考えていた岡村さんの生真面目さや、スカが大好きだから故の頑なな思いみたいものが、どこかでほぐれたというか。
そうですね。だって本当にここ4、5年でそう思えるようになったから。30代半ばを過ぎて、すべての音楽に対する考え方が自分の中で変わったんだと思います。20代の頃は生真面目にガムシャラにやってたけど、The SKAMOTTSではない別の音楽現場をいくつも経験していく中で、今の考え方になっていったのかも。
やっぱりアルバムや音源を作るとなったら時間もお金もかかるし、そんなにたくさん作れるわけではないから、レコーディングするなら、いいクオリティのものを追究したいって思うのは世の常だと思うんですよね。でも、その逆とまではいかないけど、そこじゃないところを目指すっていう。心意気の方が大事だみたいな感じのことを言ってくれるので。一緒にやってても嬉しいですよね。今回の『FILMSKA』のレコーディングの直前に、バンドのグループLINEに、岡村からメンバーみんなにメッセージが届いたんです。「かっちり録るとかじゃなくて、みんなの心意気が記録できれば」みたいな、短いけど熱い文章を送ってくれて。もお、超いいわ~、こんな風に言ってくれてかっこいい!って思って。心おきなくレコーディングに突入できました。
メンバーみんなも、いろいろとミュージシャンとして経験のある人だし、きちんとやろうとしてくれるので。事前に、今はそこじゃない、きちんとしすぎなくていいよ、って伝えておこうと。言っても真面目にやっちゃう人もいると思うんですけど、やっぱり、そういうスカのマインドみたいなものをすぐ理解してくれるメンバーが集まっているのは、嬉しいことですよね。
――かっちりやろうとするとお勉強した感じが強く出ちゃうし、そういうものを感じると、聴き手も途端に白けてしまうこともある。だけど、その凝り固まった感覚からちょっと自由になった時に、バンドにいいグルーヴが生まれる瞬間っていうのはあるんでしょうね。
みんなの技術がある程度しっかりしてるからこそ、多分信頼してそういう風に言ってくれたんだと思うし、それは僕らとしてもありがたいことですよね。
――The SKAMOTTSの活動の中では、2023年4月にスタートしたTBSラジオ『こねくと』のオープニングソングを手掛けたことも大きなトピックになると思いますが、どういう経緯で制作することになったんですか?
番組が始まる何か月か前に、突然ホームページ経由で「TBSラジオの者です」と連絡があって。最初、そんな大きなメディアの人がこんなとこにわざわざメールしないだろうし、迷惑メールだと思ってました(笑)。ディレクターさんだったんですけど、打ち合わせ一度したいですって連絡をくれて、ちょっと怪しいなと思いながら会いに行ったら、私たちの4枚目の7インチに収録した「君の街」っていう、ノスケくんが歌ってくれた曲が気に入って連絡をくれたそうで。それで、今度始まる番組のオープニングテーマを作ってほしいと依頼を受けたんです。
――「君の街」はもともと、たをやめオルケスタで演奏されていた曲ですよね。
はい。たをやめに以前ヴォーカルがいた時に作った曲だったんですけど、すごく思い入れのある曲だったので、The SKAMOTTSでもやりたいと思って、ノスケくんに歌ってもらったんです。打ち合わせにはプロデューサーさんも来てくださったんですけど、てっきりコンペかなんかかと思ったら、私たちを指名してくれて。岡村さんがOKなら決定でお願いしますって。
――そうだったんですか! TBSラジオって、インディーレーベルの楽曲もよくかかるし、若手のバンドやミュージシャンにもフレンドリーな印象はありますね。『こねくと』の前の時間帯の『生活は踊る』でも、スカやレゲエの曲がよく流れるし。
そのディレクターの方は、めちゃくちゃマニアックな音楽好きだったんですけど、とはいえ、どのタイミングで我々のことを知ってくれたのか。そして、よくGOサインを出してくれましたよね。
――毎日同じ時間に、ラジオから自分たちの曲が流れてくるのって、どんな感覚ですか?
もちろんめっちゃ嬉しいですし、あと純粋に毎日昼間にラジオからスカが流れるっていうこと自体が、日本のスカ界にとっても大きいことなんじゃないかって、密かに思ってます。
俺、未だに2時にイントロ流れてきてびっくりするもん(笑)。
――『こねくと』に楽曲を提供したことによって、バンドに変化っていうか、なんかあったりしました?
このオープニング曲で初めてスカを聴きましたとか、スカっていいですねみたいな人は増えたのかな。SNSでの反応は大きかったですね。でも、実際のライブに来るのは結構ハードル高いじゃないですか。今後はそこまで持ってきたいな。
――そして今回、4枚目のフル・アルバム『FILMSKA』が完成しました。映画のテーマ曲を取り上げたカバー・アルバムというテーマは、どのようにして決まったんですか?
それはもう、私がひとりで決めちゃったことなんですけど。もともと映画がすごく好きだというのと、あとスカといえばカバー曲が魅力の一つでもあるし。これまでにオリジナルのアルバムを3枚出してきたので、今このタイミングだったら、全曲カバー・アルバムを出すにはちょうどいいなって思ったんです。自分の中ではもう2年ぐらい前からやろうと決めていたんですけど、ライヴ終わりの打ち上げの席で、次は映画のカバー・アルバムにしようと思いますって伝えたら、みんなも映画好きだから、何の曲やりたいか言い合いが始まって。その時点で40曲以上候補が出て、盛り上がっちゃいましたね。
――世代も近い人たちが集まってるから、たしかに話が止まらなそう(笑)。
話も脱線しちゃいますしね。その後も選曲の話し合いと称した飲み会を何回かやって、 とりあえず今回は“その1”ってことにして出そうと折り合いつけて、最初の12曲を選びました。
――『スターウォーズ』『ロッキー3』『インディジョーンズ』『ネバーエンディング・ストーリー』『ニュー・シネマ・パラダイス』といった80年代の大ヒット映画から、『アルマゲドン』『ハリー・ポッター』などミレニアム前後の名作、さらには『マルサの女』『踊る大捜査線』のような邦画作品まで、ただただ私たちが好きな映画をカバーしました!というラインナップですね。
まだまだやりたい曲いっぱいあるんですよ。だからThe SKAMOTTSのライフワーク的に、今後も定期的に映画のカバーはやっていきたいですね。なんか、このレコーディングがすごく楽しかったんですよね。アイデアをひねって新しいアレンジにするのも面白かったし。今回、のんちゃんやモルちゃんがアレンジで参加してくれてるんですけど、アレンジャーそれぞれのセンスの良さっていうか、私がアレンジしたものとまた全然違う感じになるんで。珠玉の12曲が揃いました。
今回、ノスケのヴォーカル曲が3曲ぐらいあって。どれも、だいぶいい感じだよね。
恐れ多いっス。
――真之輔さんは、先ほど話に出た「君の街」をはじめ、これまでにもThe SKAMOTTSの楽曲で何曲かヴォーカルを担当していますよね。
ノスケくんはヴォーカリストとして活動してたわけではなかったんですけど、 コロナ禍に暇だからって、YouTubeに“歌ってみた動画”みたいなのをやっていると聞いて。それを見てみたら、めっちゃよくて。バンドでも歌ってよって言って。最初は「愛は勝つ」のカバーだったかな。「え、歌っていいの?」なんて控えめだったんですけど。
やっぱりね、恐縮しちゃって。別にヴォーカリストでもないので。
――その割には、今回の『FILMSKA』でも、めちゃめちゃ堂々とした歌いっぷりをみせてるじゃないですか(笑)。エアロスミスの「I Don’t Want to Miss a Thing」を、スティーヴン・タイラーの代わりに歌うっていうね。
そうなんですよ(笑)。まさか人生の中で、この曲を歌うなんて思ってなかったから。
さすがに笑っちゃうよね。アルバムの中で、この曲だけちょっと浮いてるもん。でも、だからいいんだけどね。
――いや、素晴らしい熱唱でしたよ! たとえば、それぞれ1曲ずつ、これは会心の出来だったっていう楽曲を挙げるとするとどれになりますか?
俺が個人的に嬉しかったのは、3曲目の「Eye of the Tiger」(『ロッキー3』より。オリジナルはサバイバー)ですね。元Rocking Timeで、今はこだま和文さんのDUB STATION BANDなどでも活躍されている秋広シンイチロウさんに参加してもらったんです。憧れのギタリストだったんですが、カッティングがめちゃくちゃカッコよくてね。
このアルバムを録ってた時は、今はバンドに正式加入しているギターの青山哲哉がまだメンバーじゃなかったんです。それで秋広さんと、J.J.Sessionにいた重田くん、あとてっちゃん(青山)の3人がギターで参加してくれてるんです。三者三様のカッティングの裏打ちが、聴いたらすぐわかる。こんなに違うんだ!って。同じバンドで、ギターだけがどんどん変わっていくって、なかなか貴重な経験だったよね。
僕は7曲目に入っている「Raiders March」(『インディージョーンズ』より)。これ録ってる時もめちゃくちゃ面白かったですし、出来上がったの聞いてもめちゃくちゃ面白くて。聴いてもらえばわかるんですけど、この曲かなり変わってるんです。
――ホーンの入り方があえてガチャガチャした乱調な感じになっている。凸凹道を走るポンコツ車、みたいなイメージでした。
そうそう。おっとっとって、転んじゃうような感じ。さっき話していたように、経験もテクニックもそれなりにあるメンバーが集まってやってるのに、その人たちがなんでこの曲をこんな感じでやってるの? ってびっくりするようなアレンジで。これは岡村がアレンジしたんですけど、よくよく聞いたら2年前からやりたかったって言ってて。
そう。『インディジョーンズ』だけが、私の中で絶対やるって決めた曲。アレンジも、私的には全然ギャグとかお笑いじゃなくて、ただただ、ああいう音楽を作りたかったっていう感じでしたね。私が1曲選ぶとしたら、8曲目「The Woman from MARUSA」(『マルサの女』より)は、かなりいい感じになったかな。これはもう、ベースが一番活躍する曲ですね。
オリジナルから外したフレーズにしようと思ったけど、なかなか外れなくて悔しい部分はあるけど。
――いやいや、でもめちゃくちゃカッコいい仕上がりですよね。原曲はリズムが5拍子で、メロディーが4拍子というかなり変わった構成の曲ですが、それをスカにアレンジする難しさはあったんじゃないですか?
スカやレゲエは絶対2の倍数じゃないと成り立たないって思っちゃってはいましたけど。そうじゃなくてもいけるんだっていうのは、発見でしたね。
この曲もそうだし、3曲目の「Hedwig’s Theme」(『ハリー・ポッター』より)も3拍子なんですよね。3拍子のスカってどうなんだろうと思ったら、意外とすんなりとできて。多分ドラムが大変だったんじゃないかな、3拍子のフィル作るのが。普段あんまりないだろうからかね。
――「The Woman from MARUSA」は、レゲエのステッパーズみたいなビートにすることで、変拍子をうまく取り入れていてすごく面白く聴けました。ダブミックスもカッコいいですよね。
ダブは、私たちの作品をずっと録ってくれているエンジニアの速水直樹さんがやってくれてます。速水さん、見た目はそんな感じしないけど(笑)ランキン・タクシーさんの作品も手掛けていたり、本場ジャマイカにも行ってるんですよね。いつもアルバムの数曲をいい感じにダブワイズしてくれてて、私たちの音楽性を一番よく理解してくれているチームメイトです。
――『FILMSKA』を通して聴いてみて思うのは、The SKAMOTTSには、バンドが始まったきっかけであるオーセンティック・スカという太い幹があるんだけど、自然とジャマイカン・ミュージック全般を網羅する仕上がりになっている。そもそもスカタライツっていうバンド自体がそうじゃないですか。スカやレゲエが持っている懐の深さや、遊び心みたいなところが、映画音楽というテーマを通すことでよりわかりやすく伝わりますよね。
結構バラエティ豊かな感じですよね。オーセンティック・スカはもちろん中心にあるけど、それ以外のカリプソだったりも、全然躊躇なくやっていきたいっていう感覚はあるんで。
――2曲目の「Shall We Dance?」(『Shall we ダンス?』より)も小気味よいカリプソ・チューンに仕上がっていましたね。
あと今回は、パーカッションがゲストで入ってくれてて。松下ぱなおくんっていう、トランペットのチャンケンがLUCKY TAPESで一緒にサポート参加していて、チャラン・ポ・ランタンにもサポートしていたりもする近しいミュージシャンが、いろいろと面白い音重ねてくれて。それによっても相当世界観が広がりましたね。
――こうして映画音楽のカバー・セッションやったことで、バンドとしてはどんな収穫があったと思いますか?
なんか武器が色々増えてきたなって思って。オーセンティックのスカ・バンドで男が歌うっていうスタイルも、それほど多くないし。それでいて変拍子のスカもできる、ダブもできるって、いろいろな表現ができるから。それを今後どうやって面白い感じでやっていこうかなって、楽しみは増えてますね。
これまでに何枚かリリース作品を作ってきて、バンドとしても年数が経って、 みんなもどんどん自由になんか表現してくれるようになったっていうのは大きいですね。お互いにアイデアを持ち寄るみたいな感じでできるようになったし、自由さみたいなのはめっちゃ変わったなと思いますね。そこは今、やってて一番楽しいところですね。
――また、こういうスタイルのスカ・バンドは、年齢を重ねていくごとに面白さが増していくみたいなところもあるでしょうしね。
そうですね。私としては、このThe SKAMOTTSっていうバンドは「頑張らないこと」をモットーにしてるんです。まあ、その割には結構いっぱいリリースしてるんだけど、頑張り始めたらスカはつまんないなって。ライヴとかも、お酒飲まずに真面目に間違えないようにってやるようなもんじゃないから。ベロベロになって、あとで怒られるほうがスカっぽいっていうか
それじゃ何年か前と変わらないじゃん(笑)。
(笑)なんて言うんだろう。よくも悪くもそういうスカっぽさみたいなのは失いたくないというか。バンドを動かす上での運営的なところは真面目にやってますけど、 音楽をやる上では、もう頑張らないっていう風にしてるんで。それぐらいのほうがスカに合ってるんだろうなっていうのはありますね。その上で、あれやりたい、これやりたいっていうのを、みんなで出し合っていけたらいいなって。
――岡村さんの性格的に、あえて「頑張らない」って意識するぐらいじゃないと、他の人たちとの釣り合いが取れないのかもしれないですね。その上で、メンバーそれぞれのバンドへの関わり方もどんどん変化してきていて、個々のアイデアやセンスがサウンドにどんどん注入されているようになってきている。バンドとして、今後すごく面白い転がり方をしていきそうですよね。
まあ、あまり難しく考えずに、のびのび飲んでる時に話し合ってるから。それ楽しいね、面白そうだねっていうことが、割と高い確率で実現されるバンドだなって思うんで。そういうラフな感じは残しながら、無理せず面白い方向に転がっていくのは楽しいですね。
――まあ、何よりいいのは、このThe SKAMOTTSっていうバンドが、割と遅めの年齢からスタートしているところですよね。世代的にも演奏力的にも中堅ぐらいの貫禄がありながら、実はまだ結成から10年経っていないっていうね。
この間「SKA CRASH 2024」ってスカコアやスカパンク中心のイベントに出させてもらったんですけど、ROLLINGSとかRUDE BONESとか出てて、まわりがもうみんな大先輩って感じで。私たちはどこ行ってもまだまだペーペーだし、The SKAMOTTSも7年ぐらいやってますけど、まだ全然スカ界に浸透してないんですよね。
――そんなことないでしょう!(笑)。
周りに媚びを売らないのが原因なんじゃない?
そうね。媚びをね、売らないんだよね。
可愛がってくれる先輩もいないし。
――がはははは(笑)。
でも、最近はそういうスカのイベントにも呼んでもらえるようになったんで、 最初の時よりはちょっとずつスカ界にも馴染めてきてるのかな……、今後もうちょっと馴染んでいきたいな……っていう感じです。私が20代の頃にあったスカ・ブームみたいな感じで、若手のバンドも増えてほしいし。
「来たれ!NEXT スカブーム!」ですよ。
――面白いのは、昔からやってるスカ・バンドの人たちがそういうこと言ってないのに、The SKAMOTTSだけが気を吐いて「来たれ!NEXT スカブーム!」って高らかに叫んでるんですよね。
まあ、確かにスカ・バンドって割とマイペースなバンドが多いですからね。でも我々は「頑張らない」とか言いながら、結構活動しちゃってるんだけど、それもこれも楽しいからやってるっていうか。まあ、もっとスカを広めていきたいけど、でも、ここであんまりガツガツしすぎないっていうか。本当に自分たちのスカ愛を重視して活動していきたいですね。
――8月31日には『FILMSKA』のレコ発ワンマンがありますが、その先はまたオリジナル作品を制作する予定なんですか?
そうですね。オリジナル作品っていうか、ちょっと脱線するんですけど、私『美味しんぼ』が大好きなんですよ。それでアニメも大好きなんですよ。で、個人的に『美味しんぼ』の主題歌とか劇伴の曲を演奏して、ひとりで楽しんでたんですね。そのことをメンバーに話したら、 メンバー8人いるうち6人が『美味しんぼ』マニアだったという。それで超盛り上がっちゃって、同人カバー・アルバムを作り上げてしまって。それをコミケで売ってきます。
――何なんですか、その異様なエネルギー(笑)。
「頑張らない」とか言ってるのに、気づけば『FILMSKA』と『美味しんぼ』と2枚のカバー・アルバムを並行して作っていました(笑)。でも、これも本当に今じゃないとできなかったというか。若い時には余裕がなかったけど、なんか今はこういうことも楽しんでできるっていうのは、幸せなことだと思いますね。普通にスカが好きでみんなが集まっただけなのに、いろんなことが面白い形で実現できるようになって。このバンドをやってよかったなと、あらためて感じるんです。
RELEASE
The SKAMOTTS – FILMSKA
2024.08.21 RELEASE
The SKAMOTTS LIVE SCHEDULE
2024年8月31日(土)
“FILMSKA” RELEASE PARTY
~名作映画音楽とSKAが出会う夜~
下北沢 BASEMENTBAR
OPEN18:30/START19:00
ADV¥3,000-/DOOR¥3,500-(+1D)
ACT
The SKAMOTTS
DJ
神谷タロー
予約
【プロフィール】
The SKAMOTTS
2017 年結成、オーセンティック・スカバンド。とにかくSKA が好きMIND で心底楽しく活動中。踊れるジャマイカンビートに管楽器のハーモニーが乗っかって乾杯不可避。DANCE WITH ME!!!これまでPlaywright からアルバム3枚、7inch レコード4 枚をリリース。
TBS ラジオ「こねくと」のOP&ED テーマを担当。来たれ!NEXT スカブーム!
The SKAMOTTS 公式ホームページ