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トラックメーカーとしての島裕介が紡ぐ、ジャジー・ヒップホップの新形態──『Wind Loop Case 1&2』リリース記念インタビュー

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トランペット兼フルート奏者でプロデューサーでもある島裕介が「トラックメーカーとしてのサウンド作り」に焦点を当てたプロジェクトとしてスタートさせたWind Loop Case。初のアルバム『Wind Loop Case 1』を2023年9月にリリースし、続いて2作目『Wind Loop Case 2』を昨年12月にリリース。そして今年1月には両作品をコンプリート収録したCD『Wind Loop Case 1&2』が発売となった。トランペット、フルート、プログラミング、ミキシングまでを島がひとりでやり、リラックスして聴くことのできるジャジー・ヒップホップの最新形として仕上がったこの作品を、島はどういった思いで作ったのか。また、1と2で作り方は変わったのかどうか。島に話を聞いた。

取材・文:内本順一

Wind Loop Case 1&2
島裕介


2026.01.21 RELEASE
Playwright

――『Wind Loop Case 1』の配信開始が2023年9月。『Wind Loop Case 2』の配信開始が昨年12月。そして今年1月に両作品を合わせたCD『Wind Loop Case 1&2』が発売されました。島さんのライブを観に来るお客さんは、サブスクとCD、どっちで聴く人が多いんですかね?

島裕介

僕の場合は小箱でやるジャズライブが多くて、そういうところに足を運んでくれる人は未だにCD派が多いですね。でも、サブスクとCD、どっちでも聴くっていう人も多いのかな。CDはライブの物販として売るので、サインが欲しくて買うという人もいます。

――モノとして残りますからね。一方、配信はCDよりも海外のリスナーに届きやすい。

島裕介

そうなんですよ。特に日本のこういうローファイ・ヒップホップ、ジャジー・ヒップホップは海外の人に引っ掛かりがいいところがあって。
年始に自由が丘のhyphen(ハイフン)というお店でライブをやったんですけど、終演後のバータイムにBGMで『Wind Loop Case 2』を流していたんですね。そうしたらたまたまライブ後のバータイムに入って来たアメリカ人の若い女性3人組が、お店の人に「今かかっているのは誰の音楽?」って聞いていて、「これ、俺なんだけど」って(笑)。海外の若い人に気にしてもらえる音楽なんだなって、そのときに思いましたね。
酒飲んで喋りながら心地よく聴ける音楽というか。実際、Spotifyの数字を見ると、海外でよく聴かれているんですよ(*『Wind Loop Case 1』はSpotifyで50万回を超える再生を記録)。それだけでも作ってよかったなと思いますね。

――作っている段階で、バーとかカフェで流れて気持ちのいいものを、ということを意識したりもするんですか?

島裕介

しますよ。いい意味で聴き流せる音楽。サブスク自体にそういう側面があるじゃないですか。re:plusくんと作った『Prayer』(2019年発売。Spotifyで500万回再生超え)がどうしてあんなに海外で聴かれたのかと自分なりに分析してみたんですけど、やっぱり聴き流せるからなんですよね。この前もライブでCDを買ってくれた方と話していたら、かけていると仕事が捗るのがいいっておっしゃっていて。もちろんがっつり聴いていただくのも嬉しいんですけど、『Player』や『Wind Loop Case』は流し聴きしてもらってOKなように作ってあるので、そう言ってもらえるのは嬉しいんです。

――かかっていると、その空間がちょっと都会的で洗練された雰囲気になる感覚がありますよね。それがかかっているだけで自分がお洒落な場所にいる気持ちになれるという。

島裕介

そこは意識しています。アジアのわりと高級なホテルのラウンジでかかっていそうな音楽。

――わかります。年末にバンコクに遊びに行ったんですけど、お洒落なカフェとか、ジャズが流れているバーなんかも増えているみたいで。そういうところに『Wind Loop Case』はすごく合うだろうなと思いました。

島裕介

バンコクでは僕、これまで30公演以上やっているんですよ。『Yusuke Shima in Bangkok』というアルバムも出ているくらいで。バンコクはジャズミュージシャンが意外と多いんです。なぜかというと、前の国王がジャズをやる方で。アルトサックスも吹くし、ジャズに対してのリスペクトがある方だったんです。だからけっこうジャズが根付いていて、優秀なジャズミュージシャンもたくさんいるんですよ。
で、どういうジャズが受けるかというと、ちょっとフュージョン寄りで、ビートが効いているやつ。ビートは効いているけど、上物は涼しげで、リラックスできる感じ。暑い国だから、そんなに熱い音楽は聴きたくないってことなんでしょうね。

――なるほど。

島裕介

そういった海外での経験もあるので、あんまりこうガツガツいくタイプじゃないものを作りたいなと常々思っていまして。

――Wind Loop Caseのコンセプトみたいなところは、『Wind Loop Case 1』が配信されたときのインタビューでお聞きしましたが、改めてざっくり言うと、トラックメーカーとしてのサウンド作りに焦点を当てたプロジェクト。きっかけはコロナ禍で外に出られない時期に、家でトラック作りの面白さに目覚めたということで。

島裕介

そうです。家でひとりで完パケまでできちゃうので。その作りやすさというのは大きいですね。まあ、言ってしまえば趣味の延長。そのくらいの気持ちで作っています。作りたいときに作っているから、トラック数で言うとあと4作品作れるぐらいはあるんですよ。曲として完成させていないだけで。

――どんな手順で作っていくんですか?

島裕介

まず、サンプリングを探る。合法のサンプリングサイトがサブスクにあるので、そこからDJがレコードを探すみたいにネタをディグるんです。

――DJに近い感覚なんですね。

島裕介

そうです。で、そこに鍵盤の音を貼って、ビートを貼って、それから上物のメロディを試し録りして。ただしベースは最近は打ち込まない。なるべくベースはナマで入れようと決めていて。やっぱりベースは動きがあったほうが面白いんですよ。そういう意味でベースはすごく重要。

――いろいろ経験してみて、その考えに辿り着いた。

島裕介

そう。ジャズだとベースがステイして鍵盤とドラムがかなりアグレッシブっていうのがわりとあって、僕がやっているSilent Jazz Caseがまさにそうなんです。鍵盤もドラムも暴れまくりなので、ベースがステイしてくれているという。もちろんそれはそれで面白いんですけど、そういうのって聴き流すことができないんですよ。ガッツリ聴かないと楽しめない。それに対してWind Loop Caseはほとんどの曲が鍵盤もドラムもループなので、温度感が変わらない。でもリズムセクションが全部それだとなんか物足りないかなって自分で作りながら思って、いろいろ変化を加えてみたんですけど、やっぱり質感的にピンと来なくて。なので、ベースはナマ。Silent Jazz Caseの杉浦睦にWind Loop Caseでも弾いてもらっているんです。

杉浦睦

――ベースだけナマにすることでどう変わりますか?

島裕介

グルーブ感が全然違いますね。全部打ち込みだと、やっぱり温度感的にいまひとつで、あたたかみがないんですよ。

――なるほど。因みに1曲作るのにどのくらいかかるものなんですか? まあ、曲にもよるでしょうけど。

島裕介

そう、曲によりますね。このなかだと「くつろぐ」とか「まどろみ」はベースも入ってなくて、僕が最後までやっているんですけど、こういうのは早いですね。

――作る時間帯とかって決まっているんですか?

島裕介

夜中に作ります。夜中が一番調子いいんですよ(笑)。今でも3時くらいまで起きていて。完全に夜型。それでこういうジャケの色合いになるのかもしれない。あと、ツアーの帰りにクルマで移動する際、夜の高速をぶっ飛ばすことがあるんですけど、その感じがわりと好きっていうのもあって。このジャケットはまさにそういうときの景色なんです。

――深夜の高速に、Wind Loop Caseはめちゃめちゃ合いそうですね。ミュージシャンのなかには、曲を作り終えたらスタジオや家だけじゃなくクルマで聴いてどういうふうに聴こえるかやってみるという人もいますが、島さんは?

島裕介

やりますよ。いろんな環境で聴いてみて初めてわかることってありますからね。

――作り方で2023年の『Wind Loop Case 1』と昨年の『Wind Loop Case 2』とで変わったところはありますか?

島裕介

あります。『Wind Loop Case 1』のときは手探りなところがあって、ゲストミュージシャンを何人か入れたりした。なんだかんだでまだ生音を頼りにしていたところがあったんです。で、そこからいろいろ研究を重ね、投資して機材をよくし、環境もブラッシュアップして。ここまでは自分ひとりでやりきれるな、やりきれないのはベースだけだなっていうのが見えた状態で作ったのが『Wind Loop Case 2』なので、そこが違う。単純に言って、トラックメーカーとしてけっこう上達したなと思えたので。

――そういうふうにやってみて、仕上がりについてはどう思いました?

島裕介

『Wind Loop Case 1』よりもローファイ・ヒップホップの感じが強くなったかな。っていうのと、より聴き流せる感じになったという実感がありますね。聴き流せる感じなんだけど、ジャズ特有の即興ソロもある。意外とローファイ・ヒップホップの音源でここまで管楽器がフィーチャリングされているものって、なかったと思うんですよ。

――ああ、そうかもしれませんね。サンプリング音源のループ・トラックでありながらトランペットがしっかり主張している。それが大きな特徴であり、魅力であると思う。そういう意味で、影響を受けた、または参考になった作品はありますか?

島裕介

グールーがやっていたジャズマタズとか。マッドリブとか。それにロイ・ハーグローブのRHファクター。あれは衝撃でしたね。ジャズトランペッターがこういうものを作るんだ?! って。

――確かに。僕も驚きました。

島裕介

そういうものが発想のルーツにはなっていますけど、でもWind Loop Caseの場合は即興のソロはやりすぎないようにしています。例えばちょっとエグい感じのハーモニーとかスケールとかを入れてみたくなることもあるんですけど、家で晩酌しながら聴いてみると、“あ、ちょっと違うな”“トゥー・マッチだな”って思ってしまったりして。そう思ってやり直すことも多かったですね。だから意外と何回もトライ&エラーを重ねて完成させているところもあるんです。

――お酒呑みながら聴いてみるのも大事ですね。

島裕介

そう。自分がリラックスした状態で聴いてみるのが大事。で、これじゃダメだなと思ったら、すぐに録り直せますからね。夜中でも全然吹けちゃうし。まあ、そういう意味でも趣味的なんですよ。遊びの延長というか。

――それでたくさんの人に聴かれるものになったら最高ですね。

島裕介

ほんとですね(笑)

――サウンド面でもうひとつ、島さんのフルートが清涼感を加えているのもいいなぁと思いました。

島裕介

こういうサウンドメイクをする上でフルートって便利な楽器だし、アンサンブル楽器としてちょうどいいっていうのがあるんですよね。自分が好きで聴いてきたもののなかにも金管楽器とフルートでうまくアンサンブルしているものがけっこうあって。数十年前にカフェミュージック・ブームみたいなのがあって、わりとボサノヴァとかのブラジル音楽が流行ったじゃないですか。僕もorange pekoeとかSaigenjiなんかとよく一緒にやっていたんですけど、そういうところでフルートと金管楽器のアンサンブルって美しいなと思っていたんです。

――もっとフルートをフィーチャーした作品を作ろうとは思いませんか?

島裕介

まあでも、Silent Jazz Caseにフルートをフィーチャーした曲がけっこうあるので、それでいいかなと。フルートひとつでライブを2ステージやりきる自信もないですし(笑)

――さて、Wind Loop Caseで2作品作って、それをまとめたCDもリリースされたわけですが、次はどういう方向性の作品を作りたいと思っていますか?

島裕介

構想はいろいろあるんですけど、今年はちょっと原点回帰で、ジャズの名曲を吹くレコーディングをしたいなと思っているんです。でまあ、Wind Loop Caseみたいなものはまたひとりでコツコツ作り続けていければなと。

――趣味的に。

島裕介

はい。そういうふうにやれるプロジェクトだし、そこがよさでもありますからね。


RELEASE

Wind Loop Case 1&2
島裕介


2026.01.21 RELEASE
Playwright

島裕介 全ライブ予定

【プロフィール】

島裕介
トランペット・フルート, 作編曲

2002年から本格的にプロ活動を開始。これまでに800曲以上の楽曲に録音参加、CM録音は少なくとも100本は超える。
初期のリーダーユニット”Shima&ShikouDUO”では4作品をリリース。トランペットピアノDUO編成としては異例のFujiRockFes07、東京ジャズ08への出演、全国タワーレコードJ-JAZZチャート1位獲得、メジャーデビュー、などの快挙を果たし各種メディアで紹介される。
現在のメインプロジェクト”SilentJazzCase”としてアルバムを5作、ジャズ回帰アルバム「名曲を吹く」シリーズ4作、津軽三味線小山豊と2作、タイバンコクのピアノトリオとのコラボ作品、などをリリース。各種配信サイトで大半の作品が聴けます。
サポートしては、Ego-Wrappin’初期バンドメンバーなど、他多数のアーチストと共演。
プロデューサーとしても「等々力ジャズレコーズ」を主宰し、ジャズ関連の他作品を手掛ける。2022年トラックメイカーとして活動も始動、Yahoo!ニュースにも掲載される。CM「そうだ京都行こう」2011年秋版での演奏、テニス世界大会「楽天オープン2019」決勝での国歌トランペット独奏(皇室観覧)。Spotifyにて160ヶ国以上から再生され、”SilentJazzCase4″100万回再生超、re:plusとの共作アルバム “Prayer” 500万回再生超。国内・海外も含め数十都市のツアーを定期的に行い、年間150本近くのライブをこなす。

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