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【オブトロピーク対談連載】エキゾチカをめぐる冒険 #6 / 計算づくの音楽には、脳をぶん殴られるようなスリリングさが足りない / 小関一馬(ex-バンデラス)× 近藤哲平(オブトロピーク)

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トロピカル・ファンク・バンドof Tropique (=オブトロピーク)が6月3日にリリースするフル・アルバムには、小林ムツミ (民謡クルセイダーズ / ムンビア・イ・スス・カンデロソス)、moe (民謡クルセイダーズ)、ワダマンボ (カセットコンロス)、長久保寛之 (エキゾチコ・デ・ラゴ)、ロッキン・エノッキー(ジャッキー&ザ・セドリックス)、八木橋恒治や、クマイルスの西岡ディドリー、和泉美紀、サムット野辺、さらにUSのニューウェイヴ・ラテンの旗手であるミラマールの全メンバーやチチャ・リブレのジョシュア・キャンプといった国際的かつ多彩なジャンルでいて、それぞれを代表するミュージシャン達が参加。既存のカテゴライズに抵抗するように、まるで極彩色のおもちゃ箱のような無国籍音楽を紡ぎ出している。

“トロピカル”であり”エキゾ”であり”モンド”。この音楽をどう形容すれば良いのだろう?

その答えを求めて、オブトロピークの近藤哲平とゲスト・ミュージシャンによる対談を、

シリーズ連載としてお届けする。

第6弾は、ルーディーかつロマンチカに溢れたサルサのバンド・サウンドでシーンの垣根を壊すことに成功した伝説的ラテン・バンド「バンデラス」(=Banderas)のピアニストである小関一馬が登場。今ではオブ・トロピークのリーダーである近藤とも別プロジェクトを始動するほどの仲である両者の対談は、それぞれの音楽観を交わし合う密度の高いものとなった。

取材/構成:森崎昌太

▼第1弾(オブトロピーク・メンバー)はこちら▼

▼第2弾(×Ryota Watanabe)はこちら▼

▼第3弾(×ロッキン・エノッキー)はこちら▼

▼第4弾(×小林ムツミ)はこちら▼

▼第5弾(×moe)はこちら▼

◆Release Infromation◆

ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)

TITLE:Fishcake and Fortune / Here Comes Andi

LABEL:Pepei Records

CAT No:PPR-004

FORMAT:7″ Vinyl

PRICE:¥2,750(Tax in)

ARTIST:of Tropique (オブトロピーク)

TITLE:Looking For My Foot Foot

LABEL:Pepei Records

CAT No:PPR-005

FORMAT:LP Vinyl

PRICE:¥4,950(Tax in)

——今回of Tropiqueのニュー・アルバム発売を記念して、バンドの中心人物である哲平さんと、ゲストで参加されている人々で、”トロピカル・ミュージック”について語り合ってもらっています。今回は元バンデラス(=Banderas)のピアニスト、小関一馬さん(以下、カズマ)にお越しいただきました。まずはお二人の出会いのきっかけから教えていただけますか。

近藤哲平

実は二人とも出会いの正確な記憶がなくて、飲むたびに新しいストーリーを作っちゃうから本当の始まりが分からないんですよね(笑)。飲むたびに毎回違う記憶を喋っていて、会うたびに中身が変わらない同じような話で盛り上がっている。でも、2020年のコロナ禍の真っ只中に、代々木にあったSTRIPEという場所で行われた、共通の友人であるダンサーのサイコちゃんが主催したイベントで対バンしたのが最初だった気がする。

——なるほど。わりとさかのぼるんですね。

近藤哲平

元々、僕はロス・インディオス・タバハラス(=Los Indios Tabajaras)が好きで、あんな感じの音楽をやりたくて、ムーちゃん(小林ムツミ / ムンビア・イ・スス・カンデロソス、民謡クルセイダーズ)に相談したら「カズマ君が良いんじゃない」って薦められたんです。それ以前に、カズマ君がやっていたバンデラスのライブを見ていて、ピアノでここまでエモーショナルかつリズム重視で弾く人は他にいないと衝撃を受けていたので、いつか一緒にやりたいとずっと思っていました。

小関一馬

連絡をもらった時は嬉しかったね。でも、最初にリハーサルを兼ねてセッションした時は、哲平君から事前にギターの音源とかセシル・ロイド(=Cecil Lloyd)の参考音源が送られてきて、一体どういうことなんだろうって困惑した記憶がある(笑)。

近藤哲平

僕は穏やかなイージー・リスニングを目指していたのに、蓋を開けたらロック・パンク・ラテンみたいな激しい演奏になっていて(笑)。初対面のセッションって普通はお互いに探り合うのに、カズマ君は人のオリジナル曲の途中で勝手にキーやテンポを変えて攻めてきた。それがもの凄く面白くて、予測不可能な展開に一気に引き込まれました。

小関一馬

哲平君なら「こういうの好きだろうな」という気配を感じたからこそ、思い切って仕掛けにいきました。哲平君は何を投げかけても必ず合わせてくれるし、どんな展開になっても最終的にはちゃんと独自の「哲平節」になって返ってくる。自分の節をしっかりと持っているところが凄く魅力的でしたね。

近藤哲平

僕はニューオーリンズ・ジャズの「集団即興」が身体に染みついているから、相手の出方に合わせて自分のラインを変化させる作業が何より楽しいんです。カズマ君とは楽器は違うけれど、その集団即興的な対話が自然と成立するから最高に心地いい。

——お互いにどこかで辻褄を合わせようという共通の意識があるからこそ、破綻しないわけですね。カズマさんは、元々はどのようにしてラテン・ピアノの世界に入られたのですか?

小関一馬

子供の頃にピアノは習っていたんですが、お行儀が良くて退屈に思えて、すぐ辞めてしまい、その後はギターやDJをやっていました。でもDJをやっていた時に、ヒップホップのトラックに使われている50〜60年代のジャズ・レコードのピアノを聴いて、複雑なテンションコードの響きに「ピアノからあんな不良っぽい音が出るのか」と衝撃を受けたんですよ。「あ、これジャズっていうんだ」、「こういうなんか変な不協和音みたいなコードテンションの和音がジャズのコードなんだ」と。まずはそこから入っていったんですよね。

——なるほど。

小関一馬

今思うと別にセブンスとナインスが入ってるぐらいだから、大した不協和音じゃないんだけど、当時はものすごい不協和音に聴こえて。しかも調べてみると悪そうな黒人がくわえタバコで演奏している(笑)。白タイツに蝶ネクタイの発表会スタイルではなく、そんなストリートの、不良としてのピアノに憧れて、大人になってから独学でジャズを始めました。それで、最初はバークリー(音楽大学)に留学しに行こうと思った。ところが諸々の事情でその時は断念して。即興のノウハウを学ぶにもお金がなかったので、「物価が安くて音楽が盛んな国に行けば、バイトに追われずすべての時間を練習に注げる」というロジックで、25歳の時にキューバへ飛びました。

——すごい発想力と行動力ですね。

小関一馬

映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を見て、おじいちゃんたちが格好良く演奏している姿に救われたのも大きかったです。「まだ間に合う」と思って。「あの歳までにできるようになればいいんだ」と。

近藤哲平

キューバではどんな生活をしていたの?

小関一馬

国立音楽大学の留学生向けの学校に籍を置きつつ、ストリートの現地の凄腕ミュージシャンに個人的にレッスンを受けに行っていました。最初のレッスンで先生から「お前はピアノを弾く前に、まずダンスのレッスンを受けろ」と言われて、しばらくひたすらサルサを踊らされました(笑)。身体でリズムを理解していない奴にラテンは弾けないって感じで(笑)。そうして3年ほど泥臭く練習して日本に帰国しました。

——その後、バンデラスを結成されるわけですね。

小関一馬

キューバで出会ったパーカッションの小川岳史君やイズポンたちは、既存のラテン・シーンでバリバリ活動しているようなエリートではなく、パンク上がりだったり素人同然だったり、ストリート感のある奴ばかりでした。だからこそ、帰国後に既存のラテン・カルチャーの現場に行った時、独特のアカデミックな雰囲気や、決まりきったペア・ダンスのルールと簡単には入りにくい空気に「自分たちがやりたいのはこういうことじゃない」と違和感を抱いたんです。それなら、自分たちの好きな解釈で、突っ立って酒を飲みながら聴くだけでも最高に格好いいストリートのサルサを作ろうということで、身内の信頼できる仲間を集めて始めたのがバンデラスでした。

近藤哲平

僕はバンデラスのライブを初めて見て、もの凄い衝撃を受けました。それまでの日本のラテン演奏はテクニックが上手い反面、ジャズ・フュージョン的で危険な香りがしなかった。でもバンデラスには、良い意味でラテンのセオリーに縛られている人が誰もいなくて、手探りで宝探しをするように音楽を構築していた。だからこそ、あの独特のざらついた、エッジのある雰囲気が出たんだと思います。ただ僕は、自分でサルサをやりたいなと思っても怖くて、日本のサルサの現場に行けないわけですよ。

小関一馬

俺も怖いもん。お客さんも怖いよ、そんなの。

近藤哲平

そうだね。サルサもね、決まり切ったところで回している感覚があるから。

小関一馬

コパ・サルーボ(=Copa Salvo)が出てきた時に、ラテンをわりとアンダーグラウンドと絡めて始めた感じだったんですよね、当時。僕、まだその時バンデラスやってなくて。で、それ見た時に、「あ、もっとキューバっぽくしてもいいのかな」と思って。あの雰囲気のまんま、コパ・サルーボのああいうちょっとルーディーな雰囲気がありつつ、もっとサルサ感を出していって、さらにロマンチックかつ不良みたいなのがやりたいと思った。だからコパ・サルーボはすごく影響があったかもしれないですね。ここにもっとキューバのギラッとした、ああいうものを混ぜたいって。

近藤哲平

実際コパ・サルーボにもエリ(小西英理)さんがいたでしょ。エリさんのピアノもかっこよかった。すごくリズム重視で、ジャズやクラシカルな人と一線を画していた。ものすごくリズム・オリエンテッドなピアニスト。ああいうピアニストはパッと思い付くのはエリさんとカズマ君。あんまりいないね。

小関一馬

ピアノって日本の人はクラシックをやっている人が多いしね。もちろんハーモニーを出せる楽器だから、みんなすごいんだけど。基本的には良くも悪くもサルサとかから入ってきた人も上手いし、滑らかだし。よりジャズとかはもっとハーモニーを色々変えたりする方に比重が高いと思うから、こういうリズムとかグルーヴの比重が高いピアニストって日本にはすごく少ない。

——なぜ日本には少ないのでしょう。

小関一馬

土壌があまりないからだと思いますね。みんな習いごとの延長でやるから。子供の時に遊びとしてのピアノってなかなかないですから。

——なるほど。そうですね、自宅にピアノを置いてる家庭がそもそも少ないですもんね。そうなるとお稽古事とかで始めることが多くなりますよね。

近藤哲平

ガレージにあるから弾くとかだったらまた話は別だけど。

小関一馬

品位を高めるためにやるんです、ピアノは(笑)。

近藤哲平

おもちゃとして弾くっていうのは、あんまり日本ではないですね。ギターとかだったら普通エレキだったりとか、何か聞いて、「俺もやりたい」と思ってやるけど。ピアノはお稽古事として自分の意思と関係なくやることが多いですかね。弾きたい曲も、別に自分が弾きたい曲でもない。ただ与えられたものをやるだけで。

小関一馬

先生に言われた通りの規律をこなしていく構造は、お茶や書道の世界と全く同じ。

近藤哲平

だから、ミュージシャンのプロフィールに「〇〇氏に師事」とか大々的に書いてあるのを見ると、狭い学閥やブランドのレベルで回っている業界なんだなと感じちゃう。ロックギターのプロフィールで「セックス・ピストルズに師事」なんて書かないでしょ(笑)。

——たしかに(笑)。でも規律の中から逸脱していく人もいるから、なにがきっかけになるかはわからないものですね。

近藤哲平

あと、よく言われるのが、僕はステージで色んな向きでクラリネットを吹いたりとか動いたりもする。するとクラリネットの経験者のお客さんから「そんな風に吹いていいんですね」みたいなこと言われることがある。クラリネットには「吹奏楽部」という巨大な体育会系の土壌があって、正しい姿勢や構える角度、パート全体の音色を完璧に画一化するための厳しいルールが存在するんですよ。そういった理不尽な規律に縛られ続けた結果、高校を卒業すると同時に辞めてしまう子供たちが多くて、もの凄く大きな損失だしもったいない。一方で、ニューオーリンズに行くと音楽は「純粋な遊び」なんですよね。小さいころから楽しくって。キューバも同じだと思う。ピアノを弾くためにダンスを体になじませる、とかもね。そうやって楽しみながらやったら面白いミュージシャンが増えるのかな、と。教育とかの話になっちゃうね(笑)。

小関一馬

 文化の違いだからね。でも、キューバの人が誰でもサルサを弾けるわけではないんですよ。キューバに僕とかが行くじゃないですか。キューバの音楽学校に通ってる子とかに「どうやって弾くの?」って言われる。

近藤哲平

でもすごいリズムのピアニストいっぱいいるじゃん。ジャズとかでもさ。そういう人はどこから?

小関一馬

まずクラシックだけやっていてもなかなかお金にならないから、ポップスをやるわけですよ。音大とか出ている人でも。そうなるとキューバはサルサなんだよね。外貨を稼ぐために柔軟かつ貪欲にポップスやサルサのストリートシーンに身を投じる。高度なアカデミックの技術を持った人間が生活のためにストリートで揉まれる。意外と実は誰でも弾けるわけでは全然ない。キューバにはクラシックしかないから。音楽教育はすごいんですけどね。ガチガチなクラシック。ガチガチなところでやるデメリットは、そのガチガチの枠から外れたことができなくなる、難しくなるっていう弊害もたぶんあるんですよね。

——なるほど。専門的な訓練を受けていない人、あるいはあえて型から逸脱した人が、野生の感性を使って手探りで模索していく。そのプロセスから生じる「歪み」や「ズレ」こそが、エキゾチズム(エキゾ)やモンドミュージックの正体なのかもしれません。そういう”ガチガチ”な人だと今回のオブトロのようなアルバムは作れないですよね。今回のアルバムでカズマさんが参加された楽曲『Gerry in The Desert』も、まさにそのエネルギーが爆発していますね。

小関一馬

今回参加させてもらった曲は、雑多なリズムから途中、急にコテコテのサルサっぽい激しい展開にシフトするセクションがあって、演奏していて本当に興奮しました。

近藤哲平

あの曲のベース、ドラム、ピアノの基礎トラックは、事前のリハーサルも一切なしで、同じブースの中で同時に大音量を鳴らして録った完全な「一発録り」なんです。しかも、ドラムのビートからしてサルサでもラテンでもない異質なパターンを叩いている。もしガチガチのラテン至上主義のピアニストだったら「クラーベ(基本リズム)に合っていないから叩き直してくれ」って要求すると思うけれど、カズマ君はそういう「ジャンルのズレ」を面白がって燃料にできる人だから、ファースト・テイクが神がかっていて、そのまま採用になりました。

小関一馬

終わり方すら事前に決めていなくて「最後は適当にフェードアウトしていこう」って話していたのに、本番の熱量が終盤に向けて恐ろしいほど盛り上がってしまって、曲のラストで誰からともなく無言の合図が出たら、全員の呼吸が奇跡的にピタッとシンクロして完璧なタイミングで終わったんだよね(笑)。

近藤哲平

録り終わった直後、カズマ君が「めちゃくちゃ楽しかったから、もう一回やろう!」って言ったのに、二回目のイントロを数小節弾いた瞬間に突然演奏を止めて「あ、やっぱり無理!さっき以上の演奏はもう絶対にできないわ!」って叫んだのは最高の名場面でした(笑)。

小関一馬

途中で気づいたんだろうね(笑)。できたものはなんていうかフュージョンというかミクスチャーというか、ジャンルレスとかではあるけど。あれが一発でできたのはけっこう、嬉しいよね。

近藤哲平

緻密な計算や作り込みではなく、スタジオでの一発のセッションによって、極めて自然に、暴力的に混ざり合えたことが何よりも嬉しい。海外、特に南米コロンビアのボゴタやヨーロッパのアンダーグラウンドで盛り上がっている現代の「トロピカル・シーン」のオルタナティブなバンドたちも、これと同じ感覚で音楽を作っているんじゃないかな。雑多な人間が集まってセッションを繰り返し、誰も聴いたことのない新しい音楽が自然発生的に生まれていくような土壌が、日本にももっと広がったら面白いよね。

——アフリカの1960年代のハイライフや1970年代のアフロビートもそうでしたからね。

小関一馬

今の時代、ネットを開けばどんなマニアックな音楽も一瞬で聴けるし、アレンジャーがパソコンの前で頭を使えば、様々なジャンルを綺麗にブレンドしたオシャレな「ミクスチャー音楽」なんて簡単に作れてしまう。でも、そうやって計算づくで作られた音楽には、聴いた瞬間に脳をぶん殴られるようなスリリングさが決定的に欠けていることが多い。狙って作ることができない「ぐちゃっとした、わけの分からない熱量の塊」の中にこそ、音楽の真のロマンや面白さが眠っているんじゃないかと思います。

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