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Catbug 来日記念インタビュー

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キャットバグことポーリーン・ロンドー。ベルギーで小さな農場を営みながら歌を紡ぐ“ファーマー・ソングライター”だ。そのスタイルは、ジョニ・ミッチェルからジュディ・シル、リンダ・パーハクス、ヴァシュティ・バニヤンをも連想させるもので、オランダ語の歌詞にも関わらず日本でも多くの人を魅了してきた。

そんなキャットバグが、この秋、待望の初来日を果たす。そこで今回は来日直前企画として、2024年に発表された『Musjemeesje』のリリース前に行われたインタビューを公開する。インタビュアーはライナーノーツも執筆してくれた山本勇樹(Quiet Corner)さんだ。

自身が暮らす農場での生活からプライベートな変化、アルバムのコンセプト、制作プロセスまで。キャットバグ、そしてアルバムの共同プロデューサーであり今回ともに来日するアイコ・デフリエント(Aiko Devriendt)がひとつひとつ丁寧に語ってくれた。ライブ前の予習として、ぜひご一読を。

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インタビュー : 山本勇樹(Quiet Corner)
序文・編集:diskunion


●あなたは今もアントワープ州のウェストマールの有機農場で暮らしていますか?生活スタイルに何か変化はありましたか?

Paulien: はい、今も有機農場に住んでいますが、農作業にすべての時間を費やすのではなく、音楽制作とステージ復帰にもっと力を入れようと決めたため、この一年間でライフスタイルが変わりました。

詳しく言うと、私は今も農場に住んでいますが、昨年の冬は数か月間、近くの町で友人と一緒に暮らしていました。というのもほぼ一年前、ある重大な出来事がありました。私は別の人に恋をしたのです。その直後、私はパートナーとの関係を終わらせました。パートナーとは、一緒に「自分で収穫する」CSA(地域支援型)ガーデンを始めたばかりでした。私たち二人が状況を処理する時間を持つために、私は自分の家を出る必要があると感じました。それは困難な時期でした。突然、にぎやかな通りに面したアパートに住み、とあるお店で働いてなんとか生き延びていましたが、自分の仕事にかなり落ち込んでいることに気がついたのです。

ありがたいことに、元パートナーはすぐに別の人と出会って近くの町に引っ越したので、初夏に農場に戻ることができました。私は店の仕事を辞め、花壇と産卵鶏の世話を再開し、農場の穏やかなリズムに再び触れることができました。

この一年は信じられないほど刺激的で、次のアルバムの基礎となった新しいキャットバグのための楽曲を書きました。また、インディーフォークのミュージシャンでもある素晴らしいボーイフレンドと一緒に曲作りを始めました。

以前は、より農作業に集中し、作詞作曲を趣味的な副業として扱っていました。しかし、この一年、私は自分の本当の情熱である音楽を追求することにしたのです。そのため、最近は作詞作曲とライブ演奏の準備に多くの時間を費やしています。うまくいくかどうか、このように生計を立てることができるかどうかはわかりませんが、再び自分の情熱を全面的に追求できてうれしいです。

●あなたの『slapen onder een hunebed』は日本でもリリースされて、またあなたのインタビュー・ページもウェブで公開されたことにより、日本の音楽ファンの間でも話題を集めました。このことについてあなたの意見を聞かせてください。

Paulien: 信じられないような経験でしたし、本当に感謝しています。日本の人々はとても親切かつ協力的で、音楽についてリスナーとメッセージを交換できるのは本当にうれしいです。私の音楽スタイルに共感してくれるリスナーは、ベルギーやヨーロッパよりも日本の方が多いようです。日本の人たちが、オランダ語でフォークソングを書いているシャイなベルギー人の女の子の曲を聴いていると思うと、魔法のように感じます。それと同時に、私は長年日本語に魅了され、日本のシンガー・ソングライターを尊敬してきました。お互いの言語が理解できなくても、音楽を通じてつながっています。私にとってそれは純粋な魔法です。

▶ 『slapen onder een hunebed』発売記念インタビューはこちら


●ライブなどステージで演奏することはありますか?

Paulien: 再びステージに立つために努力しています。

デビューアルバム『Universe』では多くのパフォーマンスを披露しましたが『slapen onder een hunebed』の頃はパニック発作に悩まされていたため、ほとんどステージに立つことができませんでした。不安がすべてを支配しているような時期で、会場まで車で移動したり大勢の人に囲まれたりすることのストレスで、観客の前でパフォーマンスすることは不可能でした。自分の音楽をライブで披露できないことに深い悲しみを感じましたが、結局、パフォーマンスに戻る前にパニック発作に対処して治癒する必要があることに気づきました。

これらの課題を克服するのに1年以上かかりましたが、適切なサポートと忍耐力により、再び心の平穏と落ち着きを取り戻すことができました。長い休みの後、ステージに戻りました。再びスポットライトを浴びるのは大きな飛躍のように感じますが、音楽を通じて人々と再びつながりたいとずっと思っていたので、とにかく興奮しています。


●『Musjemeesje』のコンセプトについて教えてください。

Paulien: 2021年の冬のある日、私は双眼鏡をプレゼントでもらい、農場やその周辺にいる野鳥についてできるだけ多くのことを学ぼうと決心しました。長年田舎に住んでいたにもかかわらず、野鳥たちについてほとんど何も知らないのは残念だと長い間感じていました。そこで、双眼鏡を持って、畑にいるミヤコドリ、タゲリ、ダイシャクシギ、そして夕暮れ時のツバメ、我が家の窓から望む茂みにいるスズメといった野鳥たちを観察しに出かけました。

やがて、多くの種の独特の鳴き声や飛行のパターンを認識できるようになり、私の中で、それぞれの鳥の物語が展開し始めました。そこには私の心に響くものがあり、それを描き出したいと思ったのです。そこから、野鳥に関する曲を集めたアルバムを書くというアイデアが生まれました。『Musjemeesje』では、私は自分の内なる子供に対して、そしてさまざまな形の「憧れ」について歌ったアルバムなのです。


●『Musjemeesje』というタイトルにはどんな意味が込められているのですか?

Paulien: タイトルは、この辺りでとてもよく見かける鳥の2種、Musje(スズメ)と Meesje(シジュウカラ)を組み合わせたものです。長い間、アルバムにどんなタイトルをつけようか迷っていましたが『Musjemeesje』というタイトルが突然頭に浮かんだとき、とても愛らしい名前だと思ったので、すぐに嬉しくなりました。特定の意味を持つ言葉ではありませんが、私にとっては、木のてっぺんにとまって「musjemeesje、musjemeesje、musjemeesje!」と鳴いている楽しそうな鳥のように聞こえるのです。


●トラック1からトラック7までは、鳥の名前ですね?「Maanlief」は何を表していますか?また最後の「Bob」は誰かのお名前なのでしょうか?

Paulien: そうです。最初の7曲は鳥にちなんで名付けられていますが、「Maanlief」にも鳥が登場します。それはカモメです。「Maanlief」は「maan」(月)と「lief」(恋人)を組み合わせたものです。これは言葉遊びで、オランダ語では「a」がひとつの「manlief」という言葉を、夫を指すときに使うことがあります。

「Bob」は、Audiocollectief Schik のポッドキャスト『BOB』のために私が作曲したサウンドトラックをリメイクしたものです。ポッドキャストの詳細と、曲のオリジナルバージョンを聴くには以下リンクにアクセスしてください。

「Elisa は 84 歳で、恋をしています… Bob。1 年半前に突然話し始めた謎の男性です。それまで 3 人の娘たちは聞いたことのない男性ですが、母親は話題に尽きません。しかし、Bob とは誰で、本当に実在したのでしょうか」
(『BOB』のイントロダクションより)

▶ Audiocollectief Schik『BOB』公式ページはこちら


●『slapen onder een hunebed』と比べて、発声や声の重なり方が特徴的だと感じました。この違いについて教えてもらえるとうれしいです。

Aiko: かつてのキャットバグのスタイルに戻り、ポーリーンは作曲におけるバックヴォーカルの部分に、より表現力豊かで叙情的なアプローチをとったと思います。これは大きな強みだと思います。

Paulien: 声とギターの演奏以外では、特に楽器が得意だとは思っていません。でも、面白いバック・ヴォーカルを探求することについては心から楽しんでいます。アイコ・デフリエントが最初のシングル「Torenvalkje」で私のバック・ヴォーカルを重ねるというミキシングの魔法をかけてくれたとき、そのアプローチに私たち二人は心から共感し、他の曲の指針となりました。


● 録音スタジオは Cochlea Mastering ですか?アイコ・デフリエントとの作業のエピソードがあれば教えてください。

Aiko: レコーディングは、友人であり私の師でもあるガイ・ヴァン・ヌイテン(Guy Van Nueten)が所有する居心地の良いスタジオ Atlantis III で行われました。『slapen onder een hunebed』も、そこでレコーディングされました。
追加のレコーディングは Studio Sobrak(ルーカス・ソマーズによるギターやベース)や、Paardebloemhoeve(ポーリーンによる追加ヴォーカルや私のピアノ)、そして Volta II(私の弾いたウーリッツァー、バンソリ、ベース)で行われました。
Cochlea Mastering は、私たちの「マスタリングの達人」ことゲルト・ヴァン・フーフ(Gert Van Hoof)です。彼、そして他のスタッフと一緒に仕事をするのは大きな喜びです!

Paulien: 音楽のミックスに関しては、アイコを信頼できるとわかっていました。マスターの締め切りが近づくと、アイコはたまたま非常に忙しい時期で、ミックスのプロセスに関するコミュニケーションをとるのも困難なほどでした。そのため、最終ミックスを聞いたのは締め切り当日になってからでした。
その瞬間を待つのは緊張しましたし、正直、うまくいかないだろうと思っていました…。しかし、アイコがファイナル・ミックスを私と共有したとき、彼と彼のプロセスを信頼して正解だったと分かりました。彼は時間をかけて、本当に美しいものを作り出したのです!


● 録音についてのこだわりを教えてください。『slapen onder een hunebed』と同じくアナログのような温かな風合いを感じました。

Aiko: おそらくこの温かみのあるサウンドに最も貢献しているのは、録音した素晴らしい部屋と、ヴィンテージのものを含むリボンマイクの特別な選択です。
どちらのレコードでも、はじめは最も純粋な形で録音されています。ポーリーンがギターもしくはバンジョーで伴奏しながら歌うだけです。
メインで使用したマイクは、ヴォーカルに MD441、ギター/バンジョーに AEA リボン A/B ペア です。ほかにはスポットマイクとして Blumlein セットアップ のリボンペア、そして 2 つの SDC コンデンサー で部屋の音をとらえました。
録音はデジタルで行われましたが、Atlantis III には素晴らしいコンバーターとプリアンプが搭載されています。


● レコーディングで使われた楽器は、ギター、ピアノ、ベースの他に何かありますか?ギターを弾いているのはルーカス・ソマーズですか?

Aiko: はい、ルーカスは今回もいくつかのトラックでギターを追加で演奏し、他のトラックではベースVI(六弦ベース)を演奏しています。
特にベースVIでの彼のサウンドと音域は、その後のアレンジにかなり興味深い角度を生み出しています。
私はウーリッツァーを主に演奏し、バンソリの演奏やアレンジも担当しています。

Paulien: このアルバムでは、何年も前にプレゼントでもらった素敵な 4 弦バンジョーを使って作曲することにしました。
長い間持っていたにもかかわらず、4 弦だとかなり制限があるように感じて、この楽器で曲を書いたことがありませんでした。
しかし、挑戦し続けているうちに、突然バンジョーでも曲を作れるようになったのです。
曲をさらにアレンジする段階では、アイコとルーカスの優れたセンスに完全に信頼を置いています。彼らは私の曲に何が必要かをよく理解していて、コラボレーションがスムーズに進むので、その点に感謝しています。


● 最近はどんな音楽を聴いていますか?あなたのインスピレーションの源になった作品があれば教えてください。

Paulien: ゑでぃまぁこん(eddie marcon)の『かおがある』というアルバムが、また新しい曲を書きたいと思わせてくれました。
友人のミュージシャンが教えてくれたのですが、それを繰り返し聴きながら、同じようなものを自分の言葉で作りたいと夢見ていたのを覚えています。
それに加えて、ジェシカ・プラット、エイドリアン・レンカー、ジュリー・バーン、サム・アミドンといった、お気に入りの現代のソングライターの曲を聴き続けました。

最近は、ポール・ブキャナンの『Mid Air』、エス・キャリーの『Hundred Acres』、シャンタル・アクダの『Silently Held』、アンナ・ティベルの『Heroes waking up』などが気に入ってよく聴くアルバムですね。


● ジャケットのデザインについて教えてください。『slapen onder een hunebed』では、あなたは正面をまっすぐ向いていましたが、『Musjemeesje』では、横を向き、そして分身が映っています。これは何を表しているのでしょう?

Paulien: 私のアルバムはすべて、農場で撮った写真を使って自分でアートワークを制作しています。このプロセスが好きなのです。『Universe』では、農場の猫たちが食事や睡眠をとる古い納屋で写真を撮影しました。『Slapen onder een hunebed』はその納屋のすぐ外で撮影したもので『Universe』のカバーアートと同じ窓が使われています。

『Musjemeesje』では、田畑の開放的な空間に足を踏み入れる時が来たと感じました。夕日に向かって自分の胸とお腹に手を置くことで、音楽の温かさを表現できるように感じられたのです。それは自分自身、そして周囲の自然とつながる方法でした。2枚の写真を重ね合わせることで、私たちはみな、より大きな意識の一部であり、愛は私たちの周りにあり、辛抱強く受け入れを待っているという信念を象徴しています。


● 『Musjemeesje』と『slapen onder een hunebed』を比べると異なる点はありますか?音楽的なこと、精神的なことなど、何かあればお願いいたします。

Paulien: この質問に答えるためには、しばし考えをまとめなくてはなりませんでした。

まず第一に、私は自分のために曲を書いています。それは一種のセラピーであり、経験を整理し、人生の意味を見つけるのに役立ちます。それは私の内なる世界への扉を開き、私自身と再びつながることを可能にします。私は自分の音楽を日記、つまり個人的な成長を追跡する方法だと考えています。

これらの曲は農場での生活にインスピレーションを受けていますが、『Musjemeesje』は『slapen onder een hunebed』とは異なるストーリーを伝えています。最新アルバムの曲は特に野鳥のイメージを念頭に置いて書いたからです。
『Musjemeesje』では、「憧れ」というテーマを意識的に深く掘り下げました。もちろん『slapen onder een hunebed』にも憧れはありましたが、今回はより意識的にアプローチし、「憧れ」が本当に意味するものと、それが表現できるさまざまな方法を探りました。

振り返ってみると「Torenvalkje」「Meesje」「Maanlief」などの曲は、私の人生の大きな転機 — 誰かに恋をし、それに伴う決断や変化の前兆だったように思えます。

潜在意識は(顕在)意識が後になって初めて理解する信号を送ることがよくあります。これが起こるたびに、私は人生の魔法に畏敬の念を抱くのです。

RELEASE INFORMATION

Catbug
『Musjemeesje / ムシェメーシャ』

レーベル : THINK! RECORDS

□ 日本盤紙ジャケット仕様
□ 山本勇樹 (Quiet Corner) によるライナーノーツ
□ Catbug 本人による楽曲解説

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