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イスラエルのフューチャー・ソウルバンド、バターリング・トリオ。ドラマーとしてアミール・ブレスラーも参加した、最高傑作のフォース・アルバムについて、リジョイサーことユヴィ・ハヴキンに訊いた。 — Rejoicer a.k.a. Yuvi Havkin (Buttering Trio)『Foursome』インタビュー

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バターリング・トリオの6年ぶりとなるニュー・アルバム『Foursome』が遂にリリースとなる。ケレン・ダン、リジョイサー、ベノ・ヘンドラーのオリジナル・メンバーに、ソロ・アルバム『House of Arches』をリリースしたばかりのアミール・ブレスラーがドラマーとして参加している。リジョイサーはStones Throwからソロ・アルバム『Energy Dreams』と『Spiritual Sleaze』、ブレスラーやピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツらと結成したアピフェラのデビュー・アルバム『Overstand』もリリースした。ケレン・ダンもソロ・シングル『Afternoon』やハーシュコヴィッツとのデュオEP『Let The Mountain In』をリリースするなど、個々の活動を経て再びバターリング・トリオに戻ってきた。

スタジオで一から共に曲作りをして、よりダイナミックで躍動感のあるサウンドを完成させた『Foursome』の制作背景や楽曲のことを中心に、リジョイサーことユヴィ・ハヴキンに話を訊いた。バターリング・トリオとRaw Tapes以降の、イスラエルのシーンの多様性を象徴する存在だ。ソロ・アーティスト/プロデューサーとしても活躍している彼は、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンやベーシストのサム・ウィルクスともアルバムを録音したという。

インタビュー・構成:原 雅明
インタビュー・通訳:バルーチャ・ハシム
編集:三河 真一朗(OTOTSU 編集担当)


—— 今はベルリンですか?

Rejoicer a.k.a. Yuvi Havkin (Buttering Trio) – そう、ベルリンでバターリング・トリオのライヴがあるんだ。みんなテルアビブに住んでるけど、僕はLAに滞在していることも多い。コロナの前は、半年LA、半年テルアビブに住んでいたよ。

—— この数年はバターリング・トリオとしての活動は休止していたのですか?

休止していたわけではなく、作品をリリースするいいタイミングを待っていたんだ。ライヴの構成を変えて、コンピュータを使わずにアミール・ブレスラーをドラマーとして加入させた。ライヴにしばらく集中して、シングルをレコーディングしてリリースしたりしていた。それに、メンバーはそれぞれ別のプロジェクトをやっていた。僕はStones Throwからリジョイサー名義の作品と、アピフェラでもアルバムをリリースした。ケレンはソロEPやピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツとのEPもリリースした。ベノもヘブライ語で歌うシンガーと活動したり、ベーシスト、プロデューサーとしても人気があるから、ひっきりなしに仕事をしていた。そういうことをしているうちに、6年経過したんだけど、アルバムは実は1年前に完成させたんだ。リリースの準備に時間がかかった。

RejoicerをFeat.したAmir Breslerのデビューアルバム『House of Arches』から「landing and Parking」

—— ソロやアピフェラの活動からはどんなことを得ましたか?

ソロやアピフェラは、バターリング・トリオのアプローチに影響を与えたよ。バターリング・トリオのこれまでのアルバムはエレクトロニックなアプローチが強くて、ドラムはプログラミングで作っていた。でも今回のアルバムでは、メンバー全員一緒に演奏をして、それをライヴ録音したんだ。ケレンもその時一緒に歌っている。テルアビブのPlutoというトップクラスのスタジオで録音した。ドラムのための個別の部屋、他のメンバーが演奏するスペース、ケレンのためのボーカルブースもあった。

https://www.youtube.com/watch?v=Gt60ehEfXQY
Apifera – Lake VU (Live)
Rejoicer – Choco & Bun (Live)

—— アピフェラの『Overstand』は、「インプロヴィゼーションやジャム・セッションはなく、それぞれ作曲されたパートを演奏する」とあなたはインタビューで答えてくれましたが、今回もそのやり方でおこなわれたのですか?

今回のバターリング・トリオのアプローチは同じだった。いわゆるジャム・セッションではなくパートを探しているだけなんだ。アピフェラの作業メソッドとだいたい同じだね。「Aパートが見つかったから、Bパートを作ろう」とか、そういうノリ。ケレンにインスピレーションを与えることができれば、大抵は次のパートをみんなで見つけることができる。それをライヴ録音したんだ。クリック・トラックを使うこともあったけど、アミオールは素晴らしいドラマーだから、大抵は必要なかった。

—— アピフェラは事前に作曲されたパートがありましたが、バターリング・トリオはそれもなかったのですか?

事前に何も作らずにスタジオに入った。セッションをして、それによってケレンにモチヴェーションとインスピレーションを与えようとしたんだ。それで、彼女がヴァースやコーラスを書いて、曲の構成もその場で決めた。メンバーはそれぞれ熟練したミュージシャンだし、『Overstand』の曲はコードも少ないし、シンプル。だから、数時間で1曲を完成させて、次の曲に移ることができた。

Buttering Trioのヴォーカルを担当する、KerenDunのソロアルバムから – Afternoon (Official Video)

—— アミール・ブレスラーが参加したことでサウンドはどう変化しましたか?

以前はドラムを打ち込みでやっていたから、アミールが参加したことで、だいぶサウンドが変わった。それに、これまでの作品はメンバー全員が一緒に演奏していなかったから、それもサウンドの変化の要因だ。ドラムは全体の雰囲気とスタイルに大きく影響するから、そういう意味でサウンドがだいぶ変わったよ。彼のドラム・スタイルが顕著にこの作品に表れている。

Buttering Trio – Come Hither (Official Video)

—— 制作にあたって、描いていたビジョンやコンセプトはありましたか?

特にはなかった。4、5日間スタジオに入って、現場で一緒に曲を作り上げる。ケレンもその場でリリックを書いて、メンバーはそれぞれのパートをその場で考えた。

—— ケレンは、歌詞について何か言ってましたか?

特に言ってなかったけど、今回はいつもより社会問題や政治をテーマに取り入れようとしたみたい。でも、わかりやすくそういうテーマを取り入れてるわけじゃない。彼女が頭の片隅でそういうことを考えていた、というレベルだよ。

—— それは何かにインスパイアされたからですか?

イスラエルは様々な問題を抱えている国だから、常に何かを伝えたいという気持ちはある。でも、そういう問題を僕らの音楽の前面に押し出したいわけじゃない。それは頭の片隅にある、という感じだ。

—— アミールもインタビューで同様のことを言ってました。あなたたちは、政治的なテーマを間接的な方法で扱いたいということでしょうか?

そうかもしれない。歌詞はケレンに任せている。リスナーにはわからないかもしれない。アルバムはとてもパーソナルな内容の作品だし、ラヴ・ソングやユーモラスな曲も入っている。だから、政治的な作品という印象は与えないはずだ。僕らが楽しんで作った作品だよ。ただ、このアルバムの後に、そういう社会的な要素の入った曲をレコーディングしたんだ。

—— これまでのエレクトロニックな方向性ではなく、よりライヴ感のある作品にしたのは、ライヴで演奏しやすい曲を作りたかったからですか?

それは間違いないね。ライヴで演奏するために、曲を再解釈して演奏するのではなく、そのまま演奏したかったんだ。それに、エレクトロニックなサウンドは、過去3枚のアルバムで追及したから、僕らにとって新鮮なサウンドを追及してみたいという気持ちもあった。

Buttering Trio – Unexperienced (Official Video)

—— 制作はどのくらいの期間でした?

レコーディングそのものは数日間だった。ミックス、オーヴァーダビングの作業もあったし、ケレンが歌い直す箇所もあったから、それで合計で1年間くらいかかった。

—— アルバムの曲について、いくつか説明してもらえますか?

1. Good Company
これは複雑な曲なんだ。イントロが8拍子、ヴァースが7拍子、コーラスが5拍子から8拍子さらに5拍子に展開するんだけど、なぜかしっくり来る。あまり変拍子という感覚の曲ではない。みんな同じ気持ちになって作れた曲だ。複雑なんだけど、自然に作り上げた曲なんだ。

2. Come Hither
クラシックの作曲家(セルゲイ・)ラフマニノフにインスパイアされている。僕が演奏している5拍子のキーボードのパターンから曲がスタートして、のちに8拍子に変わる。ケレンの歌詞は、セクシャルなトピックになっている。シンセのループはラフマニノフにインスパイアされているんだ。

—— クラシック・ピアノの経験は?

子供の頃はしばらくレッスンを受けたけど、あまり好きではなかった。インスパイアされたラフマニノフの曲は完全に覚えたわけではないが、アルペジオの部分が頭の中に残っていたんだ。

3. See if it Fits
ケレンが書いたこの歌詞は、アミールについてなんだ。彼女がちょっと彼を口説こうとしていた(笑)。最初のタイトルは、“I apologize if I stare(あなたをじっと見てごめんなさい)”だった。二人ともパートナーがいるからカップルではない。だから、ちょっとユーモアの入った曲。バウンス感があって、盛り上がる曲を作りたかった。この曲は6拍子だから変わった曲で、ライヴ向きの曲だよ。お客さんの反応がすごくいいんだ。

4. Move In
これはお気に入りの曲で、ケレンはまるで魔女が乗り移ったかのように歌っている。僕は、キーボードで変わった音を出そうとしていてフレーズが生まれたんだ。

5. Desert Dream Romance
これもお気に入りだね。このコード進行が頭の中にあって、ソプラノがずっと同じ音符で、ベースの音がずっと下がっていくというコード進行だった。自然に生まれた曲で、2、3時間で完成していた。オーヴァーダビングも入っていないから、スタジオで生演奏したままの曲だよ。イスラエルの南には大きな砂漠があって、そこはスピリチュアルな場所でもあって行くことがある。この曲の“desert”はそこを指している。テルアビブも砂漠地帯だし、僕らはよく冗談で「イスラエルはアフリカの一部だよね」と言っている。イスラエル人をヨーロッパ人やアジア人に近いと考える人も多いけど、気候はアフリカに似ていて、僕らはみんな砂漠の人間だよ。

6. When I Face Your Beauty
この曲のドラムは、みんなは打ち込みだと思っているけど、実はアミールが生演奏している。この曲もオーヴァーダビングは全くない。エレクトロニックに聞こえるけど、実は違って、アミールがスタジオに持ち込んたNord Drumというドラム・シンセがフィーチャーされている。

8. Keep it Simple
これもお気に入りだけど、コードがマイナーからメジャーにどんどん変化していく。「すべての音符は友達」ということをよく仲間で言うんだけど、すべての音符をこの曲に入れ込もうとした(笑)。ブルースっぽい曲で気に入っている。ライヴにもぴったりの曲で、オーディエンスの反応がいいよ。

11. Close to You
この曲はリスナーやファンからの反応が一番大きい。松浦俊夫さんと最近会ったんだけど、すごくいい人で、長年僕らの音楽をサポートしてくれている。彼はこの曲をラジオ番組でかけてくれたみたいだ。彼にアルバムの音源を送ったら、11曲目なのにこの曲をわざわざ選んでプレイしてくれたんだ。

12. Dancing With Insomnia
この曲はドラムが入っていたけど、気に入らなくて、ドラムを無しにしたんだ。この曲は、アルバムの中でポスト・プロダクションに一番時間をかけた。Raw Tapesのヨギがバイオリンで参加している。この曲も気に入っているね。

—— バターリング・トリオはもう10年も活動していますね。

そうだね。肩に力を入れずにグループを組んで、みんな仲がいいし、他にもいろいろなプロジェクトを一緒にやっているから、まだこれから10年、20年一緒にできる気がする。それぞれが他のプロジェクトもやっているから、このバンドに全てをかけているわけではなくて、だからそこまでストレスを感じる必要もない。長期的に活動する秘訣だと思う。

—— この10年間にネオソウル系のバンドがたくさん登場してきました。バターリング・トリオがユニークなサウンドを作り続けられているのはなぜでしょうか?

自分ではわからないな。僕らは他のいろいろなタイプの音楽に影響されているし、目立とうとか、特別な存在になろうという意識はない。どっちみち、誰も僕らと同じような音楽をやっていないと思うんだ。特別脚光を浴びているわけでもないし。一つ言えるのは、ケレンは特別なシンガーで、彼女のメロディと歌詞が唯一無二だと思うんだ。彼女独自のサウンドがあるから、そこが一番際立っている。僕らのトラックのサウンドが似ているアーティストが他にいたとしても、ケレンに似たシンガーはいないと思うんだ。

—— バターリング・トリオとしてのライヴはスタートしているんですね。

そう。今夜はベルリン、明日はフランクフルトだ。小さいフェスに出演し、9月にもライヴが予定されている。イスラエルのフェスにもブッキングされているよ。

—— アミール・ブレスラーが参加したライヴはどうですか?

コンピュータを使ったエレクトロニックなライヴよりも、アミールが参加した方が楽しいね。今はライヴ感がもっとあって、ダイナミックでエキサイティングだよ。

—— 今後、バターリング・カルテットに名前を変えるとか(笑)?

実は、どうしようか考えているところなんだ(笑)。「バターリング・トリオ+1」という名義でライヴのブッキングをしてもらっているけど、今後は「バターリング」にバンド名を変更するかもしれないし、「バターリング・カルテット」もありかもしれない。

—— アミールにインタビューした際、「Raw Tapesはイスラエルのジャズ・ミュージシャンに影響を与えた。一人で音楽を作ったり、ビートを作ったり、実験してもいいんだ、という気持ちになる」と話してくれました。そうした影響はあなたも感じますか?

彼がそんなことを言ってくれたのはとてもうれしいね。このシーンの一員でいることに誇りを持っている。Raw Tapesは元々ヒップホップ、エレクトロニクスのレーベルとして始まったけど、成長してジャズ・シーンにも影響を与えるようになった。J・ディラという存在が、一つのジャズ・レッスンになったからなんだ。ジャズ・プレイヤーとして、J・ディラの存在を知らなかったら、ジャズの一つのチャプターを見逃したことになる。ジャズでは、たくさんの音符を演奏するミュージシャンが多いけど、そんなに音数の多い音楽を聴きたくないリスナーもいる。僕もその一人だよ。ジャズの人間は、J・ディラのような音楽を聴いて、ジャズほど展開が多くないし、ソロやテクニックよりも、空気感が大事な音楽だということに気づくと思うんだ。テルアビブのジャズ・ミュージシャンはそういうところに影響されたと思う。Raw Tapesを立ち上げた時は、Stones Throwに多大な影響を受けた。ジャズ・ミュージシャンは、ヒップホップの人間から、美的感覚というものを学んだと思うんだ。世界中のジャズ・ミュージシャンがそれを学んで、テルアビブでは、Raw Tapesを通して、その現象が起きたというわけだよ。僕のジャズ仲間にマッドリブ、J・ディラ、フライング・ロータスについて教えていくことで、サウンドが進化していったと思う。

Madlib Makes a Beat w/ Sony’s MVR – LA to Tokyo

—— 今後、Raw Tapesからジャズ・ミュージシャンのリリースはありますか?

マヤ・デュニエツの新しいアルバムがリリースされる。彼女のファースト(『Free The Dolphin』)がフランスでとても人気があったんだ。マヤは素晴らしいピアニストで、ケレンの姉なんだ。他のアーティストのアブストラクト、フリージャズのプロジェクトもリリースされるよ。

Maya Dunietz – Opus 1 (Live at Romano)

—— アヴィシャイ・コーエン・ビッグ・ヴィシャスのECMからのアルバム『Big Vicious』にあなたのクレジットがありましたね。

アヴィシャイのバンドは、僕のスタジオでリハーサルをして、彼らのために何曲か作曲したんだ。僕は作曲家として参加しただけだったけど、アヴィシャイと僕の新作がRaw Tapesからこれからリリースされるよ。とても気に入ってる。

Avishai Cohen Big Vicious – Teardrop | ECM Records

—— それは楽しみですね。そうした繋がりから、自分の音楽へのフィードバックはありますか?

それは間違いなくあるね。色々な人と作品を作るのが好きなんだ。サム・ウィルクスとタミール・バルジレイ(Tamir Barzilay)とも1枚アルバムを作ったよ。タミールは、メイシー・グレイのドラマーで、本当に素晴らしいんだ。タミールとサムはスケアリー・ポケッツというプロジェクトにも関わっている。いろいろな人と演奏することで、様々な影響を受けられる。ブレイク・ミルズ、ピノ・パラディーノ、サム・ゲンデルのアルバム(『Notes With Attachments』)はとても気に入ってるんだけど、ある意味、今の時代のマイルストーンだと思うんだ。新しい方向性だと思うし、みんなその方向性になっていくと思う。一人のアーティストの名前がアルバムに載ってるんじゃなくて、みんなの名前を載せているのがいいと思うんだ。

The Quarantine Concerts – Sam Wilkes – August 6, 2020
Tamir Barzilay – Drum Compilation (2019-2021)

RELEASE INFORMATION

ネオ・ソウル、フューチャー・ソウルバンドとして大注目のバターリング・トリオが、スマッシュ・ヒットを記録した2016年の名盤『Threesome』に続く、最新作を遂に完成!! ドラマーとしてアミール・ブレスラーも参加し、フューチャリスティックなソウル・サウンドと、エキゾティックな ヴォーカルがさらに輝きを増した、最高傑作の4thアルバム!!

Buttering Trio
Foursome

品番:RINC89(CD)

日本限定盤。ボーナストラック通過収録。

2022.08.03 CD Release

レーベル : rings / Raw Tapes

OFFICIAL HP :

https://www.ringstokyo.com/items/-Buttering-Trio

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