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「世の中にはいろいろな変化が多いけど、この音楽を聴くことで、安心感を感じたり、刺激になったら嬉しい」 — Photay with Carlos Niño『An Offering & More Offerings Special Edition』インタビュー

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エレクトロニック・ミュージックのプロデューサー、フォテーことエヴァン・ショーンステインは、ハウスをベースにした有機的なグルーヴのアルバム『Onism』でまず注目をされた。さらに、『Waking Hours』では生楽器を採り入れてハウスとエクスペリメンタルな音楽の間を行き来し、『On Hold』ではアンビエント的なサウンドスケープにシフトした。
そして、『Waking Hours』にパーカッションで参加したカルロス・ニーニョと作り上げたのが、新作アルバム『An Offering』と『More Offerings』だ(国内盤CDは2枚組『An Offering & More Offerings Special Edition』としてリリース)。ミカエラ・デイヴィスやミア・ドイ・トッド、ネイト・マーセローら、NYとLAのミュージシャンも多数フィーチャーされた。
ニューヨーク州にあるキャッツキル山地出身で、西アフリカのリズムやサウンド・インスタレーションを学び、フィールド・レコーディングも行ってきたフォテーに、アルバムとそのユニークな音楽への取り組みについて話を訊いた。LAに滞在していた時に行われたインタビューである。

Photay Interview
フォテー インタビュー

インタビュー・構成:原 雅明
インタビュー・通訳:バルーチャ・ハシム
編集:三河 真一朗(OTOTSU)


Artist:Photay with Carlos Niño (フォテー・ウィズ・カルロス・ニーニョ)
Title:An Offering & More Offerings Special Edition (アン・オファーリングス&モア・オファーリングス・スペシャル・エディション)

発売日:2022/12/14
レーベル : rings
品番:RINC97
​フォーマット : 2CD​
ライナー解説:原 雅明
OFFICIAL HP : Photay with Carlos NiñoAn Offering & More Offerings Special Edition (ringstokyo.com)

—— 出身と音楽的なバックグラウンドから教えてください。

フォテー(以下 PH): 出身はニューヨーク州のキャットスキル・マウンテン。ニューヨーク・シティから車で2時間ほど北にあるんだ。ニューヨーク州のウッドストックの近くだから、音楽的な歴史がある場所だよ。最初に演奏し始めた楽器はドラムだった。昔はパンク・バンドで演奏していたけど、エイフェックス・ツインなどのエレクトロニック・ミュージックも好きだった。両親がインド、西アフリカなど、世界中の音楽のファンだったから、その影響も大きかった。カルロス・ニーニョもいろいろな国のパーカッションを使ってて、そういう意味でも彼とはつながりを感じる。あと、ターンテーブリズム、スクラッチに小学校5年から高校3年くらいまでハマってて、そこから音をレイヤリング、加工することに興味を持つようになった。それでレコーディング用のソフトウェアも使うようになった。

Photay(Photo by Dylan Kaplowitz)

—— エイフェックス・ツインなどが好きな友達が周りにいたんですか?

PH : いや、それは全くなかった。同年代の学友とはあまり共感できなくて、大学に入ってから、やっと同じ音楽が好きな仲間を見つけることができた。バンドではドラムを叩いていたけど、一人で作っていたのは別世界の音楽だった。

Aphex Twin / T69 Collapse

—— 音楽的な教育は受けてきましたか?

PH : 小学校の高学年からレコーディング、音楽理論を学ぶようになった。大学に入ってからは作曲、スタジオ・レコーディング技術、サウンド・インスタレーションなどについて学んだ。SUNY(ニューヨーク州立大学パーチェス校)という大学に入ったんだけど、キャンパスでライヴをやったり、ニューヨークでライヴをやるようになった。DJもやってたよ。

—— あなたのアルバム『Onism』や『Waking Hours』はビートのあるエレクトロニック・ミュージックでした。しかし、『On Hold』や今回の『An Offering』はビートに縛られておらず、エレクトロニックなサウンドだけではない音楽です。あなたの中で、どのような変化があったのですか?

PH : これまでビート主体の音楽を作りながらも、別でビートレスの音楽の探求もやっていた。ただ、ビートレスな作品をリリースすることが少し怖かった。でも、そこを解放してリリースしようと思うようになった。僕はもともとドラマーだから、反復、リズムがあることに慣れているけど、それがないと時間感覚が全く変わってしまうからね。今はそれを楽しむことができているよ。時間に関する壁、制限をあまり感じなくなっている。『More Offerings』では、ブレイクビーツやリズムを取り入れているから、またそういう要素を扱うようになっている。だから、両方の世界に興味があるんだ。

Photay Boiler Room Brownswood Basement Live Set

—— ビートレスでフリーフォームな音楽に関心を持つようになったきっかけは?

PH : 遡ると、ララージの音楽を初めて聴いたのが大学生の時だった。『Universe/Essence』というアルバムだった。そこから、アンビエントに初めて触れた。その時期に、カルロスがララージと一緒に演奏したライヴをCommendというレコード店で見た。『Waking Hours』からもっと自分の視野を広げて、フリーフォームな音楽を作りたいと思ってたんだ。『Waking Hours』の素材の中からループさせて、ドラムを加えたくないパーツから『An Offering』が生まれた。カルロスのサポートもあって、その方向性で進めることができたよ。

Carlos Niño & Friends – Commend, NYC Peace 4

—— カルロスが、ビートレスの音作りへあなたを後押ししたということですか?

PH : それはあるね。言葉で説明するのが難しい感覚なんだ。カルロスは、「ドラマーは以前タイムキーパーと呼ばれていた」と言っていた。だから、その概念を手放すととても自由になれるけど、同時に怖いことでもある。それまで僕がやっていたライヴのほとんどがダンス・ミュージック主体で、たまにそこから逸脱することをやっていたからね。

—— エレクトロニック・ミュージックだけではなく、アフリカのドラムにも影響を受けてきたようですね。ギニアを訪れたのはアフリカン・ドラムを学ぶためですか?

PH : そうなんだ。ギニアに行って、バラフォンとジンベ(ジャンベ)をミモ(Mimo)という先生から学んだ。彼は、子供の頃に通っていた学校の先生と結婚していて、毎年2週間、西アフリカのリズムを学ぶワークショップをやっていて、僕が小学校から高校生の終わりまで行われていた。

—— 毎年2週間のワークショップを何年にも渡って続けていたんですか?

PH : そう、ミモが西アフリカのリズムのレッスンを2週間の間、毎日2時間開催していた。毎年同じリズムを叩き込まれたから、最終的にそのリズムが自分の一部になった。そして、ミモからギニアに誘われて行ってみた。大学1年生で冬休みだった。ギニアでもミモから直接学んだけど、毎日一日中音楽を演奏する体験は初めてで衝撃的だった。集中的にジンベ(ジャンベ)をそこで学んだんだ。実は、フォテーという名前もその時に付けてもらった。フォテーというのはギニアのスースー語の単語で「白人」、「外国人」という意味。地元の子供達に指をさされて「フォテー!」って呼ばれてたし、ミモにもそう呼ばれていたから、それをアーティスト名として使おうと思ったんだ(笑)。

Photay with Carlos Niño 

—— ギニアで学んだリズムをエレクトロニック・ミュージックに取り入れるようになったんですか?

PH : 独自のポリリズム、リズムの捉え方などを取り入れたけど、アフリカのリズムにフォーカスしたプロジェクトにならないように気をつけた。ギニアに行った体験自体がとても刺激的で、その後に帰ってきてアルバムを作る上で、とてもインスピレーションになったのは確かだ。楽譜があるわけじゃない音楽だから新鮮な経験で、自分の耳で聴いて既成概念を手放すことを学んだね。

—— ジンベ(ジャンベ)は今でも叩いていますか?

PH : 実は、今も月に数回はジンベ(ジャンベ)のレッスンを受けているんだ。そこから、東アフリカのムサフィリ・ザウォーセ(Msafiri Zawose)というアーティストとコラボレーションするようになった。彼は、タンザニアの楽器を使っているんだ。

Msafiri Zawose ft Saranya – SABABA (Official Video)

—— サンプリングやフィールド・レコーディングには、どのような興味をもって取り組んで来たんですか?

PH : 子供の頃、怖いと思う音がたくさんあったんだ。夜、風の音が強くて数週間寝れなかったことがあった。音に対して敏感で、怖くても音は大好きだった。フォテーを始めてから、子供の時に怖かった音を取り入れるようになった。自然、森が多いエリアで育ったから、大学の時からフィールドレコーディングをたくさんするようになった。大学の仲間とよくやっていた。野外にマイクを置くと、音の聴き方が変わるんだ。今は住んでいる家の近くに川があるから、川の音をレコーディングすることが多くて、それを『An Offering』と『More Offerings』に反映させた。だから、水の音が大切な作品になったんだ。

Photay with Carlos Niño – C U R R E N T (feat. Mikaela Davis)

—— ピアノなどを使って普通に作曲をすることもありますか?

PH : 大学生の頃、教授たちから音色やテクスチャーから作曲するのではなく、ピアノで作曲するように教えられた。それは勉強になったけど、あまりそこから作品を作ることにつながらなかった。僕は音の冒険とメロディを組み合わせることが好きなんだ。曲を事前に作曲することもあるけど、色々なパーツを組み合わせて曲を作る方が好きだ。カルロスの曲作りのプロセスも似ている。彼のプロセスを見て、さらにこのアプローチを深めるインスピレーションにもなったね。あるアーティストとレコーディング・セッションをして、その中の短いセクションを切り取って、それとは全く関係のないレコーディング・セッションのパーツと組み合わせるというスタイルだ。ある意味、自分自身の演奏をサンプリングしているようなものだ。

Photay Live Set at Perfect Circuit Studio

—— レコードからではなく、実際の演奏からサンプリングしているわけですね。

PH : そうだね。『An Offering』と『More Offerings』の両方の作品はこのアプローチで制作している。一緒に演奏した素材も使っているし、カルロスがカルテットで演奏した素材を送ってくれたこともあった。『More Offerings』では、カルロス・ニーニョ&フレンズのカルテットのインプロヴィゼーションを素材として使っている。カルロスから、自然に身を任せて曲を完成させるということを学んだね。たくさんの音をレイヤリングするときは、ミニマリズムとマキシマリズムの両方が共存していて、リスナーが一つの音を集中して聴けるように作っている。

—— 『An Offering』と『More Offerings』がそもそも企画された経緯を教えてください。

PH : 『Waking Hours』を発展させた曲をカルロスにいくつか聴かせたら、新しい作品の方向性が見えてきたんだ。二人の会話の中で、「この作品は贈り物」という言葉が出てきて、そこから『An Offering』というタイトルにしようということになった。事前に話し合ったわけじゃないけど、二人とも水や流動性に興味があって、それが作品のテーマになったと思う。この作品では広い意味でのコラボレーションがポイントになっていて、カルロスもたくさんの仲間を参加させてくれた。それはとても刺激的だったし、学ぶことが多かった。カルロスがヤソスを作品に参加させて、最後の曲でヤソスの話し声が入っている。ヤソスは、「存在」、「永遠の自我」などについて語っている。『Waking Hours』の「Existential Celebration」という曲は、存在することを疑問に思うのではなく、それを喜ぶことがテーマになっていた。今回のアルバムには「Exist」、「Existence」という曲が入っていて、存在することを理解しようとしながら、それを楽しむことがテーマになっているんだ。

—— 『An Offering』の素材はライヴ演奏だったんですか?

PH : 『Waking Hours』のアウトテイクやループを使うことが多かったけど、カルロスがいろいろな演奏のアウトテイク、セッションも素材として送ってくれた。その中のランダル・フィッシャーとカルロスの演奏が結構入っていて、ランダルはこの作品で重要な役割を果たした。短いテイクをいくつか送ってもらって、とてもインスパイアされて、それがのちに「Current」、「People」などの曲になったんだ。

—— あなた自身もパーカッションを叩いているんですか?

PH : 実はこの作品では叩いていない。僕の役割は、アコースティック楽器の音を加工したり、シンセを演奏したり、アレンジすることだった。

—— どういう方法で音を加工したんですか?

PH : ランダルの演奏には、ハーモナイザーを多用した。元のテイクと同時に、ドローンが鳴るようにエフェクトをかけたりした。生演奏のテイクを何回もレイヤリングして、複雑なモザイク画を作っているのと似ている。Abletonを使っているけど、Abletonを使っているのがわからないようにしている。自分が驚くような音を作りたいんだ。

—— 『More Offerings』ではブレイクビーツも入ってますね。

PH : カルロスが『More Offerings』を作ることを提案したんだ。いくつかの曲は『An Offering』のリミックスだけど、ほぼ新しい曲とも呼べる。カルロスが送ってくれたドラムの素材にヴォ―カルを乗せて、曲を作ったりもした。カルロスが紹介してくれたディエゴ・ガエタが参加したヴァージョンの「Existence」のリミックスも入っているけど、彼は素晴らしいキーボード・プレイヤーだ。ブレイクビーツっぽいドラムは、カルロスがチョップして作ったループだよ。僕が作ったパーカッションのループも入っているし、今年(2022年)の1月にランダルとカルロスと僕とで演奏したライヴの素材もそのまま使っている。

Carlos Niño

—— ミックス的な編集作業は、あなたが主に行ったのでしょうか?

PH : 今回の編集作業はほとんどを僕がやった。『More Offerings』では、カルロス・ニーニョ&フレンズのカルテットの演奏が入っているけど、それは完全にカルロスが作ったものなんだ。

—— ミカエラ・デイヴィスが参加した経緯、この作品で果たした役割について教えてください。

PH : ミカエラは長年パフォーマンスを見ていて、一緒にコラボレーションをしようと話し合っていたんだ。彼女とは3時間くらいのレコーディング・セッションをした。このアルバムを作っている時に、その音源を聴き直して、そこからループを抜き取った。自分の作品で彼女のハープを入れられたのも嬉しかった。彼女とは、ブルックリンのGary’s Electricというスタジオでレコーディングした。「Honor」は僕と彼女が一緒に演奏した素材を使って、カルロス・ニーニョ&フレンズのインプロヴィゼーションをその上に重ねた。たまたま、それが完璧にぴったりハマったんだ。

“Don’t Stop Now” (Official Video) :: Mikaela Davis & Southern Star

—— 他にアルバムに参加しているアーティストを紹介してください。

PH : ブルックリンのナット・ランソンというトロンボーン奏者も参加している。ニューヨークでフォテーのライヴをやる時はナットがメンバーとしていつも演奏してくれていた。カルロスは、ミア・ドイ・トッド、ディエゴ・ガエタ、ヤソス、ネイト・マーセロー、アーロン・ショーも連れてきてくれた。今回LAに来てから、参加したメンバーと大体ライヴで演奏することができた。以前は、カルロスが送った素材の中にいるミュージシャンだったけど、今はみんなと友達になって、コラボレーションができている。

—— 複数のアーティストが参加することで、どのような効果を望んだのでしょうか?

PH : 生楽器やミュージシャンを取り入れることで、サウンドの幅を広げたかったけど、一つの作品で一つのコミュニティを形成したいという気持ちがあった。カルロスはすでに、いつもそういう考え方をしているかもしれないけどね。同じ部屋で演奏していなくても、色々なミュージシャンが参加してくれたことで、そのあとは彼らとライヴをやるようになった。だからサウンド以外でも、そのコミュニティの面がとても好きなんだ。以前の僕は一人でトラック作りをしているタイプの人間だったから、僕にとって新鮮なんだよ。

Carlos Niño(L) Photay(R)(photo by Azul Niño)

—— ジャケットのビジュアルがとても印象的ですが、これが象徴していることを教えてください。

PH : 僕が作った映像からとったスチールのショットだ。映像はYoutubeにアップされてる。このアルバムを制作中に、川の隣にある家で初めて夏と秋を過ごしたんだ。音楽制作をしている合間に川を撮影するようになって、ある日、たまたま太陽光が川の水に当たっていた。自然界のものを撮影して、ディテールがまるで加工された画像に見えるような写真が好きなんだ。

An Offering – Photay with Carlos Niño

—— 水から得られるインスピレーションとは何でしょう?

PH : 水の流れのように流動性があるという考え方にとてもインスパイアされている。全てがこのアルバムの変化とつながっている。変化に逆らうのではなく、変化とともに進む、というコンセプトでもある。そういう意味でも、水にインスパイアされているんだ。川の向かい側に1年間住んでみて気づいたのは、いろいろな変化があっても、川の水はいつも流れている。その事実だけでもとてもインスピレーションになった。

—— アルバムにインスピレーションを与えた音楽はありますか?

PH : 最近とても気に入っているミュージシャンがポール・ホーンなんだ。カルロスが色々な曲が入ったミックスを作ってくれて、そこにもポール・ホーンの曲が入っていて、二人とも彼のファンだということを知ったんだ。ポール・ホーンは、エジプトのピラミッドの中、タージ・マハルの中、モニュメント・バレーの中などで、ソロ・フルート、サックス、クラリネットなどを演奏している。僕の作品は、ポール・ホーンのアルバムとは状況が違うけど、作品の空気感とか、どうやって音を使ってリスナーを別の世界に旅させることができるか参考になった。彼の音楽は、ここ5年間はとても影響されている。細野晴臣も好きだし、清水靖晃も好きだ。清水靖晃の、チェロのために作曲されたバッハの作品を洞窟の中でサックスで演奏しているアルバム(『Cello Suites』)があるんだけど、毎朝それを聴いてるよ。

—— 他に日本の音楽は聴いていますか?

PH : インテリアというバンドのアルバムも好きだね。

—— YENレーベルから出た『Interior』ですか?

PH : そうだね。あと、池田亮司の作品も好きで、ニューヨークでライヴを見たこともある。彼の規律のある音楽はとても好きだよ。僕が2016年に日本でライヴをやった時はDaisuke Tanabeも出演してくれたんだ。また日本でライヴをやって、日本のミュージシャンとコラボレーションをしてみたい。

—— ミュージシャンとのコラボレーションで留意した事は?

PH : ミュージシャンとインプロヴィゼーションするときは、特に指示は出さない。今回使ったインプロヴィゼーションの素材は、もともとこの作品のためにレコーディングされてないものも使っている。それでも完璧に素材が曲にフィットすることがあった。過去は、ミュージシャンにもっと指示を出していたと思うんだ。『Onism』ではメロディやセクションが決まっていて、ミュージシャンに指示を出すことがあった。その頃から、ミュージシャンの仲間が僕の曲に合わせてインプロヴィゼーションしてくれると、とても嬉しかった。今はそのアプローチをさらに深めて、ミュージシャンに指示を出すことが少ない。

—— プログラミングされた音楽への興味はいまもありますか?

PH : まだすごく興味があるよ。細かくエディットされたコンピュータ・ミュージックも好きだし、僕もそういうトラックを今も作っている。ソロで制作するときは、一つ一つのディテールに焦点を当てて作業できる。でもそういう制作方法と、インプロヴィゼーションによる制作方法の両方をやることが楽しいんだ。今も、クラブ・ミュージック系の音楽を作ってる。最近は、クラブ系のサウンドとインプロヴィゼーションの世界が自分の中で重なりつつある。LAのセリア・ホランダーやサム・ゲンデルなども好きだね。そういう友人たちにインスパイアされることが多い。

—— LAにしばらく滞在してみてどうでしたか?

PH : ここまで強く住んでみたいと思ったことはないよ。帰りたくないくらいだね(笑)。カルロスと彼のコミュニティのミュージシャンとたくさんコラボレーションをすることができた。LAのオーディエンスは、目の前でミュージシャンがいろいろな実験をすることにとてもオープンなんだ。

—— ニューヨークのお客さんの方が判断基準が厳しいですか?

PH : ニューヨークでライヴをやることは大好きだけど、LAとは空気が全然違うよ。お客さんが踊っているクラブでライヴをやるのも好きだけど、それだけに制限されたくない。ニューヨークに住んでいると、そればかりになってしまうと感じることもあった。

—— ニューヨークのジャズ・シーンはとてもシビアで競争も激しいとはよく聞きますよね。

PH : そのことは知っているけど、僕は避けてきた。あまりそういう傾向にインスパイアされないし、僕には合ってないね。

—— ニューヨークには、LAのようなインプロヴァイズド・ミュージックをやっているコミュニティはあるんですか?

PH : ニューヨーク・シティにもあるし、僕が住んでいるニューヨーク州北部には、インプロヴァイザーのミュージシャンも多い。その一人が、ブッカー・スタードラムだ。ポーリーン・オリヴェロスもこのエリアに住んでいた。ウッドストックはロックやフォーク・ミュージックで知られているけど、ポーリーン・オリヴェロスやカール・ベルガーのスタジオもあって、そこにはラサーン・ローランド・カークのような人も来ていたらしいんだ。僕はそのエリアで育ったけど、その系譜に影響されたミュージシャンが増えているように見える。森の中でそういう変わったことをやっている人たちがいるんだよ。仲間を見つけるのは難しいけど、散らばって確かに存在しているんだ。

OPTION: Booker Stardrum (Excerpt)

—— 最後に今作を聴くリスナーに伝えたいことはありますか?

PH : 世の中にはいろいろな変化が多いけど、この音楽を聴くことで、安心感を感じたり、刺激になったら嬉しい。このアルバムをカルロスと作ることは、そんな状況への自分のレスポンスでもあった。ここからさらにクリエイトし続けるので、これからも聴いてほしいと思う。

Carlos Niño(L) Photay(R)(photo by Azul Niño)

RELEASE INFORMATION

Artist:Photay with Carlos Niño (フォテー・ウィズ・カルロス・ニーニョ)
Title:An Offering & More Offerings Special Edition (アン・オファーリングス&モア・オファーリングス・スペシャル・エディション)

発売日:2022/12/14
レーベル : rings
品番:RINC97
​フォーマット : 2CD​
ライナー解説:原 雅明
OFFICIAL HP : Photay with Carlos NiñoAn Offering & More Offerings Special Edition (ringstokyo.com)

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