山崎想太(ピアノ)、杉村謙心(ギター)、近藤凛太朗(ドラム)によるインストバンド、Liquid Stellaが約2年ぶりとなるセカンド・アルバム『BRILLIANCE』をPlaywrightから発表した。「ネオフュージョン」を打ち出したファースト『AUTHENTIC』のリリース後、3人それぞれが作家やサポートなど多方面で活躍し、その経験をバンドに還元させた『BRILLIANCE』は、前作同様にフュージョン、クラブジャズ、ラテンなどをクロスオーバーさせたサウンドでLiquid Stellaとしてのカラーを強めつつ、初のボーカル曲にもチャレンジするなど、よりアウトプットの幅を広げてみせた充実作。fox capture plan的な多彩な音楽性と、bohemianvoodoo的なピアノとギターの絡みで聴かせる美メロ、その両方を併せ持ちながら、それを2020年代の感覚で見事に鳴らしている。10月から始まる東名阪でのリリースライブを控え、山崎と近藤にバンドのこれまでについて語ってもらった。(後編)
インタビュー・テキスト : 金子厚武
―では新作の『BRILLIANCE』について聞かせてください。リード曲が2曲目の「鏡花水月」と3曲目の「Bypass」で、「Bypass」はファーストからの流れを汲むネオフュージョン的な一曲ですが、クラブジャズ的な「鏡花水月」をこのタイミングで打ち出したのはなぜだったのでしょうか?

「鏡花水月」は和風な要素を全面に出していて、今まで僕個人のデモ曲ではやってきたんですけど、リキッドとしてはやってこなかったことで。今Spotifyだとアメリカのリスナーが一番多いので、海外の人からも聴いてもらえるようになったことを意識して、あえてこういうジャパニーズ感のある曲を出してみたら面白いかなと思って作りました。アルバムのリード曲は挑戦の場だと思うので、このタイミングでっていう感じですね。
―もともと和の要素を感じる曲が好きだった?

そうですね。エレクトーンのコンクールで出してた曲とかは、ちょっと和の要素がある、和楽器を使わない和風みたいなことにハマってた時期があって。それこそJABBERLLOPさんの「TAKACHIHO」とか、あの曲は高千穂の民謡をパラフレーズ的に入れてたり、そういうのにハマってた時期があって、でもリキッドではやってこなかったので、改めてやってみようかなって。

和の要素はもう聴いた瞬間から、これまでのリキッドにないテイストが来たなと思いました。ビート感は特別新鮮というわけではないですけど、全体のサウンド感とか曲の流れ的に、こういう勢いのある曲があったらライブでも盛り上がるだろうし、今回セカンドを出すにあたって、重要な曲になりそうだなとは思ってました。
―クラブジャズの色が強い「鏡花水月」を聴いてフォックスを連想する人もいると思うんですけど、フォックスは去年自主レーベルを立ち上げましたよね。Playwrightの中でも世代が変わっていく中で、レーベルのカラーを受け継ぐ意識はあったりしますか?

そこは正直あんまりなくて、同世代のインストバンドも増えてきましたけど、周りを意識することはないんですよね。それは上の世代に関しても、諸先輩方がこうだからっていうよりは、リキッドとしての方向性やカラーがやっと定まってきたので、より自分たちの曲のクオリティだったり、ライブのクオリティを、今は自分たちの中の軸で上げていくターンなのかなと思ってます。そうしていく中で自然とレーベルのカラーを受け継いでいくポジションになっていければ良いなと思います。
―実際リキッドならではの打ち出しが新作の中にはいろいろ含まれていて、初のボーカル曲「Don’t stop the music(feat. ちぇるしー)」は明確な新機軸ですよね。

全員歌ものも好きなので、純粋に歌入りでやってみたいなっていうのはあって。僕が作るメロディーは鼻歌でも歌えるって、お客さんも含めてずっと言ってもらってたのもあったし、やってみたいっていう純粋な気持ちがありました。
―作家としての仕事だと歌ものに関わったりもしてるんですよね。

そうですね。僕の作家としてのデビュー曲では、まさかの作詞もやってます(笑)。

もともとフィーチャリングでやりたいねって話はずっとしてて、それがサックスなのか、トランペットなのか、ボーカルなのかは具体的には話してなかったんですけど、今回ボーカルを入れてみようかって話になって、すごいしっくりきたんですよね。「インストバンドが歌ものか」みたいな感じじゃなくて、今までのリキッドに自然に歌がついた感じだったので、完成品も全然違和感なく聴けました。
―曲の構成自体がポップス的だという話に通じますよね。ちぇるしーさんを起用したのはどんな理由だったんですか?

言ってしまえば異色というか、Youtube等のインターネット上を中心に活動されているシンガーさんとインストバンドという、本来であればあまり関わりなさそうな2組のコラボだったので、純粋に面白いかなって。謙心がライブでサポートしていて、こういうことも僕らだからこそできるのかなって。
―前作の「みずいろの雨」に続いて、今回も「異邦人」のカバーが収録されていて、シリーズ化してますね。

ここはfox capture planのマネなんですよね(笑)。
―フォックスは『COVERMIND』で洋楽のカバーをしてますもんね。

ある程度年代やジャンルに縛りをつけて、昭和歌謡をやるっていう。
―昭和歌謡に狙いをつけたのは何か理由があったんですか?

純粋にみんな好きっていうのもあるし、僕らを聴いてくださる方の年代的にも刺さるかなって。ただ「みずいろの雨」のときもそうだったんですけど、弾いてみただけにはならないようにしようっていうのは意識してて。せっかくやるんだったら、原曲はもちろんリスペクトしつつ、雰囲気をガラッと変えるようにっていうのは、「みずいろの雨」のときから意識していて、それができた曲っていう感じですね。
―「みずいろの雨」もラテンっぽさがあったし、今回もそこは一つの色になってますね。

「異邦人」もサンバキック[※]をずっと踏んでて。
※バスドラムを細かく連打して刻む、リズミカルで跳ねるようなキックパターン

僕すぐ16分音符で踏ませるんで(笑)。

「roof roof」もそうだし、「好きだなあ」と思いながら(笑)、でもそれがカラーになっていけばいいなと思って。今回資料にレコーディングした日にちが書いてあったと思うんですけど、この曲は一番最初に、2023年に録ってるんだよね。

「Vivid」と「異邦人」を一番最初に録ってます。

一番最後に録ったのが「鏡花水月」と「Blue Ornaments」と「Bypass」で、「異邦人」は1年半以上前に録ってるから、昔録った曲と最近録った曲がどっちも収録されることによって、成長を感じられるアルバムでもあるのかなって。
―ここまで話に出ていない部分で、お二人の思うアルバムの聴き所を教えてください。

全体的にドラムのチューニングだったり、スネアとかシンバル選びは、ファーストに比べてよりこだわりました。それぞれの曲のカラーがドラムのサウンドに出てると思うし、それが被りなくできて、いろんなジャンルから引っ張ってきてるイメージですね。3曲目の「Bypass」と4曲目の「roof roof」はドラムセットも違ってて、「Bypass」はヤマハのセットで飛んでいく感じなんですけど、「roof roof」はRogersっていう1960年のセットを使ってて、ちょっとビンテージ感がある。いなためなんだけど、音はラテンな感じで、続けて聴くと違いがわかると思います。「roof roof」にはソロも入ってて、左手側にスプラッシュシンバルを2個置いて、それを使ったりしてるので、ぜひ聴いてほしいです。

エレピも使ってる曲は全部違う機種というか、実機のローズで録った曲もあれば、家にあるYAMAHA CP88という機種で録った曲もあるんですけど、それぞれの曲にあった音色のチョイスができているのかなと思いますね。「Bypass」と「異邦人」が実機なんですけど、それぞれスタジオが別で、「Don’t stop the music(feat. ちぇるしー)」がNordのウーリッツァー、「Fleeting」がCPのローズ。「Fleeting」は特にはまった感じがしました。
―楽器や機材のチョイスからしても、1曲1曲のカラーがより際立つようになってると。

ファーストアルバムのときは持っている楽器がNordしかなかったのもあって、とりあえずNordのエレピを揺らすっていう(笑)。でも作家のとしての活動も含めてやってきた中で、そこも選べるようになったかなって。それぞれ個人で培ったものをリキッドに還元して、逆にリキッドで得たものも外にもっていくっていう循環が今後もできればいいですね。

それぞれ活動している中で、リキッドは帰ってこれる場所みたいに僕は思ってるんですけど、そういう面では今回、外で成長してきたのを出せたアルバムかなっていうのは自分も思うし、2人に対してもそう感じる場面がすごく多かったです。
―ちなみに、ギターパートの聴き所も挙げていただけますか?

「Fleeting」はもともとコンピに収録されてて、ドラム以外は宅録だったんですけど、曲の雰囲気に合う音色をチョイスして弾いてくれたので、直しなしの1テイク目でOKでしたね。

僕は「Bypass」のギターソロがすごく好きで。
―フュージョン好きの真骨頂ですよね。

「俺が好きだった音が鳴ってる!」みたいな、もう入りのフレーズから「だよね!ありがとう!」って感じで(笑)。その後の展開も好きだし、「Bypass」は中高の自分の好みを思い出した感じがして、すごく楽しかったですね。
―10月・11月に東名阪でリリースライブが開催されますが、Liquid Stellaのライブの魅力についてはどう考えていますか?

だいぶ空気感を自分たちのものに持っていけるようになりつつあるとは思います。結成当時はただ上手い人たちがセッションしてる感じに見えなくもなかったと思うんですけど、ちゃんと1個のバンドとして、それこそ音源もそうですけど、ステージ上でも自分たちのカラーがMCも含めて少しずつ出せるようになってきているかなとは思いますね。

僕はライブでお客さんとコミュニケーションを取るのがすごく好きで、演奏中にノッてくれて、ふー!って声が上がったり、そういう山場がライブの中で作れるようになってきたのは、だいぶ成長したかなと思います。ライブでは音源に忠実にやる感じもあるんですけど、でもその場の空気感で変わったりもして、個人的にはせっかくライブだし、音源でやってないパターンで仕掛けたりもしていて。そういうセッションで生まれる良さはインストバンドならではだと思うので、楽しみに来ていただければなと。
―今後のバンドの展望としては、どんなことを考えていますか?

僕は何度も声を大にして言ってるんですけど、本当に劇伴がやりたくて。
―それはなぜ?

そこはやっぱりfox capture planの影響が大きいですね。もともとフォックスが劇伴をやり出して、僕も劇伴というものに興味を持って聴くようになったので。ちょっと前に初めて舞台の音楽をやらせていただいて、再演だったから、初演の映像を何回も見たり、プロットを何回も繰り返し見ながら作ったんですけど、すごく新鮮だったし、めちゃくちゃ楽しくて、こういうことをバンドでもできたらいいなって。
―近藤くんはどうですか?

これまで曲作りは想太に頼り切りだったけど、最近自分の中で「もっとこういう音楽をリキッドに入れてみたらどうなるんだろう」みたいなことを考えるようになって。今まではドラムをプレイすることに価値や生きがいを感じてたんですけど、もうちょっとクリエイティブな方で、ルーツのファンクとかソウルとか、多分想太にないボキャブラリーが自分にはあると感じることもあるので、そういうリズムやメロディーを自分からアプローチしてみようかなって。せっかく素晴らしいミュージシャンをタダ働きさせる環境にあるし(笑)、バンドは自分がやりたいものを試せる場でもあるなと思うんです。個人的にやりたいことが頭の中にいっぱい出てきてるので、今はワクワクしてますね。
―『BRILLIANCE』でいろんなことをやって、それでもちゃんとLiquid Stellaとしてまとめられたから、今後はさらにいろんなことをやれそう。その地盤が今回でできたのかもしれないですね。

そうですね。何をやってもLiquid Stellaになりそうな気がします。
前編はこちら
RELEASE

BRILLIANCE
Liquid Stella
2025.08.06 RELEASE
Playwright

AUTHENTIC
Liquid Stella
2023.04.12 RELEASE
Playwright
LIVE

PROFILE

2019年結成、ジャンルを越えて進化を続ける次世代インストゥルメンタルバンド。
ジャズをルーツに、洗練されたアンサンブルと耳に残るキャッチーなメロディで唯一無二の世界観を築き、リスナーの心を瞬時に掴む。ライブハウスからサブスクのチャートまで、世代やジャンルの壁を越えて注目を集め続けている。
2023年に1stアルバム『AUTHENTIC』をリリース。総再生回数は100万回を突破し、Spotify公式プレイリスト「Jazz Fusion Japan」のカバーを飾った。
2024年よりビーチライフスタイル・マガジン『SALT…』とのコラボレーションCD 「SALT… meets ISLAND CAFE –Sea of Love -」シリーズに参加。
そして2025年2月、結成5周年を記念してBLUES ALLEY JAPANで開催したワンマンライブは満員御礼・大盛況で幕を閉じた。8月、待望の2ndアルバム『BRILLIANCE』をリリース。10月からは初の東名阪ツアーを行う。
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